アップリンク吉祥寺で、「ROMA/ローマ」の心地よい音に包まれよう。

1.アップリンク吉祥寺の音響システムがスゴい。


今回は吉祥寺パルコにオープンしたばかりの映画館「アップリンク吉祥寺」の、こだわりの音響システムについてのレビューです。


映画の街・渋谷で良質な作品を上映してきたミニシアター系映画館「アップリンク」が、昨年末に吉祥寺で新店舗をオープンしました。
それぞれ違ったコンセプトで彩られた5つのスクリーン、他では味わえないフードメニュー、そして個性的な上映ラインナップと特典いっぱいの会員制度で、映画ファンだけでなく流行に敏感なナウいヤングのアンテナにビビビッとくること間違いありません。

そんなアップリンク吉祥寺の最大の強みは「音の良さ」にあります。日本屈指の音響機器メーカー、田口音響研究所による「平面スピーカー」を全スクリーンに導入したことで、並の映画館では味わえない、クリアかつ迫力ある音で映画が楽しめるのです。



昨今ではIMAXやドルビー・アトモスといった音響システムで映画を楽しむ機会も増えてきましたが、そうした大型スクリーンや大手のシネマコンプレックスでは上映されないような作品を、小さなスクリーンでよりよい音で楽しめる……、これはなかなかの贅沢ではないでしょうか。
ミュージシャンのドキュメンタリー映画やアートフィルムなどが多く上映されるミニシアターだからこそ、音響システムは重要な役割を担っていると言えます。

そして今回ご紹介する映画「ROMA/ローマ」は、アップリンク吉祥寺のスピーカーシステムのポテンシャルを楽しむのに、まさにうってつけの作品なのです。


2.「ROMA/ローマ」はハイレゾな小津映画



「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロンが監督した「ROMA/ローマ」は、本年度の第91回アカデミー賞で10部門にノミネートされ、外国語映画賞・監督賞・作品賞を受賞。ストリーミングサービス大手Netflix が配給したことでも大きな話題を集めました。しかし元々は劇場公開を目指して製作され、映像面・音響面ではハリウッド大作に劣らぬ最新技術が用いられた作品なのです。

例えば映像面では、6Kデジタルカメラによる高精細の映像を敢えてモノクロ変換したことで、空間の広がりや細かなニュアンスを捉えつつ、白黒映画ならではの味わい楽しむことができます。



さらに音響面でのこだわりが特に強く、パソコンやテレビの安価なスピーカーでは絶対に味わえない工夫が凝らされています。

そのこだわりとは、いわゆる「立体音響」。今風に言えば「VR音響」でしょうか。音が発生する位置や反響音をシュミレートし、音で空間を作り上げる技術で、観客は映像を見ながら、登場人物たちと同じ空間にいるような錯覚を覚えます。近年は360°で収音できるマイクや、仮想空間に音を配置できるソフトウェアも販売されていて、VRコンテンツだけでなく映像メディア、音声メディア表現の新たな進化を予感させます。



「ROMA/ローマ」はこの技術を単に取り入れただけではありません。まるで「音が演技している」かのように感じられるほど雄弁に、あるいは優れたサウンドトラックのように、観客の感情や想像力を喚起するよう、効果的に用いられているのです。

一見して地味で物静かな物語ながら、現代的な感性で最新の技術で製作された「ROMA/ローマ」は、例えるなら「超高画質・ハイレゾ音質の小津安二郎作品」。懐古趣味からくるローファイな加工ではなく、あくまでもハイファイを目指しているのです。そしてアップリンク吉祥寺の音響システムは、この作品の持つポテンシャルを最大限に活かすことができるのです。

前置きはこの程度にして、早速本編のシーンと併せてその魅力を解説していきましょう。



3.オープニング・クレジット


画面にいっぱいに映るタイル。

カンカンという足音とともに、
客席のまわりをぐるりと周り、
誰かが移動しているのを感じる。

鳥のさえずり。

バケツを持ち上げる音。

蛇口をひねり、バケツに水が溜まっていく。

やがてタイルの上に水が撒かれ、

四角く切り取られた空が水面に反射する。

ここでようやく、ここが中庭なのだとわかる。

ブラシで床を擦る音がする。

背後から低く唸る音が聞こえ、
次第に大きくなっていくと、
水面に映る空に、
小さな影が斜めに横切っていくのが見えた。

飛行機だ。

バケツから放たれた水はさざ波のように、
泡とともに空を洗い流し、
排水口に吸い込まれていく。



オープニング・クレジットの数分だけでも、これだけ多くの音が溢れていました。画面は中庭の床のタイルを映したままなのに、そこに誰かがいて、世界が広がっていることが想像できる……。まさに「音が演技している」とでも言うほど豊かな表現がなされているのです。



4.音の位置関係・配置


劇中のあらゆる場面で、音の位置関係が明確にされています。

例えば主人公のクレアが鼻歌まじりに家の中を片付けしながら移動するのを、カメラが水平にパンして追いかければ、それに併せて音の位置も移動していきます。クレアの足音、ラジオから聞こえる音楽、吹き抜けの下の階から呼びかける声、全ての音がカメラの移動に併せて移動していくのです。

