ガンダム完全講義 第13回:第6話「ガルマ出撃す」解説Part2

 岡田斗司夫です。

 今日は、ニコ生「岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話」2019/06/25配信分のテキスト全文をお届けします。

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クドすぎる『THE ORIGIN』と「ガルマ出撃す」の前説

 はい、どうも岡田斗司夫のマンガ・アニメ夜話ですね。

 『機動戦士ガンダム』という、早くも何年前? 40年前のテレビシリーズのアニメを1話ずつ解説するというのを毎週毎週やってます。やっと、いつもの火曜日の夜に戻ってきました。

 一昨日の夜、ニコ生が終わってから『ガンダム THE ORIGINE』を見たんですけど。今日もちょっとこの『ORIGIN』話からしたいなと思うんですけども(笑)。

【画像】前説

 まあまあ、今回の『ORIGIN』は、コロニーが落とされるという話でした。

 後になって色々と理屈や名前がつけられて、ここで落とされたコロニーも「ハッテ」と呼ばれたりするようになったんですけど。まあ、「コロニーが地球に落とされた」という話は一番最初の『機動戦士ガンダム』でも語られています。「もともとは、地球連邦軍の本拠地であるジャブローを目指して落とすはずだった」というやつです。

 今回の『ORIGIN』では、このコロニーを落とす時に、中の人間を毒ガスで皆殺しにしてから落としたんですけど。

 そこで、最初のアニメからさらにキャラクターがマンガ的になった、ザビ家の三男坊のドズル・ザビ中将が、「俺はなんて酷いことをやってしまったんだ! たった1人のミネバでも、こんなにかわいいのに、俺は何億人ものミネバを……」と言って涙を流すシーンがあるんですけども。

 その後、ドズルは心を立て直すために「わかった! 結局、あいつらは弱いからだ! 弱いから自分達のミネバを守れなかったんだ! 俺はそうはならん。俺は俺だけの王国を築くぞ!」ということで、まあ、ちょっと不思議な野心みたいなものを見せるんですけど。

 その時の演技が、まあクドいクドい(笑)。

 「あァーいつらはァ! ぃよォわいからァ! むぅぁけたに過ぎィーん!!」ってやってて。

 これまで、『ORIGIN』のこういったクドい演技について「クドいよ! ダサいよ!」と言ってたんですけども。もう、逆に面白い方に行ってしまって。「これ、ちょっと、できればこのまんま全部やっていただきたい」って思うんですよね。

 この調子で全部やっていただくと、ホワイトベースのクルーも、みんなこんな感じになるんですよ。

 アムロが「うゥーん! 殴ったねッ!? 父親にもォー、ぬァぐるァれたことがァ! ぬァいのにィッ!」って言うと、ブライトさんも、身体をクルクル回しながら、「殴って何が悪い!」とか。

 「カァムラン! あなたには、私のことがァ、わかってないのよォ!」とか。そんなとてつもないミライさんとかが見れる気がして(笑)。

 できれば、やって欲しいなと思います。ちょっと見たくなってきたでしょ?

 では、しょーもない話はこれくらいで置いといて。

 今日は第6話「ガルマ出撃す」の後半を語ります。

 もう、時間との戦いの話ですね。

 アムロは、実は、命からがら大気圏に突入して、今、ようやっとホワイトベースの後部デッキから帰って来たところなんです。

 しかし、帰ってきてブリッジに上がったら、窓の向こうには、ガウ攻撃空母以下ジオンの飛行編隊がホワイトベースを迎撃するために成層圏まで上がって来ていたという、そういう話なんですね。

 「やっとシャアのムサイから逃げ切った、連邦軍のジャブロー基地に逃げ込める」と思って、ホッとしていたところに、シャアの戦略によってジオンの戦力圏に追い込まれ、しかも、これまで経験したことのないジオン本体というのかな? シャアが率いていた自分だけの部隊でない大部隊に囲まれているという状態です。

 もう、どうすれば助かるのか、誰にもわからない。少しでも生き延びる確率を上げようと、ブライトもアムロもハヤトも、あのリード中尉ですら、頭脳を絞って考えるんですね。

 後半では、アムロがすぐ出てくるんですけど。「とりあえず出撃してくれ!」と言われてフラウ・ボウとすれ違う時に、栄養ドリンクを渡されて、「これくらいしかできないけど、コックピットの中ででも飲んで」と言われ、アムロは一息でゴクゴクっと飲むんですね。

