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【月着陸50周年記念】アポロ宇宙船(後編)月着陸と月面歩行

 岡田斗司夫です。

 今日は、2019/07/28配信のニコ生・岡田斗司夫ゼミ「【月着陸50周年記念】アポロ宇宙船(後編)月着陸と月面歩行」からテキスト全文をお届けします。

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お便り紹介コーナー

 こんばんは、岡田斗司夫ゼミです。今日は7月28日ですね。もう7月もこれで最後です。

 昨日から、SF大会があったり、ワンダーフェスティバルがあったり、隅田川の花火大会があったんですけども。僕はと言うと、何一つせずに、ひたすら事務所にこもってニコ生の準備をしておりました。よく働くよね。

 今日は、アポロ特集の後編ということで始めようと思うんですけども。その前に、お便りがいくつか来てます。

 ますは、沖縄県ハンドルネーム「あい」さんから。

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> 先日は3つの願いのメール採用ありがとうございました。とても驚きました。
> タオルくんのステッカーを無事に受け取り、ファイルに貼って活用しています。
> この度はありがとうございました。

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 ということで。いえいえ、どういたしまして。

 次は、愛知県の「はんな」さんからのお便り。

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> 先日はタオルくんシールをいただき、ありがとうございました。大切すぎて、しまい込んでいます。

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 逆ですね。

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> 40代後半の女性で名古屋育ちのクリスチャン、未婚の腐女子です。

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 いくつもいくつも重なってますね。

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> クリスチャンということで、ゴチックとキリスト教の歴史はとても興味深く楽しく拝見させていただきました。
> 岡田さんのイキイキと楽しそうにお話しされるところ、また宗教に対して信じる=正しいか正しくないかなどという、時々クリスチャンであることを伝えると話題にあがる内容ではなく、「面白いから」という視点で語られる、良い意味でのサイコパスぶりが、とても聞きやすく新鮮でした。

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 ということでありました。ありがとうございます。

 毎回毎回、お便りを読み上げた方には、このタオルくんステッカーを差し上げております。

(ステッカーを見せる)

【画像】ステッカー

 7月と8月は、このタオルくんの2枚組のシールを差し上げますので、チャンネルの感想や質問ありましたら、今からでも大丈夫です。いつでも受け付けてますので、画面に出ている岡田斗司夫のメアドまで、メールをください。

 採用者にはシールを送るので、住所と名前をちゃんと書くのを忘れないように。あと、ハンドルネームも書いてくださいね。

 メアドがわからなかったら、TwitterやFacebookのメッセージでも大丈夫です。面倒くさいですけども、それでも採用したりします。

 今回、リクエストでわりと多かったのが、「『天気の子』について語ってください」というものなんですけど。

 これは『トイ・ストーリー4』と一緒に、来週、ちょっとだけですけど、語ってみようかと思います。

 あと、コメントで「住所や本名を書くのが不安」というのがあったんですけど。

 宛先を僕のメアドにしているのはなぜかというと、「これを読むのは僕だけで、スタッフが読んだりしません」ということなので、安心して書いてください。

 送られたメールに関しても、僕はもう面倒くさいから、プレゼントを送ったあとでどんどん消してますから。保存したりもしていません。そんな面倒くさい(笑)。

『なつぞら』大予想「クライマックスでハイジ登場〜大樹じーちゃんはアルムおんじ!?」

【画像】スタジオから

 じゃあ、今週の『なつぞら』の話をしようかと思います。

 『なつぞら』、舞台は一気に1963年、昭和38年に飛んじゃいました。なつも、もう26歳ですよ。1週間の間に「東洋動画初の女性原画家になった」という、5年後の世界になってるんですね。

 そんな5年後の中で、なつ達がいつもいる、おでん屋の壁に、ちょっと見逃せないものが貼ってありました。

(パネルを見せる)

【画像】おでん屋の壁に貼られたポスター ©NHK

 これ、何かというと、この5年の間になつが作っていた作品のポスターなんですけど。

 『わんこう浪士』というのと、『アラジン少年とランプの魔人』。他にも『真田十勇士』というのを作っていたようです。

 この『わんこう浪士』というのは、もちろん、東映動画の『わんわん忠臣蔵』が元ネタですね。『アラジン少年とランプの魔人』は、手塚治虫が原作と企画で入った『アラビアン・ナイト』。『真田十勇士』は『少年猿飛佐助』です。

 こんなふうに、順調に東映動画パロディが入っています。また、このポスターの出来が、結構、良いんですよね。

 なつの友達の、お菓子屋に勤めたのに新劇俳優になろうとしている雪次郎君。彼は、アメリカドラマの吹き替え俳優になりました。

 その吹き替え俳優としての仕事というのが、まあ雪次郎君が劇中で読んでる台本にタイトルが書いてるんですけど、『ビューティフル・ナンシー』という作品です。

(パネルを見せる)

【画像】『ビューティフル・ナンシー』 ©NHK

 これは『ビューティフル・ナンシー』の一部分の吹き替えをしている最中のシーンなんですけど。

 これ見て、一瞬「あれ?」と思って引っかかって、次の瞬間、爆笑したんですよ。

(パネルを見せる)

【画像】『ビューティフル・ナンシー』 ©NHK

 これ、何かというと、1950年代から60年代に放送された、アメリカの有名なモノクロのテレビドラマに、『アイ・ラブ・ルーシー』というのがあったんですね。

 まあ、皆さんはわからないでしょうけども、これがもう、本当に大ヒットしたテレビドラマだったんですよ。

 あまりにもヒットし過ぎて、アメリカでは、テレビがカラーになった1980年くらいまで、再放送されていたそうです。モノクロのテレビドラマですよ? 家のセットの中で2人で演技してたら、客席から笑いが入るアメリカドラマってよくあるじゃないですか? それなんですよ。人気がありすぎて、1970年代になっても何回も何回も再放送されてたんです。

 アポロ13号が打ち上げられた時、実は、生中継されなかったんですね。

 アポロ11号が成功した時はものすごい視聴率だったんですけど、アポロ12号の時には、そんなに視聴率が取れなかったので、アポロ13号ではテレビで生中継されなかったんです。

