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特許公報の読み方、まとめ方、伝え方

企業で研究開発業務に従事されている方、知財担当者の方であれば特許公報を読む機会があると思います。「特許公報」は難解で読みにくく、時間とストレスがかかる苦痛な作業ではないでしょうか。

この記事では、弁理士である筆者が、これまでの経験に基づき特許公報の読み方、そして読み込んだ特許公報をまとめて他の人に伝える際のポイントを整理しました。

また、筆者は特許公報の読解を支援するAIアシスタントサービス「サマリア」を提供しています。「サマリア」は、特許公報を要約したり、用語説明などを簡単に行うことができるサービスです。現在、以下のURLより無料でユーザ登録するとともにご利用いただけます。

特許読解アシスタント「サマリア」

特許公報なはぜ読みにくいのか

弁理士である筆者は、技術者の方から「特許公報はなぜ読みにくい文章で書かれているのか?」と質問を受けることがあります。

そもそも、特許公報は、「弁理士」という国家資格保有者により作成されて特許庁へ提出された「特許出願の明細書」という書類に基づいて特許庁が発行している文書になります。ですので、「弁理士」が「読みにくい文章」を作成していることになります。

多くの弁理士は、好き好んで「読みにくい文章」を作成しているわけではありません。実際、読みにくい文章は、当然記載内容の確認などに時間と手間がかかるため、多くのクライアントからは敬遠されます。また、特許権取得のための審査過程においても有利になることはないでしょう。

しかし、そもそも特許を出願する目的は「独占権(特許権)」を得るためであり、特許公報を(誰かに)読んでもらうためではありません。そのため、弁理士は、有効な特許権を取得するために有利な記述は特許明細書に記載しますが、不利に扱われるおそれがあったり不要な記述は行いません。この点で、特許明細書は多くの場合「不親切な文章」となりやすいです。

例えば、「論文」の場合は、多くの方に読んでもらい、また、引用してもらうことが目的であるため「簡潔で読みやすい」場合が多いですが、特許明細書は「冗長で読みにくい」場合が多いと言えます。

効果的に特許公報を読むポイント

そのように読みにくい特許公報を効果的に読む際のポイントを以下に紹介したいと思います。

観点(技術分野、用途、課題、構成、機能)に注目して読む

特許公報を漫然と読んでいてもなかなか頭に入ってこない場合が多いと思います。その場合は「技術分野」「用途」「課題」「構成・解決手段」「機能・効果」などの観点に注目(抽出)して発明の内容を立体的に把握することが効果的です。

具体的に、発明とは、特定の技術分野において、何らかの用途に用いるものです。発明は「特定の課題」を「所定の構成」が発揮する/奏する「機能・効果」により達成するものであるので、この観点をそれぞれ理解することが重要になります。

例えば、特許7323841号「AIモデルによる異常の検出精度の低下を抑制」の発明を一例として説明します。この発明は以下のように整理することができます。どうでしょうか、これだけでも「ふわふわ」していた発明の内容がカッチリ立体的に把握できるようになったのではないでしょうか?

<技術分野>
画像認識技術
<用途>
この発明は、特定の対象(この例ではじゃがいも)の異常を検出するためのもので、特にじゃがいもの芽、傷、変色などの異常を検出を目的としている。
<課題>
従来の異常検出技術では、異常の種類を正確に分類することが難しく、また新たな異常が発生した場合にそれを学習するのが困難である。
<解決手段>
この発明では、学習用画像と再学習用画像を用いて異常分類モデルを学習・再学習する。学習用画像には正常なじゃがいもの画像と異常部分(芽、傷、変色)の画像が含まれ、再学習用画像には新たに撮影された正常なじゃがいもの画像と異常部分の画像が含まれる。
<効果>
この方法により、異常分類モデルは新たな異常を迅速に学習し、異常の種類を正確に分類することが可能になる。これにより、じゃがいもの品質管理がより効率的に行える。

