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猫に関するほほえましい話

  • 猫の夢

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「桃源郷」

最近、どうも夢見が悪い。 迷いながらも葵は青信号の点滅を渡っていった。横断歩道の向こうで泣き崩れていたが、あれが葵の本心だろう。僕はなんとも思わない。

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    • 気晴らし by YK https://api.jam-community.com/song/detail/a6501e3d-ca88-11ee-8b3d-064f3e9f608e

      • 『悩ましい世』No.8

        会館では、チョビヒゲ猫がみんなの帰りを待っていた。お偉いさんは、異国のキャットフードをテーブルに広げて、珍しいお土産を披露した。猫さんをリュックから降ろした小野さんは、肩を大きく回した。お出かけのリードからようやく解放された猫さんは、いつものようにひと通り会館の隅々までニャンパトする。 会館の玄関にはお正月飾りが飾られ、お偉いさんは鍵を小野さんに託して自宅に戻り、小野さんは年末を猫さん達と会館で過ごすことにした。猫さんは相変わらずオークの木に夢中だったが、本来の用途が釣り竿

        • 『悩ましい世』No.7

          融雪剤を撒き終えた小野さんは、白髪のおじいさんからもらった2本目の枝をリュックに刺し、商店街を通って会館まで帰ることにした。新しい枝をもらった猫さんは、ホッとして爪とぎに疲れたのか、リュックの中でスヤスヤと寝てしまった。小野さんは、深々とおじいさんにお辞儀をして、防災倉庫を後にする。 商店街ではクリスマスの飾りつけもそのままに、新春初売りの準備が始まっていた。小野さんはハッとする。防災倉庫には、ほんの2時間ほどしか滞在していなかったはずなのに、商店街はクリスマスも年末大売り

        「桃源郷」

          『悩ましい世』No.6

          それは突然訪れた。 猫さんが、街の公園でいつものように枝落書きをしていると、大好きな枝はポキリと折れた。折れてしまった枝は、夜中の井戸に差し込んでも全く光らず、不思議な素振りも見せなくなり、本当に単なる木の枝となった。猫さんの落胆ぶりは大変なもので、チョビヒゲ猫が励ましても、ご飯が喉を通らないほど塞ぎ込んでいた。 日に日に痩せてゆく猫さんを、さすがに見かねた小野さんは、防災倉庫を管理している担当者に電話をかけた。事情を説明すると、ちょうど冬の融雪剤を撒きに倉庫へ行くので、

          『悩ましい世』No.6

          『悩ましい世』No.5

          「祭りだ!祭りだ!」 商店街の親父が珍しく興奮して会館にやって来た。年末年始の大売り出しや初売りの準備にてんやわんやなこの時期に、親父は突然祭りを開くと言い出した。最近猫さんは留守がちで、代わりに会館の留守番係になった小野さんが、親父に暖かいお茶を振る舞う。 「本物の白蛇様が現れた」 親父の話によると、年末の大掃除でかつて開催した白蛇様祭りで使用した空の祠を掃除していたら、祠の裏に白蛇がとぐろを巻いて座っていた。いつぞやのイベントでお借りした白蛇様はスネークセンターに返

          『悩ましい世』No.5

          『悩ましい世』No.4

          猫さんは永遠の叡智となったパニーニに、もらった木の枝が何なのか聞いてみた。パニーニは、もはや喋ることは出来ないが、微かな振動で意思を伝える。 「…わかんないのか…」 猫さんはガッカリした。パニーニにもその枝が何なのかわからない。長い時間をかけて悠久の記憶を遡ってもよくわからない。猫さんはせっかく雨の中を歩いてきたのに、無駄足となった。パニーニは己の長い記憶を遡るうちに、スヤスヤと深い眠りに入っていった。仕方がないので、猫さんは雨に濡れた枝を振りながら、近所を散歩してみるこ

          『悩ましい世』No.4

          『悩ましい世』No.3

          猫さんは聖なる木をくれた防災倉庫に行ってみると、冬季閉鎖で閉まっていた。鍵が掛かっていて外から見ても誰もいない。手がかりがつかめないまま会館にもどり、小野さんに、もらった木をうかつに冥界へ持ち込んだことを謝った。小野さんは笑いながら気にすることはないと言ってくれたが、猫さんは悲しくなった。 「それは素晴らしい木なんだよ」 猫さんは悪いとは思ったが、とても気に入った木を捨てたくない。 「七枝刀なのか…」 小野さんは独特な形をした木をよくよく眺めた。七枝刀に形は似ていたが

          『悩ましい世』No.3

          『悩ましい世』No.2

          猫さんはもらった枝をチョビヒゲ猫に見せびらかすために冥廷へ遊びに行った。猫さんは久しぶりにお気に入りの斜めがけポーチに枝を入れ、会館の井戸から冥界に降りると、冥界はごった返していた。冥廷に続く通路は、沢山の生き物達で溢れていた。 猫さんが冥廷につくと、まるで観光地のような賑わいで、篁公や閻魔大王はほとんど流れ作業で、人々の行先を振り分けていた。冥廷の片隅で休憩をしていたチョビヒゲ猫に、猫さんがポーチから枝を取り出して自慢しようとすると、取り出した枝は暗闇の冥界で突然輝き出し

