ガンダム完全講義16:第8話「戦場は荒野」解説Part1

 岡田斗司夫です。

 今日は、ニコ生「岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話」2019/07/16配信分のテキスト全文をお届けします。

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なぜ「戦場は荒野」は名作と言われている?

 こんばんは、岡田斗司夫です。

 岡田斗司夫のガンダム完全講座、第16回の今日は、第8話「戦場は荒野」の前編をお送りしようと思います。

 お、コメントもいっぱい流れていますね。ありがとうございます。ありがとうございます。

 ええと今日はですね、前半の無料部分が長いです。全体の尺が33分弱くらいあって、その内、もう20分以上を無料で公開しちゃいます。

 だからと言って、これ別に「岡田斗司夫は気前がいい」とか、そういうわけでもなんでもなくて。もう、見ていただければすぐわかるんですけど、今回は、本当に無駄話が多いんですよね。

 この無駄話が多い部分をカットして流そうとも思ったんですけど、「まあ、いいか。構わねえや」と思って。

 「戦場は荒野」自体は面白い回なんですよ。別に引き伸ばしをする必要もないくらい面白い回なんですけど。なぜか、この回を収録した時の体調がそうだったのかわからないんですけど、なんか本編の話に入る前の枕の方で、すごいダラダラ長話をしてるんです。

 もう、一番最初の10分は、本当に無駄話で申し訳ないです。……いや、無駄話とは言っても、それなりに内容はあるんですけど。10分が終わって15分目くらいまでは延々とゲーム理論の話をしてたりして(笑)。

 なので、「今回は無料公開分が20分以上あるよ」と言ってるんですけど、最後の5分くらいでようやっと『ガンダム』第8話の内容に入る感じなので……まあ、すみません、こんな感じになりました。

 ではですね、お恥ずかしいですけども、ガンダム完全講座第16回「戦場は荒野」を見ていただこうと思います。

 見終わった後で、さらにもうちょっと言い訳などをしたいと思いますので。

 準備は大丈夫ですね?

 はい、それでは、もう長い長い前振りから始まりますので、早速どうぞ。

(本編再生開始)

 機動戦士ガンダム講座、今回で第16回目ですね。16回目でようやっと、第8話「戦場は荒野」ということになります。

 『機動戦士ガンダム』というのは、実は1979年の4月にオンエアが開始したので、実は再来年で40周年なんですね。なので、たぶん、再来年(2019年)辺りに大きいイベントをやるんじゃないのかと思います。

 40周年というのは、ちょっと僕もショックで。「そうか。『ガンダム』の第1話が放送されてから40年も経ってしまったのね」というのと。あとね、嫌な予感がちょっとするんですよね。

 たぶん、再来年40周年に向けて、まあ、例のお台場のガンダムが動いて、新しいガンダムを作って、たぶん、再来年くらいに公開されることになるんでしょうけども。

 それと同時に、やっぱり「第1シリーズの『機動戦士ガンダム』を、もう一度リメイクしよう」という機運が高まると思うんですね。

 今、僕がこの講座をやってるのは「一番最初のオリジナルの『機動戦士ガンダム』が、いかにすごいのか?」ということを伝えようとしてやってるんですけども。

 なんかね、嫌な予感というのは、『ガンダム THE ORIGIN』をTVシリーズでやるんじゃねえかな、と。別に、そんな噂が聞こえているわけでもなんでもないんですけど。

 今の『ガンダム』に対するバンダイの力の入れ方と、いろんなガンダム作品を作ってて、それぞれ人気はあるんだけど、やっぱり最初の『機動戦士ガンダム』ほどのパワーを持っていないというか。

 例えば、何かのグッズが商品化される時も、いまだに「シャア専用」というふうになったり、あとは、『ガンダム』がCMに使われる時でも「アムロとシャア」というふうに言われる、と。