特許7323841「要約サマリ」

用語の意味、用語の関係性に着目して読む

また、特許公報中の用語「異常」「学習用画像」「再学習用画像」「異常分類モデル」などに注目して、それぞれの用語が明細書中でどのように定義されているのか、用語の意味に着目して読んでいくと、発明を理解しやすいです。

また、「用語の意味」「用語同士の関係性」に着目して読み進めると発明の内容をより具体的に理解することができます。

「異常分類モデル」とは、異常部分画像を入力すると、その異常部分画像に含まれる異常の種類を分類するAIモデルのことである。異常分類モデルは、異常部分画像を学習することで、異常の種類を分類できるようになる。具体的には、異常検出装置によって検出された対象画像から異常の部分を切り取り、異常分類モデルに入力する。異常分類モデルは、入力された異常部分画像から異常の種類を出力し、その結果を記憶しておく。また、異常分類モデルは再学習が可能であり、再学習によってモデルが更新される。異常分類モデルは、異常検出システムにおいて異常の検出精度を向上させる役割を果たす。
段落0075等

特許7323841「異常分類モデル」の定義

請求項1を読む

発明の概要を多角的な観点から読み終えたら、「請求項1」という項目を読み進めてみましょう。請求項1は、【特許請求の範囲】という項目の中の【請求項1】という箇所に記述された文章になります。特許請求の範囲とは、その特許において「独占権」が付与される範囲を記述した箇所になります。つまり、その特許公報は特許請求の範囲に記述された概念に対して独占権を取得するために出願人が特許庁へ出願したものと理解することができます。

また、通常、特許は従来技術に対して「新規」かつ「独創的」でなければ付与されることはないため、請求項1には「従来技術に対して新規な発明のポイント」が記載されます。そのため、請求項1の内容を読み解くことで、その特許発明が従来技術に対してどのような貢献をもたらすものかを理解することができます。

なお、特許請求の範囲には複数の請求項が含まれることが一般的ですが、まずは「請求項1」から読み解いていきましょう(各請求項の読み解き方も後述します)。特許7323841号の請求項1は、以下の通りです。

【請求項1】
異常検出システムが実行する異常検出方法であって、
正常画像を学習することにより画像から異常を検出するように学習された異常検出モデルを利用して、複数の対象画像から異常を検出する検出処理と、
前記検出処理により異常が検出されなかった対象画像の中の少なくとも一部を第1再学習用画像として選択する選択処理と、
前記第1再学習用画像を前記異常検出モデルに再学習させる再学習処理と、
を含み、
前記選択処理は、前回の再学習処理の実行後に検出処理の対象となった対象画像の中から前記第1再学習用画像を選択する
異常検出方法。

特許7323841「請求項1」

正常なじゃがいもの画像を学習し、その学習結果を利用して複数の対象画像から異常を検出する」である。また、検出処理で異常が検出されなかった対象画像の一部を第1再学習用画像として選択し、それを再学習処理によって異常検出モデルに再学習させることで、異常検出の精度を向上できる。
この方法により、異常分類モデルが更新されることで、より正確な異常検出が可能となる。

特許7323841「請求項1」の説明

各請求項の内容を読む

請求項1の内容のみでは、発明の内容としては抽象的すぎる場合があります。その場合は、各請求項の概要を把握することにより、特許発明の骨格を簡潔に把握することができます。請求項1の内容のみでは抽象的すぎる場合は、請求項全体を読むことで発明のバリエーションを含む全体感を把握することができます。

<請求項1>
異常検出モデルを利用し、対象画像から異常を検出し、異常が検出されなかった画像を再学習させる
<請求項2>
異常度が閾値以下の正常画像を再学習用画像として選択する
<請求項3>
ユーザーにより選択された対象画像を再学習用画像として選択する
<請求項4>
所定時間ごとに再学習処理を実行する
<請求項5>
異常が検出された場合、異常部分画像を学習し、検出された異常を分類する
<請求項6>
異常が検出された画像からクロッピングした異常部分画像を再学習させる
<請求項7>
プログラム
<請求項8>
異常検出システム

