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安全管理について学んだこと(基礎編)

これは市民工房や大学内の工房の管理運営を7年ほどやっている筆者が、安全管理について学んだことをまとめたページです。個人の経験則程度のお話としてご覧いただき、実際の安全対策については各地の労働基準協会などの専門家にご相談ください。利用者の方は工房運営者の指示に従ってください。

①安全とリスクの関係

工房を運営する上で「安全」「危険」「リスク」などの言葉を日常的に使っているが、自分はその言葉の意味を正しく捉えることができているか?と疑問に思ったので、安全とリスクの定義と関係について調べてみた。

<安全リスクマトリクス図>

安全とは?

ISO/IEC規格によると、安全とは「許容不可能なリスクがない状態」のこと。つまり「許容できる程度にはリスクがある」と言い換えることもできる。急にリスクの話が出てきたが、リスクとは危険という意味でいいのか?

リスクとは?

リスクとは「危険度」のことで、危害の発生確率と危害のひどさの組み合わせで測る。我々が普段、作業をするなかで言っている「安全」の中には、「発生確率が低いから許容しているリスク」(飛行機に乗るなど)や、「発生しても大きな危害にならないから許容しているリスク」(カッターで紙を切るなど)が存在している。リスクは、「危害が大きいか小さいか」、「発生確率が高いか低いか」の組み合わせで測られ、どれだけ小さくしようと努めてもゼロになるものではない。

つまり、絶対的な安全という状態がない中で、我々は、リスクについて認知し、そのリスクを許容可能な程度にまで抑える(=安全な状態にする)ための活動をして、作業に臨まなければならない。

縦軸の危害のひどさは、動力や熱や位置エネルギーなど、エネルギーの大きさと考えるとイメージしやすい。
例えば指を切断できるパワーを持った機械を扱う場合、いくら発生確率が低くても、それが起こった時には指が切断されている。

これから取り組む作業のうち、どうしても危害のひどさが許容できないようなら、(例えば一瞬で指を切断するパワーを持つスライド丸ノコを使わずに手鋸で頑張るなど)動力が小さい道具に変える選択をすることも、安全な状態にする方法の一つと言えるだろう。

保護具の着用も大事な対策の一つ。保護具の着用は危害の発生そのものを防ぐことはできないが、発生してしまった危害のひどさを抑えることができる。(例えばチェーンソー作業時に、防護ズボンを着用していたから脚を切らずに済んだとか、保護メガネを着用していたから切粉が飛んできたけど目を切らずに済んだとか。)

今日のポイント

●安全とは……許容不可能なリスクがないこと
→リスクゼロの絶対的安全というものは存在しない。
●リスクとは……危害の発生確率と危害のひどさの組み合わせのこと
→危害の発生確率やひどさを抑える活動をすることが大事。


②工房内に潜むハザード

ハザードについて、工房内で実際にどのような災害が起こる可能性があるのか、その種類を洗い出してみた。

ハザード(危険源)とは?

ハザードとは危害を引き起こす危険源そのもののことで、危害はハザードと人が接触することによって起こる。(接触しなければ起こらない!)

例えば、丸ノコが動いていても、毒があっても、ライオンがいても、ゾンビがいても、人がそこに接触しない限り、危害は発生しない。

工房内に潜むハザードの洗い出しをしようとした時、ハザードのみを抽出するのは意外に難しいと感じた。事故の原因(注意しないといけないこと)や事故の結果(怪我の種類や、機材の破損など)に引き寄せられてしまって上手くいかなかったし、シャッターや物が高く積まれている棚など、場所や設備のことまで一気に洗い出そうとすると、風が吹いたら桶屋が儲かるやつみたいに危険事象の複合になってきて混乱してしまった。

なので今回は道具が持つハザードに焦点を絞って洗い出しをしてみた。

そして、たぶんこの分け方じゃない方がいい気がしているが、なんとなくイメージしやすい感じがするので、ひとまず次の3つに分類してみた。

機構・駆動系

機械の動きに起因するハザードを洗い出してみた。

切れる……動力を持つ刃物などで体の一部が切断される、カッターで指を切るなど。
刺さる……キックバックした細い木片が体に刺さる、ミシンの針が指に刺さる、切粉が目に刺さるなど。
巻き込まれる……回転する刃物に手袋が巻き込まれる、三本ローラーに手が巻き込まれるなど。
挟まれる……機械の駆動部に体が挟まれるなど。
擦れる……ベルトサンダーで手が擦れるなど。
ぶつかる……木工旋盤で手元が弾かれて道具が顔に激突する、ガントリーが体に激突するなど。

現象・エネルギー系

動力そのものに起因するハザードを洗い出してみた。

落ちる……クレーンで吊り下げていた重量物が落下するなど。
感電する……感電する。
爆発する……粉塵爆発、ガス爆発、有機溶剤や化学物質に引火して爆発するなど。
燃える……レーザー加工機での素材への引火による火災、爆発事故による火災など。
高温……ヒートガンやはんだごてや真空成形機などの熱による加工に人が接触するなど。
強い光……レーザー光や溶接アーク光が直接目に入って網膜が焼けるなど。
大きな音……継続した大きな音によって聴力が落ちるなど。

その他

有害物や粉塵の飛散……有機溶剤による化学火傷、粉塵が目に入って眼球が傷つくなど。
有害物や粉塵の吸入……有機溶剤吸入による急性中毒、粉塵吸入によるじん肺や肺腫瘍など。

<ハザードピクトグラム>

機材が持つハザードをピクトグラムを作成し可視化した。
シールにして機材に貼るなどすれば、はじめての方でもどのような危害の可能性を持つ機材なのかが、目で見て確認できるはず。

使い慣れた自分たちの作業場でも、あらためて一つずつハザードを探してそれを可視化してみると、意外とハザードの見落としがあることが実感できた。

今日のポイント

●危険源(ハザード)とは……危害を引き起こす根元のこと
→ハザードと人が接触することで危害は発生する。


③人間は完璧ではない

<人間の意識のモード>

人間の行動特性

人間には「不注意、錯覚、省略行為・近道反応」といった心の働きがあり、誰しもエラーを起こすものである。

人間の意識レベル

人間の意識レベルは5段階あり、定常作業はほとんどフェーズ2(くつろぎモード)の状態で処理される。非定常作業を行う際には特に、自分で意識レベルをフェーズ3(明快モード)に切り替える必要がある。

今日のポイント

●人間の行動特性……人間には「不注意、錯覚、省略行為、近道反応」といった心の働きがあり、誰しもエラーを起こすものである。
→不完全な人間の心の特性を正しく捉え、エラーを起こさないように、起こっても事故にならないように対策をすることが大事。
●人間の意識レベル……人間の意識レベルは5段階あり、定常作業はほとんどフェーズ2(くつろぎモード)の状態で処理される。
→非定常作業を行う際には特に、自分で意識レベルをフェーズ3(明快モード)に切り替える必要がある。もしくはフェーズ2でもエラーを起こさないよう人間工学的な工夫が必要。


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