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レディハンド

以前、フォワードに大事なのは準備という話をしましたが、今回はその一つであるパスを受ける準備の話をしたいと思います。

先日、折茂武彦さんの引退ゲームを観に行きました。

折茂さんと同世代の元選手達と30代~40代の現役ベテラン選手(唯一の20代が田中大貴選手の28歳)のゲームなので、Bリーグのような真剣勝負ではなく遊び半分のゲームでしたが、ちょっと気になった点がありました。

みんな、基本の動きをサボっていないんです。

試合前の練習の時からドリブルワークをちゃんとやり、シュート練習もスタンディングでやった後にミートからのシュートを撃ち、右からのステップで撃ったら次は左から撃つ。おそらく試合前のルーティーンとしていつもやっている動きなんでしょうけど、それをお祭りのようなゲームの前にもきっちりやっていた。試合中もミートの動き、ストップ、ピボット、誰一人として雑にやっている人はいないし、引退組も肩で息をしているのに基本姿勢が崩れない(膝が伸びてしまう場面もほとんど見なかった)。
ゲーム自体が少し緩み始めた頃から、そっちが気になってしまって、ずっと色んな選手の動きを追っていました。

その中で、折茂さんの動きを見ていて現役選手達と比べても遜色ない(後半は現役ベテラン選手のチームに「移籍」してプレーしていた)と感じたのがキャッチの柔らかさでした。手元に吸い込まれるようにボールが収まっていくんですが、よく見ていると他の選手より明らかにレディハンドのタイミングが早いんです。

レディハンド(The hands ready to catch the ball)とはキャッチをする準備の手という意味ですが、ターゲットハンド(パスをどこに出してほしいかを指し示すハンドサインの1つ)との違いが曖昧に使われていたりする用語です。

「ヨーロッパスタイル・バスケットボール 最新テクニック(T. ロイブル)」より

正確なキャッチをするためには、キャッチ前の手の形が大事と言われますが、一般的にはその手の形をしっかり作ることをレディハンド、またはハンドレディの原則などと呼んだりします。

ただ、折茂さんの動きを見ていると手を作るだけではなく、しっかり手を前方に伸ばしたところから、ボールを長く減速させて柔らかくキャッチしていました。イメージ的には掌で「パン!」とキャッチするのではなく、手から肘、肩を使ってボールの勢いを吸収しながら自分の正面に持ってくる感じ。

上のリンク先の動画(レバンガ北海道公式YouTube)より

同時にレディハンドを前方に伸ばしているメリットをもう1つ見つけました。この画像、折茂さんがトップの選手にパスを出した直後のように見えますが逆です。まだパスが数m先にあるこの時点でもうレディハンドをしっかり伸ばしています。同時に体はリング方向にターンし始めているのですが、手を伸ばしているので上半身が回らず残っています。そのためカールカットの状態でも両手キャッチからのシュートになっています。

上の動画(47秒付近)のフレアミートの場面

これは金丸選手などもスクリーンを使ったミートの場面でよくやっていて、体全体は早くシュートの姿勢に持っていきながら上半身、特に両肩から先はボール方向に残している状態になっています。もちろん片手だけを残してキャッチして正面に持ってくるやり方と比べると動きづらい部分もあると思いますので、体の向きの小さなズレが大きく影響する3Pシューター向けの技術なのかもしれませんが、リングに正対しないといけないツーハンドシュートの女子に応用できる(というか男子よりも大事な)テクニックじゃないかと思います。

ただ、レディハンドの指導でよく「掌をボールに向ける」と言われますが、実際、プロの選手達を見ていると「掌を向ける」のはターゲットハンドの仕草で、その後に掌(手首)リラックスさせてボールを待っていることが多いように見えます。下はリンク先ではなくサムネイル画像を引用したくて貼ったものですが、NBA選手のシュート場面の動画でも、こうやってリラックスしたレディハンドでボールを迎え入れている選手が多いと思います。

その他、五十嵐選手のシュートの流れる動き(股関節から背中の動きの連動)などを見て、年々レベルが上がっていくBリーグでベテランとなってもB1に残り続けられているのは、単純に彼らの身体能力の高さだけではなく、そういう細かい部分で理にかなった動きができているからなんだな…と感じました。そして、そこまでしっかり体に染みつかせている「準備」の凄さに「バスケはハビタット(習慣の)スポーツ」と言われる本当の意味を教えてもらった気がしました。

凡事徹底」それはプロでも高校生でも変わらないと思います。

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