 つまり、ウルトラシリーズがいつまでたっても最初の『ウルトラマン』や『ウルトラマンセブン』を超えられないのと同じように、最初の『機動戦士ガンダム』を、後から出てきた『ガンダム』は、やっぱり超えにくいと。

 まあ、そんなの当たり前なんですけどね。だから「新しい『ガンダム』じゃないアニメを作れ!」って話なんですけど。

 でも、世界的な大きい流れから見ると、どちらかというと、そうじゃない。

 マーベルなんかにしても、「昔のヒーローというのをできるだけ維持しておいて、そこから先はこう混ぜましょうや」ということになっている、と。

 まあ、日本には『スーパーロボット大戦』というのが、マーベルに先駆けて……って、そんなこともないか。マーベルは60年代くらいからヒーローのシャッフルをやってるから、「先駆けて」ということはないんですけど。シャッフルで一儲けというのは、日本でも昔からやってるから、今さらマーベル的なやり方を恐れてもしょうがないんですけど。

 1つ考え得るのが、サンライズ系というだけでなく、「バンダイがある程度、協力しているロボットアニメ全集合!」みたいなシリーズをやるんじゃないかなということ。

 あとは、僕がやっぱり、ちょっと困っているのは、最初にも話した通り、『ガンダム THE ORIGIN』として、『機動戦士ガンダム』を最初から作り直すこと。

 つまり、あの絵で『ガンダム』の第1話どころか、そこからさらに振り返って、シャア・アズナブルとして……いや、「キャスバル・レム・ダイクンとして」と言うんですかね? そうやって第1話からやられちゃうと、前の『機動戦士ガンダム』が消えちゃうんじゃないか、と。

 「書き換えられてしまう」というか。

 『E.T.』という映画をスピルバーグが作った時、まあ本当にプライベートフィルムとして好きに作ってたんですよ。

 もともとの原題は『A BOY’S LIFE(ある少年の人生)』というタイトルで、そんなにメガヒットさせるつもりもなく、『レイダース 失われたアーク』の大ヒットの後でコツコツ作ったんですけど。公開してみたら、メチャクチャヒットしてしまった。

 だけど、メチャクチャヒットしてしまったがゆえに、自分が好きに作ったはずのフィルムを公開した後で、レーザーディスク版とかいろんなものを出す時に「書き換える」必要が生まれてしまったんですね。

 劇場公開された『E.T.』には「自転車の前カゴにE.T.を乗せて走っている子供達に向けて、警官がショットガンを構えている」というシーンがあるんです。

 このシーンというのは、スピルバーグが最初にこれを作った時には「もう、これしかない!」という映像だったんですけども。

 後に「あれは刺激的過ぎる」とか「警官が子供に銃を構えるとは何事か」ということになって、後に、このショットガンがトランシーバーに変えられたと。

 今、表に出ているメディアでは、もう全てが書き換えられた状態なので、元々のショットガンを持ったシーンが見たければ、大昔のレーザーディスクとかビデオカセットテープというのを探して見るしかない。そういう状況なわけですよね。

 そういうのを考えちゃうと、やっぱり、新しい映像というのが公開されると前の映像というのが、まあ消されることはないにしても、押し流されてしまうんですよ。

 『ガンダム』というと『ORIGIN』になっちゃうというのは、ちょっと嫌かなと思っちゃいます。

 僕は今、バンダイチャンネルというネットサービスで『機動戦士ガンダム』を見てます。

 DVDとかBlue-rayとかも一通り持ってるんですけど、バンダイチャンネルの配信がなかなか便利で。

 何が良いかと言ったら、僕、よく、フリップを出して見せますよね? あれ、全部バンダイチャンネルの映像なんですけど。バンダイチャンネルでは「セリフがちゃんと字幕で出てくれる」というありがたいサービスがあるんですよ。

 皆さんも、この放送を見ながら『ガンダム』を復習する時、「どんなアニメだったっけ? もう1回見てみよう」という時は、レーザーディスクやBlu-rayとかで見てもいいんですけど、僕はわりと、バンダイチャンネルで見るのがお薦めですね。

