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安全について学んだこと(防災活動編)

これは市民工房や大学内の工房の管理運営を7年ほどやっている筆者が、安全管理について学んだことをまとめたページです。個人の経験則程度のお話としてご覧いただき、実際の安全対策については各地の労働基準協会などの専門家にご相談ください。利用者の方は工房運営者の指示に従ってください。


⑤危険予知トレーニング

危険予知トレーニングとは?

危険事象発生のポイントと行動目標を指差し呼称で顕在化する安全確認の手法のこと。労働基準局の実施する危険予知トレーニングの講習に参加したので、その内容をまとめる。

<座学>

安全衛生の歴史
1900年代初頭「生産第一、品質第二、安全第三」で生産を進め、多くの方が労働災害で亡くなっていた。特に戦後の労働災害が多発していた時期の企業の労務担当者の仕事は遺族への謝罪が主だった。1972年に労働安全衛生法が制定され、死亡災害は激減した。故に、労働安全衛生法は「血で書かれた法規」と言われている。年間の死亡災害件数が横ばいになってきた2010年ごろから、さらに災害件数を減らすために「KYT」の重要性が謳われるようになり今日に至る。
労働災害発生のメカニズム
労働災害は、「不安全状態」のモノと「不安全行動」をするヒトの接触で起こる。不安全状態と不安全行動という危険を予知することがKYT。
KYTとリスクアセスメントの違いと各活動領域
KYTとリスクアセスメントはいずれもゼロ災運動の手法の一つだが、不安全状態や不安全行動に対して、年度ごとに予算を組んで設備で解決しようとする活動がリスクアセスメントで、KYTは人の行動に対して現場で即時即決して進めていくものである、という違いがある。
人間はエラーを起こすものである
人間には「不注意・錯覚・省略行為(近道反応)」という心理的特性があり、誰しもエラーを起こすものである。不注意は原因ではなく結果であり、不注意を招いた原因を究明して対策を立てることが重要である。

<演習>

座学では講師の方はかなり話し慣れた様子で、早口だけどとても聞き取りやすい抑揚と流れるような話の展開で、あっという間に時間が経っていました。その流れに乗ってこちらもさくさくとメモを取りながらお話を聞いていると、講師の方が突然、めちゃくちゃ大きな声で「ゼロ災でいこう!ヨシ!」と絶叫した。

これまでの流れるような早口と打って変わって、「はっけよい……のこった!」ぐらいの声の大きさと迫力に圧倒され、その瞬間ハッとして顔を上げ、講師の方に注目した。

後に、「この時のハッとした感が、まさに指差呼称をやる意味なんだな……!」と理解できるのだが、この段階の私はただびっくりしただけだった。
指差呼称とは?
作業を安全に誤りなく進めるために作業の要所要所で、自分の確認すべきことを「〇〇、ヨシ!」と、対象物を指差しながら明瞭で大きな声で呼称すること。(インターネットでよく見る、現場ネコのやつ。)
指差呼称のやり方
1.足を肩幅に開いて背筋を伸ばす。
2.左手を腰にあてる。
3.右手の人差し指で対象物を指差す。
4.自分やチームが確認したいことを呼称する。
5.右手の人差し指を耳の横まで上げ、本当にこれであってるよな?うん!あってる!と確認する。
6.「ヨシ!」と言いながら再び対象物を指差す。

正直に言うと、はじめは「なんか怖いし、あやしいな」と思った。でも、「こういう世界もあるんだな」と思って受け入れ、全力で実行した。

(この講習会には、20数名がいましたが私が一番「はっけよい……のこった!」感が出せたと自負しています。ちなみに、受講者は私以外全員男性でした。講師の方も男性でした。)

この後、タッチアンドゴーというチームの士気を高めるためのフォーメーションも伝授されたのですが、ここでは割愛する。
指差呼称の有効性
はじめてやる時には若干のためらい感や抵抗感がある指差呼称だが、真面目にやってみると、その効果を実感することができた。その仕組みを講師の方が以下のように説明していた。

<意識レベルの表>

人間の意識レベルは5段階あり、定常作業はほとんどフェーズ2(くつろぎモード)の状態で処理される。非定常作業を行う際には特に、自分で意識レベルをフェーズ3(明快モード)に切り替える必要がある。

指差呼称による適度な発声と動作が、意識レベルを切り替えるスイッチのように作用する。

指差呼称の有無とボタンの推し誤りの実験の結果によると、ボタンの押し誤りが指差呼称をした場合は何もしなかった場合の約6分の1に激減した。

指差呼称が国鉄で創始されて以降、その有効性が広く認められ、現在ではあらゆる現場で活用されている。


この章のポイント

●KYT……不安全状態と不安全行動という危険を予知するトレーニングのことで、安全の先取り手法。
→特に非定常作業に取り掛かる前に実施する。
●指差呼称……自分の確認すべきことを「〇〇、ヨシ!」と、対象物を指差し明瞭な声で呼称すること。
→自分自身やチームの意識レベルをくつろぎモードから明快モードに切り替える働きがある。


⑥リスクアセスメント

リスクアセスメントとは?

