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ガンダム完全講義32:第12話「ジオンの脅威」解説Part5

 岡田斗司夫です。

 今日は、ニコ生「岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話」2019/11/13配信分のテキスト全文をお届けします。

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ギレン・ザビの名演説と、シャアの名ゼリフ

 こんばんは、『機動戦士ガンダム』完全講座。今日は32回、第12話「ジオンの脅威」全6回の解説の内の5回目です。

 というわけで、今日はいよいよギレン総帥の演説なんですけど。その前に、今日もまたガンダムマンチョコを開けてみましょう。

 なんか、聞くところによると、このガンダムマンチョコ、「東日本と西日本では違うバージョンが売っていて、しばらくしてから入れ替える」という例のパターンらしくて。

 今、東日本は連邦軍のバージョンを売ってます。来週か再来週には、ジオンバージョンを売るのかな? ちょっと楽しみなんですけど。

(袋を開ける)

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【画像】マチルダ・アジャンシール ©創通・サンライズ ©LOTTE/ビックリマンプロジェクト

 「全24種類だから、ダブったらどうしよう?」と思ってたら、まだダブらないね。マチルダ・アジャンさんのシールが出ました。

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> 【マチルダ・アジャン】
>  将軍の直命でホワイトベースの整備に現れた補給隊指揮官! 淑やかで落ち着きのある大人の女性士官こそアムロの初恋の人?!
> 【ウワサ】
>  ホワイトベース男性乗組員たちの憧れの的となるが、技術士官の婚約者がいるとか?!

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 というふうに書いてありますね。

 このガンダム講座の方でも、ようやっと登場したマチルダさんのシールですね。

 今の所、ダブらないな。いいですね。このガンキャノンから始まって、ハロ、マチルダさん、と。今日あたり、「ハロがダブったらどうしよう」と思ってたんですけど。ダブった時のトークは、なんにも考えてないです(笑)。

 マチルダさん出てくると思わなかったな。いやいや、楽しい楽しい。

 さて今回は、第12話「ジオンの脅威」の第5回ということで、前半の無料では、ギレン・ザビの名演説を解説します。

 そして、ついに今日の後半では、シャアの名台詞「坊やだからさ」が出てくるので、これを解説します。

 いつもの通り、無料の終わりで、ちょっと追加の解説をしますので、お楽しみに。

 それでは、ガンダム講座「ジオンの脅威」第5回の解説のスタートです。どうぞ!

シャアの「指の遊び」と「目」が意味するもの

(本編再生開始)

 今日はガンダム講座の続きというか、12話の「ジオンの脅威」がずーっと終わらないので「ジオンの脅威」を終わらせてくださいということで。

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【画像】ジオンの脅威タイトル ©創通・サンライズ

 だけど、あとは最後の5分だけなんですよ。しかし、この5分には、アニメファンにはすごく有名なギレン・ザビの大演説というのがあるんです。

 で、僕はかねてから、このシーンの解釈というかな? 扱われ方に疑問があって。

 これをどう見るべきなのか……いや「見るべきなのか」と言うのも変なんですけど。

 普通、『ガンダム』が放映された当時は、普通にアニメを見て「面白い」と思ったり、好きになったりしたんですけど。その後、徐々にガンダムファンっていうユーザーが出来てきた。

 そのガンダムファンというのは何かと言うと、『ガンダム』の映像を見て面白いと思ったんじゃなく、まず「『ガンダム』とはこういうものだ!」という二次情報が先に入ってきて、その通りに見ちゃおうとする人なんですね。

 いわゆる旅行ガイド集を読んで、その通りの感動を味わおうとして、旅行に行くようなもので。『ガンダム』を見る時にも、例えば「ランバ・ラルはカッコいいキャラだ」という情報を先に聞いてから本編を見たりとか「このギレンのセリフは燃える!」というのを読んでから『ガンダム』に参加したような人が増えて来て、ちょっと僕が思う方向と違ってきているのが現状だと思うんですね。

 だけど、そういう人たちに対して「見方を教える」と言うと、また全く同じことになっちゃうんですよ。ランバ・ラルのカッコよさを「ここがカッコいい」という情報を聞いてから見るのと何も変わらないと思うんです。