 このドリンクがなかったら、たぶん、ガンダムに乗って何分戦っているのかわからないアムロというのは、絶対に栄養不足で、貧血とかめまいを起こしかねなかったところを、フラウ・ボウの機転で、ちょっとでもアムロに気付け薬みたいに脳に栄養が行くようになってる。そんな状況なんです。

 そういう、リアルタイムで見るような視点で見ると、いろんな発見があると思います。

 それでは、準備よろしいですか? では、『ガンダム講座』の第13回になります。

 「ガルマ出撃す」の後半、ゆっくり御覧ください。

危機に陥ったホワイトベースの動きとアムロの心の揺れ

(本編再生開始)

 もう1つの人間関係は、ブライトさんとリード中尉です。

【画像】リード中尉 ©創通・サンライズ

 これもガンダムの解説本なるもの見ると、よく「リード艦長」と書かれることもあるんですけども。でも、リードさんは中尉です。

 ちなみに、ブライトさんには、この時、階級すらありません(笑)。ただ単に「士官候補生のブライト君」です

 「戦場臨時任官」という制度があるんですね。つまり、「戦争状態になった時に、しょうがないからその場にいる上司が命令して任官させる」という制度があるんですけど。たぶん、その戦場臨時任官制度を使っても、まあ准尉といわれる、少尉の1つ下辺りが、まあブライトさんのポジションだと思います。

 だから、まあ、リード中尉というのは、完全に上役なんですね。

 ところが、ところがですよ? ブライトさんは、仮にもパオロ艦長からホワイトベースの指揮を任されたわけですね。

 これを何と言うかというと、最先任士官というのを聞いたことがありますか? これは海軍用語です。「最も先に任命された士官である」ということですね。

 これは、陸軍にはなくて、海軍にだけある制度です。

 陸軍では、戦争映画とかを見るとわかると思うんですけど、例えば敵に攻撃されて司令官が死んだ場合、その場の人間がやることは「すぐに司令部に連絡を取ること」なんですね。だから、すぐに無線機を取り上げて、「司令部、司令部! 隊長がやられた! どうしたらいいか教えてくれ!」みたいなことを言うんです。

 つまり、陸軍というのは、あくまで上から下までの構造が、上官から一番下の下っ端の兵隊まで決まっているから、どこかで隊長とかがやられたら、すぐに上の司令部に連絡して「どうしたらいいのか?」と指示を仰ぐんです。これは、「陸上で、常に周りに連絡が取れる仲間がいる」というのが前提。これが陸軍の考え方です。

 ところが海軍、おそらく宇宙軍も違うんです。

 海軍というのは、たった1隻の船で行動している場合も多いんです。そんな中で、敵の攻撃とかでブリッジがやられたら、艦長がやられて、副長もやられて、機関長も甲板長もやられて、というふうに、バタバタっと死ぬことがある。その時に重要なのが、この最先任士官制度なんです。

 つまり、その場にいる人間の中で一番位が上のやつを探す。もう伍長しかいないとか、軍曹しかいない。最悪、それでも構わないんですよ。そうなった場合は、今、生き残っている軍曹の中で一番最初に軍曹になった人間……いわゆる、芸人でいうと「1日でも早く入ったヤツが兄さん」みたいなもので、同じ位の中で一番兄さんを探すんですよ。そして、その兄さんが、全ての権利を持っていく。

 だから、ブライトさんがパオロ艦長から「お前が船を運用しろ」と言われた時に、准尉であろうと、士官候補生であろうと関係ないんです。彼はホワイトベースの最先任士官になったんですね。

 なので、ホワイトベースにおいて、ブライトさんは、「艦長」とは呼べないまでも、艦長代理みたいな立場にいます。

 それに対して、リード中尉というのは「自分が乗っているスペースシャトルが敵に撃たれたから、入ってきただけ」なんですね。

 なので、中尉であろうとも、実はブライトさんよりも、軍隊的に考えると位が下なんですね。ブライトは「艦長扱い」で、リード中尉は「避難してきた位が上の人」に過ぎないんですよ。

