contagion

 お前を殺す。誰が見ていようとも、お前がいなくなっても、生まれ変わっても、お前を殺す。忘れてしまっても殺し、思い出したときにもそう。北を更に北へ行き、もうそれ以上進めなくなった場所でも、お前を殺す。三度殺して、また次、四度目にお前を殺す。均等に、割り切れる数で、お前を殺す。本当は絶望なんて大それたものは何処にもないと気付いたときに、自分が何よりも忌避していたであろういくつかの過去が笑いかけたときに、お前を殺す。生ぬるい空気が漂う洗面台の前で、洗っても洗っても落ちないものが溢れ出てきたとき。どうしてこんなに平等に時間が流れていくのか、疑問に感じながら歩く静かな住宅街の真ん中で。コンビニエンスストアの時計の真下で。いくつも殺し、たった一回だけ殺す。縋り付いた鈴の音に心奪われたときにも。つよいひかりのなかでさえ殺す。そして、すれ違う地獄の中でお前を殺す。

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