見出し画像

作曲未経験がポップなボカロ曲を作れる様になるまで

この記事はボカロP Advent Calendar 2023の19日目の記事です。

はじめまして、ボカロPの織井辺コフィと申します。
ボカコレ2023春からボカロP活動を始めてあっという間に10ヶ月が経ちました。
7つほど曲を完成させて少〜〜しだけ曲作りの勝手が分かってきた気がします。
そこで今回は、
作曲未経験からポップなボカロ曲が作れる様になるまでの
曲作りに関する考え方や効果を感じた取り組みを
出来るだけ簡単に記していきたいと思います。


自己紹介

まず簡単に私の音楽遍歴について記載します。
・高校生からエレキギターとエレキベースを始めてインスト音楽などにハマる
・大学の軽音サークルでアドリブ演奏や耳コピを通じて音楽理論に触れる
・2020年に初めてのオリジナル曲(チルBGM系)が出来上がる
・2023年3月に初めての歌もの曲が出来上がる

直近のポップな投稿楽曲

2023年11月に開催された無色透名祭Ⅱに投稿した
『魔法少女におまかせを / 星界,狐子』
という曲が執筆時点での一番のポップソングです。

はじめに

私は頭の中で考えがまとまらないと行動に移せないタイプです。
作曲活動に関しても、
「曲を作れる様になりたいな〜!」と思い始めてから
1曲目が出来上がるまで7年近く掛かりました。
この7年が曲作りのために絶対に必要だったとは思いませんが、
そういった苦難の時期があったお陰か、
自分の楽曲をコンスタントに完成まで持っていく事が出来ている現在に
いまはとても大きな幸福を感じています。

それでは私のハッピーな作曲ライフの入口を解説していきましょう。



「好き」を分析しよう

解説と言っても実施した事はとてもシンプルです。
沢山音楽を分析して、頻出する要素や惹かれる要素を探しました。
さらに具体的に言うと、
 ・どんな曲に惹かれるのか?
  ⇨どんなメロに、どんなコード進行に、どんなフレーズに、
   どんな音色に、どんなミックスに、どんな歌声に、どんな歌詞にetc…
 ・惹かれる曲に共通している要素は何なのか?
 ・そういった要素が多く含まれているにも関わらず
  惹かれない曲はあるか?(あるとしたら何故なのか)
 ・惹かれる要素に優先度は存在するのか?
 ・どんな要素が頻出するのか?

これらを可能な限り細分化しながら分析して見つけていきます。
例えばメロディなら、どんな高さなのかどんなリズムなのか、
いきなり盛り上がるのか徐々に盛り上がるのか、
3音程度の短いモチーフの繰り返しか、繰り返しのないフレーズかなどなど…
浮かんでいないだけでまだまだ沢山ありそうですね。
それでは実際に私が行った内容を見ていきましょう。



メロディの分析について

例えばメロディに関してはコードとメロをMIDIノートに起こして
以下の内容の分析を実施しました。

  • コードに対して何度の音から始まっているか

  • キーに対して〃

  • コードに対して何度の音が頻繁に用いられているか

  • キーに対して〃

  • コードに対して何度の音があまり使われていないか

  • キーに対して〃

  • 1モチーフが何拍または何小節で構成されているか

  •  モチーフの長さに対してコード進行の1ループの長さとの関連はあるか

  • サビ頭のメロディだとしてリズムがどこから始まるメロディか

  • 最高音はそのパートのどこにあるか

  • 最低音は〃

  • サビに頻出する音の動きはあるか

  • Aメロに〃

  • Bメロに〃

  • 女性キーの場合どの辺りの音程で歌われている事が多いか

  • 男性キーの場合〃

を1曲目完成前時点で80曲くらいに対して行いました。

一部ですがこんな風にサビ頭を揃えて何曲もMIDIノートに起こしました

分析する曲数が増えてくると
女性Voの盛り上がるサビメロは大体この範囲の音程に収まってるんじゃないか…?
とか、
この譜割り別の曲でも見たな…意外と頻出パターンなのかも…?
などぼんやりと定番が見えてきます。

さらに、
ⅣM7始まりのサビの場合、7度の音から始まるメロディの曲好きかも…
とか、
裏拍から始まるモチーフのメロディ好きかも…
など、自分が惹かれる要素を言葉で理解出来る様になってくると、
今度はそれを自分の曲に使う際に
この曲はサビメロを7度の音から始めてみよう!
というスタートの仕方が出来る様になり、
新しい曲を作る際の初めの一歩に悩むことが減ってきます。

作曲を始める時に一番苦労したのがメロディ作りだったのですが、
上記の分析を始めてからは割とスムーズに
頭の中でメロディが鳴る様になりました。
私が一番効果を感じたオススメの取り組みです。

↓サビメロ7度始まりで作った曲その1。
DM7に対して7度のC#の音がサビ頭に来ています。

↓サビメロ7度始まりで作った曲その2。
「ドーシ♭シ♭」のシンプルなモチーフを元に
裏拍を強調したリズムでの展開を意識したメロディになっています。




アレンジの分析について(楽器・音色)

アレンジについては「好き」の分析よりも、
曲を構成している要素を知り尽くしたい気持ちで進めていました。
特に私が好きなポップ曲には
地味だけど無いと物足りない賑やかし楽器
が沢山ありますので、
それらはどんな楽器・音色で演奏されているものなのかを知ることで
自分の曲作りに活かそうという魂胆です。

しかし、悲しいことにこれらを知る方法は多く存在する訳ではありません。
私が行ったことはひたすら耳コピです。
右からの音だけ聴く、左からの音だけ聴く、
低音だけ、高音だけ、センターだけ、サイドだけ、
スピーカーで、イヤホンで、ヘッドホンで、iPhoneで…
本当に様々な聴き方で曲を何度も何度も再生しました。

そうするとある日、
アレ!?こんな音鳴ってたっけ!?
みたいな楽器が聴こえてきます。
音楽のアハ体験ですね。

冒頭で紹介した『魔法少女におまかせを』のAメロです。
左から小さく鳴っている「ポンポン」という音が聴こえますか…?
※音量大きいかもなので注意!