家族でテレビを見ている時には、自分の真横に子供たちがいて、一緒にテレビを見て笑っているかのような錯覚を覚えます。クレアが騒がしい街を右から左に駆け抜けていけば、車のクラクション、売り子の呼び声やラッパの音色、雑踏なども左から右に流れていきます。

個人的に驚いたのは、クレアがカフェで食事をしているシーン。カメラの左側の厨房で店員が大きな声でやりとりしているのが、客席の真横でから聞こえて生々しく感じるのに、カメラから少し離れたカウンターでクレアが友人と会話している声がはっきりと聞き取れることでした。それぞれの会話が違う場所から聞こえることだけでなく、狭い空間の反響ノイズや他の客の声は適度に抑えられていて、場面として必要な音だけがはっきりと聞き取れるのです。




5.音の輪郭:ドラマ的シズル感


「ROMA/ローマ」の音へのこだわりは、音の位置関係による空間表現だけでなく、音の形、音の輪郭のクリアさにもあります。音の輪郭がはっきりして存在感を持つほどに、観客の感情を刺激していく……。

言うなれば「ドラマ的シズル感」を伴っていると思うのです。

料理番組やグルメ系のCMやドラマでは、映像だけでなく音にも「シズル感」が求められます。肉がじゅわっと焼ける音や、ビールの炭酸がプチプチと弾ける音、喉をゴクリと通過していく音など、聞いているだけでヨダレが出てくるような「シズル感」のある音は、そうしたコンテンツには欠かせない要素です。

このように、聞くだけで心地が良くなったり、あるイメージや感情を掻き立てられるような「ドラマ的シズル感」を持つ音が、本作の中では効果的に使われているのです。


いくつか例を挙げてみましょう。


車庫入れ

クレアの雇い主の医師が帰宅し、高級車のクラクションを苛立たしく鳴らし、神経質にガチャガチャとギアを切り替え、エンジン音を低く唸らせながら、狭すぎるガレージにゆっくり車庫入れしていく。車から鳴る音の印象だけで、医師が不満を抱えていることが感じ取れます。


山火事

山火事の場面では、パチパチと火の粉を散らし、木々が燃えていく音が聞こえます。人々が協力して川の水を汲み、バケツリレーで消火しようと試みますが、なかなか火は収まりそうにありません。その時、一人の男が画面の中心で歌い始めます。穏やかな声で、一人静かに歌い続けますが、その間にも火は収まることなく広がり続け、やがて客席を取り囲んでゴウゴウと燃えていきます。その音のあまりの生々しさに、まるで自分が火事の最中に居るような恐怖を感じ、鳥肌が立つほどでした。


水の音

本作で特に重要な役割を持つ音は、「水の音」です。冒頭の床掃除の水や、洗濯のジャブジャブという景気のよい音、蛇口から滴る水滴、窓の外から聞こえる雨音、心地よい朝のシャワー、そして旅行先の浜辺の波の音。

水は人が生きるためには欠かせないものであり、日常生活に密接に関わるものです。そして天気や海や川などの大いなる自然の一部であり、生命を癒やし、育み、時には奪う力も持っています。そうした水が持つイメージが、本作の通奏低音となっているようです。


エンドロール:風

エンドロールと同時に、すぐに席を立ってしまってはもったいない!
オマケ映像こそありませんが、物語の余韻をたっぷり味わいましょう。

エンドロールでは、風の音や子供たちの笑い声などが聞こえてきます。売店で買った伊良コーラを飲みながら、目を閉じて耳を澄ませてみると、まるで心地よい風に包まれているような気分になります。なんと贅沢な時間でしょう。

このように、音がもつ「ドラマ的シズル感」は、私たち観客の感情や想像力を刺激して、特別な時間を与えてくれるのです。




6.音響システムの感想


アップリンク吉祥寺の音響システムは、いい意味で癖がなく、音の距離感が位置がしっかりと把握できるほど、濁りのないクリアな音質です。音の輪郭がぼやけることなく、小さな音や細かいニュアンスもはっきり聞かせてくれます。

IMAXシアターのように迫力ある轟音や、重低音がズンズンくるという感じは今回は確認できませんでしたが、大きな音でも、いい意味でうるさすぎない、耳が痛くならないという印象を受けました。

しいて言えば、「ROMA/ローマ」は劇伴がほとんど無い(音楽はラジオやステレオから流れるのみ)作品だったので、次回は音楽中心の作品を鑑賞してみたいなと思いました。

と、思ったらこんな企画上映が!



大型シネマコンプレックスとは違ったアプローチで、贅沢な時間を提供してくれるUPLINK吉祥寺は、吉祥寺駅で降りてすぐのパルコの地下2階で営業中です。

有料会員になれば平日の鑑賞料がなんと1000円!土日も1300円に!

その他にも様々な特典が付くので、お近くの方は登録してみてはいかがでしょうか。



(※ 本記事はUPLINK様の「音響レビュー」に応募の上、ご招待を受けて執筆しました)

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