【神という虚構】 「MISTER MIRACLE」を読み解く(3) 【物語の力とは】

完全ネタバレにつきご用心!

先に全12話を読んでからの方が楽しみが倍になりますよ。

今回は第8話〜第9話までを振り返ります。

☆第8話


オライオンからハイファーザーの地位を受け継ぎ、ニュージェネシスの指導者としてアポカリプスとの戦争を指揮するスコット。妻のバルダと交代で戦場と子育てする日常を行き来する日々が描かれます。そしてなぜかジェイコブの子守役として居着いたファンキー・フラッシュマン。

①戦場。スコットの怪我の治療中にバルダから電話が。ジェイコブは車に乗っているときはおとなしくしているので、家の中にもチャイルドシートを置いてみようかという話になります。

「進化とか神っていうのはね」
「なぜ人がそれを必要とするかというとね」
「苦痛を忘れるためなんだよ」

(引用:MISTER MIRACLE #8 より、拙訳)


②自宅。スコットはファンキーに、ベビーベッドにバットマンのぬいぐるみを置いたことを叱ります。赤ん坊はぬいぐるみを口に入れようとして窒息死する可能性があるからです。

「なぜだい?! 僕もバットマンを持ってた!みんなもバットマンを持ってる!」
「バットマンは赤ん坊を殺さないぞ!」

「違う、絶対に」
「人々は知っている」
「バットマンは赤ん坊を殺す」

(引用:MISTER MIRACLE #8 より、拙訳)

☆「不殺」の誓いを立てたバットマンのぬいぐるみが、子供を殺してしまうかもしれない?


③戦場で大勢の兵士が命を落とす中、バルダは電話でジェイコブが笑ったことを嬉しそうに伝えます。

④自宅。ジェイコブがベビーベッドで泣いています。

「見ろ!いやいやしてるぞ!」

「アアアアア!!!」
「アアアア!!!」

「たぶんハイハイしようとしてるんだ」
「タミータイムが必要なんだよ」

(引用:MISTER MIRACLE #8 より、拙訳)

タミータイムとは、保護者の監視下で赤ん坊を腹ばいで過ごさせること。
しかしファンキーは嫌がっているジェイコブを抱き上げます。

「それは…グラニーはそんなことしなかったな」(ノイズ)

(引用:MISTER MIRACLE #8 より、拙訳)

☆スコットは自身の子供時代を思い出して、心がざわつきます。


⑤戦場。敵の兵士であるパラデーモンの子供を、ライトレイは殺してしまいます。

☆ヒーロー(であるはず)のライトレイが、赤ん坊を殺しました。


⑥自宅、成長したジェイコブが歩けるようになったところを、スコットとファンキーはマザーボックスで戦場にいるバルダに見せます。

「さすが僕のジャックだ! 彼こそキングだ!」

(引用:MISTER MIRACLE #8 より、拙訳)


⑦戦場。死体の山に囲まれ、疲れ切ってその場に伏せるスコット。

「ダークサイドが在(い)る」

(引用:MISTER MIRACLE #8 より、拙訳)

するとバルダから電話が。ジェイコブにスコットの写真を見せると、「ダァ!」と反応するのです。スコットは再び立ち上がり、歩き出します。

☆戦いに疲れ、心が挫けそうになり、反生命方程式に襲われそうになったスコットは、ジェイコブの声に励まされました。

☆スコットが歌っているのは、マザーグースの子守唄「Hush little baby(おやすみ赤ちゃん)」の歌詞を「ママ」から「パパ」に置き換えたもの。


☆第9話


①惑星アポカリプス、ダークサイドの城で、ニュージェネシスとアポカリプスの停戦協定を結ぶため、ダークサイドの実子カリバク(オライオンとは血の繋がった兄弟)とスコットが交渉しています。

②スコットが手洗いの場所を聞くと、アポカリプス軍のカントーが彼を案内します。カントーはかつて、ルネッサンス期のイタリアに数年間滞在していたと言います。用を足しながら、カントーはその当時に出会ったレオナルド・ダ・ヴィンチとのエピソードを語り始めます。

ダ・ヴィンチは彼に、ある画家と弟子の物語を話したそうです。
その弟子は、師匠よりも自分のほうが実力があることを示すため、絵画コンテストで勝負しようと申し出ます。画家と弟子は1年間かけて完成させた絵画にカーテンを掛け、屋外で聴衆の前で披露し、どちらの絵が優れているのかを競います。

