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sushi 21 「平屋のおばあさん」

土曜日のお昼前、スーパーで買い物をした。ご近所店なので徒歩で向かいつつ、最終的にエコバッグにネギや豆腐を詰め込んで帰った。片側二車線の少し大きめの交差点で信号待ちをしていると、手押し車に買い物袋を乗せたおばあさんが、私と同じく青信号に変わるのを待っている。でもどこか様子がヘン。
手押し車に両手で体重をかけているのか、カタカタ身体が揺れていて、今にも道路に飛び出しそうな勢い。
少しハラハラしながら横目にみていると、一瞬のはずみでおばあさんが飛び出してしまった。
「わー!」と私が叫びながら手押し車を掴んで歩道に引き戻し、なんとか事故になるのは防ぐことができた。おばあさんも何が起こったのか分かってなくて、目をパチパチさせていた。
「ごめんな、考えごとしててん。ありがとうなぁ」
手押し車を握る手が少し震えながら、こっちを見てにっこりしてくれた。とりあえず、青信号に変わったので手を繋いで横断歩道を渡った。

話を聞くと、ご主人に先立たれてそろそろ5年らしく、この近所で暮らしているようだった。自分で買い物しているということは一人暮らしなんだろうか?と思いつつ、深くは聞かないようにする。
「昔は市内(和歌山市内)の方で、大きいマンションに住んどったんやけど、実家をほっぽり出して買うたマンションやったから。旦那が先に死んだ時、バチが当たったんやなと思たよ。やから実家に数年前に戻ってきたんやけど、あかんな、ぼーっとしてたら」
おばあさんは自分を落ち着けるためにかニコッとはにかんだ。前歯が一本ないなーと思ったけど、なんとなくつられ笑いした。

私が小さい頃は「お年寄りに電車の座席を譲ろう」とか「地域で声を掛け合って不審者による犯罪を防ごう」的な、知り合いじゃない人とも関わりを持つことを推奨する世の中の流れがあったけど、今となっては田舎の和歌山ですら近所間での関わりは薄くなりつつある。
近所のスーパーでも顔を覚えているのは、半額シールのついた惣菜を獲り合うおじさん達だけ。
「お家、どの辺ですか?良かったらそこまで送りましょうか?」と、今のご時世では個人情報保護的にグレーだと分かりつつ、声をかけてみた。
「ああ、ありがとうね。実はこの家なんよ、もう着いたわ」
おばあさんの指差した方を見ると結構でかい平屋。手入れの行き届いた、庭のきれいな家だった。
その後、仲良くなって毎週入り浸るようになるようなことはなかったけど、割とご近所さんなのでその平屋の横を通り過ぎる時におばあさんのことを思い出してる。


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