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vol.64「なんて素晴らしい世界」(『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー 黒原敏行:訳/ハヤカワepi文庫/2010年刊)

vol.64「なんて素晴らしい世界」

みなさんこんにちは。
今週はピュリッツァー賞作品です。

またも漫画『バーナード嬢曰く。』を参考に、
読了いたしました。

なにかしら、
核戦争的なものがあって、
滅んだ世界のエピローグです。

広義でいえば、たぶんSF…?

コーマック・マッカーシー、
『ザ・ロード』。
では、どうぞ…。

いま世界が

よくなっているか
悪くなっているか

というのは、文学的には、
いっそ「好み」の問題です。

🥫🥫🥫🥫🥫🥫🥫🥫🥫

たとえば僕は、
アニメをまあまあ観るのですが。

宮崎駿、富野由悠季といった、ジャパニメーション黎明期の映像作家たちは、どうやら「悪くなっている」と思っています。

核戦争や〈コロニー落とし〉など。

『ナウシカ』や『ポニョ』、
『イデオン』や『ガンダム』では、
カタストロフが起きています。

🥫🥫🥫🥫🥫🥫🥫🥫

作家の未来観は、

『少年と大人』の対比の仕方

に表れるように思います。

いま、世界を回している大人と、その世界から生まれた「結果」としての少年。

🥫🥫🥫🥫🥫🥫🥫

たとえば『ラピュタ』は、
パズーの前にムスカが立つ。

醜悪な大人代表の、ムスカが。

『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では、ニュータイプ:クェス・パラヤの前に、その父親アデナウアー・パラヤが立ちます。

オールドタイプの典型としての、アデナウアーが。

『ポニョ』では、
宗助の前に、ポニョの父親が立ちます。

無力で、ポニョを拘束することもできない父親と、人面魚ポニョを受け入れ、愛することができる宗助。

この父親は、「海そのもの」である偉大な母親との対比も合わさり、いっそう矮小に描かれています。

🥫🥫🥫🥫🥫🥫

ところで、本書『ザ・ロード』は、
(たぶん)核戦争によって滅んだ世界で、

父と少年

が二人っきりで旅をします。

この少年は、カタストロフ後の、

モラルなき世界

に生まれついたにもかかわらず、
純粋で健やかな性格に育っています。

わずかな食料を、道行く老人に分けてあげたり、と。

打算なしで発揮される「無制限の善性」。

あとがきでは、この少年を「天使」として表現していますが、実際そのとおりで。

なんでこんなにいい子なのかわからない

そんな子です。

🥫🥫🥫🥫🥫

いっぽう父親は、
なんの変哲もない男。

この少年のことだけを心の拠り所にして、「終わった世界」にしがみついています。

彼は父親として、

我々は善い人間であり、
〈火〉を運んでいるのだ

と、少年に教訓を与えています。

モラルなき〈崩壊後の世界〉では、
食料が圧倒的に不足しており、
〈食人〉が横行しています。

しかしこの〈父と子〉は、崩壊前の「モラル・良心」を保とうとしており、それが〈火〉という比喩で表現されています。

🥫🥫🥫🥫

ちなみに父親は、本書の最後で死にます。

少年が

ほどこしをしてあげた人に裏切られる

という、自らの〈善性〉を疑わざるをえなくなる経験をした後で、少年はだんだんと、父の言うことに反駁するようになります。

そして間もなく、父親は死ぬのです。

🥫🥫🥫

この結末はどういった意味を持つのでしょう。

少年は当初、父親によって

我々は善人、彼らは悪人

という世界観を提供され、
その中で生きています。

しかし少年は、
その世界観が揺らぐような経験を経て、
「自ら世界をとらえる努力」を始めます。

父親の死後、少年は、

父が悪人と呼んでいた他人

の中に〈善性〉を見いだし、
新しく家族となります。

ここで〈少年の築いた世界観〉は、〈父親による世界観〉から完全に離脱しています。

一種のイニシエーション、
〈父殺し〉の物語でしょう。

🥫🥫

少年の備える〈若さ〉は、
滅んだ世界にも希望を見いだす

ということでしょうか。

ただ、若さを期待される「少年」側からすれば、たまったもんじゃないでしょう。

〈若さ〉に対して無制限に期待できるのは、「もう若くない」と思っている人間だけで。

現在「若い」人間からすれば、
〈若さ〉とは常に等身大で、
いつも自分の限界を思い知らされている。

そこに、勝手に可能性を見出すのは、単に〈若さ〉に対する不理解とも言えます。

🥫

〈若さ〉に期待するというのは、

自分は未来を信じられないけれども、
間接的には信じたい
だから、〈若い他人〉を経由する

そんな願望の表れであるように思います。

それよりは、

常に自分の言葉で
未来に希望を見いだす

方が、現代的ではないでしょうか。

なにせ人生百年時代。

中年も老人も、若者と仕事をして、年金以外に収入を持たねばならない時代。

〈父と子〉との境界は、
融解されるべきでありましょう。

もう〈若さ〉を信じてはいけない。

自分の責任で、
〈未来〉を信じなければ、
老人、そして
〈いつか老人になるすべての人間〉は、
この素晴らしい世界を
腐敗させる一方でありましょう。

(おわり)

嫌いな言葉が一つありまして、

私も若いころはああだったなあ

というものなんですけれども。

人間を〈若さ〉なり、
〈ああいうの〉だったり。

典型で取られることは、
世界観を貧しくします。

もっとこう、多様性を細やかに、
かつ大胆に楽しむ感性が必要です。

では、次の水曜日にお会いしましょう。

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