 これがもし、連邦軍の上層部と連絡が取れていたら、あっという間に「リード中尉を艦長としろ」という任命が行われていたはずなんですけど。

 でも、このホワイトベースというのは、ルナツーを出た後は、次にレビル将軍からのコンタクトがあるまで、一切の連絡がついていない状態です。イコール、任命も行われていないので、最先任士官制度によって、ブライトさんがホワイトベースの艦長代理で、リード中尉はそこに乗っているお客様みたいな立場なんですね。

 第1話でホワイトベースがサイド7に入って来た時に、パオロ艦長は、テム・レイというアムロ・レイのお父さんに敬語で話してましたよね? あんな感じだと思ってください。

 「決して粗末に扱えないんだけど、ホワイトベースに関しては私が責任を持つ」という立場がブライトさん。

 しかし、これも戦時の臨時で、おまけにブライトさんというのは、まだ学校にいた学生なので、リードさんとしては「当然、俺が艦長だよな?」と色々と命令するわけです。

 ところが、ブライトさんは指揮権を渡さないわけですよね。なので、ややこしくなっている。

 これも、大人になってから『ガンダム』を見るとわかることなんですけども。

 「リード中尉はイヤなヤツだから色々とガミガミ言って、ホワイトベースのみんなは渋々それに従っている」というふうに見えるんですけど。『ガンダム』の放送当時は、やっぱり僕も学生だったので、彼らの関係を「大人と学生」みたいなポジションで見てたんです。

 だけど、よくよくちゃんと見てみると、そこら辺はすごく上手く出来てて、最先任士官制度というのも、この中でちゃんと生きてるんですね。

 なので、こんな変な人間関係になってるんですね。関係が曖昧なままなんですよ。

 この後、リード中尉の命令でガンタンクで出撃することになります。

 これには、理由があります。次のフリップを見て頂きましょう。

(パネルを見せる)

【画像】ホワイトベース ©創通・サンライズ

 実は、この時、どんな状態だったかと言うと。後に、地上まで降りて来るんですけど、ジオンの航空機部隊に襲われているホワイトベースの状態が、これです。

 下に見える地球が丸みを帯びてます。つまり、「少なくとも成層圏の高さ」なんですね。

 ガウ攻撃空母という、こんなにデカい図体を持っている敵に狙われるホワイトベースなんですけど。

 実はこのガウ攻撃空母、敵の高射砲とかミサイルが届かないくらいの、地上1万メートル~2万メートルくらいの超高空、成層圏を飛んでいる飛行機なんですね。

 ホワイトベースも、地球の大気圏に突破したと言っても、まだ成層圏くらいの、本当にB-29が東京を空襲した時の、日本の戦闘機が上がろうとしても全然上がれないような上空を飛んでいます。

 そんな場所で、戦闘が始まっているわけですね。

 では、この時のジオンの考えとリード中尉の読みはどうかと言うと。

(ホワイトボードに図説する)

【画像】ホワイトボード1

 これが地表だとして、ホワイトベースが飛んでいます。そして、ガウ攻撃空母も同じくらいの高さを飛んでます。

 しかし、ホワイトベースとしては、ここから高度を下げなきゃいけないんですね。

 では、高度を下げるとどうなるか? ガウ攻撃空母は相変わらず成層圏の、すごく高い雲の上にいるから、ホワイトベースの攻撃が当たらなくなるわけですね。ずっと高いところにいるから。

 そんな中で、ガウ攻撃空母はどんどん戦闘機を下ろしてきて、この戦闘機がホワイトベースに近づいて攻撃することができる。

 ホワイトベースは、基本的に、この戦闘機に対して反撃することは出来るんだけも、物凄く高いところを飛んでいるガウ攻撃空母には攻撃ができない。そんな状態が延々と続いちゃうんですね、

 なので、リード中尉は「ガンタンクを下ろそう」と考えたんです。

 ガンタンクには、ものすごく長いですね大砲がついているんですね。この大砲だったら、ガウ攻撃空母を直接攻撃することができる。

 ここで今、モビルスーツを使って、近付いてくる戦闘機の相手をさせても仕方がない。ガウ攻撃空母という敵の母艦を攻撃しなければ、戦闘というのはまったく収まらない、と。

 だからこそのガンタンク出撃なんですね。

【画像】ホワイトボード2

 ところが、これもまた「いちいち戦術的なことを子供達に言ってもしょうがない」というふうに、リード中尉は考えていたんでしょうけど、説明してくれないんです。

 だから、「なんでガンタンク?」って、見ている僕らにもわからないままなんですね(笑)。

 で、ガンタンクへの換装シーンというのが出てきます。

 ここで始めて、視聴者に「ああ、『機動戦士ガンダム』のお腹のところにある飛行機というのは、ガンダムだけのお腹じゃなくて、ガンダム、ガンキャノン、ガンタンクという3種類のモビルスーツで共通しているもので、それぞれに人が乗ったまま組み替えることができるのか!」という、驚きのメカニズムが明かされます。