音が聴こえてきたら次は再現です。
ピアノやギターなどなら良いのですが、
シンセの場合どんな音作りで辿り着ける音色なのかさっぱり分からない
ことが多々あります。
脳筋なことばかりで申し訳ないのですが、
沢山シンセプリセットを買って弾きまくりましょう。
勿論シンセの種類(FM、PCMなど)をある程度知ることが前提なのですが、
イイ感じのプリセットはそのまんま既存曲に使われてたりします。
時間は掛かりますが、
慣れてくるとなんとなく近いプリセットがイメージ出来る様になります。(多分)

自分は上記の方法で好きな曲に含まれる音を見つけて行きました。
『魔法少女におまかせを』の場合、
・イントロの6連パンホワイトノイズ
・Aメロで右から鳴っているトライアングル
・Aメロで左から鳴っているポンポンキック
・Aメロで真ん中少し右から鳴っているフワフワリード
は耳コピによって発見した好き要素から取り入れたものでした。

6連パンホワイトノイズ
Massiveで作った気がします

トライアングル
地味ですがあると無いのとでは全然違う(ような気がする)

ポンポンキック
SerumのPR Kicking[CFA]というプリセットだったと思います

フワフワリード
MassiveのBASEBALLというプリセットだったと思います

これらを全て抜いたverのAメロ
少し物足りない感じがしますね

全部入りverのAメロ
にぎやか〜



アレンジの分析について(フレーズ)

次に、
・どんなフレーズに惹かれるか
ですがこの点については耳コピでは難しい場合があると思います。
特に私の場合ピアノが弾けない上に五線譜を読むのに少し時間が掛かる為、
MIDIフレーズ集を購入・取得し
実際に鳴らして音を確認しながらコードに対する度数などを分析しつつ
好みのフレーズやヴォイシングを探していました。
ここで注意したい点として、
惹かれたものをそのまま使うのではなく、
惹かれたものの持つ雰囲気を頭の中で再現出来る様ににしましょう。
ふんわりでいいので…。
MIDIフレーズ集ですが私はEZKeys2のものを使っています。
コード進行に合わせてフレーズを変えられたり、
音数の多さも調整出来たりするのですごく便利です。

EZKeys2 これが無いと曲作れません多分




定番=「体を成す」要素

頻出する要素や既存曲の分析について記載してきましたが、
「頻出する要素ってつまり定番ってことでしょ…
 そんなものばっかり入れちゃったらオリジナリティ崩壊しない?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
作曲始めたてのコフィ少年も
「オリジナル曲」なんて言うぐらいだからなるべく何も参考にせずに、
自分の内側から生まれるものだけで音楽を作りたいよな〜!!!

なんて考えていました。
しかし出来上がるのはおよそ楽曲とは呼べない謎の音の塊…。

振り返ってみて私はこれを
何皿か食べただけで全く調理法を調べずにスパイスカレーを作ろうとする様な行為
だったと思っています。

スパイスの調合は何をベースにするのが一般的なのか、
具材の種類・切り方はどんな風で、
タマネギはどれくらい炒めてルーは何分煮込んだりするものなのか…
食べてきた様々な種類のカレーライスたちにも全く同じでは無いにせよ、
土台となる一般的な調理方法があったはずであり、
それらを元に作り手のこだわりによって
様々な要素が足されたり引かれたり変更されたりして、
オリジナルレシピが完成していくと思われます。

カレーをおいしいおいしいと食べていた時間のみで
実際にカレーの体を成したものを作る事が難しい様に、
曲をぼんやりと聴いただけで音楽の体を成したものを作ろうとする事は
私にとってはとても難しいことでした。

(勿論それが出来てしまう人もいると思いますが)

  ※音楽を無心で聴くこと自体は大変素晴らしいことです。
    上記はあくまで織井辺コフィが作曲をする際に感じた事に過ぎません!

カレーにはカレーの、音楽には音楽の
「体を成す」為に必要なものは必ずあると思います。
ロックならロックの、アニソンならアニソンの、EDMならEDMの
「体を成す」要素を探しましょう。
探して見つけた上で敢えて「体を成さない」もヨシ、
全然違うジャンルの「体を成す」要素を入れるのもヨシ、
明確な意思を持って定番をコントロールしましょう。



あとがき

本記事はあくまで私の体験に基づく作曲方法論なので、
全くあてはまらない方もいらっしゃるでしょう。
それで良いと思います。
あれこれ考えて試して、進んでたまに戻ったりして
そうした試行錯誤の結果が作品となり
その人のカラーを作っていくのではないでしょうか。
今回はコード進行の事や歌詞に触れていませんし、
ボカロ曲を作れる様になるまでって言っておきながら
調声について全く触れていないので
いずれ調声パートも書けたらいいなと思います。

これからも自分の「好き」を大いに出した曲を作っていきますので、
末長く楽しんで頂ければと思います。
また、この記事が参考になって曲作りを始める方が一人でも増えれば
それはとても喜ばしい事です。
作曲は楽しいですよ!

次のアドベントカレンダー、20日目の担当はジヲさんです!
どんな記事を書かれるのでしょうか…!
お楽しみに〜


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?