 すみません、余談になってしまいましたけど。

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 ということで、第8話「戦場は荒野」です。

 目立たない回ですけど、かなり評判がいい回です。

 「戦場は荒野」というキーワードだけで検索しても、この回を名作というふうに書いているブログとかがすごく多くヒットします。

 例えば、今回の「戦場は荒野」では、初めてカイ・シデンがガンキャノンに乗って出撃するんですけども、まあ、なかなか卑怯な戦い方を見せてくれるんですよ。

 一番最初はデカい口叩いて「セイラさん、はいはい。行くぜ!」とか言ってたんですけど。ホワイトベースから下に飛び降りるだけでもすっ転んで、半泣きになって、そこを撃たれて、涙をポロポロ流しながら、「俺だって、俺だって……!」って、ちょっと頑張るところを見せるんですよね。

 で、最後、アムロのピンチの時に、崖の上からガンダムを狙撃しようとしているザクを、後ろからドーンと突き飛ばすという卑怯な勝ち方をしている。

 そういうところが、ちょっと面白いので、そこをフィーチャーしているブログもあります。

 あとは、ジオン兵の人情話ですね。故郷に帰ろうとしている親子を助けてくれるジオン兵とか。

 他にも、シャアの悪巧み。もう、ハッキリと口に出して、一応は独り言なんですけど、ガルマのことを「お前は無能だ」とか「お坊ちゃん育ち」とか、ブツブツ文句を言い始めます(笑)。

 なので、一応、お話全体のターニングポイントにもなっています。

 ただ、重要な回ではないんです。

 なので、劇場版でも、カイのガンキャノンの初出撃以外は、このエピソードというのは劇場版ではスッパリ削られています。

 いわゆる、TVシリーズのアニメの中でよくある「あってもなくてもいい回」っていうやつですね。

 TVシリーズというのは長いですから、地方局とかに権利を売る場合、例えばキー局では全43話オンエアできたんだけど、地方局だったら、その土地のよさこいイベントとか、あとは北海道の局だったら「本土に修学旅行に行った学生の今を伝える」みたいな特番がしょっちゅう入るので、全43話がそのまま地方で43話オンエアされるわけではないんですね。40話とか41話にしなきゃいけない場合がある。

 その時のための話数調整のための回というのが、長いTVシリーズのアニメでは、必ずある。それが「ククルス・ドアンの島」とか「時間よ、とまれ」なんですね。

 そして、この「戦場は荒野」も、おそらく、話数調節にも使える話として作られているんだと思います。

 ただ、あまりにも出来がいいんですね。

 シナリオは松崎健一さんというスタジオぬえの人です。

 スタジオぬえというのは、その後に『超時空要塞マクロス』などを作った、慶応大学のSF研関係の人達が作ったアマチュアのグループ。いわゆる、かつてのガイナックスの、さらに原型みたいなところなんですね。

 そこから出てきた人として、代表的なのが河森正治君という映像監督です。

 ところで、僕、昔、河森正治君の結婚式に行ったんですけども。

 その結婚式で流れた子供時代の映像というのが……その時代の結婚式で披露されたのは、よくてカラースライド、下手したらモノクロスライドなんですね。

 僕と同年代くらいの人の結婚式というのは、子供の頃の写真として、まだモノクロ写真があった。そんな時代なんです。子供時代の写真が全部カラーだったら、そこそこ金持ち。8ミリフィルムとかが残ってたら、すげえ金持ちなんですけど。

 なんと、河森君は、慶応大学を幼稚舎から上がっていったくらいの家なので、結婚式で流れた子供の頃のフィルムが16ミリフィルムという。「お前の親、どんだけ金持ちなんだ!?」って(笑)。

 で、その16ミリフィルムの映像でガーッと流れた河森くんの子供時代というのが、6歳かなんかの誕生日のパーティの様子だったんですけど、河森君以外、半分くらいが外人の子供なんですよ。金髪の、なんか「インゲ」とか、そんな名前の美少女とかがいて(笑)。

