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【まとめ】2年間で自律型のデザイン組織の立ち上げるまで

弁護士ドットコムのデザインマネージャーを初めて2年が経ちました。
私のnoteはその過程で得てきた知見をまとめてきたものが多数だったので、私がこの2年間で実行した事業会社における「デザイン組織の作り方」を総復習したいと思います。

はじまり

「あ!やっとマネージャーが来た!w色々教えて下さい!」そう元気よく入社1ヶ月目の新人デザイナーに元気よく声をかけられた入社初日。

私の配属された弁護士ドットコムは、黎明期を支えたベテランのマネージャーが次に注力する新規事業に異動したタイミングであり、マネージャーが不在でした。
また一時期は退職も重なったらしくある時はデザイナーが1名しか居なくなったとも...という基幹事業にマネージャーとして配属されることになりました。

入社当時に渡されたミッションはずばり「デザイン組織を立ち上げる」こと

そんなほぼゼロベースだったデザイン組織を2年かけて10人以上の自律型組織に昇華させるまでに創意工夫した知見を時系列に合わせてご紹介してみようと思います。


形成期 〜組織の立ち上げ〜

■Action①《上長・役員から徹底的なヒアリング》

まずは"現状"の事業ビジョンやビジネスモデルを図解するところからはじめました。

ステークホルダーを集めてビジネスモデルキャンバスやユーザーストーリーマッピングを聞き出して丁寧に描いていきました。
ここでのポイントは「キャンバス描きましょう!」とは言わないこと、あくまでも「新参者にイロハを教えて下さいm(_ _)m」という形でミーティングを主催します。
「なるほどなるほど、、、」とホワイトボードに描きながら出来上がったのが各キャンパスなどの"それら"というだけです。
(ビジネスの世界では、漫画のように声高に技名を叫ぶ必要はないのです。)


■Action②《Vision合宿の開催》

上記のヒアリングを進めていくうちにステークホルダーの中でも「うまくイメージが擦り合っていないのでは?」というポイントが見えてくるようになりました
これは実際の現場で働くメンバー自身も「私達はどこへ向かったらいいの?」と悩んでいた部分でもありました。

そこでサービスの役員の皆様を集めて「3年後、5年後どうなっていたいか?」を決める合宿を行いました。

この合宿は事前に綿密にワークショップ計画の立てて行いました。
流石に1日の合議では抽象的なところまでしか落とせなかったという反省はありますが、この時決めた言葉は2年経った今でも少しづつ形を変えながら使われています。

拙くても言葉にすることが大切です、まず言葉にすることで目線が揃い議論が始まる。という改善のプロセスの一歩目を開始することが出来ると考えています。


■Action③《未来のモデルから理想の組織図へ》

上記の2点の取り組みから「どのようなデザイン部があればそれは達成可能だろうか?」という落とし込みを行いました。
コンウェイの法則という"システム設計は、組織構造を反映したものになる"という有名な言葉があります。
この組織構造というのはどこから生まれるかというと、ビジョンとそれを元にしたビジネスモデルだと考えています。

デザイン部のあり方を考える時、デザインのことだけを考える事はできません。

下記図のように、これらのビジョン-組織-システム設計が一連でつながっている状態を作れるのがベストだと感じています。


■Action④《人事とコネクションを強化する》

理想の組織図ができたところで実際に人材が居なければ絵に描いた餅です、それを実現するためには採用を整理・加速させる必要がありました。

理想の組織図から逆算し、人事部と肩を組みながら採用を進めました。
分担するのではなく、むしろ積極的に職域を重ね合わせていきました

・デザイナー自らが会いたい人にスカウトを打つ
・エージェントに伝える人材要件を整理して伝える
・一緒に採用のKPIを設計する

など密接にコミュニケーションを行い、下記図のようにお互いのタスクをオーバーラップさせることで素早く優れた採用を行うことができました。


混乱期 〜成長スピードに向き合う〜

採用うまくいき始めると徐々に人数が増えはじめました。
しかし様々なバックグランドの人物を一気に集めてしまうと、視点や価値観の違いから混乱が起きることが常です

事前にカルチャーを強く作りながら徐々に人を増やすのであればある程度回避できたのかもしれませんが、当時の会社の成長スピードは凄まじく、デザイン組織もまたこのスピードに向き合う必要がありました。
(下記図は会社の株価の変遷です)