 まあ、僕らはオープニングを見てるから薄々見当が付いてるんですけどね。

 あとは、番組のオンエアと同時に流れていた、クローバーから売られていた超合金のCMで「ガンダム、ガンキャノン、ガンタンク3種類に変形!」とかって言ってたから、わかるんですけども。

 一応、番組内で告知されたのは、これが初めてです。

 この時、アムロはガンタンクで出撃します。

 後に、イギリスのベルファストの基地での戦いでは、アムロはガンキャノンに乗って出撃するんですね。

 これ、「なんでかな?」って、僕、昔から不思議に思ってたんですけど。この間、富野さんの伝記を読んでいて、初めてわかりました。そこには「スポンサーの玩具会社から出されたリクエストにはすべてお答えしますと約束した」って書いてたんですね。

 おそらく、富野さんは「主人公のアムロは、ガンダム、ガンキャノン、ガンタンクの全部に乗る」って約束しちゃったんですよ(笑)。

 なので、今回で「ガンタンクに乗る」というのをさり気なくやって、後にガンキャノンに乗るというのを、これまたさり気なく混ぜていくことによって、「3種全てのガンダムメカに乗る」という要求に応えたんじゃないかと、僕は考えてます。

 ただ、このリード中尉の読みが外れたのが、「ジオンの攻撃部隊は地上にも展開していた」ということなんですね。

 ただ、これはもう、読めなくて当たり前なんですよ。

 これまでは、追ってくるシャアの軽巡洋艦1隻と戦っていただけだったので。だから、今回もそういう規模を想定していたんですけども。

 ところが、地球に降りてきたと同時に、まさか、地球方面司令官であるジオンのザビ家の末息子自らが、そのシャアを出迎え、今までのデータ貰った上で「よーし、連邦軍の秘密兵器か!」って、大攻撃を仕掛けてくるなんて、予想できるはずがないんです。

 だから、ホワイトベースも「あの戦闘機から逃れられれば大丈夫だ!」と思って、地面に降りて、山肌を盾にしながら這うように飛べばいいと考えた。

 そしたら、まさか、まさかに、地上には戦車まで布陣されていた、と。

 「これはたまらん」ですね。着陸したら戦車にやられる。上昇したら、空母とか飛行機にやられるという、まさに挟み撃ちですね。

 おまけに、航空部隊と地上部隊とでは、火力、攻撃力が違うんですよ。飛行機というのは飛ばなきゃいけないわけだから、積載できる大砲のサイズとか弾の数にも限度があるんですよ。でも、その点、地上部隊というのは、とんでもなく重い大砲とかを持ち歩けるので、全く攻撃力が違うわけですね。

 そんなところに高度を下ろして入ってしまったホワイトベースは、まさに袋のネズミです。

 何よりも、ホワイトベースというのは、これまでシャアの船1隻に苦戦してたようなものなのに、こういった本格的な部隊の展開とか、挟み撃ちみたいな計略に掛かるのは初めての経験だったんですね。

 もう、大ピンチです。

 アムロもここで出撃するんですけど、まあ、揉めます。

 一緒にガンタンクに乗ることになったハヤトが「アムロ、敵は僕達がホワイトベースの前にいる以上、規則的な攻撃を強めてくるばかりだ」と、当たり前のことを言います。

 つまり、ハヤトとしては「ホワイトベースから離れろ! 敵の攻撃を分散させろ!」と言うんですけど。それを聞いたアムロは「ホワイトベースから離れるわけにはいかない。このまま突っ込んで、脱出路を作るんだ!」と言い返すんです。

 でも、そんなことで揉めている内に、敵は攻撃してくる、と。

 すると、ブライトさんから、急に通信が入るんです。これまでのブライトさんとは態度が全然違います。

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> ブライト:アムロ、ブライトだ。君に頼みたい。マゼラアタックに対してガンタンクでは小回りが効かないんだ。ガンダムで、ガンダムでやってくれるか?

