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「東京∞景の学校」入学式(2024.01.14)

とまどいの入学式

大人になってから随分と経つ。
思い返してみると自分自身が「入学」することに関してずいぶんと縁遠くなったことに気付かされる。
どんな態度で臨むべきか。
服装はどうだったか、メガネは必須か、和服か燕尾服か、タイツは肌色か…。
さまざまな心配が脳内を渦巻く。
入って学ぶんだもんな。通い慣れはじめた東京八景坂ビルとて油断ならない。
生半可な覚悟で店に入ったらカイゼルヒゲを蓄えた軍服姿の教師にいやと言うほど棒でしばかれそうな雰囲気さえ漂うではないか。
家を出る寸前まで悩んで悩みすぎた末、いつもと同じふざけた平服で赴いたビルのエレベーターで「3」のボタンを押す指が少し震えた。

大学1日目のガイダンスのようだ

店舗に入るとすでに人がギッシリ。
見慣れた顔の中に初対面の顔ぶれが混じっている。人数の割に口数が少ない。やけに静かだ。ちなみにカイゼルヒゲを蓄えた教師はいなかった。
通り過ぎる電車の音がよく聞こえる。
そうか。「入学」の重たい2文字に同じく戸惑いと不慣れさを感じているということか。硬い表情の中でやけに天気だけが良い。

史上いちばんの硬い空気

15時を少し過ぎたところで入学式が始まった。
代表・町田の「そんな緊張しなくていいんですよ?」の声が虚しく響く。
evianを空気中に噴霧したかのような硬さが会場を支配していた。

クラフトビャー(小声)

代表・町田の掛け声による乾杯で空気が多少緩む。万国共通、やはり乾杯は強い。
そして入学式の本題が始まる。
これまでの経緯、学校の目的、これからのこと…。するすると淀みなくプレゼンテーション資料が画面で進む。
出席したメンバーはそれぞれ手に持ったビールが疎かになるくらい夢中で話を聞いている。
ここにしかない、ここでしかできない、今しかできない。という「レア」な部分に加えた圧倒的ななにかとは…。壮大なテーマだ。
半年で答えが出るのだろうか? 不安と期待が入り交じる。
早くメンバーの”人となり”を知りたい。

時間を追って和やかになる会場

何歳になってもワクワクするクラス発表が行われたあと、いくつかのグループに分かれてミニセッションが始まった。
テーマは「これからの大森山王ブルワリー/東京∞景について思うこと」
それにしても顔と名前がなかなか一致しない。
誰かが発作的に始めたマスキングテープの名札が頼もしい。
やっと会場に賑わいが戻ってきた。ビールも進む。
漏れ聞こえてくる会話の内容は千差万別。
テーマに即して議論を進める正当派、横道に逸れてとことん雑談を繰り広げる無頼派、お互いのパーソナリティを恐る恐る探り続けている慎重派…。
これだけ個性的でルールを守らない大人がいるんだから、半年間の道筋は途方もなく明るい。

個性明快の曜日クラス

夕暮れが近づき、懇親会が始まる頃にはすっかりevianの硬い霧は晴れ、カラリとした陽気な雰囲気に変わっていた。
店内のネオンに映し出されている表情も一様に柔らかい。

曜日クラスごとに分かれて準備した料理は、先ほどようやく顔合わせしたとは思えないくらいのまとまりを見せ、すでに強い個性が垣間見えていた。
土鍋チームは正しくセオリー通りに素材を蒸してみせ、シメに白米と刺身を用意する念入りさでホスピタリティを表現し、たこ焼きチームは関西人が見たら色を失う自由さで、甘いものから辛いものまであらゆる食材を球体に封じ込める荒技で他を圧倒している。
そして鉄板チームはこの世のタンパク質をすべて焼き尽くすかのような勢いで魚介やステーキ肉を豪快に並べる一方で、餃子をぎっしりタテヨコに敷き詰める几帳面な繊細さを見せつけていた。

予測不能。半年後の化合物

それにしても、似たような志を持って八景坂ビルに集結したにもかかわらず、よくぞここまで違った個性が集まるものだと改めて感心する。
しかも「学校です」と宣言したとはいえ、代表・町田を含めて半年後にどんな状態で着地するのか、誰ひとり予見していない集団に入学してくるのだからよっぽどのことだ。大したものである。
都内、いやいや全国のなかで大森近辺だけこういう奇特な大人が多く棲息しているのかもしれない。

性別も属性もビジュアルもまったく違う人々が学校と称した古びたビルの3Fに吸い寄せられていく(しかも毎週)。
文字に起こすだけで尋常ではないことがわかる。
尋常ではないからこそ、いっしょに貴重な半年間を送りたいと思う。
数年後に振り返ってみて、あの入学式の夜がそもそもの歴史の始まりだったよな、と個性が強すぎるクラスメイトたちとテラスで笑い合える未来を迎えたいものである。

Text&Movie:ZY(東京八景 非公認ゴーストライター)