          『悩ましい世』No.2

          『悩ましい世』№1

          小野さんは複雑だった。 閻魔大王の帰還により、冥廷は大盛況だ。篁公もメキメキ復活を遂げる冥廷に感銘を受けている。 彼らは実にイキイキと、幸せそうだ。 小野さんは、正直つまらなかった。 基本的な裁きの段取りは変わらないが、針の山の先は丸くなり、血の池地獄はピンク色、釜のお湯はぬるくなり、鬼は棒の代わりにタオルを持っている。せっかく今の世にあった、皆に優しい冥廷になったというのに。 冥廷の手伝いに飽きた猫さんは、久しぶりに防災倉庫に遊びに行った。防災倉庫はカビだらけで、ち

          『悩ましい世』№1

          『あらわれた世界』№22 (最終回)

          オシリスは、夜の砂浜を歩いていた。 暗い夜の波が、静かに寄せては返している。 砂浜には、ヘビの抜け殻のような毛の付いた皮が落ちている。後ろからついてきたメジェドがその皮を眺めながら、オシリスに付き従う。 夜の海には、三日月の暗い月明かりが伸びている。オシリスは海の彼方をしばらく眺めると、ため息をついて砂浜に座り込み、仰向けに寝転んだ。 「メジェドよ」 波打ち際を見回りしていたメジェドが、フワフワとオシリスに寄り添う。夜風が心地よい。 「人は星になるんだよなぁ」 メ

          『あらわれた世界』№22 (最終回)

          『あらわれた世界』№21

          篁公は閻魔大王の背後に着くと、古びた小槌を大きく振り上げた。振り上げた角度から、閻魔大王の肩越しに、大王が書き込んでいる内容の一部始終が見えると、篁公はハッとした。 閻魔大王は、膨大な情報を閻魔帳や台帳に書き込んでいた。よく見ると誰が誰の子供であり、誰が誰の親なのか、誰と誰が親戚で、生前何をしていたのか、そしてそれぞれがどんな人生を歩んできたのか…。 「空白ばかりではないか。」 閻魔大王は振り向きもせずにそう言うと、ペラペラと台帳をめくっている。篁公はギクリとして思わず

          『あらわれた世界』№21

          『あらわれた世界』№20

          帰還した閻魔大王は何年かぶりに冥廷へと降り立つ。大王は、廃墟になった冥廷に落胆するでもなく、淡々と自分の席へ登ってゆく。閻魔大王の席の棚には古い木槌が入っていたが、長旅を終えた大王は、その木槌を針の山に放り投げた。 「新しい冥廷を作ろう」 冥廷の片隅で、メジェドが開いた扉が閉まると、うなだれた篁公は、扉の向こうから入り込んだ砂粒を握りしめた。悔しさからか、その拳には怒りが滲んでいた。すると、コーンと針の山に何かがぶつかる音がした。我に返った篁公が針の山に向かうと、古びた木

          『あらわれた世界』№20

          『あらわれた世界』№19

          冥界人名録を読み終えたオシリスは、メジェドに命じて冥廷の空間にビームでゲートを描かせた。ゲートの淵がカッと輝くと、ペロリと空間が剝け、ゲートの向こうに砂の風景が現れた。 オシリスがまっすぐゲートへ向かうと、暗闇から現れた篁公がゲートの前に立ちはだかった。オシリスは、持っていた冥界人名録を篁公に渡すも、篁公は動かない。反射的に飛び上がったメジェドをオシリスがたしなめると、篁公はそれでも両手を広げて首を横に振った。 オシリスは、しかたなく篁公の耳元で何かを囁くと、その言葉に力

          『あらわれた世界』№19

          『あらわれた世界』№18

          チョビヒゲ猫は小野さんのシャドウに注意して、失礼がないよう閻魔大王をちゃぶ台へとお招きする。こんなに巨大な存在なのに、お偉いさんには閻魔大王の姿が見えないようだった。 あいにく、ちゃぶ台には座る余裕がなく、床の間の前に座布団を4枚敷き、そちらに座っていただくことにした。閻魔大王が座ると、ズシンと軽い地響きが起きたが、お偉いさんは、その揺れで閻魔大王の着座を確認した。 猫さんは、閻魔大王の大きさに合わせて、湯呑みではなく、手つきの鍋に麦茶を入れて差し出すと、閻魔大王は嬉しそ

          『あらわれた世界』№18

          『あらわれた世界』№17

          もう秋だというのに、会館はまだまだ夏の陽ざしで、クーラーも簾もかけているが、それでも足りず、小野さんはパタパタと団扇を扇いでいる。 篁公は一族で冥廷を再興することに情熱を燃やしているが、小野さんのシャドウは冷静だった。 シャドウによると、この世界では、死後に裁きを受けない宗教が主流になっており、そもそも必要のない冥廷は自然に衰退し、滅びるのが筋ではないかと推測する。小野さんも同じ考えで、猫さんとチョビヒゲ猫も、なんとなくそう思った。 「新しい宗教を作れば良い」 驚いて

          『あらわれた世界』№17