居場所の安心

居場所での「安心」をどう作るか?

筆者は、長年子どもの居場所づくりにかかわってきました。その経験から、居場所づくりにかかわる人たちや支援する人たちに向けて、「安心」の作り方についてまとめました。

居場所の成立条件とは?

 人がそこを「私の居場所」だと感じる条件がある。それは、安心だ。
 自分がそこにいてもいいのだという安心感。訪れた人がこの安心感を持てなければ、たとえ「居場所」と看板がかかっていても、その人にとっては居場所ではない。

 立派で豪華な施設でも、安心出来ない場合がある。逆に、簡素な設備の建物でも安心を感じることが出来る。居場所は建物ではないからだ。

 それでは、どうすれば安心を作り出すことが出来るのだろうか?**

「安心」はどこから来るのか?

 安心をつくり出すためには、じつは場を支える側(主催者側=スタッフ)の人たちどうしが、互いに信頼し合っている必要がある。安心できる場をまず自分たちがつくり、そこに参加者(それが子どもでも大人でも)を迎え入れていくというのが順序だ。

 どんなときに安心が作られるのかをまとめる前に、まずどんなときにスタッフが不安を抱え、力を発揮出来なくなってしまうのかを考えたい。

他のスタッフからの視線

 他のスタッフを見て「あの人の動きはいいな」「うまく連携出来たな」と思うこともあれば、「あれは違うな…」「なぜあんなことしているんだろう?」と不満を持つこともある。このこと自体は当然のことだ。
 しかし、この不満が放置されると、関係がぎくしゃくして、陰口が出てくる。他のスタッフからの視線や評価が気になってくる。
 本来ならば勇気を出して踏ん張る場面から逃げたり、逆に過剰な動きになったりして、場を壊す。安心していないスタッフは、本人にその気はないのに場を壊してしまうのだ。

 結果、真正面から参加者に向き合うべきときに、他のスタッフの視線を気にして集中できず、半身(はんみ)になってしまう。これでは現場で集中出来ない。集中していないスタッフがいるのは、不安を通り越して危険でさえある。

 川であそんでいる子どもたちを、川のエリアや子どもの人数で分けて、スタッフが見守っているとする。こういうとき一番危ないのは、担当になっているのに集中を切らせて、他のことに気を取られている人がいることだ。周りはそのエリアをその人に任せているため、そこを見ない。結果、だれも見ていないエリアが出来てしまう。川遊びの例はやや極端だが、どこでも構造は同じだ。

 不安なスタッフは不安な場をその人の周囲につくり出す。結果、スタッフの不安は参加者の不安につながる。ふつうの飲食店だって、不安そうな顔で料理を提供されたら、ちょっと不安になってしまう。

スタッフがかかわる3つの「場」

 スタッフがかかわる場は、時間の流れに沿って3つある。

・準備の場(スタッフだけ)
・本番当日の場(スタッフと参加者)
・ふりかえりの場(スタッフだけ)

 居場所に必要な安心は、この3つの場のうち、どこでどのように作られるのだろうか。

 スタッフが安心出来ない理由はいろいろある。プライベートな事情でそもそもコンディションが悪い(つまりいつでもどこでも安心出来ない)ということもあり得るが、それ以外だと2パターン考えられる。

1.そもそも何を目的に何をすればいいのか分からない
2.他のスタッフからの視線・評価が気になってしまう

 1つ目は準備不足からくる不安で、「準備の場」と直接つながっている。2つ目は、本番の現場での活動中の不安で、これを解消するには、準備の場に加えて「ふりかえりの場」が必要になる。

「準備の場」で安心をつくる

 準備の場(会議など)は本来必ず設けなくてはならない。忙しいから会議なんて無理…と思うのは、スタッフの安心が参加者の安心を支えていることに無自覚なためで、準備の場は不可欠だ。

