ダイの大冒険――ギガストラッシュとは一体何だったのか
僕はオタクなのですが、少年漫画系のオタクなので、普通のオタクを自称している人たちとあまり話が合いません。なのでここで勝手に少年漫画とか、ゲームとか、人生とかの話をしていこうかと思います。
初回は週刊少年ジャンプ黄金期の名作『ダイの大冒険』のハドラーについて。
何を隠そう僕はこの『ダイの大冒険』が夏休みのアニメ子供フェスタでやっていたころから大好きなんですよ。
今回は未読の方にはネタバレになりますが、巷で話題のハドラーを中心に、「なぜギガストラッシュが必要だったのか?」の話をしようと思います。
ギガストラッシュですが、ドラクエに6から登場した技「ギガスラッシュ」の元ネタとなった必殺剣で、ギガブレイクのフォームで全エネルギーを込めて敵に突撃したのち、ヒットの直前にアバンストラッシュのフォームにチェンジして放つ必殺技です。
ドラクエだとギガブレイクが上位技ですが、元々は逆だったんですね。
そしてこの必殺技は主人公ダイの使える理論上最強の技だったのですが、ラスボスの大魔王バーン(真)にあっけなく防がれてしまい、以後体力(エネルギー不足)を理由に二度と使うことはありませんでした。
なので読者は思います。「あれ? ギガストラッシュって果たして必要だったの?」と。
マンガには作品世界におけるストーリー進行上の必要性と、
作品そのものとしての構造的な必要性があるわけですが、
ギガストラッシュは後者のメタ的な意味で必要だったんです。
そしてそのカギになるのが、ギガストラッシュで倒されたハドラーなんですね。
ハドラーは残酷だけれど器が小さいところがあるせせこましい魔王だったのですが、
“けもフレ”視聴ネタで有名なバーン様が指を折るくだりを境にみるみる成長し、
実力的にも精神的にも強力なライバルキャラクターとなります。
打倒勇者ダイ一行を掲げ健気に精進するハドラーでしたが、色々あった末、悪役の宿命としてついに最後の戦いを迎えるわけですね。仲間たちに止められる中、その心意気に報いようとダイはバーン戦で不利になることを覚悟のうえでハドラーの挑戦を受けて立ちます。
激しい戦いの果てに最後の一撃を覚悟するダイとハドラー。ダイは秘密兵器の新しい鞘を使い、ギガデインの魔法剣の準備に入る。そこでハドラーの独白と雄たけびが挟まります。
“ギガデインが使えるのならば…やつの決め技はただひとつ!!
…亡き父の形見ギガブレイク!!“
“ならばこちらも最強最後の技で応じようっ!!
我が全生命をかけた超魔爆炎覇!!!”
この「超魔爆炎覇」とは、ハドラーの“竜の騎士コンプレックス”が生んだ必殺技で、
「最強の技」のイメージたる「ギガブレイク」を彼なりに真似た疑似魔法剣の奥義です。
一度は未完成のギガブレイクを使ったダイの剣を折り引き分けています。
さて、ここで「ギガブレイクVS超魔爆炎覇」の魔法剣対決かと思いきや、
ダイはヒットの直前で構えをアバンストラッシュのものに変えます。
アバンストラッシュは作品を象徴する必殺技で、
ダイの師であるアバン先生が魔王時代のハドラーを倒した因縁の技でもありますが、
パワーアップしたハドラーにとっては最早脅威ではなくなっています。
それはその前の「超魔爆炎覇の威力の前では涼風も同然」発言からも明らかなんですね。
でもハドラーはそれを見て驚愕するんですよ。
表情を変えて、「ゲエッ」「まっ…まさかぁあっ」とか言っちゃうんですね。
神が作った最強の生物たる竜の騎士が使う必殺剣ギガブレイク。
それをイメージして編み出した奥義超魔爆炎覇。
ハドラーはその威力にたいそう自信がありました。
どちらも(未見であるバーン様の技を除けば)最強の技だと信じていたはずです。
でもね、驚愕しちゃうんですよ。ついうっかり、本音が見えちゃうんです。
まあ一度殺されてますんで特別な感情があってもおかしくはないんですが、
アバンストラッシュに特別な何かを感じてしまっているんですね。
「力以上の何か」はダイの大冒険のテーマであるんですが、
単純威力のギガブレイク以上に驚異的であるアバンストラッシュというのがですね、
この戦いにおいてしっかり描かれているんですよ。
フレイザード戦において、ダイは「アバンストラッシュ」完成の要となる空烈斬を、
「最高の技」と言っています。最強の技ではないけれど、最高の技だと。
("最高の技"という表現は、ギガストラッシュ使用時にもダイが言っていますね)
そしてハドラー戦後、ミストバーン戦では空烈斬のような「空の技」シリーズは、
物理的な威力が大分低いことが明かされます。純粋に心の技なのです。
そして、ギガブレイクの使用者である父・バランの遺言は、
「私には力も魔力もあったが心がなかった…だがお前にはそれがある」でした。
つまり、バランの力と魔力にアバン流の心を合わせた、作品的に
最強最高の必殺剣こそがギガストラッシュというわけです。
だからこそハドラーは、「フフッ…あれには勝てぬわ…」と笑えたんですね。
勝てはしなかったけどそのために己の持ちうる全リソースを費やし、
徹底して力を出し尽くして負けたハドラーは清々しく満足していると言い切ります。
それはダイの決め技が「ギガストラッシュ」だったからこそなんですよ。
もし、ハドラーがギガブレイクで力負けしていたら、
あるいは違った感想になっていたかもしれません。
つまりですね、ギガストラッシュというのは、紆余曲折を経てそこまでライバルとして
作品を盛り上げてくれた、ハドラーという敵役へのはなむけであるわけです。
そして、ダイが「先生(=アバン=人間の勇者)と父さん(=バラン=竜の騎士)の両方の力がないと勝てないと思った」と言うのがですね、
力を出し尽くして健闘したハドラーへの、最大の賛辞なんですよ。
コミュニケーションと普通の人間について知りたい。それはそうと温帯低気圧は海上に逸れました。よかったですね。