■Action①《対話の時間を増やす

まだまだ組織も未熟だったため、入社時のプログラムも何もかもが確立していませんでした。この時期の新人には負荷が非常に高かったと思います

初期に入社のデザイナーとはかなり意識的に対話の時間をつくりました、終電まで話す。ランチから初めて半日話す...などもザラでした。

「まだ未熟な組織を共に良くしてもらう」というミッションを一緒に推進してもらうためにも、ありのまま組織の良くない部分すら真剣に語り合いました。
組織としてもマネージャーとしても、全てを満足させる提案を出すことはできない中でしたが、まずは対話によってお互いの意見をすり合わせていくことで泥臭く関係性づくりを進めました。

結果的にこの時期に苦労を共にしたメンバーは後に組織の中核メンバーなっていきます。


■Action②《開発の"型"をつくる》

人が揃ったら次はサービスを開発していかなければいけません。
弊社はミッション毎にチームを分割しデザイナー・エンジニア・プロデューサーが同じチームに所属し開発するという体制をとっていました。

それぞれ新しいメンバーが独自に開発手法を提案・検討していては時間がかかりすぎてしまいます。

当時エンジニアチームが強力にSCRUMの体制を設計してくれていたので、それに同調する形でデザイン部としてはLEAN-STARTUPの体制を導入しました。

LEAN-STARTUPとSCRUMの2つの車輪をチーム内で回転させようとしたのです。

このタイミングでは積極的に外部講師を活用しました。
デザイン思考の研修を行ったり、開発側ではレゴ・スクラム研修なども導入してくれていました。これらには職種関係なくすべてのメンバーが参加していました。


■Action③《ファシリテーションを推進する》

エンジニア・デザイナー・プロデューサーが同時に集まると言語も思想も違う多様性の高いチームになりがちです。そのようなバラバラになりがちなチームをまとめあげるのに必要な能力がファシリテーションスキルだと私は考えました。

特に企画職-技術職の間に立つ事が多いデザイナーがファシリテーターになることで最も上記の2つの輪を高速で回せるのではないか?と考え、デザイナーに必要なスキルセットにファシリテーションスキルを定義しました。

まずはじめは、自ら各プロジェクトに参加しファシリテーターをしてチームを推進するところからはじめました。

またこちらの教育プランを整える部分も同時に行いました。全職種向けのファシリテーションのワークショップを行うなどして、自ら背中を見せると同時に優れたファシリテーターを量産していきました。


統一期〜カオスから形式化へ〜

開発にある程度の型が生まれ滞りなく進行するようになり、採用のフローなどはある程度ルール化されルーチンでこなせる部分が増えてきました。
しかし、まだこの段階ではすぐにわかりやすい成果は出ないのです
焦ってアクセルを踏みたくなりますが、ぐっと我慢してこれまでの進め方を形式化していく作業を進めていきます。

いま思うとこの段階で「まだ焦る時間じゃない」と上層部に説明できるかどうかがマネージャーの重要な手腕のひとつだったと感じます。


■Action①《組織方針に沿った評価制度をつくる》

組織図や採用を"ビジョン→ビジネスモデル→組織"と逆算して作成してきたのですが、最後に取り掛かったのが「評価制度」でした。

上記の"開発の型"やチームを推進するための"ファシリテーション"など、様々な能力を発揮することを評価的にも推奨するようにしたのです。

①職能スキル、②チーム推進スキル、③成長マインドセット、の3つののスキルに焦点をあて評価軸を設計していきました。

TakramさんのBTCモデルを土台にし表層的なクリエイティブスキルだけではなく、エンジニア・プロデューサーと共創するための企画・技術のスキルも幅広く越境してもらえるように考えました。
これにチーム推進(前述のファシリテーションスキルもここに属しています)と、全ての基礎となる成長マインドセットを加えた独自の評価視点を作成しました。

これまでのプロセスを通して「ビジョン→サービスモデル作成→採用計画→評価設計」と一連で筋の通った評価制度設計ができ、非常に一体感のある制度設計ができたと感じています。


