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vol.70「異世界は異世界内異世界へ“深化”する」(『教養としてのゲーム史』多根清史/筑摩書房/2011年刊)

vol.70「異世界は異世界内異世界へ“深化”する」

みなさんこんにちは。
今週は新書です。

新書はあまり読みません。紙数が限られているから、扱える内容は限られている分、著者さんが窮屈そうにしている印象を受けます。それに、ハードカバー製本を閉じたときの「バタンッ」という音が好きです。新書の「ペチャッ」ではいけない。単行本は大きさ・音ともにすばらしく、本を読んでいる実感がじわじわ湧いてきて、読書という行為を再確認できます。音に関しては…周りにはいい迷惑でしょうが。
あと、新書はもともと薄いものですが、見た目以上にいっそう読み終えるのが早い。この点も、目算の狂いが出て苦手です。薄いのは持ち歩きに便利ですが、読むものがなくならないようにもう一冊抱えたのでは、コンビニエンスが相殺しています。

…なんで新書の悪口から入っちゃったんでしょう。

多根清史、『教養としてのゲーム史』。
では、どうぞ…。

新書にまとめる、ということの利点として、書く側・読む側ともに、手間が「少なめ」ってことは挙げられます。とくに、ゲームの面白さという「感覚的」な事柄をロジカルに解説・評論するのは、まだまだ論壇が発達していない畔道です。ブレイクスルー的な大著が生まれる前に、何冊か「人の注意をひきつける」パイオニアが必要でしょう。そのへんの戦いは、わりかし数の勝負って感じがします。ある程度理解の下地ができて、「ゲーム論壇」的な言葉遣いがぼんやり出来上がっていないと、のちに歴史的大著(になるはずの)本が刊行されても、人に読んでもらえますまい。

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本書では、ゲームの発展を「空間の使い方」と「満たされる欲望」という二つのルートに整理しており、それぞれ前半部と後半部の主要テーマになっています。
たとえば「パックマン」は「上から俯瞰した」2Dのゲームですが、同じく2Dのシューティングゲーム「ゼビウス」は平面のなかに「対地」「対空」二つの空間が存在しています。戦闘機の発射した弾丸は、画面上は同じレイヤーを飛んでいるように見えますが、効果範囲が地上と空中に分かれているのです。
いっぽう、「ドンキーコング」「マリオ」も同じく2Dですが、「横から見た」2Dであります。マリオがジャンプしたら、上昇するわけですが、「横から見た」画面でジャンプするわけなので、プレイヤーの視覚としても本当に「上昇」している。「ゼビウス」における空間の上下は、見た目では分からない「意味的」なものであったのに対し、より直感的な処理がなされているわけです。
こういった「画面の中の空間をいかに表現するか」のアイデア・技術の発展によって、ゲーム史が整理されていました。
この理論を現代のゲームに当てはめてみると、いっぽうに手軽で2Dのソシャゲがあったり。もういっぽうにクオリティ重視・美麗3DCGが売りの、据え置きハード用ソフトがあったりする。人間は、どういった空間表現ならば「リラックスしてプレイするのか」、または「興奮してプレイするのか」を考えてみることは有意義です。

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ゲーム開発の技術が発展してきて、扱えるパラメータが増えると、ゲームに別の欲望が絡んできます。「もう一つの現実をシミュレーションする」という欲望です。
本書においては「信長の野望」の紹介に始まり、後半部をまるまる「シミュレーションゲーム」史の整理にあてがっています。その延長として、恋愛シミュレーションなる「ときメモ」「ラブプラス」が続く。
前半部で紹介された「マリオ」や「ドンキーコング」にも、「レディを救う」というざっくりとしたシナリオがありますものの、シミュレーションゲームが生まれた時点で、ゲームに内包される物語はひとつの変容を遂げたように思えます。

本ブログの筆者は「ラブプラス」と「アマガミ」をプレイしたことがありますけれども、それぞれ「3人」「9人」の女性が恋愛対象として与えられています。この時点でけっこうぶっ飛んだ状況だと思いますが、もっとすごいのはセーブデータを分割して、それぞれ交際する(あるいは二股状態・ハーレム状態)という経験を味わうことができる。
あるいはシミュレーション・ストラテジーでは、「タクティクスオウガ」「ファイナルファンタジータクティクスアドバンス」「羅刹オルタネイティブ」などをプレイしましたが、こちらではクランや軍隊の司令官になって、ユニットを好きにマネジメントできる。

恋愛や権力を志向する欲望には、まったくファンタジーではない生々しいものがありますが、それを「シミュレーション」を名乗るゲームが回収(解消、とは言いません)するのは数奇なめぐり合わせです。ある意味、現実のオルタナティブを引き受ける「シミュレーション」が、ゲーム業界を発展させた。
ここにゲームの「異世界性」が証明されている気がしてなりません。そしてもっと不思議なのは、昨今隆盛を遂げている「なろう系」「異世界転生系」のノベルスに、ゲームがまったく呼応していないように見えることです。