特許7323841「特許請求の範囲」

明細書全文を読む

これまで説明したように、観点、用語の意味、用語の関係性、請求項の内容をある程度頭に入れた上で必要に応じて明細書を読み進めていきます。このようにステップバイステップで明細書の読解を進めることにより、効率的に負荷なく明細書の読解を進めることができると考えます。

サマリアによる特許文書の読解支援

サマリア」では、これまで説明した以下の明細書の読解作業をAIアシスタントに行わせることができます。

  • 観点(技術分野、用途、課題、構成、機能)に注目して読む

  • 用語の意味、用語の関係性に着目して読む

  • 請求項1を読む

  • 各請求項の内容を読む

STEP1. 特許公報の読み込み

サマリアに特許公報を読み込ませる作業はとても簡単です。サマリアのメインページにログインし「文書情報の入力」ダイアログの文書番号入力欄に公報番号を入力するだけです。「アップロード」ボタンをクリックすると特許公報を読み込ませることができます。

特許公報を読み込ませる

STEP2. 観点(技術分野、用途、課題、構成、機能)に注目して読む

特許明細書の内容から、技術分野、用途、課題、構成、機能等の観点について説明させるには、画面左上の「質問」プルダウンメニューから「構造化抄録」を選択します。暫く待つと、観点ごとに整理された発明内容のサマリ(画面右側)を確認することができます。サマリの内容を確認することにより、発明の内容を短時間で把握することができます。

観点(技術分野、用途、課題、構成、機能)の構造化抄録

STEP3. 用語の意味、関係性に着目する

明細書中の用語の意味、関係性なども説明させることができます。サマリアメイン画面の「AIアシスタントに質問する」ボタンをクリックします。

AIアシスタントに質問する

AIアシスタント・ウィザードが立ち上がるので「質問文」と「キーワード」を選択することにより、AIアシスタントに対する質問文章を簡単に作成することができます。今回は、「学習用画像情報」と「異常分類モデル」との関係性を説明させてみましょう。

質問文の作成

「AIアシスタントに質問する」ボタンをクリックすると、AIアシスタントへの質問が行われます。暫く待つと回答結果が出力されます。

学習用画像情報」と「異常分類モデル」との関係性の説明

拡大して表示します。このように、複数の用語の関連性をわかりやすく説明させることができます。発明内容の読解負荷を低減させることができます。

学習用画像情報と異常分類モデルの関係性について説明する。

学習用画像情報は、異常分類モデルの学習に使用される画像の情報である。具体的には、正常画像や異常部分画像などが含まれる。

異常分類モデルは、学習用画像情報を入力として受け取り、異常の種類を分類する役割を担っている。学習用画像情報を利用して異常分類モデルを教示有り学習させることで、異常の種類を正確に判別できるようになる。

具体的な例としては、学習用画像情報には複数の正常画像や異常部分画像が含まれており、異常分類モデルはこれらの情報を元に学習される。その結果、異常分類モデルは更新され、より高い精度で異常の種類を判別できるようになる。

このように、学習用画像情報と異常分類モデルは密接に関連しており、学習用画像情報を適切に活用することで異常分類モデルの性能を向上できる。

学習用画像情報」と「異常分類モデル」との関係性の説明

STEP4. 請求項1を読む

サマリアでは、請求項1の内容を明細書の記載に基づき説明させることができます。画面左上の「質問」プルダウンメニューから「請求項1を説明」を選択します。暫く待つと、請求項1の解説文(画面右側)を確認することができます。解説文の内容を確認することにより、請求項1の内容を短時間で把握することができます。

請求項1の内容を説明

STEP5. 各請求項の内容を読む

サマリアでは、各請求項の概要を解説したクレームツリーを作成することができます。画面左上の「質問」プルダウンメニューから「クレームツリー」を選択します。暫く待つと、各請求のラベル、特徴、関連段落を解説したクレームツリーを確認することができます。クレームツリーにより、請求項の全体を短時間で把握することができます。

クレームツリーによる請求項の内容把握内容把握


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