みんな声をあげないけれど実は不満に思っている「こと」:電車編

こんにちは、前回バッドデザイン賞の記事を書かせて頂いたUXデザイナーのおりです。

バッドデザイン賞の記事は予想以上の反響に正直びっくりしていますが、これまで首を傾げるようなデザインについて疑問を持ちつつも、意見のぶつけどころが無かったサイレントマジョリティが可視化した結果なのかなと思っています。

さて本題ですが、バッドデザイン賞ノミネート作品のような目に見える「もの」以外にも、みんなが疑問に思っていたり不便だなと思っていつつも、それが当然だと諦めて声を上げすらしないで放置している「こと」、ありませんか?

「もの」のバッドデザインは比較的分かりやすいですし、使ってみて致命的であればクレームも入るので改善されやすい傾向にあります。では「こと」はどうでしょう?十中八九ほぼ全員がおかしい・不便だと感じていても『まぁこんなもんか』と思って諦め、誰も声をあげないのではないでしょうか。

改善が繰り返され、便利な「もの」が溢れかえった現代だからこそ、このような諦めて受け入れられている悪慣習=「こと」にこそ目を向けていくべきだと私は考えています。

今回はまずはその第1回として、電車にまつわるバッドUXを調査してきたのでご紹介します。

電車の降車直後、左右を間違える人の割合は?

みなさんは電車をどの程度利用されますか?私は都心に住んでいる都合上、移動のほとんどすべてを電車に頼っている状況です。

東京の鉄道網は一説には世界一複雑であるとも言われている通り、非常に多くの路線が網の目状に張り巡らされているため、目的の場所に行くためには乗り換えが必要になるケースがかなり多いです。

この乗り換えの際、私は目的の路線が電車を出て右方向にあるのか左方向にあるのかわからなくなり、間違えた方向に歩き出してから案内板を発見して方向転換。ということがかなりの頻度で発生することにストレスを感じています。

さらに自分だけでなく、他人が突然ホームの途中で立ち止まったり方向転換してくることも結構あり、よくぶつかりそうになるので困っています。

では、このような電車の降車直後左右を間違える人ってどのくらい居るのだろうか?ということを疑問に思い、先日東京メトロの市ヶ谷駅、有楽町線と南北線にてフィールドサーベイを行ってきました。以下がその結果です。

電車1本のうち1車両のドア4つから降りてくる乗客のみを対象に、有楽町線10本、南北線10本の合計20本の電車を調査しました。時間帯はどちらも平日正午ごろでほぼ同時刻です。

割合にして大体3割強程度の乗客が左右を間違えていることになります。いかがでしょう、間違えた方向に歩き出してしまってから方向転換している人って結構多いと思いませんか。

一応定義を説明すると、「方向転換」とは完全に歩き始めてからなんらかのアクションを経て180°方向転換して戻ってきた人の割合。「一時停止」とは、電車を出た直後のところで立ち止まってキョロキョロして、案内板を発見してから方向転換をせず歩いて行った人をカウントしています。これら2つを合わせるとなんと過半数が降車直後にスムーズに左右を判断できていないことが分かります。

今回の調査地はオフィス街であり、平日まっ昼間であることから観光客だけが迷っているというわけでもありません。実際乗客はスーツ姿の人が圧倒的に多かったです。ほぼ毎日電車を使っている昼間の東京勤め人でもこれだけ間違える人が居るくらいなので、これはみんなが不満でありつつ、かなり諦められている「こと」なのでは?と感じています。

なんでこんなに間違える人が多いのか

ではそもそも、なぜこんなに左右を間違うのか?ということを私なりに分析してみました。結論からいうと、原因はおおまかに以下の通りだと思います。

1. 案内板の設置間隔が広すぎること
2. 特に地下鉄は壁が多く見通しが効かないこと
3. 不便でも一応なんとかなっていること

以下順番に説明していきます。

1. 案内板の設置間隔が広すぎること

まず一番直接的な原因として思いつくのはこれです。東京メトロのサインシステム自体はきちんと規格化されたうえで統一のデザインが施されており、世界的に見ても高水準にあると思います。

