火炎放射

北朝鮮

アメリカ、大統領執務室。

この部屋の主が世界を動かしている?

補佐官が大統領に進言していた。

 「大統領、皆があなたに期待しています」

 「北朝鮮への攻撃命令を」

うつむいたままの大統領。

 「そうか」

 「期待しているか?」

苦悩に満ちた表情がこの問題の難しさを物語っていた。


シリアへの限定的な攻撃を終えたばかり。

中国首脳との会談で北朝鮮への圧力を要請し、その返答を待っていた。

 「習に電話を」

そう命令するとイスに深く腰かけた。

 「やあ、どうでしたか?北朝鮮に対する何かいい方策は見つかりました?」

 「大統領、もう少し時間をいただけないでしょうか?」

 「今、詰めの作業をしているところです」

 「あなた方とわたしは上手くやっていきたい」

 「そのためにはこの問題を早急に片付けなくてはなりません」

 「のぼせ上った北の指導者に世界のルールを守らさせるのです」

 「そうですな、あの若造に思い知らせねばなりませんな」

 「あなたがやらないのなら、わが国と同盟国で行動するだけです」

 「それは困る、我々の庭先で軍事行動など・・・わかりました」

沈黙の後、習は大統領に行動を起こすと約束した。

 「おお、ありがとう。あなたとはやはり上手くやっていけそうだ」

そう言うと電話を切り、中国の影響力を試すことにするのであった。


 「北朝鮮への直行便を停止」

翌日、中国は北に対して制裁措置を発動した。


その頃、平壌の地下深くある執務室ではこんな会話がなされていた。

 「お兄様、どうなさるおつもりなの?」

 「あの老いぼれに好き勝手にさせるつもり」

 「妹よ、そう焦るな」

 「核実験はやる」

 「最高のタイミングでな」

強硬な北の指導者は、唯一信じられる妹とにそう呟いた。

「誰も信じるな」それが、この国を治める方法だ。

父からの遺言をかみしめる北の指導者。

 「わたしの代で、この国をつぶすわけにはいかない」

心に新たな決意をし、地球儀を眺めるのであった。


アメリカの軍事力が朝鮮半島付近に集結するなか、大統領は娘と朝食を取っていた。

 「お父様、どうなさるの?」

 「シリアのときと同じ限定的攻撃で核実験を止められるの?」

溺愛する娘との食事に満足そうな大統領。

 「娘よ、心配するな」

 「策は講じてある」

強い絆で結ばれた親子、二人の会話はつづく。

 「わたし、あの人嫌い」

 「あのへんな髪形、見ているだけで不快になるわ」

 「あんな国、潰しちゃえばお父様」

 「おいおい、そんなこと言うもんじゃない」

 「あの国にだって、多くの民が暮らしているんだぞ」

そう言うと大統領は補佐官に合図をした。

 「晋三に電話だ」

 「大事な話があると言え」

娘の前で平然と日本の首相と語り始めた。


 「大統領、何事ですか?」

 「やあ、晋三。今日はとても気分がいいんだ」

 「晋三にグットニュースだ」

 「アメリカは北朝鮮を攻撃することに決めた」

 「はあ?」

 「それはいつのことですか?」

 「それは今の段階では言えないが、近々その日が来ると思っていてくれ」

そう言うと電話を切り窓に目をやった。

 「また、多くの人が死ぬのか?」

心のなかでこの仕事の厳しさを実感していた。 

そして、庭を見つめる大統領の顔が険しくなっていくのをイヴァンカは見逃さなかった。

 「悩んでいるのねパパ。でも頑張って、この国の主なんだから」

そう心のなかで呟くとある考えが頭をよぎった。

 「今がチャンスだわ!」

イヴァンカは急いで夫に電話をした。


平壌近郊の軍事施設。

 「首領様からの命令だ」

 「核実験のそぶりを隠すために偽装せよ!だとさ」

 「へーぇ、偽装ね」

 「どうすればいい?」

 「まぁ、遊んでるふりでもするか」

 「バレーボールでもしている姿を偵察衛星に撮らせるか」

 「はぁ、バレーボールねーー」

翌日のネットニュースにバレーボールに講じる核施設の映像が世界に配信された。


日本では、NSCの会議が紛糾していた。

アメリカが北朝鮮を攻撃した場合、在韓邦人の安全をどう守るのか?

協議がつづくなか、安倍総理が声高に発言した。

 「アメリカは北朝鮮を攻撃する」

 「あの大統領は本気だ」

 「その時に邦人の安全確保に全力で取り組むように」

外務次官が挙手し、発言を求めた。

 「韓国政府との連携を探ります」

 「そうしてくれ、早急な」

総理はそう言うと外務大臣に万全な態勢を取るように指示した。



日本海の海深く潜航する各国の潜水艦。

日本、アメリカ、中国、ロシア入り乱れての情報戦が繰り広げられていた。

アメリカの潜水艦内部。

 「カール・ビンソンが事故ったらしいぞ」

 「そうなのか?じゃ、いつ頃、半島付近に到着するんだ」

 「25日に間に合うのか?」

 「大統領からの攻撃命令が24日深夜だぞ」

 「空母はブラフさ、我々が行動を起こすだけだ!」

 「そうだ、北の指導者がどこに潜り込もうともトマ・ホークの餌食にしてやるさ」

 「いよいよ戦争が始まるのか?」

若い将校が潜望鏡を覗きながら呟いた。


韓国外交部。

 「日本から日本人の安全を守れと要請が来ているぞ」

 「ほっとけ!米朝が激突しても、わが領土は安全だ」

 「北の指導者も同胞にはミサイルを打ち込んでこないさ」

 「危ないのは日本にあるアメリカの軍事施設だよ」

 「そう、パニックになるのは日本さ」

楽観的な考えが韓国社会に蔓延していた。

かつて戦った北朝鮮だが、次期大統領が北に融和的なことと関連しているのか?驚くほどの緊張感のなさの韓国であった。


時間は容赦なく進んでいく。

北朝鮮とアメリカは激突するにか?

その時、我々はどう行動すればいいのか?

大国の思惑が交差するなか、危険なチキンレースが北東アジアで繰り広げられていた。

緊張の4月24日深夜は間もなくやって来る。




 







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