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2030年の未来から、自分たちの街の持続可能性を考える。『湯沢2030会議~私たちの街の10年後を灯すビジョンづくり~』Vol. 2

おせっかい社かけるが今年度お手伝いさせていただいた秋田県湯沢市で、2030年という確実に来る未来を見据えて、正しい、正しくないは関係なく、不安に思っていること含めて湯沢という街に関して市民が本音で自分たちの街の未来について思っていること話すために開催した『湯沢2030会議~私たちの街の10年後を灯すビジョンづくり~』。前回に引き続き、Vol. 2をお送りします。

前編はこちらから!
https://note.mu/osekkai/n/nd014ab7e31c3

数字から見えない課題を捉えるために必要なコト「結婚~子育てのあいだ、どんなことに困っている?」

パネルディスカッション最後のテーマは、「結婚~子育てのあいだ、どんなことに困っている?」という問いでした。

満足度調査では、「結婚から妊娠・子育てまでの支援の充実」という項目に対して、子育て層にあたる20~30代世代の満足度はいずれも平均して35.5%と、非常に高い数値を出しているのにも関わらず、「今後、さらに力を入れてほしい施策」では45%以上の数値を出しています。
満足しているはずなのに、さらに強い希望がある。この数値が生まれる構造の裏には、「子育ての制度には満足しているが、女性自身へのケアにあたる何かが足りていないのではないか?」と1つ、仮説を立ててみることができます。最後のテーマでは、数字の裏に隠れている課題について議論を深めていきました。

高橋泰さんからは、子育ても初めてで大変という視点がある一方、妻の社会復帰に対する課題意識があることを語ってくれました。

高橋泰さん:結婚して1年目くらいに子供ができました。そのことで、妻の社会にどう接続するか、が一旦途切れてしまった。そこでキャリアが途絶えてしまった、失った、という感覚から、次にどう接続したらいいか分からないんです。子育ても初めてなので、どういう条件があると企業側が雇えるのか。そういう意味での支援は欲しいかもしれないです。

女性の社会復帰という問題に、在宅ワークという形でアプローチしている高橋玲子さんは、在宅ワークに登録する女性の現状を述べます。

高橋玲子さん:(T-Solutionsでは)170名くらいワーカーさんがいます。平均40歳くらいで、1回お仕事を辞めた方が多いです。でも、なかなか復職できないので在宅ワークを選択している状況なんです。企業側も、制度ありきじゃなく、プラスアルファの社員教育とか、周りの人の理解が促進するような取り組みが必要なのでは、と思います。
そうすると離職率の軽減などに繋がっていくし、悩みが解消されて、子育て終わった後も続いていくのではと。

さらに、参加者で現在子育て中の高橋さんも、ご自身の想いを語ってくれました。

高橋さん(参加者):けっこう私なんかは、子供も自分の傍で育てたいほうです。でも自分も社会と接点持ちたい。そういう所に苦しんだというのがありました。ただ人によるかなとは思いますけど。今は、子供の成長とともに、自分のキャリアを始めたいと思ってます。

子育て世代の当事者でもある、高橋さんにさらに支援の充実として求めるものはあるか?という投げかけについては、自分たちは特殊だとしながらも、「日曜日も秋田にいないこともあるので、そういうときに誰か常に1人ついてきてくれると嬉しい」と、多様な夫婦の在り方があるからこその困りごとを教えてくれました。

この議論に対して、女性の社会復帰や子育てというテーマを、伊東さんは「地域にとっての医療」と位置付けたうえで、都市部・大手企業が取り組む波が地方に来るまでにタイムラグが生じるものの、後発で取り組めるもののメリットと捉えて、自分たちのモデルを考える必要があると見解を示しました。

伊東さん:医療については公共の部分でやることが多いと思いますが、尾鷲も一緒です。しかしそこがすごい財政負担としてある。市の財政を圧迫することにもなる。市の病院の存続をどうする?とか、公益で病院を維持とか。あとコミュニティナースをどう活用するか、とかも。
子育て支援に関しては、大手企業の支援メニューも含めた、東京を中心としたような盛り上がりと成熟からすると、いつもそうだけど、地方は遅れてくる。その間をどう過ごすかですよね。
明日何かは変わらない。必ずタイムラグはある。多分テストも含めてやってるものを重視しながら、うちの地域に合うものを選ぶ。それが後発でやるもののメリットです。
渡邉:「うちの」というのは、尾鷲なら尾鷲の、湯沢なら湯沢のという意味ですよね?
伊東さん:中山間もあれば街中もある。地域によって交通格差もあるというと、この街ですらそれぞれに考えなきゃいけない。一つ一つの集落単位で考えていくのかもしれませんね。