弟子がカーテンを開けると、そこには何の変哲もないブドウの絵が。すると空から鳥たちがその絵に集まり、ブドウをついばみ始めたのです。

勝利を確信した弟子は、師匠に早くカーテンを開けるように促しますが、師匠の画家はこう答えました。

「カーテンとは何のことかな?」

(引用:MISTER MIRACLE #9   より拙訳)

☆「キャンバスに描かれた絵画(虚構)が、リアリティという力を持ち、現実との境が曖昧になる」というエピソード。


③交渉が始まって3日目。バルダがボーン・ワインを飲んでいます。ボーン・ワインとは、捕虜となったニューゴッズの骨髄を発酵させたもの。バルダはグラニーとフューリーズでこれを醸造し、ダークサイドへの貢物としていたのです。

④5日目、カリバクは交渉の進展を祝し、スコットに「THE MIRROR OF GOODNESS(グッドネスの鏡、善良なる鏡)」を授けます。これはグラニー・グッドネスが所持していたものです。

「矯正手術のたびにいつもね。全ての皮膚を移植した後」
「レーザーで私たちの見た目を変えるたびに」
「彼女はいつも同じことを言ってた」
「『お前の見た目は美しくても…』」
「『その中身は…』」
「『お前は私のものだ』」

「常に謙虚でいろってことか」


(引用:MISTER MIRACLE #9   より拙訳)

しかし、スコットとバルダが鏡の前に立つと、そこに写っているのは怪我だらけの醜い姿でした。

☆死してなお、毒母であるグラニーはスコットに呪いを遺していました。


④6日目。カントーはスコットに、先日彼が話したダ・ヴィンチの話は作り話だと打ち明けました。

☆「虚構がリアリティを持ち、現実との境が曖昧になる」という話もまた、作り話(虚構)でした。スコットはそうと知らずにカントーの話を信じていました。ここでもまた、現実と虚構の見分けがつかなくなっていました。


⑤7日目、ダークサイドがこれまでの詰め合わせてきた条件を拒否し、新たな条件を提示してきました。カリバクによれば、アポカリプスは直ちに軍を撤退させ、全ての捕虜を返還し、さらに武装解除した上でニュージェネシスの査察を許可し、反生命方程式を放棄するという信じがたいもの。しかしその代償として、ダークサイドはスコットにジェイコブを差し出せと要求しました。

☆フォースワールドの全体の平和か、息子の未来か、スコットは究極の選択を迫られます。


☆第10話


①アポカリプスから帰還したスコットとバルダ。二人はダークサイドの条件を受け入れるか拒否するかを決断しなければいけません。それは出産からちょうど1年が経過した頃でもあり、ジェイコブの誕生日を祝う準備をします。

②夜、ジェイコブが寝ついてから、スコットは戦争について話そうと切り出しますが、バルダは拒絶し、怒りのあまりポスターの入った額縁を割ってしまいます。

☆散らばったガラスの破片に、笑みを浮かべるダークサイドの顔が写り込んでいます。


③二人が判断を先延ばしにしている間にも、刻々と戦況は悪化していきます。

④スコットはスーパーでの買い物中に、レジ係に意見を求めます。彼は、人生にはより多くの幸福が必要であり、多くの人々の幸福を最大化することが重要なのだと言います。

「それはほとんど数学とか方程式みたいなもので、
 つまり、人生とはどう在るべきかってことで」
「生命方程式(A LIFE EQUATION)とでもいいますか」
「より多くの人々の幸せには何が必要ですかね」

(引用:MISTER MIRACLE #10 より拙訳)


レジ係は早く戦争を終わらせることと、多くの民を失ってでも息子の命を守ることとどちらが幸福かを、よく考えるべきだと言います。

「クソですよね、わかります、でもそれが人生ですよ、ね」
「やるべきことしなきゃ…」
「人は決してそれから逃げ出すことはできない」

(引用:MISTER MIRACLE #10 より拙訳)


⑤公園でジェイコブを遊ばせながら、スコットとバルダは話し合います。スコットは、自分たちはアポカリプスで育ち、今は地球で共に暮らせることを幸福だと言います。しかしバルダは反論します。

「あんたがトイレで血を流して倒れてるのを私が見つけたから?」
「だから私たちは上手くやってるって言うの?」

(中略)