 じゃあ、その13号の打ち上げの時刻に何をやっていたのかと言うと、『アイ・ラブ・ルーシー』の再放送。

 「そっちの方が視聴率が取れるから」という理由でこちらが放送されていたもんだから、実は、アポロ13号の打ち上げを生で見た人って、ほとんどいないんですよ。

 まあ、そんないわくのドラマなんですけど。雪次郎くんはこういうものの吹き替えをやってました。

 60年代のメガヒットドラマなんですけど。

 そして、ついに『鉄腕アトム』が登場して、テレビマンガの時代になりました。

 この「テレビマンガ」という言葉は、1960年代から70年代の半ばくらいまで使われていた言葉です。当時は「アニメ」っていう言葉がなかったんですね。

 「アニメ」とか「アニメーション」と言うのは、あくまでも玄人というか、マニアの人だけで、特にテレビでやっているものは「テレビマンガ」というふうに言ったんですね。アニメじゃありません。

 なので、宮崎駿も高畑勲も、東映動画出身でジブリに行った人というのは、自分達の作品をすべて「アニメーション」って言うんですね。「アニメ」って区切って言わない。

 「アニメなんていうのは、例の手塚治虫が始めた安っぽいテレビマンガのことだろ?」というふうなことで、あえて「アニメ」って言わないようにしているんですね。

 ついに『鉄腕アトム』が登場して、視聴率をメチャクチャ取ったので、東洋動画も黙っていられなくなって、『百獣の王子サム』というテレビマンガを制作します。

 先週、「『狼少年ケン』をやるぞ」と言ってたら、本当に『狼少年ケン』をまんまやってて。『なつぞら』では、『サム』のオープニングがかかったんですけど、笑うくらいそっくりでしたので、興味がある人はそこだけでも見てみてください。

 「狼に育てられたケン」という『狼少年ケン』の設定が、「ライオンに育てられたサムになる」という。本当に、パロディというよりは悪ふざけみたいな話だったんですけども。

 そして、まさかの、本編内で「こういうのが「フル・アニメーション」。こういうのが「リミテッド・アニメーション」」という、すごい良い説明もありました。

 よく「1秒間に24枚とか12枚使うのがフル・アニメーション。そうじゃなくてなんか3枚とか4枚しか使わないのが、リミテッド・アニメーション」という解説があるんですけど、正しくは「動かす部分と動かさない部分を思い切って分けちゃうのがリミテッド・アニメーション」なんですね。

 例えば、「サムが画面からパッと走って消える時に、消える部分の流線だけ書いちゃう」というのが、リミテッド・アニメ的な方法なんですけど。

 それを、NHKの朝ドラの中で、もうバッチリ説明してるので、もう、すごい面白かったです。

 そんなふうに「先週までの、うんざり恋愛展開と本当にどうでもいい恋話がなくなって、良かったな」と思ってたら。思ってたら、ですよ。

 今度はまた、雪次郎の恋愛話が始まります。

 雪次郎、まさかの十勝に帰るやのなんやのとUターンしちゃったんですよ。まあ、たぶん、彼は声優として、もう一度、帰って来ると僕は思ってるんですけども。

 また、どうでもいい話にちょっと行ってました。

 あとは、先週までなつ達が作ってた短編アニメ『ヘンゼルとグレーテル』。劇中での高畑勲である坂場君の初監督作品は、まさかのお蔵入りになってしまって、5年間、劇場で掛けてもらえず、誰にも見てもらえないということになっていました。

 何が悪かったのか、お蔵入り。まあ、社会批判がちょっと混ざってた、鳥達がデモをしてたのがいけなかったのかどうかはわからないんですけど。お蔵入りになって、5年間公開なしになってます。

 そんな中での、僕的な見どころは『サム』の制作をしている作画スタジオの机の上。

 ここにライオンと男の人形が置いてあるのがわかりますか?

(パネルを見せる)

【画像】ライオンと男の人形 ©NHK

 まあ、木を彫って作った上から色を塗った、簡単なライオンと男の人形なんですけど。

 さあ、これはなんでしょうか? わかりますかね? ちょっとコメントを待ってみようかな。

*「そんなの気付かねえよ!」(コメント)*

 と、言われてしまったんだけれども(笑)。

*「キャラクター人形」(コメント)*

*「モデル」(コメント)*

*「サム」(コメント)*

 はいはい。

 これね「キャラクター人形」と言われるものです。商品サンプルじゃないんですよね。

 これ、何かというと、ディズニー社もやってたんですけど、アニメを作る時にイメージの見本にするために一体だけ作る人形なんですよ。作り方もいろいろあって、この『サム』の場合は木彫りなんですけど。

 東映動画でいうと『狼少年ケン』とか、あとは『遊星少年パピィ』とか、そこら辺の、主に原作がない作品に多いんですよね。

 マンガの原作がないような作品を作る時、キャラクターの表情とか、体型スタイルがわかりにくいので、それを理解できるように、一体ずつ作る人形なんですよ。

 これがね、たまに「まんだらけ」のオークションとかに出品されるんですよね。僕もまだ、実物は見たことがないというか、そのまんだらけのオークションの写真くらいでしか見たことがないんですけど。『宇宙パトロールホッパ』とか、そういうやつの写真は見たことがあります。

 こういった「キャラクター人形みたいなものが、何の説明もなく作画机の上にポンと置いてある」というところが、この『なつぞら』のアニメ制作描写のちょっとすごいところですね。

 僕は、こういうドラマの中で、ここまでやってくれると思わなかった。それも、解説もなしにトンと自然に置いているところを見て「すごいな。調査再現員、仕事をしてるな」と思いました。

 ドラマの方では、この『サム』が、大好評のうちに終わって、来週辺りからは、またなつ達は、映画アニメーションに戻るみたいです。

 「となると、いよいよ『ホルス』かな?」と思うんですけど。でもね、『ヘンゼルとグレーテル』で、かなり『ホルス』のネタはやってるんですよね。悪の魔法使いグルンワルドとかをやってるので、どうするのかなと思ってるんですけど。

 さて、ここからは、例の僕の「大穴予想」です。

 「なつの妹は最終回でデヴィ夫人として復活する!」みたいな感じの。まあ、あれはあれで、大穴として、僕は半分以上、信じてるんですけども(笑)。

 今回も、僕の妄想なんですけど、僕自身は半分くらい信じている、クライマックスの予想です。このドラマのクライマックスとなる、8月後半から9月前半にかけての『なつぞら』の展開なんですけど。