 その結婚式でも、出席者の半数くらいが慶応大学の知り合いなんですよ。もう本当に育ちのいいお坊ちゃんの。

 「生まれてから襟のない服を僕は来たことがありません」と言っていた細野不二彦とか。……あれ? 「襟のない服を着たことない」のは美樹本君だっけ? ごめん、美樹本晴彦だったかもわからない。あ、美樹本君だ。思い出した。

 まあ、そういう慶応大学のお坊ちゃんが半分くらい。で、残り半分が、宮武一貴とか、あとは俺らとか、そういう身分の低い、公立の小学校を出て、公立の中学校を出て、もちろん、高校は県立とかの高校を出たような貧乏人のせがれ達ですよ(笑)。

 あの時ね、身分差というのを、もう本当に生まれて初めてハッキリと認識したんですけども。

 そんなスタジオぬえという、SF映像のエリート系のグループの人の脚本です。

 だけど、この松崎健一さんが書いたシナリオ自体が上手かったかどうかは、僕にはわからないんですよね。

 というのも、富野作品の中でも、ターニングポイントになっている回のシナリオは、わりと松崎健一さんがやってることが多いんですよ。だから、僕も昔は「松崎さんのシナリオがすごいんだ」と思ってたんですけど。

 でも、ターニングポイントになる回というのは、富野さん自身が、ストーリー段階から「こういうふうにする」というのを散々入れ込んでいるし、セリフも現場で書き直したわけだから、松崎さんの書いたシナリオが、どこまで残っているのかが、ちょっとわからないんですね。

 ちょっと話が横に流れましたけど。

 そんな話数調整の回。あってもなくても本編の流れにはあまり関係していないように見える回なんですけど。

 「実は、ドラマ的にはこの「戦場は荒野」というのは、絶対になくてはならなかったんだ!」というのが、今回、僕が語る話です。

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 まずは「この回が名作と言われているのはなぜか?」というところから説明します。

 なぜかというと、「ホワイトベースもジオンも、お互いに与えられた情報だけで試合を進める」という、いわゆるゲーム性がすごく高いからなんですね。敵と味方のお互いが、裏の読み合いというのを、丁々発止で進めているんです。

 ただ、ここで言うゲーム性というのは、僕らがスマホとかでやってるゲームとか、そういう意味ではなくて。この場合のゲームというのはゲーム理論のゲームのことです。

 ゲーム理論が日本で初めて一般に紹介されたのは、山田正紀さんという方が1970年代に書いた『謀殺のチェス・ゲーム』という小説だと思います。

 その『謀殺のチェス・ゲーム』の中で、ゲーム理論が簡単に説明されています。この至極簡単な説明が、この間、公開した『メッセージ』という映画を理解するのに、ちょっと役に立つようになってるんですね。

【画像】有限一般ゼロ和ゲーム

 今回の「戦場は荒野」の中で繰り広げられるのは有限一般ゼロ和ゲームです。

 このゼロ和ゲームというのは何かというと、「2人でゲームする時に、一方が勝ったら片方が負ける」という形式のことを指します。

 命の取り合いみたいなものですね。野球なんかもそうなんですけど。片一方が勝ったとしたら、彼らが勝った理由というのは、必ず、もう片一方が負けた原因になる。得した者の一方で、必ず負ける者がいる、と。そういう形式をゼロ和ゲームと言います。

 この「和」という部分を、足し算のことを英語では「サム(SUM)」と言うので、ゼロサムゲームと言う場合があります。なので、経済関係の人が、これを言う時は「ゼロサムゲーム」と呼ぶことが多いです。それに対して、ゲーム理論の人達が語る時は「ゼロ和ゲーム」と言います。これはまあ、最初に紹介された本からの引用だと思います。