しかしながら、肝心のサインを見つけるまでのわずかな間に迷いが発生してしまうということが先ほどの調査結果に現れているのではないでしょうか。以下の写真をご覧ください。

これは調査を実施した有楽町線市ヶ谷駅の降車直後の視界とだいたい同じ範囲を撮影した写真です。見ての通り、乗り換えに関する案内板は視界内のどこにもありません。

また、出口は左右どちらからでも行くことができますが、乗り換えは片方からしか行けないような構内動線設計になっています。つまり出口を目指す乗客は最悪改札を出てからでもリカバリーが効くが、乗り換えをしたい乗客はこの時点で左右を間違うと詰むということです。そりゃ方向転換や一時停止も増えるなというのも頷けます。

ちなみにこの案内板設置間隔において個人的に最もひどいと感じるのは、最近オシャレにリニューアルされた千代田線の国会議事堂前駅です。

リンク先から構内図を見ていただければわかる通り、ホームの途中には出入り口がなく、ホームの最前端と最後端でのみ乗り換えができる作りになっています。しかしながらこのホームは最近オシャレな壁面にリニューアルされ、案内板が激減してしまいました。一番ひどかったとき(リニューアル直後)は、丸ノ内線の入り口を発見してから南北線は真逆だと気づいてホーム全体を1往復させられるということまでありました。

現在は駅員さんの心のこもったお手製案内板(通称:テプラ案内板)が随所に貼られまくり、オシャレでミニマルな外観を台無しにしながら利用者にできるだけ良いUXを提供できるよう魔改造されています。デザインの敗北感が見えて面白いので、お近くを通る際は是非お立ち寄りください。

すみません、つい電車の話から脱線してしまいました。

2. 特に地下鉄は壁が多く見通しが効かないこと

これについては体感からの推測になるのですが、地上線では地下鉄ほど方向転換をするほど迷う人が少ないように感じます。

地上線は地下鉄に比べて壁が少なく視界が抜けているため、より遠くまで案内板や出口の場所、ホームの端を視認できるためだと思われます。

一方、地下鉄は壁が多いだけでなく階段の近くや歪曲したホームなどでは、ほとんど降車直後の視界は無いに等しいです。ゆえに、一度移動してからでないとそもそも案内板を視認することもできない=方向転換が多くなるのではないか、と推測しています。

3. 不便でも一応なんとかなっていること

最後の要因ですが、これが実は一番大きい要因だと思います。なんだかんだ不便だと言いつつ乗り換えが失敗することはないはずなので、多少の苦労は見て見ぬフリをしても生活に致命的な支障はありません。

この「致命的な支障はないから放置しておいても大丈夫」というマインドによって対応優先度が後回しにされ続けた結果、かつて優先度の高かった別の事象のマイナーアップデートばかりを優先して行うようになり、どんどん先細りの改善活動に予算が回されているというのは別の業界でもよく見ることのできる現象です。たとえば根本的な課題点をそのままにして顧客の求めていない超ミクロな便利(お節介)機能ばかりゴテゴテつけまくって「新モデル」として堂々と売りに出している家電メーカー各社など。

すみませんまた脱線しました。とにかく、致命的支障ではない事象は対応優先度が低くなり放置されるという傾向によって、このような地味な「こと」のバッドUXを生んでいるのではないかということです。

我々はどうすべきか

ここまで「もの」ではなく「こと」としての(ある意味)バッドデザインな事例をご紹介してきましたが、じゃあ我々はどうすれば良いのか?ということを考えてみました。

まず、前述した致命的ではない事象の優先度は後回しにされる傾向にあるという前提を踏まえ、誰か、たとえば私が鉄道会社に「ここが不便だからどうにかしてくれ」と持ち込んでも全く相手にされないのは自明です。

ではどうすべきか。私の結論は、事象の優先度を上げられればおのずと対応されるということです。つまり、その事象を放置することによって生じる損失が無視できないレベルに達したと経営層に判断されれば良いわけです。要するに可視化された不満意見が一定値に達することが最短ルートだと判断しました。