地域にとっての医療は、ものすごい財政負担となっています。事実、湯沢市の一般会計を覗いてみると、医療・福祉への歳出の割合と、税収の割合がほぼイコールであることが分かります。市民が支払っている街の税収のほとんどは、医療・福祉費に消化されていることになります。20年後の人口は半分、でも負担額が倍増という確実に来る未来を考えたとき、他人事では済ませられない隠れた問題だということを考えさせられます。

高齢者の交通の便、10代の若者にとっての魅力的な仕事、そして女性の社会復帰と子育て支援と、地域の中で不満度や改善の要望の強いテーマも、一側面で見れば確かに当事者だけの問題に捉えることができますが、2030年という時間軸で見たり、立ち位置の異なる人の視点を借りる立場軸で見たりすると、いずれ当事者になる自分たちにとって身近な問題でもあることを気付かされます。
問題は、その側面だけで見ると重たく感じるものですが、課題解決の担い手としての起業家の育成・輩出を手掛けてきた渡邉は、課題があるからこそ、ひっくり返せると大きな価値になる面白さがあると語りかけます。ワークショップでは、その可能性を探っていきたいとパネルディスカッションを締め括りました。

俯瞰して見た誰かの問題を、ひっくり返して価値に変える「10年度の理想の街を考えるワークショップ」

ここからは、パネルディスカッションで話されたことを呼び水に、一側面で見た場合に課題と捉えられているものには同じくらいの可能性が秘められていることを自分たちで探ってみようと、参加者同士がワークショップを行いました。

「A:0~19歳」「B:20~49歳」「C:50~69歳」「D:70歳以上」と大きく4つの年代に区切り、自身が最も関心のある年代のテーブル内でグループをつくる形で、それぞれの年代で考えられる課題、それに対して考えられる解決策について、自由に意見を交わしました。

世代間ごとの課題では、「A:0~19歳」のテーブルでは、「親、先生以外の大人と触れ合う時間が少ない」「選択肢の幅を広げるための情報源が少ない&古い」など。「C:50~69歳」のテーブルでは、「後継者問題」「定年退職後のセカンドキャリア」など当事者ならではの具体的な課題と、自身がいずれ抱えるだろうが具体的には想像できない粒度の粗い課題がズラリ。立場も世代も異なる参加者が、お互いの垣根を越えて、素直な自分の意見を出していることが伝わってくるようです。

課題が出そろったところで、さらにグループ内では解決策を考えてみます。この時間では、自分のグループと対称となっている年代グループの課題を交換し、正反対に位置する世代から見る解決案を考えるという手法も採ることで、疑似的に世代間の異なる意見を集めた解決策をまとめることに挑戦しました。

各グループで、アイデアを組み直した後、生まれたアイデアをそれぞれ発表しましたが、どのアイデアもネガティブな課題の裏返しとは思えないほど独創的なものばかり。

例えば、「A:0~19歳」テーブルからは、「高校生の居場所づくりと多様な大人との出会いをつくるため、若者に人気のあるスタバ(スターバックス)をなぞった『スタ婆』」を提案。
若者が憧れるサードプレイスを、すでに多彩なスキルを持っている高齢者の力を借りることで湯沢にしかないカッコいいカフェをつくるというものです。

一方、対称となる「D:70歳以上」テーブルからは、「地域通貨『湯沢Pay Pay』の発行と床屋を中心とした人材バンク拠点づくり」というアイデアも。

スキルを持つシニア層や求められる人材が集まれる拠点を、各地域に必ず1件存在する床屋にすることで、どの街にいても人材バンクにアクセスできる仕組みをつくるというもので、「日本で一番床屋の数が多い都道府県」の特徴を抑えたアイデアでした。

参加者には、最後に自分たちが理想とする2030年後の湯沢を言語化してもらい、「高校生起業家がスタンダードになる」「地域力!ヒーローが生まれるまち」「公務員を目指すな!」など思い浮かべるだけでワクワクするアイデアが広がる、立場に捉われない自由な意見を交わす場となりました。

課題解決は楽しくてカッコいい「湯沢2030会議を通しての気づき」

10年後の未来を、まずは本気で語り、共通のゴールをつくっていこうと行った「湯沢2030会議」。ファシリテーターを務めた渡邉は、今日のざっくりとした問い立ての中で考えたことを、どう次のステップに移るかが重要だとしたうえで、伊東さんと共にそれぞれ「湯沢2030会議」を振り返りました。