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恋愛シミュレーションは、少し前に3DSで「ラブプラス」の新作が出ましたし、「ときメモ」も『Girl`s Side』シリーズはまだまだ元気。なんですけれども、伝説的タイトルの後発が続くばかりで、業界としては振るわないようです。おかしい…、現世でトラックに轢かれて死んで、異世界で無双したり美少女を奴隷にしたり、やりたい放題やっている層が、なぜ恋愛シミュレーションには食指が動かないのか。「ゲーム」という異世界に興味を示さないのはなぜなのか。

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そういえば、「艦これ」「アズレン」「放置少女」にも恋愛要素は認められますけれども、ストーリー性は明らかに薄い。本書において「恋愛シミュレーション」の全身は、R18の美少女ゲームとされています。こちらもストーリーは皆無で、「女の子の脱衣」にまでもっていくスピードが速い、そこにしか力点がないゲームらしいんですけれども。そこにストーリー性が添加されたものが爆発的に支持され、全年齢化され、「恋愛シミュレーション」というジャンルに落ち着いていく…という流れでした。
そういったファン層が「艦これ」等に移ったというのは、ストーリー性がなくても別によくなったという、歴史の揺り戻しでしょうか。これは余談です。

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なんにせよ、そう単純な話ではないのでしょう。なぜなら昨今話題になる「異世界転生」では、すでに完全なフィクション(異世界)たるノベルス内で、「もう一回転生」しているのですから。この現実を基準に考えれば、ゲームや漫画、小説は異世界といえますが、そのコンテンツ内にいる主人公がフィクション内で死に、さらに異世界転生すれば、そこは「第2次異世界」。この「異世界の2重性」は、シミュレーションゲームを越えた先にある新しいムーブメント、新しい欲望の在り方と言えます。

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メタ認知という心理学用語がありますけれども。いま自分がしている行為をメタ的に考えれば、「シミュレーション内部の世界」から「ゲームをしている自分」へと、次元が上昇しています。そう思ったとたん、なんか冷めます。萎えます。抱えた欲望を現実に実装することをせず、ゲームで手軽に発散している。そんな自分に「第1次異世界」たるゲームは近い位置をとっている。
しかし、コンテンツ内でさらに転生した「第2次異世界」ではどうでしょう。「異世界内異世界で無双する」という次元からメタな考え方をすれば、「でもこれって小説の中で起こってることだし」という、「ノベルス内の現実」までで上昇は止まります。メタ認知が「1次元分」上昇するだけならば、「ノベルスで欲望を発散する自分」には届かない。
コンテンツを消費中にフッと冷静になっても、「フィクションで発散している自分」を見なくて済み、熱情は持続します。

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現実
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第1次異世界
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第2次異世界(コンテンツ内の異世界)

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以上は僕の考えにすぎませんが、実際にこういった構造があるのなら、考案者や、自覚している書き手はたいしたものです。じつに巧妙。
同時に、2重に回避されるに至った「現実」は、ずいぶん評判悪くなったものだと感じます。妥当な評価だとも思います。
それに、「スカッとジャパン」やWeb漫画サービスで、「子育てに理解のない夫」「だらしない部下」「生産性のないニート」を「第1次異世界」で血祭にあげるよりは、分別ある振る舞いだとも思います。

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フィクション内でさらにフィクション化する、「第2次異世界」が流行っている現在も、現実のすぐ隣にあるフィクション、「第1次異世界」はまだ存在したままです。つまりは「第1次」「第2次」、どちらの異世界を摂取するか、あるいは描くかが「自由選択」になったわけです。クリエイターやファンの感性・分別・こだわりがいっそう試されるようになっているわけであります。
オタクカルチャーのダイナミズムが、いっそう可視化されているのですから、「語りがい」のある時代がやってきました。逆に言えば、「語る」ことで、メタな距離観を持つ必要が出てきた。ダイレクトに接したら気が狂いそうな時代になった、とも言えます。

(おわりに)

1次でも2次でもいいですが、異世界(フィクション)で吐き出される欲望が「ネガティブ」に偏っている気がします。別に「現実の憂さ晴らし」以外にも、フィクションって可能性を秘めていますでしょう。

ネット広告をやたら出している、ぴっこまだのめちゃこみだのいう、「憂さ晴らしエッセイ」をプッシュするWeb漫画サービスには、もっと「漫画の可能性・多様性」を信じてもらいたい。ファンの側はずっと信じているのですから。なればこそ、ここまで業界が発達したのでしょう。

では、次の水曜日にお会いしましょう。

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大学生の読書日記

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