 「2人のプレーヤーが存在し、ゲームは有限である」これが有限2人ゲームですね。

 「有限」というのは「勝ち負けに時間的な制約があったりハッキリ勝負がついたりすること」。それを敵と味方にハッキリと分かれてプレイすることが、有限2人ゲームです。

 この2人ゲームというのは、ゼロ和ゲームと非ゼロ和ゲームに2分されます。

 ゼロ和ゲームとは、両プレーヤーの利害が相反するようなゲームの総称。さっき説明した通りです。

 それに比べて、非ゼロ和ゲームとは、誘拐事件のような、合意点が成立していなければ両プレーヤー共に損害をこうむるゲームを指しています。

 誘拐事件というのは、結局、誘拐した人を殺しちゃったり、身代金とかを受け取れなかったら、両者とも負けてしまう。つまり、「一方の勝利条件が、もう一方の敗北条件にはならない」と。両者とも負ける可能性があれば、逆に、両者ともウィンウィンで勝つ場合もあるんです。

 誘拐事件の解決というのは難しいんですよね。「犯人vs警察」という図式だけで考えれば、警察は「犯人を捕まえれば勝ち」だし、犯人は「警察から逃げれば勝ち」。次に「親vs犯人」という図式で考えれば、親は「子供を取り返せば勝ち」。さらに「取り返す時、いかにコストを安く抑えるのかが勝負」になってくる。犯人は犯人で「無事に子供を親に渡して、最終的に捕まった時の自分達の罪が誘拐罪だけになれば得」という、そういう複雑なゲームになっているんです。

 単純な勝ち負け、一方の得が一方の損には、必ずしもならない。これが非ゼロ和ゲームです。

 ゼロ和ゲーム自体は、完全ゼロ和ゲームと一般ゼロ和ゲームに分類されます。

 完全ゼロ和ゲームというのは、まあ、あんまり現実には存在しません。完全ゼロ和ゲームというのは、お互いが情報を全て持っているような、例えばチェスとか囲碁、将棋とかもそうですね。盤面にあるものが全てであって、不意打ちとかができないゲームのことです。

 意外な一手というのはあるんですけど、それは思いつかない方が悪いだけで、将棋も使える駒を隠したりしませんよね?それと同じで、お互いに完全な情報が見えているものが完全ゲーム。そうでないものは一般ゲームと言います。

 戦闘というのは、もちろん、通常は有限ゲームであり、一般ゲームです。完全ではないということですね。

 その上、ゼロ和ゲームです。妥協点がない殺し合いですから。

 しかし、今回のお話では、これが、有限一般非ゼロ和ゲームになっちゃうと。

 今回は、ホワイトベースから避難民を降ろそうとする話なんですね。

 艦内にいっぱいいた避難民の何人かから「ここで降ろしてください!」と言われたので、ブライトさんは避難民を降ろすことを思いつきます。

 でも、それは、ホワイトベースにとっては反撃するためのトリックであって、ジオンにとっては、地上軍を配備するための時間ゲームに過ぎないという、実はこの非ゼロ和ゲームであったという、「妥協点がみつかって、お互いが得になった」というゲームの流れになっていきます。

 このゲーム性の高さ、途中でゲームのルールが徐々に変わっていくという、ちょっと『HUNTER×HUNTER』に似たところが、今回のエピソードをすごく戦略的に見せています。

 では、具体的に説明しますね。

 一番最初、ファーストシーンは、本当に陸スレスレを飛ぶホワイトベース。グランド・キャニオンの山の間、谷の間をギリギリに飛んで、本当に山に腹をこすりながら飛んでいくホワイトベースのシーンから始まります。

(パネルを見せる)

【画像】ホワイトベースのブリッジ ©創通・サンライズ

 「もっと高度を上げられないのか?」というふうにリードさんが言う。

 すると、ブライトさんが「何を言ってるんですか。あれが見えないんですか?」と上を指したら、上空にはジオンの戦闘機の編隊がいるんですね。ちょっとでも高度を上げたら攻撃しようと待ち構えている。

