ポケモン赤緑の小話――「レッドも来たか! ははっ嬉しいぜ!」

 ポケモンといえば昨年だったか20周年を迎えたわけですが、皆さんの20年前はどんなものだったでしょうか。

 ポケモンやっていましたか? それともまだ小さかったり生まれてなかったりで、やったことはなかったでしょうか。今の子供達は最初は151匹だったことはおろか、ミュウツーとパラセクトの鳴き声がソックリだったこととか、ほのおタイプがあんまり強くなかったこととか、ピカチュウが猫背の寸胴だったこととか、四天王やチャンピオンのポケモンがありえないザコ技を使ってくるとかを知らなくて、ウソみたいに思える本当の話が色々とあるんでしょうねえ。

 今回はそんな最初のポケモンについて軽くお話したいと思います。

 初代のポケモンっていうのはね、本当にシンプルなんですよ。

 オーキド博士に呼ばれて、図鑑をもらって、ストーリーとかロクにないまま旅に出ていく。ユーザーはとりあえず進めるから進むんです。そうこうしていくと先に進めなくなって、でも何か大きな建物があって、入ってみるとジムリーダーがいる。バトルして勝つとジムバッヂが貰えて、先のマップが開放されるからまた進んでいくっていう、本当にいかにも昔のゲームボーイソフトといった単純なゲームだった。

 このゲームから『ミュウツーの逆襲』みたいな名作アニメができたのは冷静に思い返すと奇跡的だとすら思う。というか、今のポケモンはやはりアニメでのサトシ達の冒険があってこその世界観ですよね。初代の黄緑がかったピコピコ画面にあれだけの世界の厚みは無かったんです。

 ルビサファ以降のポケモンだと悪の組織と伝説のポケモンによる異常現象がストーリーの軸になりますが、赤緑時代だと伝説の三鳥は何の脈絡もなく唐突にマップに配置されているし、ロケット団も何となく出くわして何となく倒していく。そこには積極的な物語上のモチベーションはなく、ただ好奇心で進んでいくに過ぎなかった。

 (これは余談ですが三鳥で唯一前フリがあったファイヤーのグラフィックがイラストと全然違って、頭が1つの金持ちなドードリオって感じ)

 そんな中で唯一と言っていいほどドラマ性を持っていたのがライバル(後の公式ではグリーン、アニメだとシゲル)なんですね。セリフの一言一言から強烈に嫌なヤツというのがわかるし、耳障りな高音のテーマ曲も印象に残る。後出しで主人公に有利なタイプを選ぶし、そのせいで手持ちが充実しないハナダシティで戦う時がめちゃくちゃ強い。

 これだけアクの強いライバルポジションのキャラクターは、少なくとも子供向け作品の中では爆豪(ヒロアカ)の登場までグリーンの1強だったと思います。

 主人公はポケモンリーグに続くゲートでライバルを倒しますが、長く険しいチャンピオンロードに苦戦している中で先を越され(初代のチャンピオンロードは本当にきつい)、リーグの四天王を倒した主人公の前にライバルが最後の壁として立ちはだかる。戦闘曲もライバルらしい高音がこれでもかと言うほど荒ぶって印象深いですね。

 ここでようやくタイトルの話なんですけど、その時の「よぉーレッド! お前も来たか! はッはッうれしいぜ!」って言ってるグリーン(ライバル)は、本当にメチャクチャ嬉しかったんだと思うんですよ。

 ただのイヤミにもとれますし、いつもの上から目線で主人公に実力を見せつけて叩きのめしたいと思ってるだけともとれます。そうとるのはまあユーザーの自由ではありますけれども、僕はすっげー嬉しかった説を推したい。

 ライバルはポケモン界の一大権威たるオーキド博士の孫で地元の名士です。ジムバッヂも主人公より早く集め、リーグ四天王にもあっさりと勝ってしまった。海外発の、ゲーム本編に沿った公式アニメでグリーンがポケモンリーグに挑戦する回があるんですが、本当に圧勝していくんですね。本人がトキワシティのゲートで宣言していた通り、四天王をばっさばっさとなぎ倒していった。

 その天才サラブレッドのライバルが、何やかんやで気にしている存在が主人公なんです。最強なはずの自分を脅かす可能性を持った存在としてマウンティングを繰り返してきた、バカにしているようで一番恐れていた相手。しかしあっさりと頂点に立ってしまったライバルにとって、その退屈な気分を再び高揚させてくれる存在として主人公以上の相手は他にいないのです。

 だからきっと、心の底から嬉しかったと思います。最強の自分の最強の力を思う存分に振るえる相手がチャンピオンの間に乗り込んできて、きっと自分でも驚くほどに、体が興奮で打ち震えたに違いありません。世界で一番強い自分を見せつける相手、見せられる相手、見せるに値する相手、それは主人公をおいて他にないんですよ。

コミュニケーションと普通の人間について知りたい。それはそうと温帯低気圧は海上に逸れました。よかったですね。