> アムロ:ブライトさん!

> ブライト:頼む! ガンタンクの方はリュウに操作させる。

> アムロ:ブライトさん……。

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 この、「ブライトさん」という同じセリフを、1回目は強く、咎めるように言った後で、「頼む」とまで言われたアムロは、2度目は弱めに「ブライトさん……」と言います。

 つまり、ここで初めて、アムロは意地になって考えていた自分の戦略を見直すことができるようになるんですね。

 『機動戦士ガンダム』において、主に人間の成長というのは、このように、戦場のその場の咄嗟で行われるんですね。

 ブライトがアムロに対して行った、謝罪するような感じでのお願いも、それまでのブライトの態度ではなく、戦場での咄嗟の通信でやったことだし、その言葉を聞いたアムロが、自分の中で心変わりをして、こだわっていた自分の戦い方を捨てるのも、咄嗟の瞬間の出来事なんですね。

 普通のドラマでは、こういうのは内面の声とか、もしくは、落ち着いた時に考えた結果、変わるんですけど、『ガンダム』では、そうじゃなくて、戦場の咄嗟の判断や行動だけで、その人の心理変化を見せるんです。

 なので、ちょっとわかりにくくなっています。

 しかし、ハヤトが、「アムロ、ブライトさんの言う通りだ。マゼラアタックは~」と言うと、アムロは「1人の方が戦いやすいか」と考えます。

 アムロはまだ、この期に及んで、「ハヤトからいろいろ言われて揉めるくらいだったら、1人の方が戦いやすいか」と考えちゃうんですね。

 なので、「了解です。ガンタンクはカイかセイラさんに操縦させてください。セイラさんならできるはずです」と通信に答え、「このままじゃ袋叩きってわけか」と独り言を言いながら、ガンダムに乗り換えます。

 戦略に関しては、結局、ハヤトの方が正しかったんですね。アムロは自分の意見にこだわり過ぎです。

 ガンタンクがホワイトベースに戻ると、アムロはそこから走ってガンダムの方に行きます。

 「コアファイターを換装している時間はないわ。アムロ、走って!」とセイラさんに言われて、「了解」と、アムロがガンタンクから降りると、その瞬間に、向こうから走ってきたカイとすれ違うんですね。

 アムロが「行ってくれるのか?」と言うと、カイは「しょうがねえだろ?」と言いながら、ガンタンクに乗り込みます。

 ここでのセリフ、カイが単なるイヤなヤツだったら、この「行ってくれるのか?」に対しても、何とでも答えようがあるんですよね。「お前がドジするからだ!」とか、「おお、任せとけ!」とか、色々と言えるんですけども。

 ここで「しょうがねえだろ?」っていうのは、アムロがいつも言ってるセリフと同じなんですね。

 アムロがいつも言っていた「僕だって戦いたくて戦ってるわけじゃありません。仕方ないんです」というのと同じように、カイは「しょうがねえだろ?」と、軽い感じで言うんです。

 そんなふうに「いやいや、お前、これは俺に借り作ったんじゃないんだよ。これもしょうがないことなんだよ」というふうに、カイは、ちょっと大人っぽい挨拶をかけてあげる。

 「任せろ!」と言わないところがカイの意地ですよね。

 すると、フラウ・ボウが待ってて「飲んでって。栄養剤よ」ということで、アムロはゴクゴクっと一息で飲み干します。

 フラウ・ボウが「こんなことしかできないけど」と言うと、アムロはちゃんとその場では「ありがとう!」と言うんですね。

 後に、この回の最後の方に出て来る人嫌いのアムロとは全然違って、戦闘中のアムロというのはテンションが上がってて、かなりいいヤツなんですよね。

 フラウが「頑張ってね」と言うと、アムロは走りながら、真後ろにいるフラウ・ボウに振り返らずに手を振るんですね。なかなかオシャレな作画です。

 他のクルーも「頑張ってくれ!」「頼むぜ!」と声を掛ける中、アムロはガンダムのコックピットにシュルッと乗り込みます。

 この第6話でのアムロのガンダムの乗り込み方があまりに美しいんです。足から入って、クルリと座席の上で反転して、お尻をストンと沈めて、安全ベルトをパチャパチャと締める。

 あまりにも上手く描けているので、このシリーズの中で、このシーンは何回も何回もリピートで掛かります(笑)。ぜひ見ておいてください。

 しかし、アムロがガンダムに乗り込んでベルトを締めている最中に、セイラさんとリュウとの交信音が聞こえるんですね。

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> セイラ:リュウ、自信がなければいいのよ?

