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If You Need Somebody Set Them Free

[コワーキングスペースのコミュニティ運営について考える:第4回]

コミュニティとは1つの大きな繋がりではなく、複数のつながりの重なりで、その濃さには斑(ムラ)があっていい。参加意欲のない人に声をかけたり手を引っ張ったりする必要なんかない。そういう人がある日ふと周りの人と話すことがあれば、それこそ「弱い紐帯の強さ」で、セレンディピティの源泉だ、というのが前回の話でした。

さて、そうは言っても、コワーキングスペースを便利な仕事場としてのみ使っているユーザーさんが、ある日突然コミュニティに自発的に参加することなんかあるのか。

ここが面白いところなんですが、KOILを長く運営して見てきた事実として、複数の繋がりのそばにいてそこから生み出される小さな成果に毎日触れていると、ユーザーさんに意識の変容、態度の変容が起こるんです。要するに、毎日周りの様子を見ていて「なんか楽しそうだぞ」ということですね。「あれ?美味しそうだぞ、ちょっと食べてみよう」というシンプルな話です。コミュニティへの参加意欲が自然に、彼の中で自発的に起こります。(もちろんすべてのユーザーさんではありませんし、その必要もありません)

「周りの様子を見て意識と態度が変わる」というのは、コミュニティに参加しているユーザーさんたちにも同じように起こります。彼らは、今度はそのつながりから具体的な成果を上げることを意識するようになります。「自分よりうまくやってる人」が出てくるからです。隣の人がスタッフを雇い始めた、交流会で会ったあの人とあの人が組んでビジネスを始めた、あの人が個室オフィスを借りた、あの企業が大型の資金調達をして数倍の広さの区画に移転した。そうした姿を見て欲が生まれる。より積極的に仲間を創って組むことで活動の幅を広げる人たちが増えます。成長意欲を強くして「次は誰が個室に行けるか」みたいな、いい意味での競争を始める人たちもうまれてきます。

だから結局、全員を「公平」に扱おうとして、多くの人にウザがられながら声をかけて回ったりするのはハイリスク・ローリターンで、参加意欲の高い人たちをサポートして盛り上げる方が効果的なのです。繋がりが濃い/薄いの斑(ムラ)は積極的に容認する。むしろそのムラの濃いところを徹底的に濃くすることで「このコミュニティの成果のモデルケース」を創り、その姿を自然に見せていくこと。これが結果的に、より多くの人にコミュニティの良さを実感していただけることになるのです。
(もちろん『成果をさりげなく多くの人に見せていく』ことや『最初に話しかけるきっかけの場をつくる』ことは、コミュニティ運営者としての重要なタスクです)

ところで、濃いところを大切にする、という方法論は考えてみればマーケティングの世界では当たり前のことです。メーカーでも小売店でも、全ての商品を公平に一律に売れるようにする、なんてことは絶対ない。売れる商品をもっと売れるようにするのが基本です。ベンチャー・インキュベートでも議論の余地がないことでしょう。すべてのベンチャー企業のあらゆる事業を等しく成長させなければ、なんて思っている人がいたら教えてください。って、念のために補足しますが、僕は会員さんを商品やビジネスモデルに例えているわけではなく、これは「構造」の話です。要するに、原理原則。世の中、そういうふうに出来ている、という話です

ちょっと余談ですが、テーマがコミュニティとなると「みんな一律に」「公平に」となりがちなのは、やっぱり学校のクラスのイメージが影響しているのかもしれないな、と思います。そういった間違ったイメージに騙されて足をすくわれてはいけない。

ところで、1日や2日で意識の変容、態度の変容は起こらない。ある程度の期間を必要とします。だからある期間、まずは「騙されたと思って」使い続けてもらうことが必要です。「最初に居心地ありきだし、居心地がすべて」というのは、ここに理由があります。心地よいワークスペースとして使っているうちに、やがて意識が変わり、行動が変わる。その先に、豊かなコミュニケーション、創造的なコラボレーションがある。

この一連のプロセスをざっくりとまとめると、こういうことになります。

強調したいのは、これは仮説ではなく事実だということ、KOILで実際に起こっている出来事を整理したものだということです。人によってスピードはまちまちですし、どこかのステップから先へは動かない人もいますが(何度も繰り返しますがそれはそれで良いことで、その方も大切なユーザーです)。

で、コミュニティ運営者の仕事は、このプロセスに寄り添ってユーザーさんのやりたいことを後押ししていくことです。上図の右側、色をつけた3つが、その仕事の内容を最も大きな粒度で書いたものです。

ここから先、このプロセスとそれに対応したタスクについていくつか考えていきたいと思うんですが、まずは次回、上の図の中でたぶんほとんどの人になじみがない言葉、「共創的受発注」について書こうと思います。これは僕の造語なのですが、発注者の傲慢と受注者の怠慢のない、理想的な受発注のカタチについて。Coming Soon ! 

#ビジネス #コラム #コミュニティ #コワーキングスペース

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