『天気の子』のビッグマックかわいすぎワロタwww

 天気の子、演出が巧いなあと思った。主人公の心を満たすビッグマックのふくらみもそう。

 思えば劇場で予告が流れ始めた頃からうまかった。劇場予告映像なんてジャマなものだと大半が思っているアウェイの中に広がる、空と、ビルと、雨と、緑。

 画面の奇麗さで他の映画を心待ちにしている観客を取り込んで、美しい中でも今にも何かが消え入りそうな、仄かにどうしようのなく切ない雰囲気が劇場を包む。

 「あ、もしかして、この絵、この色遣い、この雰囲気、『君の名は。』の――」
 とまで思ったあたりで映し出される新海誠監督のクレジット。
 人間は押し付けられたことより自発的に考えたことの方へとモチベーションが向く。だから自発的に思いつかせる。前作の大ヒットを受けたパワープレイだ。

 以前に書いた『スプラトゥーン』の人気・知名度をてこにしたスマブラのCMと同じパターンで、受け手の中に宣伝対象を想起させる仕組みを作り、ちょうどその反応が起こる瞬間を狙って商品をプッシュするのだ。内部と外部の両面攻撃、これにはやられる。アベンジャーズ見終わっても予告のこと覚えてたくらいには存在感が心に残る。そりゃもう見に行くでしょ。


 と、いうわけで、巧みな広報戦略により、『君の名は。』のヒットまで新海誠の名前をからっきし知らなかった完全畑違いの僕が『天気の子』を公開翌週に見てきました。

 「新海誠って奴はこんなの作ってどうする気なの? 正気か?」という感想なのだけど、面白いかどうかで言えばやっぱり面白くて、2時間があっという間だった。
 話の進め方が丁寧で無駄がなくまさに立て板に水といった進行で、中盤の地味なパートもついも見入ってしまう。
 絶妙な時間配分で緩急を操って進めていく、これがセンスってやつなんだろうか。何度シナリオを書き直したんだろう。この人がやったらそりゃヒット出ますわ。

 劇中で監督の技巧が光ったポイントを一つ。


 予告で何度も流れるテーマ曲があるじゃないですか。『愛にできることはまだあるかい』ってやつ。

 あれだけ散々宣伝された以上はいつ流れるのか気になるのが人のさが。でもテーマ曲は一向に流れない。全然流れない。違う挿入歌は何曲か流れるのに、予告でくどい程に流れていたあの曲は全く流れない。流れる気配すらない。物語が「転」に入って不穏になってもまだ流れない。意地でも貼ってるんじゃないだろうか。頑なに流れようとしない。

 新海誠ってヤツは、どこまで観客をじらすんだ!?

 そう思った頃、いい加減もう我慢の限界になってきたってところでな。見た人はわかるだろうけど、ついにな、タイミングを見計らったようにな、その時が来るんだよ。観客のテーマ曲への欲求が最大限に高まって爆発寸前だっていうその時に、かかるんだ。

 インストバージョンが。

 お忍びの芸能人みたいな雰囲気でさらっとしれっと流れるテーマ曲。今かかっているBGMがそれだと気が付いた観客はもう心で待ちに待ったあの歌詞を口ずさむじゃないですか。

 『愛にできることはまだあるかい』

 その時、作中では何が起こっているか?
 何が行われているか?
 主人公は何をしているか?

 見た人はわかるでしょう。
 観客がテーマ曲の歌詞を思い浮かべることが、あのシーンの演出の一部になっていたのね。

 歌詞にまさしくピッタリのシーンで、歌詞のないバージョンのテーマ曲が流れ、思わず歌詞を思い出して、劇中の曲に合わせて各々の中で再生して……これってつまり、僕らがいて初めて映画が完成する演出よ。あの時僕たちは映画の一部になっていたの。

 「持っていかれた」って思ったよ。仕掛けに気が付いて全身の力が抜けちゃった。これやられると容易には忘れられなくなる。しかも結局テーマ曲は最後まで歌詞付きでは流れないの。

 ほんとなんなのさ新海誠。いやになっちゃうよ。

コミュニケーションと普通の人間について知りたい。それはそうと温帯低気圧は海上に逸れました。よかったですね。