 なので、一応、カウンター情報ということはないんですけど、「こっちの見方の方が面白いんじゃないかな?」と思うことを、ギレンの演説だけをベースに、ちょっと話をしてみようと思います。

・・・

 この第12話「ジオンの脅威」というのは、繰り返しになりますが、『機動戦士ガンダム』という作品のターニングポイントになったようなお話です。

 前回までの話は、ランバ・ラルとの小競り合いみたいな戦闘の後、「巨大投光機使用! 戦場より離脱!」ということで、戦艦ザンジバルというのが、バーッと上空へ向かって逃げて行った、と。

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【画像】ザンジバルの投光機 ©創通・サンライズ

 それを見たアムロ君は……実は、ザンジバルという軍艦は「巨大投光機で逃げていく」という表現からもわかるように、決して、戦況的に有利だったわけではないんですよね。

 てっきり、1機しかいないと思ってた連邦軍の白いモビルスーツの他に、赤いのとか戦車みたいな変なやつを含めて3機も出てきたので、慌てて引きあげて行ったんです。実は、ホワイトベースの側からしたら優勢だったんですよね。

 でも、そうとは気づかずに、アムロ君は「逃げられた。というより、見逃してくれたのか……?」と思い込んでしまう。

 この敗北感に打ちのめされているアムロ君の映像の上から、「我々は1人の英雄を失った!」というセリフがかぶる。これが、ギレンの演説の始まりです。

 「ギレンの演説は、この位置から始まった」ということではなくて、シーン同士の繋ぎとして、呆然としている主人公の少年の絵の上から、敵のボスの演説の声が入り始めるんです。繋ぎとしては、すごく上手いですよね。

 こういうのを、僕らは「音先」と言います。シーンが変わる時に、まず絵から入る「絵先」と、音から入っていく「音先」というのがあるんですけど。ここでは音先でシーンが切り替わり、そのまま、次はホワイトベースのブリッジのシーンになります。

(パネルを見せる)

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【画像】オスカーとマーカー ©創通・サンライズ

 ここに、オスカーとマーカーという2人のレーダー手がいます。その奥のモニターにギレン総帥が大きく映ってて、このカットが徐々に徐々にロングになっていくんですね。「ブリッジのみんな、このモニターに注目している」ということがわかる絵になっていくんですけれど。

 「しかし、これは敗北を意味するのか? 否。始まりなのだッ!」というふうに演説は続きます。

・・・

 ギレンの演説はそのまま続きます。

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> ギレン・ザビ:地球連邦に比べ、我がジオンの国力は30分の1以下である。にも関わらず、今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか!?

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 ギレンの演説というのは、基本的にアジテーション演説。みんなのやる気を上げるような演説なので、時々、疑問符を入れるんですね。

 「なぜか!?」とか「どうしてだ!?」みたいなことを言って、それに自分自身で答えるという形の、独裁者のアジテーション演説という形式になっています。

 敵の演説をここまで長々と聞かせたのは、たぶん、それまでのアニメの歴史ではなかったんですよね。

 というのは、敵の理念とか理想とかやりたいことを、そんなに語らせようともしなかったし、おまけに、聞かせられるだけの内容がなかったんですね。

 このギレンの演説は『機動戦士ガンダム』という作品の中でも、初めて「敵は何のために戦っているのか? 何を求めて戦っているのか?」ということを、長い時間かけて、見ている人に対して、富野由悠季が語りかけている話であります。

 「ジオンの国力は30分の1以下である」と「実は自分たちのほうが圧倒的に不利なんだ」ということを、ギレンは語ってるんですよね。これも珍しい。

 だいたい、それまでの敵の演説のシーンでは……いや、それまでは敵の演説シーンなんてなかったんですけども。あるとすれば、例えば、デスラー総統とかそういう人たちが、地球とか宇宙戦艦ヤマトに対して「我々はお前たちに比べて圧倒的な武力を持ってる!」みたいなことを言ったり見せたりするシーンが多かったんですけど。

 まず、「我々が戦っている相手は、自分たちの30倍以上の兵力を持っている」ということを言ってから、「にも関わらず、我々が今日まで戦い抜いて来れたのはなぜか!?」と続けるんですね。

 ここで、ようやっと帰還するリュウ達が映ります。

(パネルを見せる)

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【画像】リュウたち ©創通・サンライズ

 このカット、なんのためにあるのかと言うと、さっき見せた演説のシーンというのは、現場で戦っているアムロとかリュウの視点ではなくて、後方で指示しているホワイトベースのブリッジに映っている映像なんですね。

 「そこに、ようやっと現場の戦士たちが帰ってきた」というカットです。

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> ギレン・ザビ:諸君、我がジオン公国の戦争目的が正しいからだッ!