 なぜ「高度を上げたら」なのかというと、ホワイトベースが飛んでいるのは谷の奥まったところであって、いわゆるミノフスキー粒子が貯まっていて、濃度が濃いところなんですね。そういった地形効果を利用しているんです。

 谷の中だから、飛行機が最も得意としている「上から接近して、ミサイルを撃って、また上に抜ける」という、大きいU字攻撃がしにくいんですね。それをやろうとすると、急降下・急上昇という大変危険な攻撃になってしまう。

 なので、谷の中にいる限り、誘導弾を撃って攻撃するしかない。直接、目で見て攻撃することができないので。

 ところが、誘導兵器を使おうとしても、ミノフスキー粒子の電波妨害によってやりにくい。

 まあ、こういう設定が、ものすごく簡単に語られます。なかなか上手いやり方です。

 そんな中で避難民の人達が「ここでなんとしても降ろしてくれ」と言う。

 アムロ・レイは、そんな中で、偶然、ある親子が、景色を見下ろしているところに気が付きます。

 だからといって、全然、綺麗な風景じゃないんですよ。グランド・キャニオンですから。もう本当に、死の谷がどこまもどこまでも続いているようなところを見てるんです。

 だけど、お母さんは5、6歳くらいの小さい子供に「見てご覧なさい、地球よ。素晴らしいところでしょう? あなたのお父様はここで生まれたの。あなたのお父様は、あなたがいくらでも威張れるような素晴らしい人だったのよ」って言うんですね。

 ここでアムロは、それをポカンと見てしまう。

 なぜ、ポカンと見てしまうのかというと、たぶん、「過去の自分を投影した」ということと、あとは「避難民の中に個別のドラマがあることが、徐々に徐々に彼の中でもわかってきたから」ですね。これが、後々の伏線になっていきます。

 ということで、「降ろしてくれ」という避難民の声に対して、リードさんは、相変わらず「何言ってるんだ? とんでもない!」と言うんですけども。

 ブライトさんは「私にアイデアがあります。ジオンに一時休戦を申し立ててこの人達を降ろすんです」と言い出します。

 これは何かというと、もちろん、避難民全体の不満のガス抜き。あとは食糧不足の緩和のためでもあるんですけど。何よりも、この休戦を戦闘に利用しようとしてるんですね。

 これ、かなりヤバいです。というのも、一時休戦を申し立てた上で、避難民を降ろしている間に戦争の準備をしていたことがバレれば、避難民は即座にゲリラという扱いになってしまいますから。ジオンからしたら、問答無用で射殺していい存在になっちゃうんですよ。

 でも、この時点でのホワイトベースは、とにかく圧倒的に不利な状態なんです。今は地形に隠れてゆっくり這い進んでるからいいんですけど、もうすぐ、谷を抜けて、湖の見晴らしがいいところに出てしまう。そうなったら、その瞬間にジオンの総攻撃を受けることになるんですね。

 なので、ブライトさんは「数時間後に全員死ぬくらいだったら、今、打てる手は全部打っておこう」ということで、「いいことを思いつきました」というふうに言っちゃうんです。

 それに対して、ジオンはというと。ジオンもジオンで思惑があります。

(パネルを見せる)

【画像】シャアとガルマ ©創通・サンライズ

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> ガルマ:どう思う? シャア。避難民を降ろしたいからという休戦理由は?
> シャア:気に入りませんな。しかし……敵がどういうつもりか知らんが、こちらも時間が稼げる。
> ガルマ:それで?
> シャア:足の遅い陸上兵器を今の内に補強すれば。
> ガルマ:我々の勝利の確率は高くなるわけか! よし!
> シャア:(どうもお坊ちゃん育ちが身に染み込み過ぎる。甘いな)

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 実はガルマは最初、この休戦協定を無視しようとするんですけども。シャアが「いや、ちょっと待て。受けよう」と言い出します。「敵がどういうつもりか知らんが、こちらも時間が稼げる」と。

