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【若手歯科医/若手矯正医向け】若手に毛が生えた僕が治療期間短縮法を伝授します。

矯正歯科医のドクターK です。

今回は若手の矯正歯科医に向けた僕の考える『若手向け』治療期間短縮法についての記事です。とてもベーシックなことですが、意外と誰も教えてくれない大切なことです。30代の若手に毛が生えた僕が生意気にも解説します。

始めに断っておくと、業界注目のトピックスである、コルチコトミーや加速矯正装置などについては一切触れません。これらは、僕にとっても非常に興味深いテーマですが、ベーシックな問題点をクリアできた上で、初めて効果的なスキルおよびツールであるためです。

さて、平均治療期間が2年半から3年と言われている矯正治療において、3年以上、時には5年以上治療期間がかかってしまう症例を見かけることがあります。難症例であれば治療期間が長期間におよぶこともありますが、当初の想定以上に治療期間がかかってしまう場合があります。これらの症例はなぜ『想定以上』に治療期間がかかってしまうのでしょうか?


若手矯正歯科医が陥りがちな負のスパイラル…治療期間が延びてしまう原因

若手矯正歯科医の行う治療において、期間が想定以上に延びてしまう原因は特に以下の2つだと考えます。(患者さんのコンプライアンスに関する問題。骨癒着、湾曲歯根など、不可避な問題は除外します。)

原因1.治療ステージが行ったり来たりしてしまっている

原因2.治療を進めているつもりが進んでいない

そしてこれらの原因は多くが抜歯症例で起こるため、基本的には抜歯症例で治療期間が想定以上に延びてしまう場合が頻発してしまうのです。治療がスムーズに進んでいないと認識し始めると、焦りを感じたり、患者さんとの関係性にも影響が出始めたりと負のスパイラルに陥りがちです。
では、この2つの原因について掘り下げて解説をします。 


原因1.治療ステージが行ったり来たりしてしまっている

これは若手矯正歯科医が最も陥りやすく、無自覚・無意識で後から気づくことが多いです。具体例は以下のような事象が挙げられます。

例1)毎月欠かさずワイヤーサイズを上げていった結果、レベリングが不十分な箇所があり、ワイヤーのサイズダウンを余儀なくされた。

例2)治療を早く進めたい一心で、レベリングと同時にリトラクションを行った。結果、予想外のティッピング(歯の傾斜)が生じて、レベリングからやり直した。

例3)前歯の舌側移動を行い、抜歯空隙が閉鎖した時点で、大臼歯が近心移動しすぎたことに気が付いた。遠心移動を行い、再度、前歯の舌側移動をやりなおした。

治療を早く終えるためには、スタートからゴールまで最短距離で駆け抜けることが1番です。ベテランと若手の差はここに出ると中堅の僕は考察しています。基本的にはベテランでも若手でも使用するマテリアル(材料)は変わらないため、各ステージをミクロの視点で見たときに治療速度に差は出ません。しかしながら、ベテランは少しの治療計画のズレや、生じている問題点を早期発見し治療計画を調整できるため、寄り道や後戻りすることなくゴールに進むことができます。


原因2.治療を進めているつもりが進んでいない

治療を進めているつもりが治療が全く進んでいないということが往々にしてあります。特に、この事象が起こりやすいステージは犬歯の遠心移動のステージと前歯の舌側移動のステージです。これらの抜歯空隙閉鎖のステージは治療に対するリアクションが非常に地味です。問題なく進んでいても1ヶ月に1.0mm程度しか歯が動かないため、何カ月か経過した時に「あれ?全然変わってない??」と気づくことが多いです。

当然、どこかの治療ステージでブレーキがかかれば仮に最短距離でゴールに向かっていたとしても、ゴールにたどり着くことができません。


なぜ、若手矯正歯科医は負のスパイラルに陥りやすいのか?

そもそも、なぜ若手矯正歯科医はこのようなスパイラルに陥りやすいのでしょうか?実は経験不足の一言では片付けられない、矯正歯科特有の事情が絡んでいることに気が付きました。それは、他の診療科よりも治療期間が長いという特性です。これにより、知識と技術の習得度に時間的ギャップが生じるという『ゆがみ』が生じます。このゆがみによる『気持ちのゆるみ』が若手矯正歯科医には現れがちです。わかりやすく示すと以下の図です。

中堅からベテランのキャリアの先生は誰しも経験があると思いますが、3年目前後でいわゆる『調子に乗ってしまう時期』を経験します。もちろん僕もそうです。矯正歯科の場合は、先輩・上司の診療補助や仕事のお手伝いをすることで下積みを経験します。基本的な手技レベルは経験年数に比例してどんどん上達し、5年目くらいでほぼ頭打ちになると思います。しかしながら、若手は一貫して一人の患者さんを治療しきった経験がないため、知識レベルはどんなに教科書的知識を身につけ知識武装をしたとしても、臨床経験値が少ないため定着しきっていません。知識は臨床経験値、すなわち『実体験』を積むことで定着していきます。

この『調子に乗ってしまう時期』では、先輩や上司から指示されたことがなんでもできるようになってきます。今まで1時間かけてやっていた処置が30分でできるようになります。こうなるとなんでもできると勘違いしてしまうこともあります。この時期は経験的に『気持ちのゆるみ』が出てきます。まだ何者でもないのにピュアな初心を忘れがちな時に魔物はやってくるんです。ピュアな心を忘れてしまうと、いろいろと端折る癖がつき始めます。