「オーベロンが死んで、僕は…」
「僕はなんでもやったた、今までやりたかったこと全部、
 でもそれだけは別だ…」
「僕はただ逃げるしかなかったんだ」

(引用:MISTER MIRACLE #10 より拙訳)

バルダはスコットの自殺を身勝手だと責めます。

「あんたが本当に逃げ出したかったものって何?」
「私なの?」

(引用:MISTER MIRACLE #10 より拙訳)

(中略)

「で、あんたはこの子を奴らに渡そうとしてる」
「それでこのクソッタレな戦争に勝てるんだもんね!」
「何か問題でもある?」

「僕らは…問題から抜け出せる」

「無理だね」
「問題なのは私たちだよ」
「ヤツじゃない」

(引用:MISTER MIRACLE #10 より拙訳)

☆バルダは、問題なのはスコットと自分の関係であって、ダークサイドのせいではないと言います。

☆オーベロンの死へのショックが、スコットを自殺に向かわせたのでしょうか?


⑥ジェイコブの誕生日会の飾り付けの最中、ファンキーはスコットに、ジェイコブ二人で創った物語を話します。

「ファンキー。あの子はまだ、6つぐらいしか言葉を知らないぞ」

「天才ジェイクは話す必要ない!ファンキーが沢山しゃべるんだ!」
「あの子は想像力を引き出してくれるんだ!」
「僕がそれを言葉にするのさ!」

(引用:MISTER MIRACLE #10 より拙訳)

それは、星を喰らう神、スターイーターと、彼のために星を探す犬、ゴールデン・レトリバーの物語。

ある日、レトリバーがスターイーターのために星を見つけますが、それが太陽だったため、地球に危機が迫ります。そのとき地球では、ジェイク・ジョーンズという少年がレトリバーが友達になります。レトリバーには今まで友達がいなかったのです。やがてレトリバーはバットマンの力を借りてスターイーターを退治させます。

「そのとき!」
「ゴールデン・レトリバーは見つけたのだ、我が家を!」
「そして愛を!」

(引用:MISTER MIRACLE #10 より拙訳)

☆ファンキーがジェイコブと共に創った物語は、スタン・リーとジャック・カービーが描いた「ファンタスティック・フォー」の名作エピソード「カミング・オブ・ギャラクタス」をアレンジしたもの。

☆同時に、アポカリプスを脱出したスコットの境遇にも重なります。


⑦スコットはジェイコブを差し出すためにダークサイドに会い、そこでダークサイドを殺すと決意します。仲直りした二人は再び愛し合いますが、最後のコマは「ダークサイドが在(い)る」。



【考察】

さて、今回取り上げた8〜9話は、ジェイコブの子育て、泥沼化する戦争、和平協定と、ダークサイドの罠、そしてスコットの決断までが描かれました。クライマックスに向けてジワジワと読者の心を締め付ける展開でしたが、いくつか注目すべきポイントがあります。


☆2つの物語(虚構)


リアリティ

第9話ではカントーが「画家と弟子」の物語を、第10話ではファンキーがジェイコブからインスピレーションを受けて考えた物語を語りました。

「画家と弟子」は、両者が絵の実力を比べようと対決をすると、弟子の書いたブドウには鳥が寄ってきて、師匠の絵は、本物と見紛うカーテンの絵が描かれていました。どちらも、現実と虚構の境目が曖昧になるほど、リアリティ溢れる作品だったのです。
この物語は、カントーがダ・ヴィンチから聞いたという体で話したものでしたが、それもまた作り話(虚構)だったのです。彼の話をすっかり信じていたスコットは、虚を突かれます。

本作で、反生命方程式に脅かされたスコットは、「時々、何がリアルかわからなくなる」と発言していましたが、フィクション=虚構は「リアリティ」という力を持ち、現実に溶け込む、現実に侵食していくことが可能なのだと、カントーの物語は暗示していると考えられます。


レトリーバーとスコット

もう一つの物語は、ファンキーがジェイコブの子守をしながら思いついた物語です。ジェイコブはこれから1歳の誕生日を迎えようとしているので、言葉もまだ喋れません。ですがファンキーは、自分は、彼がくれたイマジネーションを言葉にしただけだ、と言います。ファンキーとジェイコブは、それぞれスタン・リーとジャック・カービーをモデルにしていて、本作でも、ファンキーはジェイコブを「天才ジャック!」「僕のキング!」と、「漫画の王様」と呼ばれたカービーのように褒め讃えています。