 なつ達は、東洋動画から独立して『アルプスの少女ハイジ』を作るんじゃないかと思っているんですよ。

 もちろん、『ハイジ』のアルムおんじのモデルは、泰樹じいちゃんになるんじゃないかと思います。

 テレビアニメの『アルプスの少女ハイジ』というのは、「お母さんが死んでしまったんだけど、不景気で引き取り手がなくなったハイジを、デーテ叔母さんが、無理矢理アルムおんじに預ける」というシーンから始まるんですね。

 同じく、なつ達が作る……まあ、『狼少年ケン』が『百獣の王子サム』になったように、ドラマ内では『アルプスの少女ハイジ』とは言わないと思うんですよ。たぶん、『スイスの少女サマー』とか、そういうタイトルになると思うんですけど。

 その『スイスの少女サマー』も、第1話は「戦争で孤児になった女の子が泰樹じいちゃんみたいな人のところに預けられて、チーズを作る」という話になるんじゃないかと思うんですよね。

 そうすると、もうこれまでの伏線が全部回収できる。

 そうするとですね、その『スイスの少女サマー』というのは、どんな絵かというとそれが毎回『なつぞら』でかかるオープニングじゃないかと。

 『なつぞら』のオープニングのアニメーションってですね、ちょっと凝ってるんですよ。アニメ作っている女の子の何だろうな紙の上から飛び出して、走り出すという構造になってるんですけども、

 それが最後の最後にドラマの最後の最後に『なつぞら』でですね、なつ達が作る『スイスの少女サマー』のですね、第1話というかオープニングの映像になると、こうすべて巨大な円環がガチャンと音をたてて、繋がったというですね、例のやつになると、なんかいい感じがするじゃないですか(笑)。

 というわけで、「デヴィ夫人が登場する!」に続く、岡田斗司夫の大穴大予想の第2弾は、「ラストは『スイスの少女サマー』として、オープニングのアニメーションに繋がって行く!」という形で、伏線回収をやるんじゃないかと思います。

 それすると、ちょっとゾクゾクするくらい感動するんですけど。やって欲しいな」って思います。

 『なつぞら』に関してはここまでです。

 じゃあ、アポロの話に行きましょうか。もう10分以上使っちゃったな。

 ……あっ! これ、さっき見せるの忘れてた! これが、僕がそうなると思う根拠なんですけど。

(パネルを見せる)

【画像】『アルプスの少女ハイジ』と『スイスの少女サマー』

 『ハイジ』のオープニングと、『なつぞら』のオープニングのラストシーン辺りって、なんか、うまく繋がりそうな絵になってると思いませんか?(笑)

 「ああ、なんか似てんじゃん」というか、「これ、イケるよイケるよ」というふうに思うんですけど。

 ここにこう繫げると、うまく行くんじゃないかと思います。

 すみません、今、ちょっと分けて話しちゃったんで、明日の夕方にYouTubeで公開する時は……もうノーカットでいいか。ここは、ノーカットでこのまま繋いでおくれ。

 そんな、岡田斗司夫の大予想でありました。

写真から宇宙飛行士が消えた!永遠に宇宙を廻る飛行士たち

 じゃあ、アポロ計画の話に行きましょう。

 久しぶりにタオルくんの登場だ。なんでタオルくんかというと、最初に、ちょっと変な話をするからなんですけど。

 今回は、アポロ計画の後編なんですけど、その前にちょっとだけ、ソ連の宇宙計画の話をしようと思います。

 アレクセイ・ガガーリンは「宇宙に行った最初の人間」と言われているんですけど。「ガガーリンというのは宇宙に行った最初の人間ではなく、宇宙から「帰って来た」最初の人間だ」という説があるんですね。

 その説の根拠がこれです。タオルくん、解説お願いします。

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タオルくん:この写真は1961年ガガーリンが初飛行を成し遂げた直後に撮られた有名な集合写真です。
 この真ん中にいるハゲたおじさんが、セルゲイ・コロリョフ。その右側にいるのがガガーリンです。
 ところが、こっちの写真を見てくださーい!
岡田:はい、タオルくん。

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(2つのパネルを見せる。まったく同じ写真のように見えて、片方の写真にはたしかに写っている人物が、もう片方には居ない)

【画像】消された黒いシャツの男

 これ、同じ写真に見えますけど。こっちの写真では、1人多いことはわかりますか? 

 黒いシャツの男が、こっちの写真では消されてるんです。怖いよね。

 当時はCGとかがない時代だから、エアブラシで丁寧に丁寧に、この男が最初からいなかったかのように、窓枠とかが描き足されているんですよね。

 果たして、この黒いシャツの男は誰か?

 なぜソ連の公式写真から消されてしまったのか?

 本当にガガーリンは、人類初の宇宙飛行士だったのか?

 というお話です。

 今の僕らは、宇宙開発というのを安全なものだと思い込んでいます。

 アポロ計画というのは、20世紀最大の冒険だったんですけど。しかし、当時からNASAは、しきりに安全性を宣伝してました。こんなに危険な大冒険なのに、NASAは「安全です、安全です! 成功します、成功します!」とずーっと言ってたんですね。危険性を隠そうとしてたんです。

 それはなぜかというと、当時は「ロケットというのは、すぐ爆発して危険なもの」という社会常識があったから。

 なにより「悲劇のアポロ1号の火災事故」が大きかったんですね。

 アポロ計画全体が成功したのは、アメリカ議会が無制限と言われる予算を承認したからなんですよ。

 でも、その無制限の予算承認というのは、1963年と1964年のたった2年間だけでした。1965年になってからは、ベトナム戦争の影響で、予算も青天井ではなく、制限されることになりました。

 そんな中、1967年1月に、アポロ1号が火災事故を起こしました。このアポロ1号の事故の原因は、いろいろあるんですけど、僕が一番の原因だと思うのは「予算の削減」なんですね。

 予算の削減のおかげで、アポロのカプセル内のコードや配線に可燃物があるというのが見過ごされていた。それまでの作り方よりも、やっぱりチェックが疎かになっていた。その結果、電線のショートで一気に船内の酸素に火がついてしまって、火災事故が起きてしまったんですね。

