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映画「シャザム!」を読み解く ※ネタバレあり 【大人とは/ヒーローとは】


名前を呼んで




僕がヒーローになるために。


僕たちが、本当の家族になるために。



映画「シャザム!」解説 ※ネタバレ注意!


DCコミックスのヒーロー映画「シャザム!」。日本では「ダサかわ」「悪ノリ全開」と、ポップで笑える面を強く打ち出していますが、これまでのDC映画の魅力でもあったシリアスさを失ったわけではありません。シャザムというヒーローが大人と子供の二面性を持つように、「シャザム!」のストーリーも二面性を持っています。喜劇の裏には悲劇が、悲劇の裏には喜劇があるように。

今回は「シャザム!」のストーリーから、「子供とは/大人とは」「ヒーローとは/ヴィランとは」といった二面性について考えてみたいと思います。本稿には重大なネタバレを含むので、映画を見てから読むことをおすすめします。




☆心を開く/心を閉ざす


主人公ビリーは「シャザム」という言葉で大人の姿に変身しますが、「見た目は大人、中身は子供」という設定はこの作品の面白さの肝でもあります。筋骨隆々の30代くらいの男性が、ビールを一口飲んだだけで「マズい!」と吹き出し、大量のお菓子とコーラを両手に抱えて無邪気に微笑む。その姿は可笑しくもあり、切なくもあります。変身前のビリーは表情も暗く言葉も少なく、むしろ大人びて見えました。両親と離ればなれになって以来、彼は「本当の家族じゃない」と何度も養父母の家を抜け出し、「一人で生きていける」と他人に心を閉ざしてきましたこんなふうに友達と遊び、笑ったことはあったのでしょうか?



彼の願いはただ一つ――「お母さんに会いたい」


しかし魔術師シャザムから力を授かり、大人の姿に変身したことに困惑した彼は、フレディに助けを求めます。この時ビリーは初めて自分から他人を頼ったのです。フレディが彼の胸に輝く稲妻マークに触れた時、二人はようやく打ち解けることができました。

魔術師シャザムはビリーに、「私はお前に心を開いた」と言いました。まずは自分から心を開き、相手を信じ、相手を頼ること、それが鍵なのです。まずは自分の心を開くことで、相手の心を開くことができるのです


一方でドクター・シヴァナは、「自分ひとりの力で生きろ!」という父の教えの通り、努力の末に科学者として成功を収めました。しかし彼は研究所の中に自分だけの部屋を作り、そこに秘密を隠してきました。誰にも心を開かず、他人を騙して利用し、成果を独り占めしようとしていたのです。本作のシヴァナは他にも、父の会社のシーンでは会議室の鍵を閉める、エレベーターの扉が閉まっていくなど、扉を閉めるカットが印象的に使われているように思います。



☆お母さんの赤/サンタクロースの赤


シャザムの衣装は、真っ赤な全身タイツと白いマントで、その留め具にはトラの顔が刻まれています。子供の姿のビリーも、赤いパーカーとトラの顔が描かれたリュックを背負っています。赤はかつてビリーの母親が着ていたコートの色です。そして母親とはぐれた日、ビリーはトラのぬいぐるみを欲しがっていました。

同時に本作の中で、赤はサンタクロースの色でもあります。親とサンタクロースはともに、子供たちに無償で愛や物を「与える者」です。ドイツの心理学者エーリッヒ・フロムが「愛するということ」に記したように、愛とは「与えられるもの」ではなく「与えるもの」。自分の力で何かを得ることが出来ない子供にとって、愛を与えてくれる両親も、おもちゃを与えてくれるサンタクロースも、まるでヒーローのような存在なのです。

ちなみに「バットマン:アーカム・アサイラム」などで有名な人気コミック作家のグラント・モリソンは、サンタクロースの誕生秘話「Klaus」というコミックを著しています。




☆与える者/奪う者:執着を手放す


「与える者」は同時に、「自分の物を手放せる人」でもあります。逆に言えば、ヴィランとは他人から「奪う者」「人や物に執着する人」です。

ドクター・シヴァナが引き連れている怪物「七つの大罪」は、それぞれ強欲・肉欲・暴食・怠惰・高慢・怒り・嫉妬を現しています。ヴィランは自分が得をするために人や物を欲し、それが手に入らないことに怒り、他人を妬み、その強い執着心から、他人のものを奪おうとします。

幼い頃のシヴァナは、父と兄への恨みを抱いていたことで、魔術師シャザムの試練に失敗します。そして魔術師への逆恨みは、魔力への強い執着を生むことになりました。彼は幼い頃に持っていたおもちゃ(占い玉)を、大人になっても手放せずにいたのです。

七つの大罪の力を奪い、父と兄を殺しても彼の執着は止むことなく、ビリーから魔力を奪おうとします。彼の右目に最後まで潜んでいた怪物が「嫉妬」であったように、彼を支えてきたモチベーションは、まさに「力を持つ者への嫉妬」だったのです。



ではビリーはどうでしょう? 彼もまた10年前に別れた母の面影に執着してきました。そのためバスケス夫妻に心を開かず、フレディとの約束を破り、家族との別れを惜しむメアリーにも「自分のために生きろ。他人のことなんか気にするな」と言います。

