世界がデスゲームになったので楽しいです。短編
私の名前は常春清。
高校一年生。
私は今、食事をしている。
無神経にも、だ。
数日前。
学校に不審者が現れた。
人を食べる不審者。
その正体は、死鬼。という死んだ人間が生き返ったモノなのだそうだ。それが今世界中に現れているらしい。
そんな大変な事態に、のんきに食事をしていいのだろうか。
とどうしても険しい表情を浮かべてしまう。
「まだおかわりあるよ? 食べる?」
「お願いします」
と、私は即答してしまう。
聞いてきたのは、つい数時間前に私を助けてくれた明星真司という三年生の先輩だ。
死鬼のことや、今の世界の現状などを教えてくれたのも、彼だ。
「まだ十分に食料はあるからね。遠慮しなくていいよ」
と、明星先輩は大盛りに盛られたミートソースのパスタを置いてくれる。
もしかしたら、さきほどの険しい顔が、おかわりを貰うか悩んでいるように取られたのかもしれない。
少々気恥ずかしく思いながら、先輩が作ってくれたミートソースのパスタを食べる。
美味しい。
「お料理上手なんですね」
「いや、それはこのカフェに作ってあったモノだから、俺は何もしてないよ。料理は正直得意じゃない」
「そうなのですか」
私はいつも弁当なので、カフェや学食は利用したことがないで分からなかった。
こんなに美味しいなら、一度くらい食べに来てもよかったかもしれない。
「常春さんは料理するの?」
と、先輩が聞いてくる。
「……まぁ、人並みには」
私の実家は古武術の道場をしている。
もちろん、私も幼い頃から稽古にあけくれていた。
武道家にとって、食事は体を作るために大切なモノだ。
なので、料理も幼い頃から作らされてきた。
……もっとも、今年の夏に祖父から聞かされた話だと、私には許嫁がいたらしい。
なので、料理を作らされてきたのも、実はその許嫁と結婚させるための花嫁修業だったのではないかと正直疑っている。
「そっか。じゃあ明日は常春さんにご飯を作ってもらおうかな」
と先輩が少しだけ声を弾ませて言ってくる。
「私に、ですか?」
「うん。正直、同じようなモノばかり食べていてちょっと飽きてきたんだよね」
と、先輩が苦笑する。
「……飽きたって、何をゼイタク言っているんです? こんな状況だと、ご飯を食べられない人もいると思いますよ」
私は先輩を睨みつける。
食事を食べられるだけありがたいと思わないと。
実際、私は数日こんぺいとうだけで過ごしてきたのだ。
「……まぁ、そうだね。ゴメン。さっきの話は忘れて」
謝りながら、先輩は私の前の席に座る。
「先輩は食べないのですか?」
「まだお腹が空いてないんだよね。後で食べるよ」
「そうですか」
私はちらりと先輩を一瞥すると、食事を再開する。
すでに二杯目の大盛りパスタなのに、ツルツルと無くなっていく。
数日ぶりの食事だ。
よほどお腹が空いていたようだ。
黙々とパスタを食べていると、ふと先輩の目線が気になった。
何やら、私の顔の下辺りを見ている気がする。
顔の下、というかこれは……
その明星先輩の目線は、私がよく感じる目線だ。
主に、男性から。
「……どこ見ているんですか?」
私は、先ほどよりも冷たく、睨みつけながら言う。
すると、先輩は慌てたように顔を上げた。
「……へ? 見てたって、何を?」
「とぼけないでください。今私の胸を見ていましたよね? 女の子はそういうの鋭いんですから、とぼけても無駄です」
はっきりと私が言うと、明星先輩はバツが悪そうに頬をかいている。
「いや、ゴメンナサイ。でも、今は常春さんノーブラだから……あっ」
明星先輩が口を覆う。
……ノーブラ?
と、そこで私は気が付いた。
血が付いたブラなどの下着を、私は付けていない。
そして、今の私の服装は、生地の薄い体操服だ。
私は顔が紅くなるの感じながら慌てて胸を隠す。
「……この、変態! 最低です! 最低!」
「ご、ごめんなさい! でも、どうしても見ちゃって!」
「言い訳なんてしないでください!」
それから、私は再び先輩にお説教をした。
そして、破れた制服を元に戻せるというので戻してもらい、それを着て眠ることにした。
カフェの中、明星先輩と同じ部屋で眠るというのは本当に恐怖でしかなかった。
明星先輩は、死んだ女の子を操って、変な事をさせるだけじゃなくて、私の胸をこっそり見ていた変態だ。最低だ。だが、命の恩人でもあるし、あまり無下にも出来ない。
眠る場所はカフェの端と端にしてもらい、椅子と机で区切らせてもらった。
それでも、不安と恐怖を覚えながら私は眠る。
眠るときに思ったのは、好きな人の事だ。
駕篭獅子斗。
私の好きな人。
彼は今何をしているのだろうか。
彼の好きな人は、ここで死鬼になっている。
そう思うと、たまらなくなる。
せめて、ロナちゃんと再会出来ていればいい。
再会した二人の幸せそうな顔を思い浮かべ、嬉しいような、寂しいような、そんな感情と共に私は眠りについた。
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