 この事故によって、アポロ計画は1年半、ほぼ中止されてしまいました。

 議会で、無制限の予算が承認されなくなり、お金が段々と削減されてきた。

 ところが、「60年代の終りまでに月に行かなきゃいけない」という宇宙計画自体のゴールは動かせない。

 そうするとどうなるのかというと、「徐々に徐々に予算が少なくなっていくことはあきらめて、このままどうにか開発を続けよう」ということになる。

 その結果が、結局、チェック機構の甘さに繋がり、アポロ1号の事故に繋がったというわけですね。

 そして、この事故によって、宇宙計画自体が見直され、予算はさらに削減されました。

 この事故による予算削減に、NASAも本当に恐怖したわけですね。

 たった1回ですよ? たった1回の死亡事故で、危うくアポロ計画全体がキャンセルされそうになったんですね。

 しかし、世界は広いんですよ。世界には、アメリカ以外にもう1つ、アメリカと同じく月を目指しながら、宇宙飛行士が死んだくらいではビクともしない、計画をまったく止めようとしない国が1つだけありました。

 ご存知、ソ連ですね(笑)。

 これは、僕がロシアに行った時に買ってきた、人類初の宇宙飛行士と言われているガガーリンのTシャツなんですけども。

(Tシャツを見せる)

【画像】ガガーリンのTシャツ

 1961年の4月12日、ガガーリンは「ボストーク宇宙船」で、世界初の有人宇宙飛行に成功しました。

 ボストークは、地球周回軌道を1時間50分で1周して、高度7000メートル、座席ごとカプセルから射出されて、命からがら地上に降りました。……無茶なんですよ。ボストークの着陸方法って、本当に「落ちて来るだけ」なんですね。落ちて来るだけで、その途中で高度7000メートルでパラシュート脱出するんですよ。

 実は、この時、ガガーリンが無事に脱出ができる可能性というのは、わりと低かったんですよね。

 それでも、ソ連が打ち上げを決行したのは「これだったらアメリカに勝てそうだ!」という見込みがついたからですね。「もし失敗しても隠せばいいだけ」と考えていました。

 しかし、このガガーリンの大成功の2ヶ月前、1961年の2月17日の早朝、ソ連は当時、世界に一切報道することなく、1基のロケットを打ち上げました。

 ガガーリンが乗ったボストーク宇宙船のテスト機です。「コラブリ・スプートニク」という、ちょっとマイナーな、スプートニクとボストーク宇宙船のちょうど中間の宇宙船でした。

 ソ連は秘密にしてたんですけど、発車後数分で、ソ連以外の世界中のレーダー網に引っかかり、探知され、追跡されることになりました。

 ソ連は、しばらく沈黙していたけど、数日後になって「テスト用の無人機を打ちあげた。大成功だ」と発表しました。

 この宇宙船は、ガガーリンやそれまでのスプートニクがやっていたような、地球の周りをぐるぐる回る軌道ではなく、なぜか、月へ向かう軌道へと加速して向かおうとしました。

 しかし、ロケットの推力が足りなかったのか……おそらく、途中で故障したんでしょうね。加速が足りずに、月へと向かわずに、地球を大きく回るものすごく長い楕円軌道に乗ってしまったんですね。

 地球へ帰ろうとしても帰れないこのロケットは、今も、地球の衛星軌道を延々と回っています。

 この無人のはずの宇宙船から、奇妙な電波が世界中の観測所にキャッチされています。

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> すべて良好。我々の宇宙船は予定の高度を保っている。

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 数時間に一度、男女の声で、このまったく同じメッセージが、宇宙から流れてきました。

 後にソ連は、このメッセージを「音声テストのために録音されたテープを発信しただけ」と説明しました。

 しかし、このメッセージの1つ1つは、テープで録音されたような同じ音声ではなかったんですね。

 そして、その7日後の1961年2月24日、このメッセージに、いきなり変化がありました。

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> 男の声:ダイヤルの表示は見える。しかし、シグナルはハッキリしない。もう何も見えない。
> 女の声:(パニクった声で)私が右手で支えています! こうすればバランスが保てます! 今のうちに窓から外を見てください! あれを見てください!
> 男の声:なんだ、あれは? 何かがある。(しばらくしてから諦めきった声で)もし我々が帰れなくても、世界は何も知らないままだろう……。
> 録音された時報の声:ただ今、モスクワ時間で午前8時です。

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 この音声を最後に、この謎のロケットからの通信は一切、絶えてしまいます。

 この通信は、スウェーデンやイタリアの通信センター、西ドイツやアメリカのアマチュア無線通信でキャッチされました。

 しかし、これについて、ソ連は「録音されたテープの音声だ!」と言い張っています。

 この歴史から消されてしまった黒いシャツの男。彼は、ガガーリンの2ヶ月前に宇宙に行って、帰って来れなかった男なのか?

 この2つの写真の比較が西側に知られたのは1971年のことでした。

 その翌年、『2001年宇宙の旅』の原作者である、アーサー・C ・クラークが、友好のためにソ連を訪れて、世界で初めて宇宙遊泳をした宇宙飛行士であり、同時に画家でもある、アルクセイ・レオーノフと対談したんですね。

 その時に、アーサー・C・クラークは「今、こんな写真が西側で発表されたんだけど」と言って、この2枚の写真をレオーノフに見せて、「同じ宇宙を愛する者同士、真相を教えてくれないか?」と言ったんです。

 すると、レオーノフはハッキリと嫌な顔をして、この件に関しては何も答えなかったんですね。

 後の調査で、この黒いシャツの男は、ガガーリンやチトフ、レオーノフの同僚で、宇宙飛行士候補生だった、グリゴリー・ネリューボフだということが判明しました。

 ネリューボフは、素行不良で宇宙飛行士をクビになっちゃった人で、「そのせいで、栄光あるソ連宇宙開発の歴史から抹殺されてしまった」と言われています。

 一応、これが消された宇宙飛行士の真相みたいなんですけど。

 じゃあ、あの2人の男女の声は何だったんだろうか?

 本当に、ソ連が発表している通り、単なる無人宇宙飛行船のデモンストレーションのための音声だったのか?

 だったら、世界中で録音された、あの不思議な声は何なのか?

