見出し画像

ビューティフルドリーマー

「太田くんには、なんで『やる気あり美』が必要なの?」

Oさんは僕にそう言った。

Oさんは僕を目にかけてくれている起業家だ。謙虚で威圧感の全くない彼は、「威張る」という選択肢が候補にもないような人だ。だからその時も、同士にするようなそぶりで身を乗り出し、僕に日本酒をついでくれた。

「あ、ありがとうございます。」

急いでおちょこを持ち上げたが、早速考え込んでしまってつい片手でやってしまう。どうして必要か、か。

「私はたくさん文章を読んできたつもりだけど、やっぱり太田くんの文章には個性があると思うよ。これは私には書けないな、といつも思う。だからもっと君が一人で進み続けたら、書き続けたら、どういったものを書くのか気になるんですよ。『みんなで』やる必要、あるんですか?」

彼はハニカミながら、腕を組んだり解いたりしながら話した。「はい、こちらお刺身でーす」テーブルにはお刺身の盛り合わせが運ばれてきて、重い器がゴツンっと鳴る。そういえば周りはずいぶんと活気づいてきている。スーツ姿のサラリーマンたちが満面の笑みで笑ってる。

「なんで必要か、ですか」

「うん」

彼は優しく微笑んだ。僕はおちょこを握りしめたまま、黙りこくってしまった。意識が『やる気あり美』の思い出の中に飛んでいく。みんなの笑ってる顔や、真剣な顔が次々と目の前を通り過ぎた。そして最後に浮かんだのはたったひとつの言葉だった。

「寂しいからですね」

そう、僕は寂しさに堪えられない。自分の可能性に期待するよりも、仲間の可能性に期待していたい。すごいなぁ!僕も負けたくないなぁ!と思いたい。自分一人では強くなろうという意志を見失って、人生から簡単に降りてしまいそうだから、仲間が側にいてほしい。そう思っている。

彼はまた腕を組んで、視線を宙にやって、「なるほど、寂しいからですか」と言った。

「うん…、そうですね」

今度は彼が黙った。でもその顔はにんまりと笑っていて嬉しそうにも見える。どういう気持ちでこの話を聞いているんだろう。不安になった僕は、視線を目の前のマグロにうつした。しっとりと光る赤身は見るからに新鮮でキレイだった。そこに彼の箸がスッと入り込んできて、僕は結局また彼を見るしかなくなった。

「うる星やつら2、ビューティフルドリーマー、観ました?」

「いや、観てないです」

「文化祭前日を永遠に繰り返してしまっていることに気付いた主人公たちが、ずっとこのままでいいって思ったり、いや出たいって思ったり、悪戦苦闘する話なんですけど、それみたいだなって思いました」

彼はマグロを口に運んで、店員に「日本酒2号」と声をかけた。

この人は率直だけど、なぜか人を評価するような物言いではないから、聞いていて腹が立つことがない。僕は、まだ観たこととのない映画で、こんなに短い説明がピンときたのは初めてで驚いていた。

たしかに僕は、たくさんの思い出があれば人生はそれでいい、と思っている節がある。”結果”なんて出なくたって、仲間と一緒に「明日こそ…!」と毎日希望を持っていられるなら、それでいいんじゃないかと思ったりする。おちょこに入った日本酒を一気に飲み干した。

「家帰ったら観てみますね」

「うん、ぜひ!」

その日は、そこから4号も日本酒を飲んでから解散した。過剰に話しすぎてしまうような色気のない人では彼はないから、『やる気あり美』についてはその日はここまでしか話さなかった。だからなのか僕は余計に「うる星やつら2」が気になった。帰り道、急ぎ足でレンタルビデオ店に駆け込む。家についてすぐにDVDをデッキに押し込んだ。

「うる星やつら1」も観てないのに大丈夫かな?と少し心配していたのだけど、それはまるっきり杞憂に終わった。1時間半が一瞬だった。とても、とても、感動した。

簡単だとは言えない物語だし、調べてみると解釈は色々と出てきたけれど、僕が思ったのは「一緒にいれたらそれでいいからこそ、進むのだ」ということだ。

一緒にいれたらそれでいいから、進まなくたっていいのではなくて、一緒にいれたらそれでいいからこそ、どんどん前に出るべきなのだ。めまぐるしい景色の変化を、酒の肴に変えられるのは、よき仲間を持った者たちだけの特権だ。僕らなら、全ての思い出を美談にできる。それは思い込みの強い人間たちがみせる滑稽なショーでもあるけれど、奇跡にも近い、永遠にはきっと続かない刹那の美しい煌めきだとも、僕は思う。

映画を観終えた後は、目がらんらんに冴えてしまった。外はもう明るくなり初めていた。明日がまた来る。

僕らの夢はこんなもんじゃないよなあ!
なあ!そうだよなあ!

未来はどうなっているか分からないけど、それがハッピーエンドであることは確かだ。バッドエンドはない。僕たちは進む。

#日記 #エッセイ

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

ぅちもやっちゅーねん!(倖田來未)
17

Naoki Ota

30分日記習慣

1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。