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vol.57「見目好い知性の待望論」(『華氏451度』レイ・ブラッドベリ 宇野利泰:訳/ハヤカワ文庫/1975年刊)

vol.57「見目好い知性の待望論」

みなさんこんにちは。
今回は、ある読書会の課題図書です。

ちょっと作ってみた読書会サークルのメンバーが、来週に読書会を企画しておりまして。

こちらの本を扱うそうです。

レイ・ブラッドベリ、『華氏451度』。
では、どうぞ…。

本書はSF。

華氏451度は、摂氏に直すと233度くらい。
これは、紙が燃えだす温度だそうです。

このタイトルは暗喩で、

あらゆる書物が禁止されたディストピア

を意味します。

書物を焼却する〈焚書官〉モンターグが、
とつぜん心変わりを起こし、
革命をしようとするストーリー。

🌋🌋🌋🌋🌋🌋🌋🌋🌋🌋

たしか、『イナズマイレブン』の映画に、

サッカーが悪とされた世界…

みたいな設定が湧いてきたことがありました。

なるほど、

サッカーのありがたみを描きたければ、
サッカーが禁止されたディストピアを
不摂生のありがたみを描きたければ、
健康を重視しすぎなディストピアを
読書のありがたみを描きたければ、
書物が焼却されるディストピアを

設定して物語を書くと、
明瞭な寓話ができあがります。

僕はつくづく、こういうところで、SFというジャンルの「高性能さ」を感じます。

🌋🌋🌋🌋🌋🌋🌋🌋🌋

本書末尾の解説によると、このSF小説はマッカーシズムに対する反発心から書かれたそうです。

いわゆる「赤狩り」。

そういった思想弾圧の風潮は、マッカーシーという先導者はいたものの、民衆のうちより生じたようであった。

それが本書における、

〈ビッグ・ブラザー〉なきディストピア

の描写につながっています。

🌋🌋🌋🌋🌋🌋🌋🌋

本書には、カリスマな指導者は出てきません。

民衆の愛国心を煽るための、
用意された〈敵〉もいません。

ほぼ同時期に刊行されたディストピア小説『1984年』は、ファシズムを扱っていましたが。

やはりディストピアにも、種類があります。

🌋🌋🌋🌋🌋🌋🌋

ディストピアに種類があれば、
革命の仕方にも種類がありましょう。

『1984年』では、時間が解決しました。

『ハーモニー』では、革命とは「ディストピアがさらに極端化する」ことでした。

『イナズマイレブン』は分かりません…。

では、『華氏451度』はどうか。

じつは、本書では革命の決着がつかず、

未来につなぐ…

みたいな、わりと〈投げっぱなしEND〉。

誰も書物を読まず、刺激の強いテレビやラジオに取りつかれた世界で。

元ハーバード大教授とかが寄り集まって、かつて本に描かれた「知性」を記憶することで、未来に希望を残そうというENDでした。

本というメディア・物質そのものではなく、「本の中身」を大事にするということでしょう。

🌋🌋🌋🌋🌋🌋

本書を「読書家に対する応援歌」のように取りざたする声もあります。

…が、実際そういう内容なんでしょうか。

知性の守り手、希望として描かれるのは、
ハーバード大の教授陣で…。

「燃やされるべきではなかった書物」として登場するのが、

聖書、フォークナー、プラトン
マシュー・アーノルドにスウィフト

とかですけれども。

当時からしても、ばっちり古典で。

どうも、そこらの「本の虫」には、
目を向けていないような気がします。

まして、SFオタクなんて…うう…。

🌋🌋🌋🌋🌋

僕は本書を読み終えたあと、あわててプラトン『パイドン』を借りました。

浅ましいことです。

趣味人として本を読んでいるのでは、
おそらく「知性」など、
いつまでたっても身につかない。

とはいえ本書では、ハーバードなどで徹底的に訓練を受けた人たちも、テレビやラジオほど〈求心力〉は持てませんでした。

革命のために旅立つ主人公たちですが、
その風貌は、

老いて
みすぼらしく
頼りない

彼らはそのまま、好機を待つつもりのようですが。

それは、どうでしょう…、
いや、ダメでしょう…。

🌋🌋🌋🌋

マッカーシズムに代表させた〈反知性主義〉
一方、ブラッドベリが信じた〈知性主義〉

これらは共に、社会のなかのムーブメントにすぎません。

勝ちたいなら、支持を得なければ。

さっこん、文系学部に対する予算削減の動きに、

教養がないがしろにされている

という憤りの声が集まっていますが。

「教養」の効用を提示できない〈弱い知性〉が、顧みられないのは自然なことでありましょう。

すぐには結果が見えないのが「教養」だ

という反論もありましょうけれど。

人を惹きつけるのは「結果」だけではありません。

カリスマ・求心力を得る努力は、
常に、普遍的に必要なことです。

🌋🌋🌋

マルクス・ガブリエルが、
いちやく「哲学界のアイドル」になりました。

学者としての評価は前々からあったのでしょうが、日本の書店でサイン会が開かれるというのは、まったく活躍のエリアが違います。

去年の7月に放送された特番で、ガブリエルが

僕は哲学界のミック・ジャガーかな

という発言をしていましたが、きっとその通りで。

アイドルを待ち望んでいた層。

彼のような存在を欲しがっている層が、
事前に形成されていたような気がします。

🌋🌋

いまは顧みられないが、
みんなホントは気になっている〈知性〉。

その分野を学ぶことを、
「名誉」にしてくれる誰か。

それを求める〈待望論〉が、
確かに存在する気がします。

じゃあ、アイドルを待つ側は、
ただ待つだけでよいのかというと。

ファンの側も、身綺麗にしておく必要はあるでしょう。

時が満ちたときに、
「クリーンな市場」になれるように。

いざとなったら、
自分がアイドルになれるように。

🌋

本書『華氏451度』のディストピアにおいても、〈知性〉を持て余した人々は存在しました。

主人公モンターグの協力者:フェーバー。

もと英語教師の彼は、
ほとんど諦めつつも、
書物への憧れを抱えていました。

モンターグの上司:ビーティ。

圧倒的な読書量・教養を持ちながら、
焚書官の所長をしなければならない男。

最後は望んでモンターグに殺された彼の悲哀。

彼らのような人々がいるのなら、
革命のときは、そう遠くないことでしょう。

だからモンターグには、
早々にヒゲを剃ってもらいたいものです。

(おわり)

大学の研究室は、
理系分野に行くことに決めました。

PCいじって、数学をやりながら、
プラトンを読む生活が夢だったのです。

芸はたくさんあった方が、
人生は楽しいでしょうし。

周りにいる人にも、
きっと得をさせてあげられる。

では、次の水曜日にお会いしましょう。

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