 宇宙船は、普通、地球に戻る時に逆噴射をするんですけど、この逆噴射エンジンが点火しなかったんですね。

 コラブリ・スプートニクというのは、この他にもいっぱい打ち上げられてるんですよ。そのほとんどが成功して、中に乗ってる、犬とか、いろんな動物は回収されています。

 ただ、たまに失敗して、戻って来なかった機体もありますし、戻って来たけど、中の犬が死んでしまっていた機体もあるんですね。

 この謎のコラブリロケットは、地球に戻る逆噴射に失敗したんです。なので、今現在も、地球の周り、絶対零度の宇宙空間を、延々と回っています。

 さっきの2人の声については、いまだに謎のままです。

 ……という話でした。

 いや、来週ね、ちょっと怖い話の特集をしようと思っているので、こんな話をしてみました。

 まあ、「怖い話」というよりは、僕が子供の頃に聞いて、不思議に思っている話なんですけど。

 これ、いまだに謎が解けないんですよね。なので、これについて、もし何かを知っている人がいれば、ぜひ岡田斗司夫にメールしてください。

 教えていただければ、もう、ステッカーを何枚でもあげますから。よろしくお願いします(笑)。

NASAがダンボールで作った月着陸船、1/6重力で不要なものとは?

 じゃあ、今日はアポロの話をします。

 前回は、このアポロ宇宙船の話をしました。

(模型を見せる)

【画像】アポロ宇宙船の模型

 この、「司令船」、「機械船」、「月着陸船」の3つがくっついた状態がアポロ宇宙船です。

 今回の話の主役は、この月着陸船です。

 月着陸船に関しては、今年になってから急に、いろんな資料が出てきました。

(本を見せる)

【画像】『月着陸船開発物語』

 これは、つい先日、発売された『月着陸船開発物語』という、メチャクチャ分厚くて、2500円もする本なんですけど。

 これは、月着陸船の開発を担当した、グラマン社のトーマス・ケリーが書いた、メッチャ良い本です。

 今回は、この月着陸船についての話は、この『月着陸船開発物語』をベーステキストとしています。

 これが、月着陸船のほぼ正確な形の模型ですね。

(模型を見せる)

【画像】月着陸船の模型

 足は開いた状態になってます。

 以前、限定の方では話したんですけど、わかるかな? 形が左右非対称なんですよ。こちら側が大きく膨らんでいて、こっち側が小さいのわかりますかね?

 これ、なぜかというと、「同じ重さの燃料をタンクに入れたから」なんです。大きいタンクは、比重が低い燃料を入れたので膨らんでいて、小さい方のタンクは、比重が重い燃料を入れたので小さい。推進剤と酸化剤というのは、重さが違うんですね。なので、こういう左右非対称の形をしています。

 月着陸船自体の重さは、14.8トンあります。ほぼ15トン近くあるんですけども、もともと予定では9トンだったんですね。

 NASAからの要求では「9トンでなんとか作ってくれ! そうでなければ、サターンV型ロケットでは打ち上げられない!」と言われてたんですけど、最終的には15トン近くなりました。

 なので、開発は「いかにして、この月着陸船を1グラムでも軽くするのか?」という、重さとの戦いになりました。

 これを開発をしたのはですね、グラマン社です。

 グラマン社というのは、第2次大戦に日本と戦った「グラマン・ヘルキャット」を開発した会社なんですけど。

 なぜ、飛行機を開発した会社が月着陸船のコンペに勝ったのかと言うと。このヘルキャットというのは、いわゆる空母に載せて運ぶ「艦上戦闘機」なんですね。

 空母というのは滑走路がすごく短いですから、着艦するときも、墜落するような形でドーンと落とすんですけど。そのために、着陸脚がメチャクチャ太いんですよ。

 このように、海軍機というのは、脚がメチャクチャ太いのが特徴で。こういう丈夫な脚の飛行機が作れることが条件だったんですね。

 あとは、この翼の畳み方を見てもらうとわかるんですけど。

(パネルを見せる)

【画像】ヘルキャットの翼の畳み方(ブログ「わかくさモノ造り工房」より引用)

 こういう複雑な構造に対応できることも条件の1つでした。

 これも、船に載せるために、翼を畳まなきゃいけないんですけど。見てわかる通り、畳み方がちょっと変なんですね。一度ひねってから後ろ側に持って行くということをやっています。

 こういうふうに、「丈夫な着陸脚を作れる」、そして「複雑な仕掛けを作れる」という実績が認められた結果、グラマン社が月着陸船の開発競争に勝ち残りました。

 まずは、船に載せるために徹底的な軽量化を施した飛行機開発を経験済みだということ。

 あとは、空気の薄い高度まで上昇できる飛行機を作っていたという実績もあったので、「空気がないところで使用する宇宙船を作れるだろう」という見込みもありました。

 なぜ、頑丈な脚が必要だったのかというと、月に着陸する時というのは、もうほとんど月面に衝突するような勢いで、ドーンと着陸させようという考えだったからです。

 このドーンと落とすような着陸に耐えられるように、とりあえず、ひたすら丈夫な脚にしようと思ったんですね。

(模型を見せながら)

【画像】月着陸船

 この脚って、わりと細く見えるんですけど、これは「6分の1の重力だったら、これでいけるだろう」と思われるギリギリの細さなんですね。

 こんなふうに、グラマン社というのは、こういったカラクリの多い仕掛けに慣れていたんです。

 そのグラマン社が提出した月着陸船の初期案は、こんな感じの機体でした。

(パネルを見せる)

【画像】グラマン社の月着陸船初期案(『FROM THE EARTH TO THE MOON』より ©1998, Home Box Office, a division of Time Warner Entertainment Company, L.P. All Rights Reserved)

 これは上半分のデザインなんですけど。デカい窓が4枚もついているんですよ。そして、宇宙飛行士が出て来る丸型のトンネル。こんなふうに、全体が曲面のデザインだったんですよ。

 しかし、これでは重過ぎたんですね。宇宙空間というのは、空気抵抗がないから、どんな形でも良いんですけど。まずは強度を保とうとして、「最小の体積で最も強度が高い形」ということで、より球形に近いデザインにしようとしてたんです。

 だけど、こんなことやっている余裕はなかったんですね。鉄板とかアルミとかを曲げて、こんな形にしていたら、重くて仕方がない。

 曲面デザインというのは、確かに強度は高いんだけど、ここまでの強度は必要としていないということで、形がどんどん変わってきます。

(パネルを見せる)

