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vol.59「詩人は書き損」(『バイロン詩集』宮崎孝一:訳/旺文社文庫/1970年刊)

vol.59「詩人は書き損」

みなさんこんにちは。
詩集は初めて扱います。

そもそも通して読んだことも、
そうそう無かったような。

浪人生のころにボードレールを読んだくらいです。

今週は違う人ですが。

『バイロン詩集』。
では、どうぞ…。

われながら、
浪人生のころにボードレールって…
じつにありきたり。

受験生というものは、とことん

採点基準という「ルール」

に順応することを求められますから。

反動で「反骨精神」に飢えることもあります。

筋肉少女帯を聴くようになったのも、似たような時期です。

実にありふれた趣向。

✏️✏️✏️✏️✏️✏️✏️✏️✏️

そういえば、先週読んだジッド『狭き門』の、主人公とヒロインもボードレールを好んでいました。

ヒロイン:アリサには、

ボードレールの詩一つのためなら、
バイロンの詩全部を交換してもいい

みたいなセリフもあります。

バイロン、安く交換されてしまった…。

✏️✏️✏️✏️✏️✏️✏️✏️

詩集『悪の華』で
有名なボードレールですが。

この詩集は頽廃・感応を痛々しく、
鮮烈に歌い上げた鮮烈な文章です。

ここで注意したいのは、
欲望を「てらいなく」、
単にエンジョイする歌ではないのです。

〈頽廃〉の暗い側面を認めつつ、
それでも前面に押し出している。

この時点で、ある程度の「自己批判性」というか、宗教的なものへの「うしろめたさ」があるとも言えます。

『狭き門』のヒロイン:アリサは、
敬虔なキリスト教徒なので、

ふつう、頽廃的なボードレールを読むか!?

という違和感が湧きますけれども。

「頽廃へ向かう欲望」と、
「頽廃への嫌悪感」との対立は、
宗教的葛藤と似た構造を持ちます。

アリサが共感を持ったのも、
そういう意味では納得ものです。

✏️✏️✏️✏️✏️✏️✏️

一方、「てらいのない」欲望を歌っているのが、本書におけるバイロンです。

あけっぴろげな、
恋愛の歌ばかり。

別れの際に君は泣いていたけれど、
僕だって辛かったんだぜ

とか。

女はやっぱスペインだよなー!
イギリスはダメだホント

みたいなのもあれば。

病気で先が長くない奥さんに対して、

よくも俺に無断で、
子供を連れて出ていきやがったな
俺にこんな辛い思いをさせたのだから、
お前の病も当然の報いだ

なんてのもあります。

…ちょっと引きます。

✏️✏️✏️✏️✏️✏️

徹底した「てらいのなさ」。

時代が違いますから、
性差別的な詩は、
単純には批判できませんが。

死に際の奥さんに贈る歌は、
ちょっと、
「いつ基準」でも容赦ない。

奥さんがどれくらいひどいことを
したのかは、分かりませんが、

じきに今生の別れだから、
恨み言は飲み込んでやるか…

という「てらい」がゼロというのは、
さすがに、バイロン側の性格が
影響しているのではないでしょうか。

✏️✏️✏️✏️✏️

そんなこんなで。

バイロンに対する好感度が、
だだ下がりにあったのですが。

ここで「訳者あとがき」に、
衝撃の記述を発見します。

本書では抒情的な詩を集めましたが、バイロンにはリアリスト的側面もありまして…

などという。

つまり、

これまでバイロンという詩人の特徴だと思っていたものが、じつは訳者の特徴だったのかもしれない

ということです。

✏️✏️✏️✏️

詩というものは、
どういったシチュエーションで、
いつ誰が読んだのかが分からなければ、
なんにも伝わってこない。

これが小説なら、
内部設定で、
5W1Hがそろってますから、
テキスト単体でも
わりと解釈がまとまるのですが。

詩というものは、
そういかないようで。

✏️✏️✏️

そう考えてみると、
〈詩〉という分野に関しては、
大学などの研究機関が
しっかりする必要があると思います。

一般人がまいどまいど、一次文献を参照するわけにはいかないですから。

専門家が「詩の背景」の情報を集めて、
読者にコンパクトに提供してくれないと、
たぶん〈詩〉は誤読だらけになります。

〈誤読〉もまた、
読者の創意によるものですから、
よい側面もたくさんありますが、

それが〈詩人〉への評価につながるか

といえば、そうではありません。

〈詩人〉という実在人物に関しては、
しっかり研究することが必要です。

✏️✏️

本稿だって
バイロンを不当に
卑しめているかもしれない。

許せバイロン。

そもそもこの詩集を読んだのも、
漫画『バーナード嬢曰く。』に
引用されていたからで。

そういうミーハー趣味に左右されては、
バイロンもたまらないでしょう。

とはいえ、
恨み節全開の詩を、名指しで書きあげられて、自費出版&公開されてしまったバイロンの奥さんも、

かなり勝手な物言いをされたわけで、
不服な気持ちもあったかもしれません。

因果なことです。

詩人とは、じつに罪な職業です。

✏️

しかし、その「罪な」側面が、
研究の足掛かりになってもいます。

誰かの悪口を詩に託したとしたら、
それは「誰か」という対象があるので、
情報量が段違いです。

解釈がぐっと楽になります。

やはり人間は、
勝手なことを言い合うもののようで、
それを仕方なく納得して、
面白がるのが〈文学〉なのでは、
と思います。

一種の諦念を抱えて、
そこに楽しみを見いだす

おや、また〈頽廃〉のにおいがしてきました。

文学とは頽廃であると見つけたり
書かなくていいことを書いて、
損をするのが文学である

また一つ、勝手な物言いを増やしました。

デカダンな〈文学〉に
いっちょう貢献いたしまして、
本稿は終わりになります。

(おわり)

書類の日付に、
「令和」と書くのがいまだ慣れず。

このあいだ留学生の知り合いに、

ワタシ外国人だから…、
よく分からないけど…、
「令和1年」じゃなくて、
「令和元年」って書くのじゃないですか…?

という指摘をされまして、
泡を食いました。

年号「令和」ってやつは、
万葉集が出典なんですね。

上代の和歌なんて、
どう考えても脚注が必須です。

研究者に頑張ってもらわなくては。

ついでにもっとこう、
岩波文庫で4冊セットとかじゃなくて。

ハンディでオシャレな訳書を出してくださーい。

では、次の水曜日にお会いしましょう。

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