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 先程の「なぜか!?」という問いかけに関して「我々が正しいからだッ!」と決めつけて怒鳴るわけですね。

 そんな中に帰って来たリュウやハヤトというのは、かなりのんきな顔をしています。ブリッジの方は、自分たちの正当性を訴えるジオンに対して、わりと険悪な雰囲気なんですけど、彼らにしてみれば、今、ようやっと戦闘が終わったところだから、一応、ホッとして帰って来たんですね。

 すると、ブリッジの雰囲気が、いつもの「おかえり! ご苦労さま!」じゃなくて、すごく緊張したものになっているんですね。そんな中に入って来たわけです。

 ここで、ブライトのセリフがかぶさります。

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> ブライト:ジオンめ、あてつけに実況放送を世界中に流している。アムロも見ておくんだな!
> アムロ:は、はい。

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 ここで、また演説するギレンの映像のカットに変わるんですけど、さっきまでのカットとは違うんですよね。

(パネルを見せる)

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【画像】ギレンの演説 ©創通・サンライズ

 さっきのカットは、いわゆるホワイトベースの人たちの主観なんですよ。だから、ギレンの映るモニターには、グリッド線が掛かっています。

 ところが、次のカットになると、この線がなくなっている。さっきと同じく、モニターのフレームは入っているんですけど。作っている側としてはより主観に迫りたい映像にしているんですね。

 「これはモニターなんですよ」という客観情報を伝えるよりも、モニターに映ったギレン・ザビの演説を見ている人間の気持ちが徐々に徐々に乗っかってきていることを示すために、このカットでは画面の仕切り線みたいなものを取っています。

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> ギレン・ザビ:一握りのエリートが、宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して、五十余年。

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 これは、かなり難しいセリフですね。普通、小学生が見ているアニメでは「五十余年」つまり、「50年余り」という意味なんですけど、こんな表現は使わないようにするものなんです。

 だけど、今回は、こういう大人のセリフを使っています。

 このセリフの最中に、カメラが切り替わります。

(パネルを見せる)

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【画像】夕日とザンジバル ©創通・サンライズ

 何に切り替わるかというと、夕日が段々と沈んでいく中を飛んでいく、さっき逃げていった宇宙戦艦ザンジバルが、大気圏のギリギリの高度を飛んでいる場面です。

 夕焼けの空を飛んでいるということは、ホワイトベースより西の空。アジアにより近い空です。ホワイトベースの飛んでいる場所は、この時点では、まだ夕焼けにはなっていません。

 これ、面白いところですね。ホワイトベースの周りは、まだ夕焼けになっていないのに、ザンジバルのところだけが、先に夕焼けになっています。あとでホワイトベースにカメラが戻った時にわかるんですけど。

 こう言う描写から、ザンジバルは、すでにアジア上空にいて、おそらく、その先にある、中国からソ連に渡るマ・クベの基地に向かっている最中なのでしょう。

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> ギレン・ザビ:宇宙に住む我々が自由を要求して、何度、連邦に踏みにじられたかを思い起こすがいい!

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 このギレンの演説では、一貫してジオンの正当性を訴えているんですね。この演説内では、完全に「連邦が悪者で、ジオンは自由を求めるために仕方なく立ち上がった」という構図なんですよ。

 これは、別にアジ演説として言っているだけでなくて、実は『機動戦士ガンダム』の世界の中では事実なんですね。後に、そういう地球連邦の政府高官とかも、いっぱい出てくるんですけど。

 基本的に、ジオンというのは反乱軍という扱いなので、見ている子供達、特に中学生・高校生のミドルティーンからハイティーンの子供たちにしてみれば、ジオン側というのは必ずしも悪とは言い切れない、悪者扱いできないポジションになっています。

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> ギレン・ザビ:ジオン公国の掲げる人類一人ひとりの自由の戦いを、神が見捨てるわけがない!