【画像】月着陸船プロトタイプ(ブログ「ケイの彗星画廊」より)

 こんなふうに、その後、デザインはC案、D案と変わっていって、最終的に今の月着陸船になるんですけど。

 この写真でプロトタイプのデザインを見てみると、5本脚なんですね。「こんな5本脚も要らない」と。

 あとは、初期案では、下に降りるためのハシゴがないんです。宇宙飛行士は、このタコの口みたいなハッチから出てきたら、ロープを吊らして、ウインチで吊り上げたり吊り下げたりしようと考えてたんです。

 こんなふうに、まず、曲線デザインをやめて、軽くしました。次に着陸脚5本も要らないということで、4本にしました。

 ただ、NASAからの要求では、「月の上っていうのは砂まみれな上に、真っ平らな平面というのはあまりないだろう」ということで、やや傾いた地面に斜めに突っ込んでも横転しないことが求められていたんですね。

 これが難しいんですよ。というのは、月着陸船って、上半分がロケットで打ち上がるので、上半分だけが重い、トップヘビーの構造なんですよ。だから、砂だらけのところで、斜めから斜面に突っ込んだらコケてしまうんですね。

 その後、何度も実物大の模型作って斜面に落としてテストしたところ、「転がらないようにするには、この脚を、当初の予定より思いっきり広げて、踏ん張るような姿勢で作ればいいことがわかりました。

 ところが、せっかく4本脚で踏ん張るように広げると、今度はサターンV型に入らなくなるんですね。

(模型を見せながら)

【画像】サターンV型と月着陸船

 これはサターンV型の72分の1の模型なんですけど。こういうふうに脚を折り畳んだら、ギリギリ入ると思ったんです。

 しかし、そうすると「サターンV型の中で折り畳んでいた脚を、いざ月に降ろす時に広げる」という行程が発生してしまう。「果たして、そんなこと出来るのか?」と。

 この辺で、グラマン社の「カラクリの多い海軍機をいっぱい作ってきた」という、それまでの実績が評価されたわけですね。

 この「宇宙空間で脚を広げられるか?」については、「月着陸船が、着陸前に月の軌道上で、司令船の前で脚を広げてみて、うまく広がらなかったら、もう月着陸は諦めて、地球に帰って来ちゃおう」という見切り発車で、月着陸船はどんどん開発を進められていきました。

 重量をなんとか軽くしようという戦いの中で次に出てきたのが「椅子はいらないんじゃないか?」という話でした。

 「月というのは、6分の1の重力なんだし、宇宙飛行士は、立ったまま着陸しても大丈夫じゃないか?」と言われたんですね。

(パネルを見せる)

【画像】月着陸船に関する議論(『FROM THE EARTH TO THE MOON』より ©1998, Home Box Office, a division of Time Warner Entertainment Company, L.P. All Rights Reserved)

 この黒板に書いてありますけど、「6分の1の重力だし、宇宙飛行士をコードで背中の側に引っ張って座らせて、あとは腕をアームレストに踏ん張ってたら、椅子いらないんじゃないの?」と。

 「いや、ちょっと待ってよ。彼らは月の上で最大1泊2日くらいするんだよ? その間、どうやって寝るの?」と言ったら、「6分1の重力だから、立って寝れるんじゃないの?」と。

 もう、こうなると、事前に実験なんてできないんですよ。

 それまでにも「無重力状態で寝れる」ということは確認済みです。だからと言って、「6分の1の重力で人間が立ったまま寝れるかどうか?」というのは、誰も確認してないんですね。

 もしこれがダメだったら、宇宙飛行士は睡眠不足のまま、帰路につくことになり、大変危険だったんですけど。

 でも「この椅子を2つ取っ外したら、合計で80キロくらい軽くなる」と。

 おまけに、「立ちっぱなしなら、窓の位置も顔にメッチャ近くなるから、窓もあんなにデカくしなくてもよくなる。窓も小さくしよう! せっかく立ってるんだから、顔のギリギリ近くに小さい窓つければいいじゃないか!」と。

 さらに、「そもそも、窓なんて着陸の時にしか使わないんだから、前や上なんて見えなくてもいい。下さえ見れれば十分だ!」と技術者達は言い出したんですね。

 それを聞いて、開発部長だったトーマス・ケリーも、流石に怒り出したんですよ。「それはないだろ? 前が見えないのはマズいよ!」と言ったんです。

 すると、スタッフたちは、トーマス・ケリーに内緒で、徹夜でダンボールで実物大のセットを作って、「ほら、これでなんとか見えるよ」と言ったんです。

(パネルを見せる)

【画像】ダンボールの実物大の模型(『FROM THE EARTH TO THE MOON』より ©1998, Home Box Office, a division of Time Warner Entertainment Company, L.P. All Rights Reserved)

 確かに、このダンボールの実物大の模型の中に入ってみたら、ギリギリ見えるんですよ。

 そもそも、この月着陸船というのは「自動操縦」なんですね。

 一応、手動での操縦装置も入ってるんだけど、宇宙飛行士たちは「これは使っちゃダメ!」って言われてたんですよ。「もう全部、自動操縦でプログラムしてあるから、それに任せろ。宇宙飛行士というのは決定ボタンを押すだけでいいよ」と。

 で、「自動で月に安全に着陸することになっているんだから、窓なんか飾りだ! 最悪、何も見えなくても構わない! それよりも、とにかく重量を減らすことが大事だ!」ということで、アポロの月着陸船は、前が見えずに下がちょっと見えるだけという恐怖の窓になってしまいました。

重さとの戦い、月面でケガしたら生きて帰れない!

 こんなふうに、アポロ11号の月着陸船まで、重さとの戦いは続きました。

 例えば、アポロ11号の1つ前のアポロ10号というのは、月まで行ってるんですよ。この月着陸船とアポロ宇宙船のセットで。

 アポロ10号の時点で、ですよ? 月まで行って、おまけに、2人乗って、着陸船の脚もちゃんと広げて、月の15キロ上空まで行ってるんですよ。

 そのままロケットちょっと噴かしたら、月面に降りられたんです。燃料も全部積んでいたんですよ。

 じゃあ、なぜ、アポロ10号は月に着陸しなかったのか?

