How spidermen swung old web to new web.(スパイダーマンたちは如何にして旧い蜘蛛の巣から逃れ、新たな繋がりを得たか)

『スパイダ―バース』を観たので、その雑感をまとめておきたい。
作中のネタバレを多く含むので、未見の方はここでお引き取りをお願いする。(私はこの優れた映画を、可能な限り新鮮な感覚で見て頂きたいと強く願う一人である)












『スパイダーバース』は、スパイダーマンの成長の物語だ。
この「成長」という言葉の対象は、主人公であるマイルス・モラレスという新米スパイダーマンのみに留まらない。

かつてスパイダーマンとの闘争の中で不慮の事故によって最愛の妻と息子を失ったヴィランのキングピンは、並行世界全ての消滅の可能性さえ無視して、他の世界から妻子を呼び寄せることを思いつき、実行に移す。

実験の失敗によって繋がってしまった並行世界からやってきたスパイダーマンたちもまた、今作の主人公である。

・メイ叔母さんとは死に別れ、MJとの結婚生活も不遇のままに終えることに
 なったピーター・B・パーカー。
・ピーター・パーカーがMJと付き合う前の彼女であり、そのピーターを失っ
 たグウェン・ステイシ―。
・遠い過去からやって来た、私立探偵スパイダー・ノワール。
・逆に未来からやって来たペニー・パーカー。
・カートゥンの世界から来訪した、ピーター・ポーカー。

新たに放射性クモに咬まれてスパイダーマンとなったマイルス・モラレス。
そして命を落としたピーター・パーカーを含めた七人のスパイダーマンには、共通点がある。

それは、「最愛の人を失った過去」と「強い力には責任が伴う」という二点である。

繰り返し語られるこのテーマはスパイダーマンの強い自己犠牲精神の理由付けであると同時に、どのような並行世界のブルックリンにあっても、スパイダーマンというキャラクターの「軸」となり、属人性の強いキャラクター像を創り上げてきた。

その一方で、「強い力には責任が伴う」という言葉は、スパイダーマン達を絡めとり続ける、運命の”蜘蛛の巣”でもあった。


落ちぶれ、腹の出た中年であるピーター・B・パーカーは、落魄した身の上であっても、スパイダーマンの装備を捨てられず、突然並行世界に招かれてもすぐにその装備を身に付けることができた。

そのBパーカーが作中、「強い力には責任が伴う? そんな言葉にはうんざりだ」と言い放つ。

(死んでしまったピーター・パーカーを除いて)誰よりもオリジンに近い姿をしたB・パーカーが、スパイダーマンを否定する。
このことは、本作の一つの問いかけでもある。

「強い力を持たなければ、ヒーローになれないのか?」

マイルスはスパイダーマンの力を与えられながらも、その力を使いこなすことができない。
しかし彼がピーター・パーカーからの「依頼」をこなそうという想いの力は世界の危機を回避する巨大な原動力となった。

EDで、マイルスは言う。
「誰でも、マスクをかぶることができる」
「誰かを護ろうと思った時に、その人はもうヒーローなのだ」と。

「強い力を持つ者には責任が伴う」
「強い力を持たなくても、想いがあれば、ヒーローになれる」

スパイダーマンという”概念”が、”蜘蛛の巣”を脱した瞬間である。

また、ピーターを失い友人を作る勇気を持てなかったグウェンは、マイルスを友人と認める。
新しく、しかも本来結ばれるはずのなかった「絆」が、繋がれた瞬間である。

原初の『スパイダーマン』が描かれたとき、WEB(蜘蛛の巣)という言葉には、絡めとる意味しかなかった。
the internetのWebがこの惑星を覆い尽くす今、蜘蛛の糸のように細い繋がりであっても、人々は友人になることができ、その出会いは運命を変えることがある。

かくてスパイダーマンは旧い蜘蛛の巣を脱し、新たな繋がりへと”スイング”したのだ。


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