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 フリップを用意してなかったんですけど、このセリフに入る頃には、カメラはザンジバルのブリッジの中に移って、戦闘が終わりコーヒーを飲んでいるランバ・ラルと、その肩に手をかけるハモンが映ります。

 この演説、本当は地球中の人が聞いているわけですから、地球のいろんな酒場とか家庭とかを映してもいいんですけど。制作者のカメラは、あくまでも当事者のみを映します。つまり、ホワイトベースの中と、ザンジバルの中ですね。それだけで見せています。

・・・

 で、ここまで二者だけでやっていたところに、ここでいきなり第三の視点が入ってきます。

 今回の解説の最重要ポイントですね。

(パネルを見せる)

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【画像】シャアとグラス ©創通・サンライズ

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> ギレン・ザビ:私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ! なぜだッ!?

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 という、有名なセリフ。

 また問いかけです。「問いかけを行ってから自分で答える」というのがアジ演説の基本ですから。

 これを言われた時に、シャアはもちろん「坊やだからさ」と返すんですけど。

 ここで注目してほしいのは、シャアの指の遊びです。シャアの指が、ずっとグラスの上をトントン、トントンと弾いているんですね。

 これは、本来、不要な演技なんですよ。こんな演技を、TVシリーズの『ガンダム』という貧弱な制作体制の中でわざわざ入れるということは、やっぱり、何か言いたいこと、見せたいものがあるからなんですね。

 「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ! なぜだッ!?」と言う時に、表面にギレンの顔が映り込んでいるグラスの上で、シャアの指が踊っているわけです。

 そして、カットが切り替わって、シャアの顔。「坊やだからさ」と言う。

(パネルを見せる)

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【画像】シャアと「坊やだからさ」 ©創通・サンライズ

 目はサングラスで隠しています。このサングラスの上には、やっぱりギレン・ザビの演説している表情が乗っかっています。

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> シャア:坊やだからさ。

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 このセリフ、これまでのアニメ雑誌とかの解説の類では、全て「シャアのニヒルな性格が表されている」と解釈しているんですね。

 シャアはニヒルな性格だから、自分の復讐でまんまと死んだガルマ・ザビのことをマヌケだと思ったからだ、と。

 「ジオンという国家やギレンはガルマ・ザビを英雄扱いしているけど、あんなヤツはただのお坊ちゃんで、いちいち戦場で女の子を好きになったりして、結局、俺に騙されたんだ」と嘲笑っているのがシャアの本音だ、というのが、これまでのアニメ雑誌とかの語り方なんです。

 だけど、僕はそれは違うと思っているんですね。なぜかと言うと、実はシャアが本音を語る時には、ある特徴があって、必ず目を見せるんですよね。

(パネルを見せる)

 これは、第6話の「ガルマ出撃す」の1シーンです。この時「シャア、私は良い友を持ったよ」と言うガルマに対して「水臭いな、何を今さら。ハッハッハ」と答えるシャアなんですけど。

 この時、シャアはちゃんと目を見せて、キラリと光る。つまり、自分の黒い気持ちと言うのかな? ガルマを陥れる気持ちみたいなものを見せる時には、絶対に、シャアは悪い目というのを視聴者に見せるんです。そういうふうに、わかりやすく描いている。

 なので、ここで瞳を隠しているということは「本音を語っていない」という記号なんですね。

 このだいぶ後、第41話「光る宇宙」という最終回の2回前の話で、キシリアに「お前はもうザビ家に対する復讐は捨てたのか?」とシャアは聞かれます。この時、シャアは「ああ、見抜かれていたんだ」とわかるんですけども。

 その時の答えが「こういう時がいつか来るのはわかってたけど、実際に来たら怖いですね。怖くて手の震えが止まりません」と、微動だにしない手をスッと見せるんですよね。

 この時も、シャアはマスクしたままなんですよ。基本的に、この人が、マスクをしているとか目を隠している時というのは本音を言わない。これが、このアニメの中でのお約束になっているんですよ。