> リュウ:やむを得んでしょう。発進します!

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 そんな会話を交わしながら、リュウのコアファイターがバーンと発進するところが、アムロから見えてしまうんですね。

 すると、もう早速アムロは拗ね始めて、「僕だって自信があってやってるわけじゃないのに……!」と独り言をこぼす。

 それに対して、セイラさんが、「アムロ、何か言って?」と聞いてきます。

 アムロはあわてて「いや、アムロ、ガンダム発進します!」というふうに気を取り直すんですけども。

 そうすると今度は、「急がないで。ガンタンク発進までスタンバイです」と言われてしまう。

 「もうこれだ! すべてこれだ!」と、自分の思い通りにならないことに、アムロはひたすらここで文句を言うんですね。

 なんか、この辺りのすれ違いですか。

 つまり、「一瞬、心が通じたようで、やっぱりダメで、一瞬、素直になったかと思えば、やっぱりダメで」という繰り返しの緩急で心を動かすというのが、やっぱり『ガンダム』は上手いんですね。

(本編中断)

富野由悠季展と先任士官について補足

 はい。『機動戦士ガンダム講座』、第6話「ガルマ出撃す」の後半、無料配信はここまでです。

(本を見せる)

【画像】富野展図録

 ここに置いてあるのは、今、福岡市美術館でやっている富野由悠季展『富野由悠季の世界』の図録です。税抜きで4千円もする、メチャクチャ高い図録なんですけど。

 なんでここに置いているのかというと、これ、次回のニコニコ生放送のお便りコーナーで採用された人の中から、1人にプレゼントする用として買ってきました。重たかったんですけど。

 その他にも、色々とプレゼントがありますし、ステッカーもあります。まあ、まだ間に合うんじゃないかな? お便りをよろしくお願いします。

 今回は、初っ端から、リード中尉とブライトさんのポジションについての解説から始めました。

 戦時臨時任官というか、最先任制度というやつですね。

 もうね、『ガンダム』ってかなり複雑な話だから、もう第6話なのに、こういった基本の世界観説明をしないといけないんですけども。

 以前、「ホワイトベースには、一番上の軍人が、もうブライトさんしかいない」という話をした時に、「いやいや、リュウもいるし、他にもホワイトベースの中には軍人もいたよ!」って言ってた人がいたんですけど。それはその通りなんですけど、ちょっと違うんですよ。

 まず、リュウも士官候補生なんですけど、彼の場合はパイロット候補生という、ちょっと違ったルートなんですね。

 あとは、ホワイトベースの、例えばエンジンルームとか、いろんなところに軍人いるように見えるんですけど。あれは、おそらく技術士官。つまり、メーカーからの出向の人だったり、医療士官だったり、つまり、医者とかコックなんですね。

 そういう人達は正式な士官ではないから、艦長になれないんですね。「いくら戦場で他のみんながやられたからといっても、正式な士官ラインが1人でも生きている限りは、その中から任命する」というのが前提なんですよ。

 また、ホワイトベースの中で、ミサイルの撃ち方とかを軍人が指示するシーンがあるんですけど、それもやっぱり怪我をしている人なんです。こういう怪我とか病気で満足に動けない人も、やっぱり任官の対象にはならないんです。

 なので、本当にもう「ブライトさんという、士官学校を出て6ヶ月目くらいの、いわゆる艦内では坊や扱いの人間が、いきなり艦長代理になってしまっている」という、ホワイトベースの異常さが、これでおわかりになるかと思います。

 富野監督というのは、戦前生まれの人、1941年生まれの人ですから、当たり前のように、こういった陸軍と海軍の違いみたいなものは知っているんです。

 その辺の、富野さん自身が身体的に持っている知識、「海軍って、こういうところじゃないの?」というギャップを、宇宙に持ち込む面白さというのが、『機動戦士ガンダム』の一番最初のシリーズにはあると思います。

 ここから先は有料配信になります。

 場面が変わって、ジオンです。ガウ攻撃空母内の、ドレンとシャアの、なかなか含みのある大人っぽい会話のシーンから、後半は始まります。

 それでは、準備は大丈夫ですね?

 後半の講義を始めてください。

ここから先は

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