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vol.60「パイオニアはジャンルを代表できるか」(『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン 黒丸尚:訳/ハヤカワ文庫/1986年刊)

vol.60「パイオニアはジャンルを代表できるか」

みなさんこんにちは。
今週はサイバーパンクSFです。

とっても読みにくくて、
人にも勧めにくいですが。

記念碑的な作品なので、
面白いかどうかは抜きにして、
みんな読めばいいSFだと思います。

教養教養。
…おすすめはできません。

ウィリアム・ギブスン、
『ニューロマンサー』。
では、どうぞ…。

頭にプラグを指して、
電脳空間に入るのだから。

この小説は、サイバーパンクSF的モチーフでいっぱいなのです。

しかし「サイバーパンクSF」というジャンルに入るかというと、ちょっと悩みます。

そもそも「サイバーパンクSF」というジャンルを打ち立てたきっかけが、本書『ニューロマンサー』なのでして。

本書がリリースされた時点では、
そんなジャンルは存在しませんでした。

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既に形成されたジャンルを意識しつつ書かれたのなら、「ジャンルの定番」と引き比べて、評論だの…をできるのですが。

「ジャンルのパイオニア」はむしろ、
比較の基準になるものがありません。

そのぶん偉大なのですが、
そのぶん〈無条件に〉重要になってしまう。

とりあえず、このくらいは知っときな!

なんてことになってしまい、
じつに教養主義的です。

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しかして、ジャンルが設立されたなら、
あとに続く作品が生まれたということです。

のちの作品は、

『ニューロマンサー』に対してどうか?

という、一種の〈足場〉。
あるいは一種の〈呪縛〉を得ます。

『攻殻機動隊』『BLAME!』
『ニンジャスレイヤー』

なぜか…思い浮かぶのが、
割と最近の漫画ばかりになりましたが。

藤井太洋さんとかもいますね。
邦SFの第一人者。

これら〈ジャンル:サイバーパンク〉に分類される作品は、サイバースペース(電脳空間)という造語を生み出した本書の、「周辺」に位置すると言えます。

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ところで、上記に挙げた『攻殻機動隊』。

これは漫画『攻殻機動隊』と、
アニメ映画『Ghost in the shell』。

どっちが先に思い浮ぶでしょう。

たぶんアニメの方だと思うのですが。

いちおう漫画が原作で、〈先〉です。

こないだ読みました。

思っていたよりずっと「萌え絵」で、ギャグ性も高め。

アニメ映画のような「ハードボイルド」ではありませんでした。

楽しい読み物です。

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ところで、うちの大学には文学部がありまして。

「映像学科」というのでしょうか、
映画作品をリサーチする部門もあります。

その影響で、映画の評論も図書館に置いてありまして。

そのなかに、監督:押井守の著書がちらほら。
『イノセンス創作ノート』なんかもあります。

アニメ映画『イノセンス』は、
『Ghost in the shell』の続編です。

ほかにも『母性のディストピア』など、
重要な評論書があります。

大学で行うような「評論」では、
いったい何をするのかというと。

よく、「文学史」という〈大きな流れ〉の中に、各作品を「位置付けて」いくことをしています。

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ですから、アニメ『Ghost in the shell』を文学的に語ると、「身体論」になるようです。

肉体から精神が乖離して、
電脳空間に迷い込む

それがサイバーパンクですから。

「肉体と精神のせめぎあい」は、
それこそプラトンの『イデア論』以来の、
「由緒正しき文学シーン」です。

なので評論本では、
そのあたりをとっくりと議論しています。

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…議論していますが。

「サイバーパンクSF」というジャンルのパイオニア:『ニューロマンサー』が、そういう「文学」をしていたかというと、かなり疑問符が付きます。

『ニューロマンサー』の主人公は作中、
毒を盛られて、
電脳空間に入れなくなる時期があります。

そののち、なんとか治療を受けて、
電脳空間に復帰できる時期になって、
主人公は恍惚も恍惚。

肉体から解き放たれることへの「歓喜」に浸ります。

そういった描写はあるのですが、

それが主題か

というと、どうやらそうではない。

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この点は『Ghost in the shell』の原作、
漫画『攻殻機動隊』にも共通しています。

漫画の方では、

外交問題、法律、魔術、宗教
ミリタリ趣味、ドラッグ、医学…

数えきれないテーマの、
ごった煮になっております。

そうそう、
文学史の中に整理できるほど、
一つの主題を扱うとか、
特定のシーンに囚われる作品ではない。

⌨⌨⌨⌨⌨

逆に言えば。

ジャンルの〈パイオニア〉という、
「中心」から離れた、
「メタのメタ」な作品の方が、

「サイバーパンクSF」という
ジャンルによってできること

に対して、意識的な気がします。

先例が多くある方が、
反省的になるチャンスも多いでしょう。

その傾向が進めば、文学的に重要視される、
意義づけされるのは「メタ作品」になっていきます。

⌨⌨⌨⌨

すると妙なことになります。

成立年代でいくと、ジャンルのパイオニアが「中心」になりますが。

文学史の中でモチーフを整理すると、ジャンルのメタ作品が「中心」になります。

さて困りました。

ちかごろ「サイバーパンクSF」に興味があってね?

という新人が現れたとき。

成立年代基準か、
文学史基準か。

どっちに基づいて勧めたものでしょう。
どっちを「定番」とするべきでしょう。

⌨⌨⌨

ここまで、
「パイオニア作品」と「メタ作品」の性質を、
傾向を見ながら考えてきました。

理屈だけで言えば、

「順序的に定番」
「意味的に定番」

という、定番同士が並び立つ構造になります。

その構造を理解したうえで、
どちらにもつかず、

みずから各作品に独自の意味付けをして、自分なりの「読書遍歴」を構築することが、

大学の研究員でもない、
ただのミーハーでもない、
ひとりの読書人の資産になる気がします。

そうすれば、「自分という個人」におすすめを聞いた、新人ファンも報われるのではないでしょうか。

⌨⌨

読書が

「本の情報」を人間の脳に記録する行為

だとすれば、

速度でいくとコンピュータに負け、
専門性でいくと研究員に負ける

踏んだり蹴ったりの、
不毛な営為になります。

ここは、「一人の人間」の脳に記録するという一点に、優位を見いだしたいところです。

一人の人間ならば、
一対一の関わり合いができる。

相手は、自分に合わせた応答をしてくれる。

そういった個別的なコミュニケーションこそ、読書家だけが有する「技能」ではないでしょうか。

「パイオニア」と「メタ」。

それぞれの鉄板・王道があれど、
せっかくこの僕に質問して下さったのだから、
あなたにぴったりの一冊を教えてあげる

そういった、
他者に有益な「マニア」でいることが、
ジャンルに貢献することにもなりましょう。

無為に字面を追うよりは、
活かし方を考えつつ読んだ方が、
張り合いがあります。

『ニューロマンサー』は重要作品だけど、
ちょっと人には勧められない。

その代わり、
とっておきの一冊を教えてあげる。

(おわり)

会話が一人で完結するマニア、
っていうのがいます。

一人でずっと話して、
一人で笑っているようなの。

悪いとは言いませんが…、
いえ、悪いと言います。

自分のなかで完結した問題を、
わざわざ相手に聞かせるというのは、
相手をデバイス扱いした、
実に無礼な行為です。

けしからん。
オタクの風上にも置けない。

人に「聞きたいこと」はないくせに、
そんなに「言いたいこと」だけがあるのなら、
ブログでも始めればいいのよ。

では、次の水曜日にお会いしましょう。

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