渡邉:今日は答えを探す場所ではないです。色んな意見がありますから。重要なのはここからどう次のステップに移るか。他の人の意見を見ても、粒度の粗い人もいれば、日常の中のことを取り上げる人もいたと思います。でも色々な人や意見で、街は成り立っている。私から何を始めるのか?私は何を始めるのか?それを考えることが大事だと思います。

伊東さん:本来、課題解決は楽しくてかっこいい。そういうのが求められる時代に来てると思う。チャレンジできる場所じゃないとチャレンジャーは生まれない。ピンチがないとヒーローは来ない。我々がそういう場所に立てる番が来ていると思います。地域課題のチャレンジは、楽しい。その先進地域である湯沢、尾鷲だからこそ、かっこいい働き方ができると思います。これからもお互いに共有しながらやれたらいいなと思います。ともに参りましょう!

身近なようで自分事に感じにくい課題の解決こそ、都市部や市内の若者が憧れる仕事の現場になっていく。その現場を創り出すことが、地域に残る人々や、街の中から生まれていく起業家に求められることなのかもしれません。

最後に、9月からemishiを担当し、今回の湯沢2030会議の場づくりも行った湯沢市地域おこし協力隊で、かけるの杜氏でもある豊留が総括をして、この場は終了しました。

豊留:emishiに参加した方の気持ちは、「目の前の人が困ってることを、こうやったら解決できるんじゃないか」という所からスタートしていました。そういう課題解決の取り組みは、急には爆発的な事業にならないかもしれませんが、形になっていくように背中押しすることが大切だと思っています。
今日皆さんとお話したことは、少し先を見て、「こうなったら面白いね、楽しいね」という部分。楽しい予定があると仕事も頑張れるのと同じで、今日の場から出てきたことが、2030年に何かしら実現されていくような仕組みにできればと思っているので、引き続き皆さんと走っていきたいと思います。

おわりに「2030年という確実に来る未来のために私たちができることは何か?」

イベントを終えた後、参加者がそれぞれ自身のFacebookで、イベントの感想を投稿していました。

2030年には自分は還暦。地域課題はいろいろあるが、それを課題と捉えるかは人それぞれ。放っておいてもやる人はやるだろうし、やらない人はやらないのかもしれない。

2030年の自分の姿と、起こりうる課題に対してのどれくらいの人が関心を向けるのかと、漠然とした不安を綴っていました。事実、ワークショップの中でも、「一番関心はあるが当事者ではない年代の抱える課題」を考えようとすると、なかなか何に困っているのか?が出てきませんでした。
自分の生活や暮らし、そこにまつわる困りごとは伝えることができるでしょうが、同じ街の中にいるきっと困っている誰かとなると思考が止まってしまうものです。普段の生活の中で考える機会がないのだから、当然のことなのかもしれません。

でも、自分の隣にいる人や、隣の隣に住んでいるお祖母ちゃんであれば、何に困っているのかを想像することはできるし、分からなければ直接聞いてみることもできます。そうした身近な人の日々の困りごとを課題と捉えて、ひっくり返すアイデアを考えてみる。それだけでも個人の単位でできるアクションとしては大きいのではないでしょうか?

1回のイベント、限られた人数の中で地域の課題を見つけるということは容易ではありません。それでも、確実に来る未来と、身近な人の困りごとを照らし合わせて考えてみると、また違った街の側面が見えてきますし、一度、誰かのことを考えると他人事ではなくなります。
湯沢市は4市町村からなる、とても広く、個性豊かな地域の集合体。こうした話を各地域で展開していくと、また違う課題が洗い出されて、さらに深く複雑で面白い議論が交わされていくでしょう。その積み重ねが、地域の中に眠っているひっくり返すと大きな価値になる課題を見つけていく一つの手法なのかもしれません。

起業家育成事業の1年目の集大成として開催された「湯沢2030会議~私たちの街の10年後を灯すビジョンづくり~」。
今後も、この公開講義が市内各地で行われ、多様な意見や課題の抽出に加えて、創造的な解決策が生れる思考実験の場として成長していくこと。そして、洗い出された課題解決に対して事業という手法を採る起業家が生まれ、その役割を担う人を応援するコミュニティに起業家育成プログラムが進化していくことが求められていくでしょう。その先に、誰もまだ見たことのない、でも誰もがワクワクする2030年の湯沢を共創する未来があるのかもしれません。

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