 ちなみに、劇場版にも同じシーンがあるんですけど、キシリア、つまりガルマのお姉さんに呼び出されて「お前の本音を言え」と言われた時には、わざわざ数カットの演技を入れてマスクを外し、キシリアと正面向いて話すシーンになっています。これは「本音を言っているから」なんですね。

 このように、わざわざ演技を切り替えているということは「シャアというのは、瞳を見せている時は本音で語る」ということなんです。このニヤリと笑っている悪の素顔というのが、シャアの本音なんですね。

(本編中断)

ギレンの演説について補足

 はい、無料はここまでです。

 もう、いいところですよね。まだ演説が始まってから1分くらいなんですけど。

 まあ、とにかく、皆さんもご指摘の通り、フリップの量が半端ないですよね(笑)。

 「ここからエンディングまで、わずか2分くらいの解説のためにあのフリップの量はなんだ?」と。机に積み上がっていました。僕も「なんだ?」と思うんですけど。

 ギレンの演説で、初めて敵側の「我々の正当性」というのが語られるんですけども。「よくぞあれを12話まで我慢した!」と。

 もっと早く描きたかったはずなのに、あれを12話まで我慢して、あくまでアムロに密着した物語にすることによって『機動戦士ガンダム』というのは、ものすごいリアリティというか、見ている人間にとって参加している感が生まれてるんですね。

 だから、やりたいんですよ。作り手としては「画面を変えて、相手の事情を説明する」っていうのを、出来れば1話のうちか、2話になったらやりたいくらいなんです。

 今のアニメって、全11話とか12話くらいの構成で作られているから、こういう敵側のネタバラシって、やっぱり4話か5話くらいから始まるわけですね。この間まで僕が一生懸命見てた『さらざんまい』というアニメでも、だいたい3話か4話くらいから、こういうのがチョロチョロ出てくるんですけど。我慢できないんですよね。

 いや、「我慢できない」と言うか、まあシリーズが全10話くらいだから、そういうふうになっちゃうんですけど。

 やっぱり、1年続くアニメが当たり前だった時期に、この1年という期間を有効活用したアニメになってるんです。

 本当に、それまでは、ほとんどなかったんですね。

 これを「1年の使い方って、こういう方法があるんだ!」っていうのをハッキリと日本中の視聴者にわかるように見せたのが、やっぱり『アルプスの少女ハイジ』だったんです。

 『ハイジ』以前にも、もちろん、そういうシリーズ展開をやっているアニメもあったんですけど、やっぱり、一般の視聴者層にとって「1年かけたら、アニメって、こういう流れが作れるんだ」という、大河ロマン的な大きい流れを初めて見せたのは、やっぱり『ハイジ』なんですね。

 そして、その『ハイジ』に、コンテで参加していた富野由悠季が作った『機動戦士ガンダム』だからこそ、これを12話まで我慢出来たわけですね。

 逆に、よくあるパターンでは「最終回の辺りで、いきなり言う」というのがあるわけですよ。

 まあ、恥ずかしながら『ふしぎの海のナディア』というのは、わりと最終回辺りになってから、釣瓶落としのように、敵の事情とか悪の本音というのがボロボロと出てきちゃうんですけど。これもね、やっぱり、そのありがちなパターンなんですね。

・・・

 あとは、演説の内容。

 「我々は地球に比べて30分の1の国力」というのがあるんですけど、これも、それまでのアニメの常識外れなんです。だいたい、攻めてくる敵は圧倒的な兵力で来るはずなんですよ。

 それをあえて、敵の首領の悪そうな顔をしたヤツが、ですよ、「我々は地球に比べて30分の1の国力しかない!」と言いながら背筋を伸ばして「でも、俺達には正義があるから負けないもん!」みたいな。

 そういう演説をされると、やっぱり見ている人間の居心地の悪さですか。特に、この回を見ている小中学生の男の子たちの気持ちは、全部、アムロ君に行っているわけですよ。

 「おい、アムロ! なに目を白くしているんだ! 早く戦えよ!」と思って、戦闘が始まったら「なんだよ、あの紫のモビルスーツ! やたら強そうじゃん!」と思って「見逃してくれたか。今回はこれで終わりか。ロボットの戦闘シーン、案外短かったな」と思ってたら、いきなりイカツい顔のお兄ちゃんがガンガン演説を始めて「えー!? 俺らって敵より強かったの?」っていう。