 これについて、トーマス・スタッフォード船長は、地球に帰ってから、アメリカのマスコミに「なぜ、あの時、降りなかったんですか? いや、NASAは『まだテスト段階だからやめておけ、アポロ11号まで待て』と言っていたことは知っていますが、あなたは1人の男として、命令に逆らって降りたくならなかったんですか?」と、散々聞かれていました。

 当時、僕が子供の頃、日本のニュース番組でも、「なんで、アポロ10号は、全部用意できていたのに、降りなかったんでしょうね?」と言われてたんですけども。理由はちゃんとあったんですよ。

 その理由は簡単で、「アポロ10号時点での月着陸船は重すぎたから」なんですね。

 アポロ10号というのは、アポロ11号の3,4ヶ月前に打ち上げられたんですけど、この段階では、まだ月着陸船が重すぎたんですよ。なんとかギリギリ月に着陸できるんですけど、これでは機体が重すぎて月から上がって来れなかったんですね。

 なので、アポロ10号の月着陸船は、月に降りたくても降りれない。それは「ここで降りてしまったら、上がって来れなくなるから」という理由だったんです。

 アポロ10号の時の月着陸船は4号機でした。アポロ11号用の5号機で、ようやっと月から上昇できる軽さになったんですね。

 パワーじゃないんですよ。もう本当に、軽さの問題だったんです。それくらい、まさに「グラムとの戦い」でした。

 最初に、この大きい窓が外されて小さなのぞき窓になって、着陸脚が5本から4本になりました。

 さらには、さっきも言ったように、本当はハッチからウィンチで吊り下げられて降りるはずだったのが、「これでは重すぎてダメだ!」ということで、「脚に1つにハシゴを付けときゃいいよ!」ということになりました。

 このハシゴ、あの実物もっと細いんですね。針金みたいな、6分の1重力でしか人間を支えられないハシゴがついてて、これを踏みしめて降りるというタイプになりました。

【画像】月着陸船のハシゴ

 そのおかげで、実はアポロの月着陸船って、月面で怪我をしたら、もう生きて帰れないんですよ。

 吊り下げてウィンチで吊り上げる方法を使えば、仮に月面に降りた後で1人が病気をしたり怪我をしても、そのウィンチで引っかけて持ち上げれば、2人とも生きて帰れるんですね。

 ところが、このハシゴ方式にしたら、どんなに訓練しても……本当に訓練したんですよ。訓練した結果、「月面で1人が意識を失ったり、動けなくなったりしたら、もう絶対に月着陸船には乗れない」というのがわかったんです。

 だから「その時は、もう怪我してない方だけで、さっさと帰って来い。1人を置いてこい」と言われてたんですけど。それくらいメチャクチャだったんですよ。

 それくらい、軽量化との戦いだったんです。たぶん、あと何キロか増やせれば、この月着陸船にもウィンチが取り付けられて、2人とも生きて帰って来れたんですけど。

 なので、宇宙飛行士というのは、「とにかく、絶対に月面で転んじゃいけない!」と言われていたんです。

 転んだ拍子にフェイスグラスにちょっとでもヒビが入って空気が漏れたら、もう、その瞬間に、そいつは帰って来られなくなるんですね。

 だから、アポロ11号のアームストロング船長は、月面では絶対にジャンプをしなかったんです。

 だけど、2番目に降りたオルドリンは、ちょっと調子に乗ってピョーンピョーンとジャンプして、後でNASAから「転んだらどうするんだ!?」って、メチャクチャ怒られたんですけど(笑)。

 アポロ12号では、さらに大きくジャンプしたり、あとは、ゴルフのボールとクラブをわざわざ自分で持って行って、月の上でゴルフをやったりして、またメチャクチャ怒られたりしたんですけど。

 それくらい、ギリギリの世界でした。

 次に、強度との戦いです。

 ギリギリまで軽くするために強度を犠牲にしたんですけど、本当に壁を薄くしたんですね。

(模型を見せる)

【画像】月着陸船

 これ、一見すると金属で出来てるように見えるんですけど。最小限のアルミでパイプを作って、その周りにサランラップを貼った、テントみたいな構造になっているんです。

 まあ、サランラップというか、正確には「マイラーフィルム」という、フィルムの上に銀をコーティングした構造なんですけど。

 床も、宇宙飛行士が踏む部分だけ金属を張った、お風呂場のスノコのような構造になっていて、残りはもう全部、ラップなんですよ。

 ある時、組み立て中に、職人がドライバーを間違って落としちゃったことがあったんですけど。たったそれだけで、月着陸船は床までボコっと穴が開いて、下が見えてしまったと。

 これには開発部長のトーマス・ケリーも「本当にこれで強度は大丈夫なのか?」と聞いたんですけど。技術者たちは「グラマンのこの組立工場は地球重力です。1Gなんですよ。月面ならドライバーを落としても6分の1重力だから、穴はギリギリ開きません」と答えたそうです。

 まあ、それでも不安になったトーマス・ケリーは「このマイラーフィルムを24回、重ねて巻く」ということで、なんとか承認しました。

 とにかく軽く、限界まで軽く。

 この月着陸船って、とにかく1箇所でも軽くするために、本当に何千回も設計図を書き直したんですけど。その度に、NASAに申請して、承認を貰わなきゃいけなかったんですね。

 承認用の申請書類とか、付帯の説明書、あとは予算の変更届けなど、とにかく書類が増える一方なんですよ。

 「月へ行くのにロケットは必要ない。月着陸船の書類を積み上げていけば、もうすぐ月に届くから、宇宙飛行士は歩いて行けるよ」というジョークが、1967年当時、すごく流行ったそうなんですけど。

 しかし、1968年になると、グラマンの技術者はこのジョークに誰も笑わなくなりました。なぜなら「提出した書類の総量が、積み上げたらマジで月に届きそうになってきたから」なんですけど(笑)。

 それくらいの膨大な書類が、重量を減らすために必要になりました。

 そんな中、ようやく完成した月着陸船の3号機が、アポロ9号で初めて人間を乗せて地球軌道でテストされました。

 この時、最後の「月から上がってきた月着陸船と、司令船とが宇宙空間で再びドッキングする」というテストをやったんですけど。

 このドッキングが本当にうまくいくか自信なかったので、「月着陸船から宇宙飛行士が船外に出て、司令船に乗り移る」というテストもやりました。

 この時の、アポロ9号のテストでは、「A7L」という最新形の宇宙服を使った初めての船外活動でした。

(模型を見せる)

