見出し画像

vol.32「偉大なるマンネリ」(『ウルトラマンが泣いている』円谷英明/講談社現代新書/2013年刊)

vol.32「偉大なるマンネリ」

みなさんこんばんは。

仙台は多少、冬っぽくなってきました。
雪が降らないのは退屈ですね。

僕が小学校のころは、かまくら作れるくらい降ったものですが。
あれは幻覚だったのでしょうか。

いずれにしろ、近頃は図書館にこもってばかりなので、寒さに直面する必要もありません。
無敵の暖房装置がついています。

文明とはすごいですね。
嫌なものはどんどん遠くにいく。

だからこそ、遠くにやっちゃえないものに出くわすと、いっそう不安定になるのが、現代人の気性のようにも思えます。

とはいえ、うかつに「負担負債を引き受けるぞ」などとは言えません。
誰が誰に依存しているかしれない社会では、「責任とる」ことの意味も不明瞭です。

「引き受ける」以外に、「遠くにやっちゃえないもの」に向き合う方法はないものでしょうか。

せめて、アレルギー反応だけでも抑えたい。

『ウルトラマンが泣いている』、円谷英明さんです。
では、どうぞ…。

バスに乗り間違えました。

本書を読みながらバスを待っている。
列が進んだのでぼんやり乗り込んだら、違う路線だったよ、と。

円谷さんのせいで、久しぶりに寒さに脅かされました。
「嫌な思いをすること」自体がしばらくぶりです。

やられた…。

それからはもう、癇癪まぎれに歩きました。

夜の住宅街って怖いです。

入り組んでいて、どこも同じような作りをしている。
下水の音や野良犬の声、茂みからなにか飛び出してくる!
マップアプリに八つ当たりしながら…。

まあ、いいです。
本の話をしましょう。

🌕🌕🌕🌕🌕

本書はノンフィクションです。

ウルトラシリーズを作った円谷プロという会社がありまして、そこは円谷一族が経営していたのです。
けれども、お家騒動しかり、権利関係しかり、予算管理がゆるゆるだったりで信用が失墜していって、会社がよそに乗っ取られてしまう。
6代目社長円谷英明さんの視点で、その過程が描かれました。

じつに夢のない話です。

夢のない…。
この場合、夢ってなんでしょう。

こころみに、夢のある話をしてみましょう。

ウルトラシリーズを作っているわけだから、汚い大人の世界とは無縁でいてほしい。
経営難なんかに陥らないよう。仮面ライダーやガンダムと一緒に、いつまでも子供たちの味方でいてほしい。
権利は円谷プロで一括管理、オリジナルこそが至高なのよ。タイの会社なんかに売っちゃダメ!

ディズニーやジブリにも適用できましょう。
ジブリは解散しましたが。

夢のある、というか。
これではマニアの願望です。

夢にせよ、願望にせよ。
その成立要件は、「嫌なものから距離をとる」ことなのかもしれません。

ここで夢は、「現実でないこと」それだけ。
ただの余事象です。

僕は「夢」という言葉がとりわけ嫌いなので、バイアスがかかるのは必然なのです。
先にお詫びします。
しかし上記の文脈を延長すると、「夢追い人」はそのまま現実逃避人を意味します。

「夢」がすなわち「嫌なもの以外」であるならば、延々駄々をこねることもできます。
現実は常に不完全不明瞭ですので、「嫌なもの」には事欠かないため、原理的にそうなります。

品性なりで歯止めをかけることもできましょう。

しかし、「夢」という言葉遣いをする限り、「現実」に対峙する理由は生まれません。

もちろん「社会や身体が、物理的に制約を加えないかぎり」という条件はつきます。
法律や空腹、とりわけ「寒さ」は強力無慈悲で、今回はありがたいです。

さて、冒頭の話に戻ります。

寒さに対峙せざるをえなくなった僕。
延々癇癪をまき散らす「現実逃避人」と化した僕でありました。

ところが、あることを機に、ご機嫌になります。

🌔🌔🌔🌔

『夜廻』というゲームがあります。
日本一ソフトウェアさんより。

僕はあのゲームの雰囲気が好きで、とくに音が好きです。
BGM、足音、風の音、葉のすれる音、虫の声。

じつにノスタルジック、かつ不穏な雰囲気。
わかっていますねえ!という気持ちになります。

しかし、もう一つ魅力に気づきまして。
あの音は「リアル」でした。

バスを降りて歩き回ると、自分の足音がとてもよい。
怪しい感じで、住宅地の雰囲気にマッチします。
ゲームらしく一定のペースで歩いてみたり、こだわりようもありました。

この経験を一般化を試みますと、だいたいこのような意味ではないでしょうか。

「なりきり」をすると、問題点は「純粋な利害」を離れる。

🌓🌓🌓

現在『SSSS.グリッドマン』というアニメが放送中です。

丁寧な作画か。
特撮っぽいアクションか。
ウルトラシリーズへの細やかなリスペクトか。
はたまたヒロイン人気か。

そのすべてに起因するのかもしれませんが、人気を博しております。

1993年に放送された『電光超人グリッドマン』のアニメ化リメイク。
本書は2012年刊行なので、その延長に位置する作品となります。

つまり「ウルトラマンを泣かせてしまった」後、発表された作品です。

人気作品はその反動も大きく、批判も目につきやすいものです。

以下のようなものを見かけました。

やっぱり、オタクが作ったパロディって感じがする

多少分かる批判です。

ウルトラマンというモチーフの性質として、「巻き込まれる人が多すぎる」点が挙げられます。

一話で街一つ失われるのがウルトラシリーズです。
仮面ライダーや戦隊ものと比して、ヒーローとしての責任が大きすぎます。
必然的にウルトラマンは、社会への責任を負ってしまうものでした。