『治療期間が延びてしまう原因』に対する解決策

いよいよ解決策です。まず、上記の原因を完全に回避することは無理です。経験値が足りないのだから当然です。ベテランでもミスがあるのに、若手でこれをなくすことは不可能です。しかしながら、ミスを早期発見して計画をアジャスト(調整)することで、傷口を浅くすることはできると考えます。

完璧な対策としては、毎回必ず口腔内写真を撮影してチェアサイドで前回の口腔内写真を確認しながら治療にあたること。

始めて患者さんを配当されたピュアな1年目はみんなやってます。ちょっとの変化に感動し、一喜一憂していたあの時を忘れていませんか?新品のカメラをさげて、いつも患者さんの治療計画を持ち歩いていませんでしたか?僕はまさに『調子に乗ってしまう時期』にぱったりとこれらをやめてしまいました。

前回の写真と比較して、想定外の結果があればその場で対策をとれます。前述の例で解説するならば以下の様です。

例1)毎月欠かさずワイヤーサイズを上げていった結果、レベリングが不十分な箇所があり、ワイヤーのサイズダウンを余儀なくされた。⇒前回と比較してレベリングの進行が進んでいない箇所があることがわかれば、機械的にワイヤーのサイズアップを行わないという選択肢が取れた。

例2)治療を早く進めたい一心で、レベリングと同時にリトラクションを行った。結果、予想外のティッピング(歯の傾斜)が生じて、レベリングからやり直した。⇒前回よりもティッピングが増悪していることに気が付けば、リトラクション中断の判断ができた。

例3)前歯の舌側移動を行い、抜歯空隙が閉鎖した時点で、大臼歯が近心移動しすぎたことに気が付いた。遠心移動を行い、再度、前歯の舌側移動をやりなおした。⇒前回よりも大臼歯が近心移動してしまっていることに気が付けば、アンカースクリューを使用する計画へと治療計画をアジャストすることができた。

しかしながら、現実的には毎回写真を撮ることは難しいかもしれませんし、僕も恥ずかしながらできておりません。


僕が推奨する解決策 アウトプットツール活用法

それでは、若手に毛が生えた僕はどのように対策しているかをご紹介いたします。

それは非常にベーシックなことで、カルテを活用することです。

そんなことか、と思った方はカルテを十分に活用できていますか?多くの先生はカルテにワイヤーの種類くらいしか書いていないように思います。口腔内の所見を脳内で情報化(インプット)して、カルテに文字で吐き出すことは立派なアウトプットになります。アウトプットはインプットと同じか、それ以上に重要です。つまり、カルテは基本的にはアウトプットツールとして使用します。具体的には以下のようになります。

1)治療計画や治療の流れなどを記載したカルテをすぐ出るようにしておく。

紙カルテならすぐに出ますが、電子カルテの場合は永遠にコピペしていくことを推奨します。常に、ゴールと道のりを頭に意識しておくことです。特に、最初の内は細かく治療順序を記載することを推奨します。ゴールが明確でも道のりがあいまいな場合が多いためです。

2)行った処置に対してのリアクションの所見をアウトプットする。

例えば、『ライトフォースのエラスティックチェーン4holeでリトラクションを開始』→次回受診時カルテに『1㎜移動した』『移動していない』などと前回処置に対する結果をアウトプットするんです。『移動していない』ならば『ワイヤー外して研磨』『エラスティックチェーン3holeで少し強めに』など、想定外の事態に対しての対応がすぐ取れます。

僕の場合はリトラクションであれば『残りスペース〇㎜』のような記載か、『ワイヤーエンド〇㎜後方に出ていた』など具体的な数値を記載しています。数値は客観的なので、異変にすぐ気が付きます。

3)臼歯関係、犬歯関係を記載する。

結局我々の仕事は、臼歯関係と犬歯関係を構築することです。

例えば、レベリングステージであればどれくらい叢生が取れたか、リトラクションのステージなどは何ミリ動いたか。など行った処置に対するリアクションに目が行きがちです。気づいたら、犬歯をリトラクションしすぎた。とか、大臼歯が想定外に近心移動していた。などの事態が起こります。そのため、臼歯関係と犬歯関係が現在何級か?ということを、こまめに記載をすることがこれらの予防につながります。これらは、電子カルテならば毎回コピペでいいのです。数値の箇所を毎回アップデートするだけで、カルテの記載時間は取られません。紙カルテでも、自分がわかればメモや記号で十分です。

4)時々口腔内写真を撮影して、客観評価しにくい項目をカバーする

毎回写真を撮れるならばそれに越したことはありませんが、なかなかそうもいきません。しかし、個人的には写真は3ヶ月に1回程度の撮影でも十分かと考えます。写真では、客観評価しにくい項目をビジュアル的に判断可能です。例えば、想定外のティッピングやボウイングエフェクトの出現などです。これらは、数字に落とし込みにくいため、カルテ記載において客観性に欠けます。そのため、やはり時々口腔内写真を撮影して評価することが必要です。

僕が意識しているのは以上4点です。なんだ、そんなことか。と思った方も改めて自身のカルテを見直してみてください。

矯正治療ではちょっとしたエラーが原因で簡単に治療期間が延長してしまいます。こちらの想定外は患者さんにとっても想定外であり、両者の関係性のトラブルの原因になりがちです。

上記のようにカルテを正しく利用することで、細かなエラーの防止と早期発見につながり、特に若手矯正歯科医においては治療期間が短くなると考えます。

最後に・・・もちろん僕自身、このような偉そうな記事を書いていますが、現在進行形で『想定以上』に治療期間がかかってしまっている症例があります。しかしながら、これらの症例について自分なりに要因を徹底考察した結果が今回の記事の内容になります。僕の経験と考察が若手の矯正歯科医の先生方の今後の参考になれば幸いです。

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