スタン・リーのいわゆる「マーベル・メソッド」という創作手法は、アーティストとライターがストーリーの大まかなあらすじを考え、先にアーティストが作画を済ませてしまい、そこにライターがセリフを当てはめるというもの。本作でも、ファンキーはジェイコブが描いたと思われるイラストから、言葉を紡ぎ出しています。そうしてできた物語は、スタンとカービーの代表作の一つ「ファンタスティック・フォー」の人気エピソード「カミング・フォー・ギャラクタス(ギャラクタスの襲来)」のあらすじにそっくりです。

しかし同時に、スターイーターの手から逃れ、人間の子供との関わりによって愛の意味を知ったゴールデン・レトリーバーの境遇は、アポカリプスから脱出し、地球で先代のミスター・ミラクルとオーベロンと出会い、初めて安らげる居場所を見つけたスコットの境遇とも重なります。そしてこの物語は、少なからず、スコットの心を動かしたはずです。つまりフィクション=虚構には、人を鼓舞する力もあるのです。


「ヒーロー」という虚構

上記の2つの物語(フィクション=虚構)以外にも、フィクションにまつわるエピソードがありました。

1つ目は「バットマンは赤ん坊を殺す」。「不殺の誓い」を立てたバットマンのぬいぐるみが、皮肉にも赤ん坊を窒息死させてしまうかもしれない、という話をした場面のあとで、アポカリプスではライトレイがパラデーモンの赤ん坊を殺してしまいます。ライトレイはコミックの中ではれっきとしたヒーローの一人だったのですが、「戦争」という現実では、このような残酷なことが繰り返されているのです。

コミックのヒーローという「フィクション=虚構」は、現実においては子供を楽しませるものであると同時に、子供を傷つけるものでもあるのです。



「神」という虚構

そしてもう一つは、何気ない会話でバルダが口にした言葉です。

「進化とか神っていうのはね」
「なぜ人がそれを必要とするかというとね」
「苦痛を忘れるためなんだよ」

(引用:MISTER MIRACLE #8 より拙訳)


ベストセラーとなった「サピエンス全史」には、ホモ・サピエンスは目の前に実在しないもの(虚構)について考える力を得たことで、急速に繁栄することができたと書かれています。そして人口の拡大と共に、社会を安定させる秩序として、「神」と「神話」を生み出したのだと、著者は考えています。

つまり、人類の歴史に置いて「神」とは、始めから「その実在は確認することができないもの=虚構」だったのです。

ニューゴッズという「神」の一員であり、同時にメタ的に解釈すれば「コミックのヒーロー」でもあるスコットたち。彼らは肉体を持ち血が流れる「人」であると同時に、「虚構」としての一面も携えているのでしょうか……?


グッドネスの鏡

前回までの解説でも明らかだったように、スコットの根本的なトラウマは、子供時代にグラニー・グッドネスから受けた虐待が原因でした。そしてそれはスコット自身が「戒め」だと受け止め、気づかぬうちに認知の歪みを起こしてしまうくらい、根深い「呪い」となっていました。

第9話で、カリバクから手渡された「グッドネスの鏡」は、「お前は私のものだ」というメッセージとともに、スコットやバルダの、怪我だらけの醜い姿を映し出します。文字通りの支配欲の現れであり、見る者の自尊心を打ち砕く、強烈な「呪い」の鏡です。

例えば、DV彼氏が被害者である彼女に、「お前はブスだからな」と言って自尊心を傷つけつつ、「ブスな私を愛してくれる唯一の人」と思い込ませてしまうような、あるいは毒親が「お前はかわいくない」とか「本当にダメな子だ」と言って、子供の認知を歪めさせ、心を支配してしまうようなもの。この鏡もまた、スコットを自分の支配下に置きたいという歪んだ欲求の現れであり、「虚構」である。真実を映しているとは考えない方が良いでしょう。スコットがジェイコブに子守唄を唄っている時に「もしも鏡が割れたら〜」のコマにノイズが走っていることにも、関係があるのかもしれません。


さあ、物語もいよいよ大詰め。
スコットとバルダはダークサイドを倒し、
ジェイコブを守ることができるのか!?
そして、読者を大いに困惑させた
あの結末はどう解釈すべきか!?
神の顔とは何だったのか!?

Darkside is.
ダークサイドが在(い)る。


☆MISTER MIRACLE 待望の単行本がついに発売!!

☆カービー版も絶賛発売中!


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どすこい
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おそばBOYうどん太@脚本読解

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