AIと民主主義 経済研究者 友寄英隆さん(5)技術の危険性 念頭に活用〜すべてがNになる〜

2024年5月18日【経済】


 最後に、現在の矛盾に満ちた資本主義社会を民主的に変革する立場から「人工知能(AI)と民主主義」について考えてみましょう。

体制擁護の応答

 筆者は社会科学と生成AIの利用に関する論文を準備中に、自然な文章などをつくる生成AIの「チャットGPT」にマルクス経済学について質問してみました。「経済学における労働価値説について解説してください」と。

 AIと何回も応答を繰り返したあと、AIの出した結論は、労働価値説は現代的でないと否定的でした。そこで、拙稿では次のように指摘しました。

 「生成AIを利用するさいに忘れてならないことは、現在の世界の主要国は資本主義社会だということです。利潤追求が経済活動の基本目的になっている社会です。生成AIが利用しているデータの圧倒的材料は、現体制を前提としています。そのために、生成AIは体制擁護のイデオロギー的な道具になる危険があります」(「生成AIを社会科学はどう読み解くか」『治安維持法と現代』第46号、2023年)

 AIを利用したプロファイル(人物履歴)にジェンダーバイアス(性別によるあやまった偏見や差別)が生まれることがあります。そのため企業の採用や昇進、行政機関や信用評価のための金融機関の審査などの分野でAIを利用するとジェンダー不平等が拡大する可能性があります。

 ジェンダーバイアスが起こるのは、AIのアルゴリズム(動作を規定する手順)の設計や学習データが現代社会の偏見や差別を前提としているからです。社会科学についての生成AIの応答が「体制擁護」的になることと同じ原理です。

 AIによるジェンダーバイアスを防ぐには、データの選定やアルゴリズムの設計を改善することが必要です。しかしなにより大事なことはAIに過度に頼らず、人間が主体になって社会を変革していくことです。

 AIは現代社会の民主的な変革にとって積極的な可能性も生み出しています。代議制民主主義をいっそう発展させるために、AIを利用して直接民主主義を活用する条件です。

変革理論の発展

 AIの利用が可能な最新のスマホを使えば簡単に日本や世界の人びとと直接会話できます。「Zoom(ズーム)」などのアプリを利用すれば、外国在住の人たちとも国際会議を開けます。AIやデジタル技術は、時間と空間の制約を超えて人と人の結びつきを可能にしています。

 しかし、こうした直接民主主義の技術的条件は、現実の資本主義社会では、情報格差、情報セキュリティー問題(個人情報保護など)、情報犯罪(偽情報など)によって実現を阻まれています。

 人間社会のさまざまな分野でAIの利用やデジタル化が進むことは、新しい科学・技術の応用による社会的生産力の発展の結果であり、そのこと自体は人類文明の進歩を意味します。しかしAIやデジタルの技術には、原理そのものに危険な要素が内包されていることを銘記しておく必要があります。

 とりわけ人類社会の進歩と発展をめざす民主的社会変革の運動にとって、AI技術の原理が持つ特徴・限界・危険性を深くとらえたうえで、社会変革の理論そのものの創造的な発展をめざすことが求められます。(おわり)


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