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歴史映画『最後の谷』(1970 英) ~三十年戦争期、戦禍の狭間の村に越冬する傭兵たちと村人たちの不安定な共存

最後の谷(1970)

出演: マイケル・ケイン, フロリンダ・ボルカン, ナイジェル・ダヴェンポート
監督: ジェームズ・クラベル
言語 英語
字幕: 日本語
販売元: 角川映画
DVD発売日: 2004/08/27
時間: 125 分
定価: 2940円

鑑賞メモ

時代は三十年戦争でも後期、スウェーデン=フランス戦争と呼ばれる最終局面に入ったあたりです。1637年から1638年にかけての冬、その後ラインフェルデンの戦いとなるので、3月末あたりまででしょうか。主人公は、戦禍を逃れてきた自称教師と、傭兵隊長。開始シーンから、掠奪だの殺人だのペストだの吊るしてある人だの、暴力と死体だらけで、いきなり三十年戦争の中に放り込まれます。また、主人公たちが過去を語る際に出てくるマグデブルクやハイデルベルクという地名を聞いても、三十年戦争にやや詳しい人なら、彼らがいかに過酷な体験を経てきたかわかるようになっています。

中盤は美しい村の中だけで話が進むため、映像としては冒頭ほどショッキングではないですが、景色に反して人心は荒みに荒んでおり、いつ誰がどんな状態で死んでもおかしくない状況には変わりありません。実際、傭兵内にも常に反乱分子が存在し、宗教観の違いによるトラブル(魔女裁判なども扱われています)にも事欠きません。また、10歳くらいの子供が傭兵隊の一員の中にいて、きっちり兵力として戦ってます。この辺も、戦争の中で生まれ育つ三十年戦争の特徴でしょうか。

村に居座っている傭兵たちは20人程度のため、傭兵同士の戦いはせいぜい20-30人のゲリラ戦的なものです。ピストルを携帯している兵が多いですが、ナイフや斧、モーニングスターまで使っています。「ラインフェルデンの戦い」は三十年戦争の比較的マイナーな戦いで、映画内で触れられているのは「第二次ラインフェルデンの戦い」です。各側の司令官についての字幕が英語読みだったので、下記に日本でのドイツ語読み通称を記しておきました(「ベルナルド王子」というのは”Prince”の誤訳と思われます)。

  • 皇帝軍(バイエルン): ヨハン・フォン・ヴェルト

  • 新教軍(ザクセン): ベルンハルト・フォン・ザクセン=ヴァイマール

「隊長」と部下たちはベルンハルトの軍に馳せ参じることになります。なぜか各人が着けている自軍判別用ストラップはオレンジ色です(ベルンハルト公の肖像はカラーのものが少ないのですが、確かにそのうち1枚ではオレンジ色の肩帯をしています)。

攻城戦が描かれたこの戦いのシーンは、映画全体の時間からすればほんの少しですが、雑多な傭兵たちによる力任せの攻城は、この時代というよりも前時代の中世を思わせます。ラインフェルデンの城壁自体が、堡塁型城砦ではなく古いタイプだからかもしれません。が、砲は野戦砲・ロケット砲(?)・臼砲の3種類が使い分けられていて、臼砲の暴発シーンもありました。

Unknown (1638) 第二次ラインフェルデンの戦い In Wikimedia Commons

アマゾン英米のレビューでは古典的名画としてかなり絶賛されていますが、個人的にはあまり娯楽性はないと思います。人物の内面をじっくり描いた映画で、歴史の推移や大掛かりなドンパチを期待できる内容ではないです。


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