アニメ視聴録 『電脳コイル』

 少しゲームから離れて、少しアニメの話をば。扱うのは『電脳コイル』。ネタバレし放題なので、気になる方はご遠慮ください。加えて、話を知っている、視聴済みの読者を想定しています。ストーリーや作品の理解の助けになれば幸いです。
 もしアマゾンプライムに加入していれば、ここから視聴できます。時間返せ、とはならないと思うので是非。

 電脳コイルの物語をどう解釈すればいいのかというと、これは彼岸と此岸の話。彼岸と此岸、つまり「この世」と「あの世」、遊戯王っぽく言うと「現世」と「冥界」となる。
 登場人物の多くが位置するのは現世であるが、登場人物の何人かは、既にあの世の人物である。オジジ、ノブヒコ、カンナなどがあの世の人物、つまり死人だ。
 加えて、現世の人物でありながら、「死者の魂」を求めて冥界に出入りしようとする人間がいる。イサコがノブヒコを、ハラケンがカンナを追って冥界入りするし、そのイサコやハラケンをさらに追うような形で、ヤサコやオバちゃんが冥界入りする。このように現世と冥界とを行き来する登場人物が主人公格だ。
 神話では、冥界入りして帰ってくる英雄の話は多い。大雑把に言ってしまえば、この作品もそのような話だ。

 先程から、なんの説明も無しに冥界だのあの世だの彼岸だなどといっているが、これらは全て古い電脳空間を指している。
 加えて、ここはただの地獄ではなく煉獄のような所があり、死者との会話が可能ではある。ハラケンとカンナとの会話がその例だ。他にも、デンスケやオジジの魂も出てくる。オジジに関しては、ヤサコの記憶を投影した影であるとも理解できるので、言い切る事はしない。煉獄というよりかは、まだ消去されていない一時ファイル、といった方が近いかも知れない。
 ともかく、消化されていない魂のようなものも存在している。これが、この作品での「あの世」だ。物語の進行の場は現世ではなく、冥界だ。

 冥界に迷い込んだお姫様を助け出す事で、物語は終わる。お姫様にあたるのがイサコで、王子様の役割を担うのがヤサコだ。
 生きている人間は冥界には行かない方が良い、というのは当たり前の話だが、なかなかそうもいかない。兄だったり、初恋の相手がいるというのだから、諦めろというのも難しい話だろう。
 ハラケンは途中で諦めが付いたので良いのだが、イサコは諦めが付かず、さらに冥界の女王に気に入られてしまったため、なかなか戻って来れずにいた。冥界の女王というのは、ミチコさんの事。出自からしてみると女王であるというよりかは、イサコやヤサコの娘とか分身であると言っても良さそうだが、役割としては女王だ。
 そのイサコを助ける役割を持っているのがヤサコだが、彼女は特別だ。特別である理由は、主人公であるからという言い方もできるが、祖父(オジジ)に依るところが大きい。オジジの親族である、血縁関係があるというのが重要な点だ。
 オジジがイサコの治療のために開発した空間が、原初の冥界だ。オジジが作った空間が変質したものだ。その空間というのは、イサコの蘇生のためにオジジが作り、オジジはイサコを蘇生し、そのために命を落とした。そのオジジの血の繋がり(≒後継者)という事実が、ヤサコが救済者たる説得力を持たせている。

 世界観についても少し触れてみよう。あの世この世といった話も世界観といえば世界観だが、他にもある。電脳生物についてだ。
 電脳生物というのは、冒頭に現れるデンスケやオヤジ、イリーガルなどもそうだろう。
 サッチーやキュウちゃんは電脳生物ではなくプログラム、という扱いらしいが、デンスケやオヤジもプログラムと推測できるから、マクロに見れば同じといえるだろう。
 このような電脳生物を生物至らしめる要素がある。一つは、登場人物が肌身離さず電脳メガネを着用しているという点。これら電脳生物はメガネを外せば見えないのだが、そもそも外す機会が殆どない。この点で、実在の生物との区別がされにくい。
 ただ、物語の最初で、デンスケに落ちてくる荷物がデンスケの体をすり抜ける演出を見る事ができる。実体を持つ存在でないという事が強調されているのだ。
 他にも、頭の悪いソフトウェアに追いかけられたりと、電脳生物である事が無視されている訳ではない。
 加えて、イリーガルのうちおとなしいものは、実在のものかはさておき、動物であるかのような振る舞いをする。この動物というのは人間を含む。例えば、ネッシーのようなものが居たり、核戦争で滅びかけるようなものが居たり、金魚が居たりする。これらはプログラムのバグでしかないのだが、魂のある存在に足る説得力を持っている。全ての存在に魂がある、という考えが作品の根幹にある。

 これは世界観というよりかは演出の領域に近づくだろうが、「ジブリ」っぽさもある。特に、『となりのトトロ』と非常に既視感を覚える。例えば、冒頭に引っ越して来るというのはトトロそのままだし、サツキとメイのような姉妹もいる。イサコのペットマトンは「まっくろくろすけ」のようだし、おばあちゃんも居る。
 類似点を挙げても切りがないが、となりのトトロや他のジブリ作品を見た事がある読者(視聴者)は多いだろうし、見てすぐにピンと来ただろう。

 細かい登場人物の繋がりは全て端折ったが、筆者はこのような解釈でこの作品を見ていた。もちろん別の見方をする事も可能だから、自分なりの解釈で楽しんでみて下さい。

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