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FAQ、または遅すぎる「はじめに」。

[コワーキングスペースのコミュニティ運営について考える:第6回]

さて、コミュニティ運営者が人と人とを「繋ぐ」とはどういうことか、どうあるべきか。

ということを考えていきたいのですが、その前に今回は一回番外編を挟みたいと思います。というのは、このささやかな記事、おかげさまで同じ場所や似た場所にいらっしゃる皆さんから多くの反響をいただいていてとても嬉しいんですが、いただいたご質問やご意見の中に、きちんとこの場でお答えしたほうが良いものがあったので。この先、より議論の余地があるテーマを語っていくことになる気がするので、このタイミングで一度、この記事の大前提的なことを書いておきたいと思うのです。最初に書けよって話もあるんですが。

その1「コミュニティの運営方法なんてそんなに簡単に言語化できるものじゃないのでは。言語化したり、あるいは学術的な理論を生半可に持ち出したりするのは思考停止の危険を孕むのでは?」

これ、ほんとうに鋭いご指摘をいただいてとても嬉しかったです。僕もまったく同じように思っています。実はこの連載を始める前に僕はFacebookでこのように書きました。

『ビジネスにおいて言語化能力というのは最も大切だと思っているし、自分はその専門家であると自認しているんですが、それだけに言語化しないほうが良いこと、良い時期がある、ということをずっと思っていて。たとえばビートルズの曲づくりを分析したテキストは山ほどあるけど、それを何冊読んでもビートルズになれるわけではないですよね。一方で、なんとなくうまくいっていることを言語化すると「言葉にならない何か」が必ず残るけど、一度言語化してしまうと、その言葉がマニュアルのようになってしまい、その言葉通りに動くようになる結果、大切なものが失われていく。そういうこともあるよね、と。
なので、KOILでやってきたことを言語化することにはとても慎重にしてきたのですが。ただ、この数年いくつかの機会にやむを得ず言語化してきたことが、最近、あーこれは割と大丈夫だな、という形になってきまして。』

で、いくつかの理由や動機が重なって、このタイミングで一度言葉にまとめてみよう、というのがこの記事です。理論化してマニュアルのように使うのが目的ではなく、今後も毎日まいにち試行錯誤していくために座標の1つを置いておこう、または同じようなところで戦っている皆さんと意見を交わしていくための薪をくべてみよう、というくらいの意味合いで書いています。(力不足で思ったより燃えないんですが、、、)

そもそも。
僕は基本的に言葉を信じていません。他者とのコミュニケーションで楽観できたことがありません。自分の言葉も他人の言葉も無条件で信用することはありません。「君がいなくて僕は寂しいよ」と100人の男が100人の女に言うとき、その寂しさには1つとして同じものは無いはずです。だから、自分だけのその寂しさを伝えるために作家は長い物語を1つ創るし、音楽家はメロディをつけて言葉に乗せるし、映画家は映画を1本作る。要するに「本当に伝えたいこと」なんて絶対言葉には出来なくて、言葉は「本当に伝えたいこと」の周りに無数に引く輪郭線でしかないと考えています。多くの輪郭線の内側にぼんやりと何かが見えるとすれば、それが伝えたいことの何分の1かの姿ではないでしょうか。そしてそれすらも「そのことそのもの」ではないわけだから、多くの物語や歌や映画がそうであるように、解釈の余地は無限にあり、誤解やすれ違いは前提です。
ただ、人の世の面白さは、その誤解やすれ違いからまた意味のあるものが生まれるということでしょう。

って、なんか無意味に話を広げてしまいましたが、要するに私は「この通りやれば必ず成功する!コワーキングスペース運営マニュアル」を書いているつもりはまったくなくて、「KOILでは、僕は、今までは、こうやってきました」ということを多くの方に共有して、そこから僕自身や他者に生まれる次の何かを期待している、という立場です。だいだい、人が1人ひとり違うようにコワーキングスペースも立地、利用者像、目的、すべて違いますからね。たとえば今僕は海浜幕張に今度新しくできるコワーキングスペースのお手伝いもしていますが、ここにKOILのノウハウを持ち込むつもりは全くありません。ただ、参考に出来ることや、中には原理原則としてもいいのかも、ということがいくつかあって、それを踏まえることはゼロから試行錯誤するよりはいいだろうと。そういうことだと思います。

