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「歪 distort 土橋庸人 × 山田岳ギターデュオ」@ティアラこうとう(2019年6月20日)を聴いて

最近,「○○をアップデートせよ」や「○○2.0」という表現が目につくが,すでにあるモノや価値に,新しい考え方や違った目線を取り入れたり,次のステップや時代に移ったりということを端的に表しているな,と今更ながら納得した。

話は変わるが,最近の私は「半径50mから始めるアートマネジメント」をモットーに、直ぐに実行出来る事を意識しながら活動している。音楽やアート界隈以外の友人知人と積極的にアートの話をする機会を儲ける、というのもその中の一つだ。幸運にも,好奇心旺盛な働き盛りの大人たちとワイワイ過ごす環境に恵まれたのをきっかけに「よし! まずは彼らをアートの世界に引っ張り込もう」と決意したのである。

これまでアートマネージャーとして関わってきた仕事で得た知識と経験をフル活用し,何とか興味を持ってもらおうと,エッセイ調の読み物で誘導(⁉︎)を試みている。お陰様でコンサートをはじめ,美術館,アートセンターなどへの鑑賞ツアーには毎回10名ほど参加いただいている。

「誘ってもらわなかったら,一生知らなかったと思う」「新しい扉を開けてくれてありがとう!」など,嬉しい言葉をいただき,毎回それが励みとなっているのだが,私自身もハッとさせられることが多く,とても貴重な経験となっている。その1つが,彼らの口から出る素朴な質問だ。

「現代音楽って他の音楽と何が違うの?」

この問いに対し,色々とゴタクを並べ,もっともらしい専門用語をつなげて説明すれば,何となしの答えは作れるだろう。

「バッハやベートーヴェンとかの,いわゆるクラシック音楽と呼ばれる音楽の理論や思想を受け継いでいて,現代音楽とはその延長線上にあるものなんだよ」

と言いながら,スッキリしないものを感じていた。
質問した彼女も「ふーん」とやっぱり腑に落ちていないようだ。

情けない。全然説明できないじゃないか。なんとか,上手く表現することはできないだろうか?

そんな私の悩みを解決する糸口を,本日のコンサート「歪 distort 土橋庸人 × 山田岳ギターデュオ」で見つけた気がした。タイトルに付けられた「歪」は,演奏されるすべての曲が,それぞれ異なる調弦のギターデュオで奏でられることに由来している。調弦によって歪められた音響は,これぞアコギと言わんばかりの音色から、とてもアコギで演奏されているとは思えない音色まで,それぞれの作曲家による作品の個性を如実に表すものであった。演奏法も様々で,プリペアド(弦の間にクリップなど色んなものを挟む行為)を中心に,弓で弦をこすったり,ボディを柔らかく撫でたり,アコースティックギターに対する作曲家と演奏家の飽くなき探究心を堪能することができた。

一方で,演奏を聴きながら「なぜ作曲家たちはこのような作品を作り続けるのだろうか?」と疑問に思った。今までは,そんなこと考えもしなかったが,上述したように,素朴な疑問を投げかける友人の影響を少なからず受けた結果なのだろう。ふっと湧いた問いに対する答えを探っている時に,冒頭の「○○アップデート」やら「○○2.0」が頭を過ぎったのだ。楽器の拡張,音の拡張,それに伴う演奏法の拡張……。作曲家や演奏家は先人達が作ってきた道を敬意を払いながら踏みしめ,常に先を目指す。そこに留まることを許されていないかの如く,道なき道を開拓していかなければならない。

今度,素朴な質問をしてくれた友人に会ったら,こう説明したいと思う。

「現代音楽の音楽家っていうのは,音そのものや,楽器や演奏などを常にアップデートするために日々研鑽を積んでいる人たちなんだよ。だから,現代音楽っていうのは,そういう人たちが作った作品のことを指すんだよ。例えば,アコースティックギターだったら,アコギ5.0,って感じ」

え! ますますわかんないって?

って,言われたら,また次の方法を考えます。

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「歪 distort 土橋庸人 × 山田岳ギターデュオ」
2019年6月20日(木)19:00
ティアラこうとう 小ホール

Program
月と海 (1995) // ファウスト・ロミテッリ
アルコールと代数学(2015) * // クリストファー・トラパーニ
色・走る timbre-run (2019) ** // 中野 和雄

A certain portal Ⅱ (2019) ** // 山本 和智
Concave-Convex (2016) // 鈴木 治行
doublet III (2017) * // 福井 とも子

* 日本初演 * * 委嘱作品・世界初演

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