218.04.12

鶏皮を買いに行ってきた。下伊敷の肉屋。中には無精髭の店主らしき人とスーツ姿の営業マンらしき人、それと看板娘っぽい女性の3人が語らっていた。

店に入るなりショーケースの鳥刺しを探してその隣にあった鶏皮を1パック頼んだ。100g98円とある。

店主が声をかけてきた。

「旨い鳥刺しが欲しいなら、前もって電話してくれるといいよ。鳥刺しってのはね、旨味を残すのが難しいんだ。処理したあと洗うだろ? その水分で旨味が逃げていく。電話してくれたら氷で締めたのを持って来させて、目の前で捌くから。旨いのが食えるぞ」

一方的に話しかけられて突然のギアチェンジを余儀なくされる。僕はこれに応えようと、ポケットの小銭を適当に看板娘に預けて、店主の目を見た。看板娘には目もくれない。これも礼儀だ。

「これは鶏皮ってあるけど、実は手羽の部分だ。コリコリした歯ごたえがあって旨いよ。とにかく、旨いのが食いたけりゃ電話してよ。一度食ったら他のは食えないよ」

店主は、気を遣って帰ろうとする営業マンを黙らせ、そこに留めさせてなおも語る。
僕はこういうおっさんが大好きだ。大好物だ。鶏皮よりも歯ごたえがある。

そこへ看板娘が言う。

「大きく切ってあるから、食べる時はさらに細かく切って食べてくださいね。歯ごたえがあるからそのままでは食べにくいので」

最高だ。このふたり、プライドの高い仕事人の匂いがする。とても気持ちがいい。

じゃあ次来る時は前もって電話しますね。

僕はお釣りを受け取るとそう言い残して店を出る。汗だくの太った営業マンが、僕を見ている。僕は営業マンの目をじっと見る。視線にメッセージを込める。

“あとはまかせた。最後まで話を聞いてやってくれよ”、と。

店主は僕の背中にこう言った。

「鳥は霧島から来るから、だいたい1時過ぎだ。水曜日は鳥屋が休み。よろしくな」

最後まで最高である。

#鳥刺随筆

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