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仮面ライダークウガ考 【11】映像的な事と音楽的な事

 ここでは、物語を形作る上で、最も重要な映像と、そして音楽について考えてみたい。
 まずは、映像から行こう。
 ハイビジョン放送と言うことで、何より画面が美しかったのが魅力だったが、しかし、 いささか粗が目立ってしまった点も否めない。
 たとえば、第1話に登場するクモ怪人の吐くクモの糸などは、口から発射される際の CGの部分と、クウガの首に巻きついた際の、ロープの落差があまりに激しすぎて、 いささか興ざめだった。また、グロンギ怪人の傷が癒えるシーンなども、少しだけ 違和感を感じさせる映像ではあった。
 だが、自然の描写――夕焼けや、海でのシーンなどは、さすがに美しく、更に、 おそらくはハイビジョンの撮影にスタッフが慣れて来たと言うこともあるのだろうが、 後半になるに従って、映像はよくなって行ったように感じられた。
 殊に、ホラー映画風の画面が、なかなかよかったなと思う。
 これは、個人的な好みもあるかもしれないが、2話の教会とか、ゴウマがダグバに殺された回の 森の中の映像とかは、本当にホラー映画を彷彿とさせて好きな映像である。
 また、特撮物でよく使われるロケ現場を、普段とまったくアングルを変えて撮ることによって、 まったく違う場所に見せることにも成功していて、これは、なかなか新鮮だった。

 ちなみに、よく使われる場所、とは。
 ライダーシリーズは言うに及ばず、たいていの特撮番組に登場している、奥多摩の採石場。 及び、その周辺。(河原、つり橋、崖、など)
 新宿御苑。(主に、森の中のシーンとして登場)富士山の洞窟。(敵基地への通路等に使用) 東京港の倉庫街(正確な地名は東京の地理に疎いのでよくわからないが、よく登場する)。
 基本的に、私のような関西の田舎に住む人間でも、特撮を見続けていればお馴染みになって しまう場所と言うのは、この四箇所ぐらいだろうか。
 そして、「クウガ」でも、これらの場所は使われているのだが、今までとまったくアングルを 変えたり、演出を変えたりしているために、ちょっと見たぐらいではわからないようになっている。
 私自身、最初のテレビ放送では、ほとんど気付かなかった。ただ、現在発売中のDVDなどで 見てもらうとよくわかるだろう。
 殊に、奥多摩の採石場は、特撮番組以外でも、東映が制作している刑事物などでは頻繁に 使用されており、犯人がパトカーで追い詰められるシーンだとか、爆薬で吹き飛ばされるとか、 しているのは、ここである。
 おそらく、これを読んで、「ああ、あそこか」と思い当たられる方々もおられるのではないかと思う。 実を言うと、それぐらい、ここを使った撮影と言うのは、昔からアングルも演出も、変わりばえのしない ものなのだ。
 むろん、撮影のこととかに詳しくないので、私には同じアングルになる事情はわからない。
 もしかしたら、撮影機材などの性能もあって、同じアングルしか撮れないのかもしれない。
 殊に、特撮物の場合は、爆薬を使ったシーンがここで撮られることが多く、同じアングルになりがちなのは、 そう言うことも関係しているのかもしれない。
 そう言う、技術的な問題があったのかもしれないが、それでも、「クウガ」における、ここの撮り方は、 新鮮だった、と言わざるを得ない。
 もっとも、演出方法が今までの特撮物と異なった部分があるのは、当然かもしれないが。
 テーマそのものが、今までの特撮ヒーロー番組とは違っていたのだから。
 テーマが違えば、見せ方も異なるのは、当たり前だ。
 そして、おそらくは、そこに新しい撮影機材等が加わったことで、今までにない新鮮なアングルによる 撮影、と言うことも可能だったのではないだろうか。
 ちなみに、これらの場所が、「クウガ」ではどう言う風に使われていたか、と言えば……
 まず、採石場は、九郎ケ岳遺跡の入り口付近とか、 あとは、バイクのアクションシーンに多く使われていたように見受けられる。
 ただ、一番広い場所を上から撮ったり、そこで戦わせたりするのではなく、わざとのように、 段差のある場所をバイクで登らせ、それを上から、もしくは下から撮ると言った、今までの特撮物では、 使われていないアングルで構成されている。
 新宿御苑は、ゴウマが殺された森や、<バラのタトゥーの女>がダグバを迎えに行く途中の森の中、 あたりで使用されていたと思われる。
 だがこれも、前者はホラー映画風の撮り方をしており、後者は、ソフトフォーカスとストップモーションを 多様して、神秘的に見せることに成功している。
 また、富士山の洞窟と港は、さほど頻繁には登場しなかったように記憶している。
 ともあれ、撮り方と言うか、使い方がうまい、と言う点では、秀逸だったように思う。

 一方、音楽の方は。
 これもまた、すばらしかったと思う。
 まず、番組中で使われた音楽は、どれも作品に合った、その曲を聞くだけで、頭の中にその時の映像が 浮かんで来るような音楽ばかりだった。
 特撮物だけでなく、映像を駆使した作品にとっては、音楽はとても大事な要素である。けしてでしゃばらず、 しかし、シーンの一つ一つを盛り上げ、視聴者を心地よく酔わせてくれるのが、映像作品にふさわしい音楽 だと思う。そして、「クウガ」の音楽は、充分にその役目を果たしていた。
 また、主題歌は、この作品にかける製作者たちの意気込みを、そのまま伝えていた。
 たとえば、「伝説は、ぬりかえるもの」だとか「歴史をゼロに巻き戻す。英雄は、ただ一人でいい」とか 言った歌詞は、歴代ライダーたちとクウガは違うものなのだ、と言う高らかな宣言のようではないか。
 しかも、曲調は、ヒーロー物らしくない、パンチは効いていてもどこか暗い陰りを帯びたもので、 同時に流れる映像もまた、どこかプロモーションビデオのような作りで、これまた、他のヒーロー物とは 一線を画していたように感じられる。
 歌っているのが、元クリスタルキングの田中昌之であるのもよかった。彼の声が、高音部がまさに、 クリスタルのように澄んで伸びて行くものであることは、みなさん、ご存知だと思うが、その声が、 曲調とも歌詞とも、たいへんよく合っていたと思うのだ。

 逆に、エンディングテーマは、主人公、五代雄介をイメージした曲だった。
 のんびりとした、優しい曲調と、映像そのままに野原に寝転がって空を見上げているような歌詞が、 ともすれば苛酷な内容になりがちな本編を見終わった視聴者を、ほっと安らがせてくれるような、 そんなエンディングテーマだった。
 歌っているのは、橋本仁と言う歌手で、残念ながら、私はこの人物については、あまり詳しくない。 声の感じが歌とは合っているものの、このエンディングテーマで聞く限りでは、あまり特徴のない歌声である。
 ところが、「クウガ」のソングコレクションに収録されている他の歌を聞くと、なかなか食わせ物で あることが判明する。
 どうやら、彼はこの曲に合わせて、こう言うあまり特徴のない、ぼやーっとした歌い方をしている らしいのだ。他の曲の時には、とてもパンチの効いた、いかにも特撮番組の歌手、と言った声なのである。

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