経営者的目線でいうと、「ここが不便」や「もっと便利に」といったプラスの改善活動は損益勘定が予測でしかできないため、博打に等しく優先度が下げられがちになります。しかし、「現在発生しているこの事象によってこれだけの損害を被っている」ということが証明できるようになれば、その事象の改善によって得られる含み益がより明瞭となり、動かざるを得ない状況になります。

今回のケースでいうと、方向転換や一時停止などによって人の流れに乱れが生じることによる混雑率(それに伴う遅延や事故・トラブル対応)への影響などが可視化されれば、それが損失に与えている影響度合いも可視化され、おのずと対応される。それでも対応されないのであれば、そのデータを誰かが持ち込めば話を聞いてくれるようになる。というようなイメージです。

本来こういったことはコンサルタントなどが行うのでしょうが、我々はコンサルタントではないので、鉄道各社に付いているであろうコンサルタントにヒントとデータを大量に提供することで生活に直結している体験の改善を加速させていきませんか?ということですね。

ということで、発信しましょう

不便だなーと思っていつつも黙って我慢していては、それはデータ上「0」です。不便に思っている人は居ないという風に判断されてしまいます。満足度調査などを待っていても無駄です。あれは施策に対する効果検証でしかないので、そもそも課題として設定されていない事象がうまい具合に汲み取られることはありません。

さらに私が個人で調査できるのなんて、せいぜいさきほどの80人程度が限界です。その程度では企業や国は動かせません。不便だと思っている人のボリュームが対応に値する程度に存在することを証明するには、みなさん自身がなんらかの形で意見を発信していく必要があります。

今はこのnoteをはじめ、誰でも気軽に世界中に向けてパブリッシングできる時代です。バッドデザイン賞のときにも書きましたが、私は積極的に個人レベルで発信と共感の連鎖を繰り返していくことで、もっと暮らしやすい社会に変えていくための土壌が形成されると考えています。

今後、改善活動は確実にトップダウンからボトムアップへ変遷していくと思います。そんなとき強いのは、アイデアの質よりも共感の量です。もっと言うと、優れたアイデアに対する共感の量が一定値を超えたことが可視化できるのが最も強いです。

私自身は、今後もnoteや自分のブログでこのような形で気づきをインターネット上で発信することで、共感者の可視化やテーマの提示を続けていきますので、みなさんも思うことがあればどんどんパブリッシングしてみてください。意外と共感者が多く居て、それに起因して何かが改善されるかもしれませんよ。

ちなみに

今回の左右わからなくなる問題点に関しては、巨額の予算を投じて駅ホームを改修せずとも、乗り換え案内アプリ開発各社が「出て右手方向」「出て左手方向」の情報を提供してくれればある程度解決できると思います。

その際問題となるのは自分が乗っている車両が何号車なのかによって表示する情報が変わる点をどう解決するか?なのですが、ここは色々な解決策が考えられそうです。一番手っ取り早いのは「5号車より前は左手へ進む、後ろは右手へ進む」というような統一情報を添えることでしょうか。

各社、駅構内図情報や降り口ドアが左右どちらかの情報などさまざまな情報を提供してくれていますが、まだ乗り換え路線が降りて右手方向か左手方向かを表示してくれるアプリは出会ったことがありません。(もしかしたら知らないだけかもしれないので知ってたら教えてください。使います。)

もしこの情報を提供してくれる乗り換えアプリがあれば、私はそのアプリを優先して使わせていただきます。どこかやりませんか?

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コメント2件

乗り換え案内は、ホームの床に矢印サインを書いてくれるといいなぁと以前から思っています。地下鉄同士はカラーリングされているし。大阪の千里中央駅の改札外には床に地下鉄への誘導とモノレールへの誘導のささやかな矢印がかかれています。
駅構内の断面図の絵がホームに置いてありますが、あれをホームドアやそのほかの場所にも設置してほしいですね。反対側に降りたらアウトなので。
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