しかし遂に生みの母親と再会した時、ビリーは残酷な事実を知ります。実は当時、夫に逃げられ自暴自棄になっていた彼女は、警察に保護された息子を見ていたのに、その場から立ち去ったのです。ちなみにこの再会の場面で、彼女は扉を閉め、息子を家の中に迎えようとしませんでした

しかしビリーは母親に怒鳴りつけるでもなく、泣きすがるでもなく、思い出のおもちゃ(方位磁石)を母に手渡しました。彼はただその事実を受け止め、母の無事を祈ったのです、「道に迷うことがないように」と。ビリーは生みの親への執着を断ち切ったことで、ようやく自分が帰るべき我が家を見つけたのです。

また、彼はクライマックスのシヴァナとの戦いで、怯える少女にトラのぬいぐるみを渡しました。かつて自分が欲しがったもの(執着していたもの)を、今このときに必要な人に差し出せるほどに、彼は大人になっていたのです。


ところで、ビリーの母親がしたことは確かに身勝手だったかもしれません。しかしビリーと別れた当時まだ17歳だったのであれば、ビリーを出産したのはおそらく14歳前後。つまり現在のビリーと同じぐらいの子供だったのです。望まない妊娠だったのかもしれません。未成年の少女が誰の助けも借りられず、たった一人で子育てできるでしょうか? あえて息子を誰かに委ねることが、息子への執着を手放すことが、あのとき彼女に出来た唯一の優しさだったのかもしれません。



☆空を飛ぶ/透明になる


本作のもうひとりの主人公であるフレディは「スーパーヒーローおたく」です。彼らが住む世界は「マン・オブ・スティール」から続くDCEUの世界と同一で、つまりスーパーマンやバットマン、ワンダーウーマンらが実在しています。

フレディはネットやテレビを通してヒーローの活躍を知り、彼らのファンになりました。それはちょうど、私たちが映画を通して彼らの活躍を観てきたことや、私たちが子供の頃にアンパンマンや仮面ライダー、プリキュアやセーラームーンに憧れ、ごっこ遊びをしていた日々とも重なります



フレディを通して、私たちはヒーローという存在をメタ的に捉えることができます。ヒーローには何ができるか、ヒーローとはどうあるべきか。彼はビリーにこう問いました。


「空を飛びたい? 透明になりたい?」


大抵の人は天から力を授かったら、それを自分の欲を満たすために使いたいと思うでしょう。ヒーローは空を飛び、誰かのもとに駆けつけ助けることを選びます。だからこそフレディは、ビリーが大道芸で小銭を稼いだり、自分で起こしたバスの墜落を自分で防いだだけなのに、ヒーロー気取りでいることを厳しく叱りました。彼はその力を人のために使ってほしい、ビリーに本当のヒーローになって欲しいと願っていたのです。自分をいじめっ子から助けてくれた時のように。


「僕を見ろよ!」
「みんな僕を透明扱いするんだ。君もそうなのか!?」


これは脚が不自由なだけで「弱者」というレッテルを貼り、彼自身を見ようとしない人々への怒りであり、同時に本気で他者と向き合おうとしないビリーへの怒りでもあります。君を助けたいと思う人がいるのに、なぜ頼ろうとしないんだ、透明になることは誰にも見られないこと、つまり孤独になるってことだぞと、彼は叱っているのです。

家族での食事中に言い合いになったときも、フレディはビリーにこう言いました。


「ヒーローには相棒(サイドキック)が必要なんだ!」


不幸な事件で孤児になったバットマンが、同じく孤児であるロビンを相棒にしていたように、ヒーローには同じ痛みを分かち合い、共に苦難を乗り越える仲間が必要だと彼は言います。ビリーが孤児であるように、バスケス家の全員が親を失った悲しみを知っている、だから君の力になりたいんだと、彼は呼びかけていたのです。


ちなみ「キングスマン」や「キック・アス」の原作者マーク・ミラー「スペリアー」という作品で、身体が不自由な少年が映画のスーパーヒーローに変身する、いわば「フレディがシャザムに選ばれたらどうなるか」という物語を書いています。こちらも感動的な名作なので、併せて読んでみてはいかがでしょう。(※現在、邦訳版は市場在庫のみ)




☆共に生きる/孤独に生きる



ビリーは心を開き、フレディたちきょうだいにその力を分け与えたました。雷鳴とともに子供たち全員がシャザムに変身し、力を合わせ戦い、遂にシヴァナを倒します。ビリーはこう言いました。


「分け合えない力なんて、意味ないよ」


自ら心を開くことで、理解しあえる。誰かの為に与えることで、自分もまた与えられる。互いに助け合い、共に乗り越えていく。そのような関係こそが本当の家族であり、彼ら「シャザム」というヒーローの魅力なのだと思います。

誰にも頼らず一人で生きることも強さの証ですが、それは同時に「孤独」という弱さを抱えています。現代社会では「人を頼るな」「他人に迷惑をかけてはいけない」という自己責任論が広まっているように思いますが、そうした風潮はかえって人々を孤独に追いやり、 結果的に自分をも苦しめているのではないでしょうか。心を開いて人を頼り、「苦しいときはお互い様」という気持ちで助け合うほうが、私たちはともに強くなれるのではないでしょうか。