 ホワイトベースからしてみれば、圧倒的にジオンが有利に見えていて、「上空から狙われているし、このまま谷を抜けたら一斉攻撃される!」と思ってるけども、実はそうじゃないんですね。

 ジオン軍はジオン軍で、ホワイトベースがそこまで逃げられると思ってなかったので、地上軍の配備が出来てなかったんですよ。

 だから、これはもしも話になっちゃうんですけど、この休戦協定みたいなものがなかったとしても、ホワイトベースが速度を上げてこのまま突っ切っていたら、逃げられた可能性もあったんですね。

 でも、ホワイトベースはホワイトベースで「今のジオンというのは、ものすごく有利な状態で、地上部隊もそこら中にあって、俺たちはいつでも、ちょっとでも不利な状況に入ったら、あっという間に殺される」と思いこんでいる。

 だけど、ジオンの方はジオンの方で、ガルマはお坊ちゃんなわけですから、そんなに作戦指揮が上手くないわけですね。これをシャアが全部やってたら、敵が逃げそうな場所に、あらかじめ地上部隊を配備していたはずなんです。

 しかし、シャアはシャアで「そんなに簡単にガルマに手柄を立てられては困る。だからといって、ホワイトベースを落としたくないわけではない。なんか、この混乱に乗じて少しでも自分に有利なことが、1個か2個でも起こらないかな?」という、わりと曖昧な動機で戦っているんですね。

 なので、ガルマは「ホワイトベースは一体どういうつもりなんだ?」と、敵の思惑を考えちゃうんですけど、シャアは「敵の思惑はどうでもいいから、こちらにとって有利な状況を積み上げてしまおう」と言い出す。

 というわけで、両者の休戦協定が成立します。

(本編中断)

ザンジバルの模型紹介

 はい、長かったですね。前半はここまでです。

 もう、最初に言った通り、河森正治君の結婚式とか、全然関係ない話を延々してしまいました(笑)。

 ええと、以前から「『機動戦士ガンダム』の解説のために戦艦の模型が欲しいので、完成品を持っている人いたら送ってください」と言ってたら、このザンジバルの模型を送ってくれた人がいまして。

(2つの模型を見せる)

【画像】ザンジバル模型

 まあ、それぞれ別の人から送っていただいたものなんですけど。

 こちら側が井上さんという方からいただいたもので、こちら側が「いやあ、私は名前なんか出しません」と言っている匿名の方から送っていただいたものなんですけども。

 すみません、送っていただいた方には、こちら側から無理矢理ステッカーを送りつけますので、お納めください。

 どちらの模型もブースター付きなので、ザンジバルが登場する回になれば、まずブースターを外した状態で「この戦艦はいったいどういうものなのか?」という説明をして。上昇する時には、ブースターを付けて「これで何をやりたかったのか?」という説明をしようと思います。

 ここら辺の「大気圏離脱用のブースターを付ける」とか、そこら辺が、この富野アニメの、科学的に少しでも正しくあろうとしたところなんですけど。いいですよね。

 あと、さっきから配信を見ていると、ニコニコ広告を出してくれている方がいまして。タチアナさん、ちゃんおさんさん、もう本当にありがとうございます。

 さっき、広告貢献度の順位を見たら、タチアナさんがぶっちぎりの1位で、ちゃんおさんが2位。弾体加速装置さんが3位というふうになっていました。

【画像】タオル君ステッカー

 広告を出してくださった皆さん、あの、この「タオル君大好き/大嫌いステッカー」でよろしければ、お送りしますので。メールでもTwitterのメッセージでも、なんでも構いませんので、僕の方に住所と名前を教えていただければ、お送りします。

 というわけで、もう十分に長かったので、無料はここまでにしておきます。

 ここからは、後半のジオンとホワイトベースの戦略合戦。「敵がこう出たら、こういうふうに行く」という戦略合戦に加えて、それに対するシャア・アズナブルの読みという、そういう話の解説に入っていこうと思います。

 それでは、後半の方に切り替えてください。

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