見出し画像

ミュージアムの中の人が、なぜかいろいろあって「スポーツ(「との比較を行う上で」というテイで美術館・博物館も対象とした「文化観光」も無理やり含めた)ツーリズム」の非常勤講師をしている話 #05



自己紹介はあらためて行いますが、いろいろな業界を見聞きした経験をもとに、現在関わっているミュージアム業界(そんな言葉ないw)についての(あまり知られていない)ことを中心にご紹介できればと思い、noteをスタートすることにしました。誠に申し訳ありませんが、このシリーズはおおむねミュージアム色は薄いです。



今回はスポーツ以外の「【Do系】ツーリズム」について事例をもとに理解を深めていきますが、具体的には音楽中心にややアート系の内容になります。



「スポーツツーリズムの授業やのにスポーツ以外の内容を紹介するってどういうことやねん!」という声も聞こえてきそうですが、比較することも大切ですし、「新しいツーリズム」としてのくくりの中には「スポーツツーリズム」も「文化観光」も含まれています。スポーツと芸術は別物だというご意見もあるかとは思いますが広くとらえればスポーツも芸術も文化の中に含まれる、人間を人間たらしめるコンテンツであることに変わりはありません。ということで、今日の本題は「【Do系】の芸術コンテンツ」です。



スポーツ、芸術問わず「【Do系】コンテンツ」といえば参加型、ということになるわけです。スポーツでいえば前回までにご紹介したマラソンやSUPなどアウトドア・アクティビティ。では芸術系はといえば、ということでまずは音楽での事例をご紹介します。



ひとつめは仙台で開催されている「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」。仙台市の中心部にある定禅寺というエリアで開催されるジャズイベントになります。プロだけでなくアマチュア演奏家など5,000名がジャズを演奏するために各地から仙台にやってきます。今回は【Do系】でご紹介していますが、当然のことながら【Watch系】の要素も両面あるわけで、コロナ禍前の2017年には70万人が参加。国内でもトップクラスの参加型ジャズイベントとして認知されています。この定禅寺ストリートジャズフェスティバルがはじまったのが1991年。


もうひとつ同様のイベントをご紹介します。大阪・高槻で開催されている「高槻ジャズストリート」。こちらは高槻市内75の会場で4,000人の演奏者、15万人の観客が参加するジャズイベントとして1999年にスタートしました。



音楽以外の芸術分野での【Do系】コンテンツをご紹介すると、「デザインフェスタ」があげられます。プロ・アマ問わず「自由に表現できる場」を提供するアートイベントとして1994年からスタートしたこのイベントは、現在2日間で5万人が参加、6000ブースがアジア最大級のアートイベントとして位置づけられています。もっともアートイベントなので、芸術や美術寄りというよりはカジュアルな内容が圧倒的に多い印象ですけどね。



ちなみにここからは講義の本質から外れた本当にどうでもいい話なのですが、「カタカナになったとたんにフワっとしてうさんくさくなるから、できるだけ使わないほうが賢明な3大用語」のひとつがこの「アート」という言葉。ちなみにほかの2つは「マーケティング」と「マネジメント」。


美術なのか芸術なのかArtなのかアートなのか、という単なる言葉づかいの好みの問題でしょ、と軽く扱わないほうがいいのがこれらの言葉。できるだけ厳密に使い分けした方がいいっすよ。そもそも「アーティスト」という言葉。一般的には音楽関係の言葉の印象が強くないですか? 最近よく聞く「ビジネスとアート」なんて言葉もふわっとしすぎてるし、それを逆手にとってぼろい商売をしようとたくらむうさんくさい人たちがよく使うワードに成り下がっている印象を受けます。「言葉なんて生き物だから」というのも確かに正しいのですが、一方で生き物だからこそ、きちんと整理して使うほうが自分たちの価値を上げるような気がします。なので、「現代アート」とか「アート」とかいった言葉はできるだけ「現代美術」「美術/芸術/Art」と使い分けすることをお勧めします。だって「現代アート」とか「ビジネスとアート」とかいうひとたちってうさんくさいんだもん。使い方の問題なのであえて「アート」を使うという考え方も理解はできます。美術や芸術とは違う、もっとカジュアルなスタンスでの「アート」だ、という主張も理解はできます。ただ、美術や芸術や、という要素を含むという意識があるのであれば「アート」という言葉は使わないほうがいいのでは、と。まあ、それだけ日本語って便利な使い方ができる言語なのかもしれません。ここまで、講義とはまったく関係ありませんが。


では、本題に戻りましょう。ここで興味深いデータのご紹介です。【Do系】スポーツツーリズムとスポーツ以外の【Do系】ツーリズムの比較ですが、これ、【Do系】コンテンツを楽しむ人たちの規模感の違い、という特長が浮かび上がってきます。以下のデータは平成28年度の総務省の調査です。



平成28年社会生活基本調査https://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/pdf/gaiyou.pdf


このデータを見るとよくわかるのですが、「スポーツする」が68.8%なのに対して、「音楽の演奏」は10.9%、「絵画・彫刻制作」に至っては3.5%と圧倒的な違いが。圧倒的というか圧巻ですね。だからこそ【Do系】スポーツコンテンツがツーリズムとして成立しやすいという実証データである、ともいえるでしょう。



本業的には、という話になるのですが、「絵画・彫刻制作」の3.5%という数字にもっと美術業界(美術館も含む)は危機感を持たないといけないと思います。もっともこのスタンスで関係者に話をしたのに、こちらの説明とは真逆の方向に受け止められて炎上した経験を持っていますが(苦笑)。まあ、この話は現在進行形の内容でもあるので、ほとぼりが冷めたらネタにできればと思います(そんな日が来るのか?)。


ということで、今回はほぼ雑談メインでしたが、スポーツ以外の「【Do系】ツーリズムの事例」をご紹介しました。次回からは【Watch系】の話に移ります。