私たちは誰しも自分の為に行動し、自分が損をすることを嫌がります。でも同時に、人の役に立ちたい、人のために何かしてあげたいという気持ちも持っています。私たちは誰かに頼りにされると嬉しくなるのです。
そして人を頼ることは、相手に自分の弱さを見せることでもあります。
自分の弱さをさらけ出せる力こそが、本当の強さなのかもしれません。



☆輝ける陽の下も/漆黒の夜の闇も


「シャザム!」はこれまでのDC作品の「暗い」「シリアス」「陰鬱」というイメージを覆すほどに、明快でユーモアに溢れた新基軸となる作品でした(「ジャスティス・リーグ」や「アクアマン」も明るい作風でしたが)。
それでも「シャザム!」は、DC作品がこれまで積み重ねてきた物語の延長線上にあり、一つの集大成でもあるのです。最後にスーパーマンたちが辿った軌跡とシャザムの共通点を挙げて、本稿を締めくくりましょう。


シリーズ第1作「マン・オブ・スティール」は、まだヒーローになる前の一人の青年の物語でした。スーパーマンことクラーク・ケントは故郷と産みの親を失った孤児で、地球人の夫婦に育てられました。

クリプトン星人であるクラークの肉体は地球人を遥かに超えた性質をもち、橋から落ちたバスを持ち上げるほどの怪力は周りの人に気味悪がられ、彼はいじめの標的となります。育ての父ジョナサンは「世界はまだ宇宙人を受け入れる準備が出来ていない」と、然るべき時が来るまで正体を隠せと教え、彼の正体を守るために生命を落としました。

放浪の旅の末、彼は遂に産みの親と出会い、自分は特別な力と使命を授かったのだと知ります。しかし宇宙の彼方からゾッド将軍が現れ、彼に姿を現せと迫ります。父ジョナサンが言った通り、人々は宇宙人を恐れました。クラークは牧師に自分の正体を打ち明け、教えを請います。


「ゾッド将軍は信用できない」
「でも地球人も信用出来ないんです」


そんな彼に、牧師はこう答えました。


「まずは信じてみては?」
「信頼関係とはそこから始まります」


クラークは地球人を信じ、人々の前に姿を現します。そして崩壊したクリプトン星のためではなく地球人のために戦い、遂にゾッド将軍を倒しました。





続編の「バットマン VS スーパーマン ジャスティスの誕生」では、人々は彼を救世主と見るか、危険な宇宙人と見るかで意見が割れていました。つまりこの時点では、彼はまだ誰もが認めるヒーローではなかったのです。やがて彼を危険視するバットマンと、彼の力を妬むレックス・ルーサーと戦うことになります。ルーサーもシヴァナ同様、父親を憎み、力に執着してきました。

バットマンことブルースは過去にロビンを喪い、長年の戦いに疲れ果て、いつしかヒーローの道から外れかけていました。しかし彼がクラークにとどめを刺そうとしたその時、奇跡が起きます。


「マーサを救うんだ!」


クラークが母の名を叫んだ時、ブルースはなぜバットマンになったのかを思い出しました。そして気づいたのです、スーパーマンもまた愛する母親を持つ一人の人間なのだと。ブルースは、あの日に救えなかった「マーサという名の母親」を救ったことで、自分の心も救われたのです。

二人の孤児が手を取り合い、過去に愛する人を失ったワンダーウーマンが合流し、怪物ドゥームズデイに立ち向かいます。死闘の末に、クラークは自らの生命と引き換えに世界を救いました。彼の死を悼む碑に刻まれた言葉はこうです。


「彼の記念碑を見たければ、周りを見よ」


スーパーマンが与えた希望と正義の心は、確かに人々の心に伝わっていたのです。「Dawn of Justice(正義の夜明け)」という原題の通り、暗く長い夜が明けようとしています。


3作目「ジャスティス・リーグ」ではアクアマン、サイボーグ、フラッシュと、孤独に生きてきた超人たちが集まります。彼らはスーパーマンを復活させ、ステッペン・ウルフから世界を守りました。彼らは誰もが認めるヒーローに、そして強い絆で結ばれた家族になったのです



一人の孤児から始まった物語は、長く暗い夜を越え、ようやく朝を迎えました。そして彼らの活躍に夢中になった子供たちが、今また新たなヒーローへと成長し、新たな物語の扉を開くのでした。


☆映画「シャザム!」は現在全国映画館で絶賛上映中!


☆原作コミックも好評発売中!



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しあわせだなぁ、ぼかぁ、しあわせだなぁ
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おそばBOYうどん太@脚本読解

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おそばBOYうどん太のアメコミレビュー

アメコミ紹介記事をまとめています。

コメント1件

素晴らしい評で、とても勉強になりました!
DC映画の観方を教えてもらった気がします!☆拍手!!(゚∇゚ノノ\☆(゚∇゚ノノ\☆(゚∇゚ノノ\喝采!!☆
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