対して『SSSS.グリッドマン』はアニメ作品。アニメーターが描いたもの以外は、存在することすら許されない媒体です。
作り手が意図しないもの、主人公と関係がないものは画面から確実に排除される。
実写の特撮が織り込んでいた、「現実に人が生きた痕跡」を包摂することはできません。

そういった意味では、新しいグリッドマンはマクロな社会に接続されず、ミクロな人間関係に留まっています。

この限りではパロディと言えるでしょう。

ここで確認したいのが、パロディでいけない理由はあるか、ということです。

パロディするには、パロディ先がなくてはいけません。

今回なにをパロディしたかと言えば、それは往年のウルトラシリーズ、円谷一族の遺産になります。

円谷プロが円谷プロ作品をパロディしたというのは、言い換えれば「らしさ」で戦ったということでしょう。

🌒🌒

「なりきり」や「らしさ」といった型にはまる行為は、現状を組み替えることができます。

僕の話にあてはめてみます。

端的に、寒さの中住宅街を歩いていれば、周囲は「不快な環境」でしかありません。
そこで、「『夜廻』みたいだ」と環境を読み替えてみます。すると周囲は、「快く不穏な環境」という意味合いを帯びました。

次に、本書の展開にあてはめてみます。

円谷一族が円谷プロに関われなくなった。
企業にとってはアイデンティティ崩壊とも言える現状です。
ここで円谷プロは自社の「らしさ」を、「お家」から「演出」へ読み替えます。
「偉大なるマンネリ」をアイデンティティとして再設定したと言えます。

本書の終盤では、ウルトラシリーズの平成三部作における、設定付けでの後悔が語られていました。

ティガは宇宙人ではなく、光の巨人。ダイナの主戦場は、地上ではなく宇宙空間、と。
時勢に合わせようと設定を転々とし、往年のファンを置き去りにしてしまった。
ウルトラマンは「偉大なるマンネリ」に立ち返るべきではなかったのか。

こういった反省が書かれていました。

確かに特撮シリーズは、仮面ライダーや戦隊シリーズと違い、特定の時間枠を占めてもいません。ニチアサの常連ではないわけです。
国民的ヒーローとしては、「いつもの」という存在感が薄れつつあるのかもしれません。

こういった背景をふまえれば、『SSSS.グリッドマン』のオマージュ姿勢は歓迎すべきものであるはずです。
伝統に立ち返り、シリーズの再出発を図る上で、しっかり支持を集めている。
とても器用な振る舞いではないでしょうか。

🌙

そろそろ本稿を閉じたいと思います。
ずいぶん長くなってしまいました。

いつもか。

今回はなんの話だったかというと、

「パロディは保守的、退屈」という命題も、背景によって変化しますよね

というものでした。そういう意図であります。

オタクとは自分の趣味嗜好に従うはずなのに、ネット上の議論は単調になります。

批判は批判のまま。
ふしぎなことです。

それはネットの性質に起因するもので、オタクのメンタリティとは別問題かもしれません。
その場合は、本稿は皮相を上滑ったというわけであります。

いつもか。

いずれにせよ、楽しいアニメが毎週見られるというのは贅沢なことです。
いっそ飽和してる感じもありますが、なんだかんだで豊かな社会なのでしょう。

ともかく。

戦後特撮は徒花ではなく、新しい地平が開かれるもの。
それが分かっただけでも、収穫でありました。

こういう半端な結論を「軟着陸」と呼び、排除の原理の対抗馬にするのは、どうでしょう。

甘いもくろみでしょうか。

(おわり)

僕の不幸な経験と、円谷プロの不幸な経験を重ねるという構成には無茶があるから…冗長にもなる。

文の構造は、文の内容を忠実に反映するもの。
現代文講師(アルバイト)としては有益な発見です。

そもそもウルトラシリーズを本稿に組み込むのが困難でした。
シリーズごとに毛色が違い過ぎて、うかつに扱うのは危険。
それだけで本になります。

というか、ちょうど本になりました。
福嶋亮大さん著ですね。
付属図書館にリクエストしました。

「ウルトラマン」の研究書でも、東北大の付属図書館は置いてくれたりします。置いてくれないこともあります。

今回はなんとか、置いてほしいな…。

では、次の水曜日にお会いしましょう。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

楽しんでいただけたら幸いです!
8

大学生の読書日記

東北大学/「エキマエ読書会 by東北大生’s」のオーナー/ 「読書生活のサンプル」をお送りします(毎週水曜日)

UNI選書

大学生から贈る、「読書生活のサンプル」。図書推薦文の形式をとりながら、「学生思考」をお届けします。(毎週水曜日更新) 扱う本のリクエストも受け付けております!各ノートのコメント欄からどうぞ…
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。