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“歩けない僕”と“見えない私”の交換日記④by小林幸一郎

パラクライミング世界選手権“視覚障害”クラスで4連覇のレジェンド・小林幸一郎さんと、“車いす”クラス銀メダリストのルーキー・大内秀之さんが、クライミングへの思いを語り合うため、交換日記を始めました。

前回、大内さんから未来の話が語られました。そして、このままでは、体力の衰えとともにクライミングから離れていってしまうという危機感についても。大内さんの思いに対して、小林さんの応えは、さすがレジェンドと思わせるスケールの大きなものでした。


▼俺たちはパラクライマーではなくて クライマーなんじゃないか

きょうはもう、東京の桜が散り切ったのかな。外はずいぶん葉桜になってきたなんてことを耳にする日です。肌寒いきょうです。この間、大内からもらったメッセージを聞きながら、これまでどんなことをしてきたとかいうよりも、未来について語るっていうのはすごくいいことだなーって、改めて聞いていて、なるほどと思っていました。

いつか引退するでしょ、みたいな話だったのかな。大会に出ている自分たちがいつか大会に出なくなって、そうするとこのパラクライミングから離れていって興味がなくなるっていう人たちが多いんじゃないかという話だった。確かにそうだなと思う、今のままなら。
俺の中では、俺たちはパラクライマーではなくて、クライマーなんじゃないかなって、ずっと思っていて、だからモンキーマジックのイベントは、障害者クライマーとかパラクライマーのイベントではなく、クライマーのためのイベントだって思って、15年16年続けてきた。
こうしていま、競技としてのパラクライミングに向き合っている障害のある仲間たちも、いつか競技に出なくなったとしても、みんながクライマーであり続けて欲しいなーって、ずっと思っていて。そういう場所や機会を増やしていくことを、俺はモンキーマジックの立場として、やり続けたいなと思っていて。
やっぱり俺たちが大好きなのは、岩登ったり、壁登ったり、仲間と一緒にクライミングのことを語り合ったり、そんなクライミングの場所なんじゃないかなって思う。
だから、言ってくれたような合宿会なんてめっちゃやりたい。今度、淡路島に巨大なクライミング施設ができるらしいよ。“みんなで登ろう会”みたいなそういの、やりてぇなって俺もすごく思う。

モンキーマジックはこの4月1日に、PR TIMESっていうプレスリリースを出している会社の企画に乗って、エイプリルドリームっていう企画なんだけども、エイプリルフールじゃなくて4月1日は夢を語ろうという企画で、「2025年の大阪万博で、障害のある人とない人が一緒にクライミングを楽しむというものを全国に広めて、そうやってクライミングを通じて多様な人々を交流する機会を作ることで、多様性理解を広げて、日本の文化にしたい」っていう夢をぶち上げました。

エイプリルドリーム
モンキーマジックが「エイプリルドリーム」企画で出したバナー

いま、こうして競技に向き合っているクライマーの仲間たちが、もし競技に出なくなったとしても、競技からは離れたとしても、みんながクライマーであり続けて欲しいって思う。その場所を作ることで、みんなが競技に向き合っていた経験をいろんな人に伝える“笑顔の伝え手“となって、みんなと、それぞれの地域で笑い続けてくれたらいいなという風に思うから。
人と人とをつなげる、人と人を理解する、そんな道具としてクライミングを活かしてくれたらいいんじゃないかなあと思っていて。
俺にとってクライミング大会に出ることは楽しみ方のひとつ。やっぱり一番は、自分が一生死ぬまでクライマーあり続けたい。それが自分が未来に向かって思っていることかな。
だから、大内が未来の話をしたいって言ってくれたのは、めちゃくちゃ嬉しくて。やっぱり俺も大内も、クライマーの仲間なんじゃないかなっていうふうに考えられた今回の手紙でした。

明日はどっかに登りに行こうかなんて思っているんだけれども、大内は登りに行くのかな。また手紙楽しみにしてます。じゃあね~

“歩けない”大内さんと、“見えない”小林さん

▼大内秀之さん

  • 兵庫県出身

  • 生まれながら脊髄にガンを抱える

  • ガンは摘出するも、腹筋から下にまひが残り、車いす生活に

  • 13歳、車いすバスケを始める

  • 大学で社会福祉士の資格を取得

  • 現在、大阪府堺市立健康福祉プラザに勤務

  • 36歳、小林と出会い、クライミングを始める

  • 38歳、一般社団法人フォースタート設立。車いすバスケチーム「SAKAIsuns(サカイスンズ)」を運営

  • 2018年パラクライミング世界選手権インスブルク大会(オーストリア)AL1(車いす)クラス初出場

  • 2019年ブリアンソン大会(フランス)AL1クラス準優勝

▼小林幸一郎さん

  • 東京都出身

  • 16歳でフリークライミングと出会う

  • 大学卒業後、アウトドアインストラクターとして活躍

  • 28歳、「網膜色素変性症」が発覚。将来失明すると宣告される

  • 34歳、米国の全盲登山家エリック・ヴァイエンマイヤーとの出会いから、障害者クライミング普及を目指す

  • 37歳、NPO法人「モンキーマジック」設立。同年、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ登頂

  • 2011年パラクライミング世界選手権イタリア大会(アルコ)視覚障害B2クラス優勝

  • 2012年フランス大会(パリ)B2クラス準優勝

  • 2014年スペイン大会(ヒフォン)B1クラス優勝

  • 2016年フランス大会(パリ)B1クラス優勝

  • 2018年オーストリア大会(インスブルク)B1クラス優勝

  • 2019年フランス大会(ブリアンソン)B1クラス優勝 4連覇

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