科学リポート PFAS 日本の安全 世界の懸念 許容摂取量 ゆるい指標値血中濃度 米独勧告の十数倍 国の食品安全委〜すべてがNになる〜

2024年2月20日【社会】

 PFASは、米軍基地や工場周辺の地下水など各地で汚染が広がり、発がん性のほか、新生児の体重増加抑制や免疫抑制、脂質異常など、健康への影響が指摘されています。

 世界的に規制強化の動きが強まるなか、日本政府も検討を開始。食品安全委員会が6日に了承した評価書案では、PFASの一種であるPFOAとPFOSのヒトの1日の許容摂取量を、それぞれ体重1キログラム当たり20ナノグラム(1ナノグラムは10億分の1グラム)とする指標値を示しました。体重50キログラムなら、これら2種類をそれぞれ毎日1000ナノグラム摂取しても問題ないとするものです。

汚染を「安全」

 この指標値について「世界で健康が懸念されているレベルが、日本では安全だとされてしまう」と警鐘を鳴らすのは、小泉昭夫・京都大学名誉教授(環境衛生学)です。

 小泉さんの試算によると、この量を毎日摂取し続けた場合、血中濃度はPFOAが1ミリリットル当たり143ナノグラム、PFOSが同250ナノグラムになります。全米アカデミーズやドイツの専門委員会が健康への影響の可能性が懸念されるとする勧告値の十数倍です。(グラフ)

 実際、深刻な汚染が昨年発覚した岡山県吉備中央町では、522世帯に給水する浄水場の水質検査で、最近数年間にわたり1リットル当たり1000ナノグラム程度(最大で同1400ナノグラム)という高濃度のPFOAが検出されています。毎日2リットル飲めば、1日のPFOA摂取量は2000ナノグラム程度になる計算です。

 この地域の住民27人の血液調査の結果、PFOA濃度は平均で1ミリリットル当たり171・2ナノグラム。全国平均(同2ナノグラム程度)の80倍を超える値でした。ドイツの勧告値の17倍超で、米国の勧告値(PFAS7種類の合計)も大きく上回っています。

 これらの住民が摂取したと考えられるPFOAの量や血中濃度と同レベルを許容する食品安全委の指標値について、小泉さんは「吉備中央町なみの汚染が安全だと宣言するに等しい」と批判します。

 小泉さんは、食品安全委の評価書案について、あまりにも高い血中濃度を容認する内容に加え、▽国際がん研究機関(IARC)がPFOAを「ヒトに対して発がん性がある」、PFOSを「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」と分類した判断を無視している▽新生児の体重増加抑制効果や免疫毒性を示すデータをきちんと評価していない―など、指標値の算定過程の問題点を指摘します。

 評価書案は今回、検討対象のうちPFHxSを「指標値の算出は困難」としました。「環境や血液で多く検出され、発達毒性が指摘されている物質を忘れろと言っているようなものだ」と小泉さん。

国策への忖度

 小泉さんは、経済安全保障の観点から位置づける半導体分野などで不可欠なPFASを規制したくない国策への“忖度(そんたく)”が背景にあるのではないかと考えています。「食品安全委は、最新のデータや評価を疑って指標値算出から除外するのではなく、予防原則に立って国民を守るべきだ」

 欧州食品安全機関(EFSA)は、食品安全委の指標値の60分の1未満の許容摂取量を設定しています。小泉さんは、こうした世界的な流れの中で、日本も厳しい基準を検討すべきだといいます。

 小泉さんは、評価書案への意見募集(期限=3月7日)に「市民の素朴な意見を」と呼びかけています。

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