 そんな、申し訳ない気持ちというか、急に弱い者いじめをしている側の、矛盾を突かれるような気持ちになるんですね。

 だから、今回は、なんかやたらとドラマとしては複雑な、見ている人間、視聴者の心理を揺さぶるような出来になっていますね。

 あと、思ったのが演説の見せ方。

 これ、前回も言ったんですけども、一番最初は、コックピットのパイロットたちの絵とともに、音だけが聞こえてくる。

 次に、パイロットたちがホワイトベースに帰還してブリッジに行くと、ブリッジで映像込みで流れている。

 そして、カメラがザンジバルという宇宙戦艦に行くと、戦闘を終えたランバ・ラルが座ってコーヒーを飲んでいる。

 もう、全然違うんですよね。ホワイトベースのみんなは緊張して、もう本当に、手なんかグーになってるわけですよ。手を握りしめたまま見上げるようにして……まあ、モニターが高い位置にあるからなんですけど。見上げるようにしてギレンの演説を聞いている。

 それに対して、ランバ・ラルは、座って、やや下を見ながら、余裕でコーヒーを飲みながらギレン・ザビの演説を聞いている。

 そして、また画面が変わると、今度はシャアなんですけど。最初のカットでは、シャアとはわからないわけですね。まず、グラスだけが映ってる。グラスの上で、指だけがこう遊んでいるわけですね。

 このグラスの上で遊んでいるだけの指を見せることで、シャアのイライラを表しているわけですね。

 人間、ああいうのをアニメでわざわざ演技させるっていうのは、やっぱり何かを言いたいからなんですよ。あんなところで、本当は枚数を使っている余裕はないわけですよ。

 なのに、指をやっているのはなぜかというと、「バカにしている」のではなくて「演説に心を乱されている」わけですね。

 シャアは白いスーツを着ているんですけど、あのシャアの白スーツというのは、みんな緑色の服を着ているジオンと、青い服を着ている連邦に対して「シャアは今、どちらにも属さないニュートラルな状態である」ということを示しています。

 もちろん、シャアとしては次の手は考えているんでしょうけど、やっぱり「ガルマが死んで、自分は左遷されて追放されてしまった」というのは、シャアにしても思いがけない出来事なんですね。

 「これからもう一度、またゼロからジオンに潜り込んで復讐をやるのか? それとも、いっそ地球の方へ逃げてしまうか?」と、決めかねている状態。だから、白いスーツを着ているわけですね。

 そこに、キシリアの情報機関が近づいた時に「キシリアの手の者か?」と言うのも、別にシャアはキシリアを待っていたわけでもなんでもないんですよ。運命というのは、そんなに思い通りにいかないんですよ、ガンダム世界では。

 そうじゃなくて「ああ、そっちの方にコマが動いたのね。じゃあ、俺はこっちの方に参加するんだ」という驚きはあったんですけど、その驚きを押し殺してるだけなんです。

 「まだ自分の立場がわからない時には、あの指の動きがある」というような部分に「シャアも不安な状況にいるんだな」というところまで、ちょっと見てくれたら、あのシーンはもっと面白くなると思います。

 では、後半。演説さらに進みますけども、お付き合いください。

 それでは、後半スタートです。

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・ガンダム完全講義21:第10話「ガルマ散る」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B07WZSYS3C

・ガンダム完全講義22:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part1

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・ガンダム完全講義23:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part2

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・ガンダム完全講義24:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part3

https://www.amazon.co.jp/dp/B07YCDY3ZG

・ガンダム完全講義25:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part4

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・ガンダム完全講義26:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part5

https://www.amazon.co.jp/dp/B07YWXKT1C

・ガンダム完全講義27:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part6

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・ガンダム完全講義28:第12話「ジオンの脅威」解説Part1

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・ガンダム完全講義29:第12話「ジオンの脅威」解説Part2

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・ガンダム完全講義30:第12話「ジオンの脅威」解説Part3

https://www.amazon.co.jp/dp/B0812ZXH4K

・ガンダム完全講義31:第12話「ジオンの脅威」解説Part4

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・ガンダム完全講義32:第12話「ジオンの脅威」解説Part5

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