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シリーズ・コロナ禍と資本主義 宅配の闇(7)12時間働き、200個配る

2022年3月24日【経済】

 2021年12月。クリスマスを目前に控えたある日、宅配ドライバーの池原誇有紀(こうき)さん(28)の車に記者が同乗しました。配るのはもっぱら、ネット通販大手アマゾンの荷物です。

 朝7時50分。物流センターでは、積み込み作業を終えた軽バンが1台また1台と倉庫から出て行きます。

 30台ほどの駐車スペースはほぼ満車です。

配送ルート

 配達車両ごとに積み込み作業の時間帯が決められています。池原さんの持ち時間は15分。車から飛び降りると、第1便で配達する分の荷物を受け取りに走ります。右手にはスマートフォン。アマゾンの配達専用アプリ「アマゾンフレックス」を起動し、表示された配達先を入念にチェックします。頭の中で配送ルートを組み立て、配達順序を考えながら荷台を埋めなければなりません。時間指定が早い荷物は手前に、配達地域が遠い荷物は奥へ―。箱と箱のわずかな隙間にも小包をはめ込みます。

 「お時間でーす」。倉庫のスタッフにせかされます。

 荷台に入りきらなかった小包を膝に抱えて勢いよく車を発進。135個の荷物を載せた軽バンは、首都圏のマンション街へ向かいました。

 「お昼ご飯の時間も考えて午後2時までには終えたいなあ」

 3分に1個以上配らないと終わらない計算です。

 出発から10分後。最初の配達先に着きました。車を路肩に止め、配達先の住所や氏名をアプリで確認して荷物を探します。

 「アマゾンです!」

 不審者と誤解されないよう、段ボール箱に印刷されたアマゾンのロゴを見せながらインターホンを押していきます。エレベーターがない建物では階段を全力疾走です。「よし次!」。車を数メートル走らせては止めて配達、また走らせては止め…。エンジンを切る暇さえありません。

 「時間指定の荷物がいちばん要注意だね。そこへ行くまでの道で1個でも荷物を減らすのがコツ。でないと来た道を戻って配達しなきゃいけないでしょ」

 ドライバーになって7カ月。荷さばきは手慣れてきました。当初は1日60個でさえ配りきれず、先輩の応援に頼っていました。今では平均200個をこなします。週5日、1日12時間以上走り回るうち、後輩の応援に入るほどの腕利きになりました。

 それでも予期しない事態は起こります。住所不備で配達先が分からない。宅配ボックスが満杯で商品を入れられない。時間が刻一刻と失われていきます。

 第1便の配達を終えてようやく昼食を取ったのは午後2時半でした。大盛りのハンバーグ定食を一気にかきこむと、30分で休憩を終え、第2便の積み込み作業へまた倉庫に戻ります。

 夕方6時半。車の外に出ると、民家から焼き魚の香ばしい匂いが漂ってきました。

 「眠くなってきた。さすがの池原も疲れてきたよ~」

疲労の影が

 茶目っ気交じりでおどけてみせるものの、顔には疲労の影が。口数が減り、ため息が増えます。仕事を終えた人たちの在宅率が上がるこの時間帯は時間指定の荷物が多い。集中力をさらに高めて効率的な配送ルートを頭の中で組み立てます。

 配達を終えたのは午後7時半。計200個もの荷物を配り切りました。家路についたのは午後8時です。

 「家に帰り着くのはいつも9時くらいかな。2人の子どもはもう寝ているよ」

 12時間以上走り続けた軽バンが、最後の荷物となった記者を降ろして、夜の街へ消えました。(つづく)

これまでの、コロナ禍と資本主義。


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