 次の場で目指すことや役割分担などを明確にして、場を整える必要がある。また、共有しておくべき情報もある。「曖昧でよくわからないこと」「なんだか気になること」を潰していけば、現場で集中できる。時には、そもそもなぜその場が存在するのかというような、活動の根幹が曖昧で共有されていない場合も見られる。落ち着いて、順番に話し合い、共有していく必要がある。

 また、準備段階の会議などでもし納得がいかないことがあれば、きちんと話し合った方がいい。会議で言えないまま腹に残ると、陰口や現場での微妙な態度として出てしまい、場を壊す。このことから、会議は「ただの準備」ではなく、当日の場に連なる「現場」のひとつだと言える。
 意見を一致させることが出来なくても、どのような違いがあるのかを認識し、「ひとまずはこれでいこう」と決めるだけでもいい(会議の具体的な進め方については、『場づくりの教科書』第4章「会議のやり方」に詳しくまとめました )。

「ふりかえりの場」で安心をつくる

 ひとつの現場が終わった後に、ふりかえりの場を設けているだろうか。

 ふりかえりの場では、自分の動きがどうだったのか、相手の動きをどう感じたのかを伝え合う。参加者の観察日記のようなふりかえりに終始してしまうことがあるが、自分自身についても語っていいし、積極的に語るべきなのだ。

 そのためには、スタッフが自分の感想を話すだけの場を設けるといい。準備の会議やテクニカルな改善案などを話し合う場と、一人ひとりが自分が感じたことを話し合う場は、気持ちの置き方が異なる。無理にいっしょにやると、どっちつかずになってしまうことが多い。

 ふりかえりの場には、過去に区切りをつけ、いつまでもひきずらないという効用もある(ふりかえりの場の持ち方については、『場づくりの教科書』第5章「継続的な場をさらに豊かにするには」に詳しくまとめました )。

スタッフが絶対にやってはいけないこと

 スタッフが絶対にやってはならないことがある。それは、他のスタッフに対する陰口・悪口・噂話だ。

 百害あって一理なし。スタッフ間に陰口・悪口・噂話があるというのは、組織の恥であり、改善すべき事柄だ。居場所をつくるなら、まずここに責任を負うべきなのだ。自分では陰口を言いながら、一方で、

「子どもたちには、安心して自分を出してほしいですね」
「地域の人たちがつながって、安心と信頼が広がれば…」

なんて言うのはおかしい。「陰口を言わない」というよりは、「オープンに話し合う」ことに取り組むといい。会議やふりかえりの場のようなオープンな場で相手に話してしまうと、陰で話す必要がなくなるからだ。

スタッフの多様さを場の魅力に

 多様な人々が訪れる居場所には、多様なスタッフがいた方がいい。

 仮に子どもにかかわるスタッフ達が、

「みんなであそぼう!」
「外に出て木に登ろう!」
「工作してるの? みんなも誘おう!」

というような“元気はつらつ”の人ばかりだと、子どもは疲れてしまう。そういう人も必要だが、色々な人がいた方がいい。
 準備の場とふりかえりの場を大切にすると、ステレオタイプな「良いスタッフ像」からスタッフが自由になり、多様性が発揮されてくる。スタッフの多様性を守ることを通して、居場所での多様性を守ることが出来る。

 別にスタッフどうし、相手を好きにならなくていいのだ。

「あの人と一緒にご飯を食べたいなんてぜんぜん思わないし、一緒に出かけるとかあり得ないけど、あの人とはちゃんと話し合える。信頼している。」

 これで十分だ。変にプライベートで仲がいいと、その関係性を守るために言いたいことが言えない場合さえある。

 多くのことを人の問題だととらえがちだ。簡単に「スタッフ個人の力量の問題」だと片付けないこと。人ではなく、場の問題かもしれない。

 居場所をつくるなら、参加者ではなく、まずはスタッフどうしの関係性に目を向けよう。まず自分たちを大切にして、自分たちを守る。そのことを通して場を守り、場が参加者を守る。そこに自然に生まれるのが安心感だ。


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