【画像】A7L宇宙服

 この宇宙服は、それまでのNASAの宇宙服とは桁違いの性能なんですね。どこがというと「宇宙船とホースで繋がっていない」というところ。

 これまでのNASAの宇宙服、ジェミニ計画の時に船外活動で使われたものというのは、実はすべて宇宙船とホースで繋がってたんですよ。そこから空気貰ってたんです。

 つまり、本番であるアポロ11号で使える宇宙服を、アポロ9号でテストしたんです。

 この宇宙服も、少しでも軽くするための工夫が凝らされています。

 それまでの宇宙服は、太ももの付け根、肩の付け根、手首の位置、首の位置と、いろんなところに金属のリングがついていたんですよ。

 もちろん、このA7Lにも金属のリングはついてるんですけど、肩とか太ももの付け根の部分にはなくなっています。全体がほとんど布で出来てるんですね。

 初期の宇宙服として、もっと潜水服みたいな硬い服のデザインというのを見たことがある人もいるかと思うんですけど、あれはなぜかというと、宇宙服のデザインって、実はこれ、巨大な風船なんですよ。

 人間が呼吸できるように、中を0.4気圧くらいに与圧しないといけないから、宇宙空間ではパンパンに膨らんでしまう。「パンパンの風船の中に腕を入れているようなもの」と思ってください。これを曲げるには力がいるんですね、

 グローブの部分もパンパンに張った風船なんですよ。それも、かなり硬い素材でできた風船です。これを曲げるためには、思い切り力をいれないといけないんです。

 アポロの最新型の宇宙服は、「何かのスイッチを入れるために、手をぐっと握るのに、軟式のテニスボールを握りつぶすくらいの握力が必要だった」と言われます。何かを持ったり操作するためには、毎回、テニスボールを握りつぶすくらいの握力がないと握れないんですよ。

 宇宙服というのは、それくらい面倒なものだったんですね。

 だから、月面の宇宙飛行士は、動きが悪いんですよ。

 何かする時に、すごく時間が掛かるのはなぜかというと、例えば、アームストロング船長がハシゴを降りる時に、1つ掴むごとにテニスボールを握りつぶすくらいの握力を使わないと握れないからなんですね。

 その最新型の宇宙服のテストのために、アポロ9号は船外活動をしなきゃいけなかったんです。

 ということで、アポロ9号で月着陸船の初飛行のテストをやったんですけども。その結果の動きは、すべて予想外でした。

 月着陸船には、4箇所に小柄のロケットエンジンがついていて、これで動き変えるんですけど、これが本当に動かしにくい。

 なぜかというと、この左右のタンクの中に燃料が入ってるんですけど、この燃料を使う度に、重さが変わるんですね。つまり、重心が変わる。

 さらに、無重力空間の中で激しく動くと、その度に燃料が、タンクの中でチャプンチャプンと動く。このチャプンチャプンという動きが、重力がないから、延々と止まらないんですね。

 なので、とにかく重心が安定せず、ものすごく操縦しにくい。エンジン噴かす度に変わっちゃうんですね。「まるで荒馬を乗りこなすようだ」と言われたんですけど。

 操作性が悪いあまりに、「人間が操縦するのは無理だ」とまで言われます。その結果、「自動操縦することを強く薦める」というのが、アポロ9号のテストの結論でした。

 タンク内の燃料を使う度に重心が変わるし、タンク内の燃料は無重力でずっと動きっぱなし。

 おまけに、月から離陸する時には、この上半分だけで登って行くわけですね。この時に、また重心が下の段と繋がっている時と大きく変わっちゃうわけなんです。なので、また操作性が変わる。

 上昇の時と下降の時で、同じ宇宙船で操作性がこんなに変わってしまっては、人間の腕での操縦は、ほぼ不可能。

 なので、「月着陸船が司令船とドッキングする時には、宇宙服を着て外に出ないと無理なんじゃないか?」ということで、あえて、そういう訓練がアポロ9号の時に行われました。

 こういうふうに、アポロ9号の時のデータが10号とか11号の月着陸船に送られて、その度にまた設計が変更になるわけですね。

 ちょっとでも操作性を良くしようと設計が変更になるし、自動操縦のプログラムも、1回ごとに全部作り替えられるわけですよ。

 その結果、書類は増えていく一方です。

 さて、これだけ改良した結果、アポロ10号は月へ行ったんですけども。この時の月の上空飛行で、自動操縦は100%完璧になりました。

 それを確認するために、アポロ10号は月の周りを回りながら、着陸地点を探させて、「ここに着陸できます」と言われた後も、あえて「別の場所を探して」とコンピューターに入力してチェックしました。

 こんなふうに「はい、探しました。ここいけます」、「じゃあ、別の場所を探して」というやりとりを7回繰り返して、7回とも自動操縦のゴーサインが出た。

 これにて、「もうこれで大丈夫だ! 仮に予定していた着陸地点に大きい岩があったとしても、現場でドタキャンに対応できる!」ということが、ハッキリしました。

 さあ、いよいよ月着陸の本番です。

 しかし、しかし次のアポロ11号でエラいことになります。

 月の周りを回っていると、原因不明の加速が発生するんですよ。

(パネルを見せる)

【画像】月の全体図

 これは、月の全体図なんですけど。この位置、真横のこのあたりに「スミス海」という月の海があります。

 このスミス海付近で、宇宙船が異常に加速することがわかったんですね。となると、自動操縦のデータがまったく役に立たない。そんなことがわかるんです。

 その原因は、このスミスの海の底にある、原因不明の巨大物質のせいだったんですけども……はい、ごめんなさい。無料放送はここまでです。

 「スミス海に何があったのか? アポロ11号はどうしたのか?」という話の続きは、この後の限定放送でしたいと思います。

 もう、日本では「アポロ月着陸の50周年というこの時に、特番を組むのはNHKと岡田斗司夫ゼミだけ」という、情けないことになっているんですけど。無料はここまで、続きは有料にしたいと思います。


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