■Action②《社外アウトプットと採用広報》

この頃になると社内での成功事例も増えてきたので、そのような事例を積極的に外部にシェアするように意識しました。
これまで経験して学習したことを言葉にして伝えるすることで知見を組織に定着させることが当初の目的でした。

具体的には、マネージャーメンバーが主体となって外部の会社と連携して積極的に勉強会を主催するなどを行いました。

ここでも密接に連携したのは人事部でした。
これらの成功事例発表の場を採用広報に接続することで求職者に伝える、またそのためのイベント予算を確保するなど、デザイン部と人事部が掛け算の関係を作れたことが、採用と組織成長の両方の掛け算を生み出すことになりました。


■Action③《自律的な改善プロセス》

ある程度メンバーが揃ってきて、それぞれの自律性が十分に高まった状態になったと感じたので、組織に振り返り(レトロスペクティブ)の場を提供することを考えました。

これまではマネージャー主体で行ってきた組織の課題解決を、メンバー自身が自律的に行ってもらえるようにすることが目的でした。

①課題の洗い出し
②解決方法のアイデア出し
③実行するメンバーの決定

これらを考える場を提供することで、ボトムアップで自律的に組織を改善する機会を提供しました。

前述のように「課題解決する力」と「プロジェクトを推進する力」とを1年にわたって訓練してきたデザイン部だったので、このような"場を提供"するだけで後はお手の物というように自らぐんぐんと成長する組織になりました。

成果期 〜そしてマネージャーは不要に〜

この頃になるとチームも大きくなっていたのでメンバー全員としっかり話すこともできなくなってきました。
しかし、前述したように既にメンバー間でお互い課題を解決できるようになっているため、マネージャーに相談が来ることも稀になり形成期のような密なコミュニケーションは不要になっていました。

この頃はデザイン部の中だけではなく、営業部や開発部に関しても自律的に働きかけをして、自分たちの学びを越境して横展開するようにすらなっていました。


■LastAction《権限移譲》

ここで、入社当時の「デザイン組織を立ち上げる」というミッションはある程度完結したと感じました。

次は自分がやってきたことを、自分を超えてくれるであろう次期リーダーに渡して自分自身も新しいチャレンジをする...。
そうすることによってより優秀なデザイナーを次々と育成できると思っていますし。そのようにマネージャーだった自分自身も同時に成長しなければいけないと思っています

私もこのタイミングで「デザインマネージャー」の職を離れ、新しい仕事にチャレンジしようと決意しました。

まとめ 〜軸となるメッセージ〜

この2年を通して一貫して言い続けてきたことは以下の3つです

①相手(ユーザー)の目線から世界を見よ
プロダクトをユーザー視点で見つめ続けること、また社内の仲間もある意味ユーザーと思い、ユーザー視点で発言・提案をしよう。
逆説的にそれが自分の「想い」を届けることにも役に立ちます。

②イシューからはじめよ
安易な手法論に陥ることなかれ、アウトプット(ユーザーシナリオを書きたいなど)ではなく本質的なアウトカム(ユーザーに◯◯という価値を届けたい)から手法や次のアクションを逆算しよう。

③関係性の質を高めよ
心理的安全とも近いですが。まず安心できる関係、次にリスペクトできる関係、そして高め合える関係へ...と、関係性の質を高めていくことが遠回りかもしれませんが成果向上の一番の手助けになります。

おわりに

この先は私事になりますが、自分自身が立ち上げた弁護士ドットコムのマネジャー職を離れ、別のスタートアップへの転職を決めました。
私は「課題を解決してこそデザイナー」だと考えています。
だからこそいま自分が作り上げたデザイン組織が大好きであるあまりに、この組織の次の課題を見つけられなくなるのでは?という矛盾を感じてしまったためです。

課題を見つけてくれる次のリーダーにこの組織を託し、次は未経験のハードウェア領域のデザイナーのプレイヤーとしてイチから能力を積み上げ直したいと思っています。

この会社での上記のような実績があってこそお声掛けいただけた御縁なのでチャレンジを受け入れれてくれた現職ヘは感謝の気持でいっぱいです。

ここで記載した事例はあくまで一部の一例ですが、これから同じようにデザイン組織を立ち上げたい!と思っている皆様に少しでも役立てることができれば幸いです。

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