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唇でまつ毛を取ってくれた優しい人

冬はゆっくり眠りたい

 長い夏も終わり、札幌は少し涼しくなってきている。テレビでは、ストーブやスタッドレスタイヤのコマーシャルが映っている。みんな大きなため息をついて「あー。また冬がやってくる・・・雪は多いのかしらね」とつぶやいている。
 雪が降ると車椅子で歩きにくくなるので、今のうちにどこか遊びに行きたいと毎日考えている。去年の冬は、雪かきで私の知り合いの3人が骨を折っている。それが雪の恐ろしさである。夏は猛暑で、頭と胸が苦しくなった。冬くらいゆっくり眠りたいものだ。

髪の毛1本の苦しみ

 秋が近づくと、髪の毛やまつ毛がよく抜けるようになる。髪の毛は頬や唇にくっついて離れない。軽くて頭を振ってもなかなか取れない。夜中ヘルパーさんを呼ぼうか呼ばないか迷う時がある。神経が図太くなった私も、髪の毛1本でヘルパーさんを呼んでも良いのかどうか、真剣に考える。
 リンパ癌になった時、7か月間入院した。夜中、吐き気と髪の毛が頬に刺さり痒くてならない。地獄の様であった。ナースコールで看護師さんを呼ぶと「髪の毛が、右の頬に刺さっているの。取って下さい」と言うと「どこよ。こんなことで私達を呼ばないでよ」と頬を叩かれた。しかし叩かれた場所が良かったので、髪の毛が取れた。手が使えないという事はこういう事の繰り返しである。そんなことがあったので、私達は入院の時ヘルパーがつくように命がけで戦った。そしてその願いが叶ったのである。

痛みが誘ってくれた恋心

 従妹は「まつ毛パーマをしないかい?」と言ってくれた。私の心はユラユラ揺れた。ものすごくしたかったけれど、脳性マヒの緊張で目を硬くつぶってしまう。だからやはり、パーマ液が目に入ると危ないと思い断念した。
 まつ毛が目に入ると、声も出なくなるほど痛い。涙で流してくれる時もあるが、なかなか取れない時もある。若き日、まつ毛を素早く取ってくれるボーイフレンドが居た。「痛いの!痛いの!!早く取って!!」と言うと、彼は、指先で取れない時は唇で取ってくれた。それが一番早く取れたのである。ついでに、軽い口づけをしたものである。まつ毛が目に入ると、その思い出が蘇ってくる。痛い思い出が、恋心に生まれ変わるなんて面白いものである。そんな日がまたやってこないかな~と敬老の日に考えた。無理かしらね。



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