その2「言ってることは分からないでもないけど、あなたのやってることってコミュニティ・マネージャーの業務とは違うんじゃない?」

そうかもしれないです。よくわかりません。僕の場合、KOILオープン以来、会員さんにとって価値のある場創りを自分のミッションとして仕事してきたら、ある日「今日からその業務はコミュニティ・マネージャーという呼び名でやってねー」ということになったのが経緯なので、コミュニティ・マネージャーという職種?業種?じたいに興味はなく、比較検討したこともないです。なので世界のコミュニティ・マネージャーの皆さまに「お前は違う」と言われたら、そうなんだへーとしか。タイトルにある通り「コワーキングスペースのコミュニティ運営」をしている人、という理解をいただければ。

その3「君が行っていることはスタートアップの成長には直接寄与せず、オープンイノベーションの実現にも何の関係も無いのではないか」

もちろんです。KOILは「31VENTURESというベンチャー共創事業」の一貫でもあり正式名称が「柏の葉オープンイノベーションラボ」なので、そこの人が語っている以上「おいおい、どこがベンチャー支援?どこがオープンイノベーション?」というリアクションが一部出てくるのはこれは仕方がないことだと思いますが、ここで僕が考えているのはタイトル通り「コワーキングスペースにおけるコミュニティ運営」であって、それ以外ではないです。全く無関係でもありませんが。ベンチャー支援やオープンイノベーションについては、また別の話です。余談ですが個人的には、オープンイノベーションという言葉が最近あまりに軽いのを危惧しています。「大企業の人が外の人と知り合う」ことがオープンイノベーション、みたいになってません?

その4「前回の話について、『最初に良好な人間関係を構築し、そのあとに受発注関係になるという順番』であれば、君のデザイン案を床に投げた白いスーツの怖い人とも理想的な関係になれるの?」

これ誤読です。白いスーツの怖いクライアントの話は、「発注者と受注者ってなんで時にこんなにもすれ違うのか」という僕の問題意識の発端のエピソードであって、それ以上のものではありません。そもそも、コワモテで協力会社を脅かすような人はコワーキングスペースで他者と交わろうとはしないでしょうから、彼がKOILに来ることは無いでしょう。って、これは次回以降にも関わるちょっと重要な前提なので念のためにさらに言うと、逆に言えば、コワーキングスペースで他者と交わろうという意識のある方は、いきなり受発注から人間関係を始めても成功循環モデルを築ける方が多いとは思います。そしてそれもコワーキングスペースという形態のもつ大きなポテンシャルでしょう。それだけのポテンシャルがあるからこそ、雑な繋ぎ方、雑な繋がり方でせっかくの機会を壊さないようにしたい、少し挑発的に言えば、そういう利用者さんのポテンシャルに助けられて雑な繋ぎ方してることあるのかもしれないよみんな大丈夫?、というのがここでの(特に次回以降の)僕の話ということになります。

ということで、上記の疑問や引っ掛かりを持たなかった方には今回は少し足踏みっぽい記事になってしまったかもしれません。ただ、ここから先、「コミュニティ・マネージャーは繋ぐ人、って本当?」とか「コミュニティ運営にKPIって意味あるの?」とか「コワーキング利用者のビジネスを伸ばすのにコンサルってどの程度意味あるの?」とか、少し燃えやすいテーマに踏み込んでいくことになるため、このタイミングであらためてこの記事のスタンスを示しました。今後のテーマが微妙な上おかげさまで実務多忙で、記事更新のペースが落ちるかもしれませんが、次回以降もぜひお立ち寄りください。

#ビジネス #コラム #コミュニティ #コワーキングスペース

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