危害を可能な限り低減するための安全確認の手法

リスクアセスメントの手順

1.工房内のハザードを洗い出し特定する
2.危害のひどさと発生確率を組み合わせてリスクを見積もる
3.対策の優先順位付けをしてリスク低減措置を決定する
4.リスク低減措置を実施し結果を記録する

リスク低減措置の検討項目

1.法定事項
2.ハザードを低減または排除する本質的対策
3.インターロック等の工学的対策
4.マニュアルの整備等の管理的対策
5.個人用保護具の使用

この章のポイント

●リスクアセスメント……不安全状態と不安全行動という危険に対して、現場からの報告を受けた管理側が、年度ごとに予算を組んで設備の面で改善しようとする安全の先取り手法。
→現場で即断即決するKYTに比べて時間はかかるものの、壁を立てたりロックをかけたりといった、物理的に危険源にアクセスできないようにするような、人間工学的対策を取れる。

⑦作業着と保護具

作業内容に適した服装は、危険事象発生のトリガーとなることを防ぎ、保護具の着用は危害のひどさを抑えることに役立つ。具体的には、巻き込み事故を発生させないように首にタオルをかけない、など事故の起因を自分で作らないようにする。合板を足に落としても骨折しないように安全靴を履いておく、など起こった事故に対して被害を最小限にする。などの例がある。

多くの工房では「長い髪は結び、肌の露出を控え、装飾品は外し、ヒールやサンダルを履かないことを基本とし、必要に応じて保護具を着用する」という状態をスタンダードとする場合が多い。

⑧ハインリッヒの法則

<ハインリッヒの法則>

ハインリッヒの法則

ハインリッヒの法則は、労働災害における経験則の一つで、 1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300のヒヤリ・ハットが存在するというもの。(wiki)似たような分析で「バードの法則」や「タイ-ピアソンの法則」というものもある。

いずれも、一つの重大な事故の背後には、たくさんの軽微な事故があり、その背景にはたくさんの事故未満の出来事(ヒヤリハット)があるという内容である。

ヒヤリハット

ヒヤリハットとは、一言で言うと事故未満の事象のこと。ヒヤッとしたりハッとしたりするような危険なことが起こったが、災害にはつながらなかった事象である。
危険事象が発生しそれを回避できた際には、「ヒヤッとしたわ〜」で終わらせずに、なぜ起こったのか振り返りをすることが重要。

この章のポイント

●ハインリッヒの法則......1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300のヒヤリ・ハットが存在する、という労働災害における経験則の一つ。
→ヒヤリ・ハットを減らす活動が、一つの重大事故を防ぐ活動につながる。
●ヒヤリ・ハット……「ヒヤッとしたりハッとしたりするような危険なことが起こったが、災害にはつながらなかった事故未満の事象」
→なぜ起こったのか?どのようにしたら防げたのか?などの振り返りとその情報共有をすることが重要。

⑨災害発生時の対応

災害発生時の初期対応として代表的なものは以下の通り。細かなフローについては各施設の指示や、消防の情報を優先する。消防庁は一般市民向けに応急手当の講習を提供している。WEB講習の他、各地域の消防署にて実技講習も実施しているので、定期的に参加するのが望ましい。

火災が発生したら

1.近くのスタッフに知らせる
2.スタッフが消火活動を行う
3.消化できない場合は非常ベルを鳴らし、大学事務局と消防に連絡
※どこで、どんな火災か、広がりそうか否か、負傷者の有無を伝える

負傷者がいたら

・出血→出血部の圧迫や高くするなどの対応で止血する
・骨折している→周囲の安全を確認し体位の保持をする
・ケガをしている→ケガの手当てをする
・熱傷→患部が赤いまたは水疱の場合は冷却、白い場合は被覆する

倒れた人がいたら

1.周囲の安全を確認し、傷病者に声をかけ反応(意識)を確認する
3.傷病者に反応がなければ大声で叫び応援を呼ぶ
4.119番通報およびAEDを現場に届けてもらうよう協力を求める
5.呼吸を見て、胸骨圧迫を30回、人工呼吸2回
※救急車の到着まで5を続け、AEDがあれば起動して音声指示に従う


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