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愛知県芸術劇場 ラーニングプログラムNDT1 映像で見る世界のダンス

愛知芸術文化センターって凄いんですよ。大ホールやコンサートホールを持つ愛知県芸術劇場があって、美術館もあります。
初めて行ったときは、さすが都会だなあって感心しました。アクセスが良いので、とても行きやすく好きな劇場の一つです。
昨年、こちらの劇場で鑑賞したのは二作品。

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良い劇場で鑑賞すると、なんだか自分まで上等の人間になった気分がします。だって、こちらの劇場は、クラシックとかオペラとかバレエとか、芸術性の高い作品をなさいますからね。
ミーハーで宝塚三昧の私としては、若干敷居の高い劇場でもあります。

でも、難しそうな芸術性の高い作品にも興味はあるんです。
実際、ウエクミさんのオペラも面白かったし、スターダンサーズのバレエも楽しかった。どちらも、観て良かったと思いましたからね。

で、今回興味をもったのが、NDT1プレミアムジャパンツアー2024。
オランダのダンスカンパニー ネザーランド・ダンスシアターの公演です。
NDT1???? 知らんな~ でも、ちょっと面白そう。 
世界的に有名なダンスカンパニーらしいのですが、私は全く存じ上げず、宝塚よりお高いチケット代を払って観るべきか?と考えてしまったのですね。

コンテンポラリーダンスって難解で、感想が二極化するんです。
かなり前に兵庫県立芸術文化センターで観たシルヴィ・ギエムのボレロはとても良くて感動!だったけど
こちらもかなり前に見たびわ湖ホールで観たコンテンポラリーのバレエ(名前すら忘れた)は訳わからなくて、疲れたなあ~って思った記憶があるのです。
高いチケット代払って、疲れるのは嫌だなあ~

さて、どうしようか? と思っていたところ、
愛知芸術文化センターって凄いですねえ~
なんと、ラーニングプログラムっていうのがあるんですよ!

出会おう!学ぼう!シェアしよう!愛知県芸術劇場 ラーニングプログラム2024 | 自主事業 | 愛知県芸術劇場 (pref.aichi.jp)

無料のものから、参加費の必要なものまであるのですが、私が参加した「映像で見る世界のダンス」という講座は、無料!!!
愛知県芸術劇場のエグゼクティブプロデューサーである唐津絵理さんと舞踏評論家の乗越たかおさんのお話も聞けるという、凄い講座!
って興奮気味に書いているけれど、恥ずかしながら、唐津絵理さんも乗越たかおさんも存じ上げないんだけれど……
でも、参加すれば存じ上げることもできるし、何よりコンテンポラリーダンスの魅力を知ることができれば、NDT1のチケットを取ることにも躊躇がなくなるだろうし、講座を聞いても興味がわかなければご縁がなかったのねってあきらめることもできる。
これは、参加するしかないでしょう!

ということで、参加してきました。

まず、日本初上映の「Mist」という映像作品を観ます。
全く前知識のない状態で「Mist」を観て、感想を書いてみますね。

ネタバレ、あります。

まずは、「Mist」というタイトル通り、霧の中に人が見えます。
それも複数の人が塊になっています。複数のNDTダンサーの肉体が絡まり塊となって霧の中に現れるさまは、人ではなく塊そのものが生命体のような不思議さを持っています。
その塊がゆるゆるとほどけていく。
私には、それが細胞分裂のように見えました。
霧の中に、蠢く生命体がゆるゆると形を変えていきます。

ダンサーは下半身だけを覆っている衣装なので、男性も女性もほぼ裸です。でも、エロティシズムはあまり感じません。
むしろ、あばら骨、腕の血管、皮膚の表面。骨の影まで生き物に見えます。そこに流れる血液の音がするようなカメラワークです。

大きな霧にすべてが覆いつくされた後に現れた彼らは、少し感情が見えます。さっきまで、無感情な生命体だったのが、どこか苦し気であがいているように見えます。(あくまで、私が感じたこと)
だから、ちょっとエロティックにも見えます。

霧の中で踊る彼らの肉体、筋肉は、まさに彫刻のように美しいです。そして、霧の中で踊る彼らの姿を上からのカメラが映し出すと、そこには絵画のような美しい姿が。私は、大塚美術館のシスティーナ礼拝堂を思い浮かべました。(あとからダミアン・ジャレのインタビュー画像があって彼もシスティーナ礼拝堂って言ってましたから、意図的に撮影したんですね。そして、何の前知識のない人間が見てもそう感じたわけです。思惑通り!ってことですね)あの、絵画的な映像は本当に美しかったです。

最後は人がスルッっと霧になって消えてしまいます。

50分くらいの映像作品でしたでしょうか。
なかなか、見ごたえありました。

ただ、好みは分かれますね。
私の隣の席に座っていた方は、5分か10分くらいで退出されたようでした。その方がどう感じたのかはわかりません。
が、その時私は、人間の塊が蠢くさまを不気味に感じ、半裸のダンサーを直視するために、心の中で自分の持つ羞恥心と闘っていました。
こういう時、芸術というものを鑑賞するジレンマを感じます。
芸術って常識を切り捨てて挑戦する部分があるじゃないですか。
でも私は常識という殻の中に囚われているんですよね。
だから、その常識っていう殻を、芸術がギコギコ擦って薄くして、見えるようにしてくれるわけです。
でも、擦られるので、痛いんです。
この痛さが、気持ちいい痛さだと、「面白く」て、
痛すぎると、「疲れた」になるんじゃないかと思っています。
あくまで、私の感覚ですけれど。
お隣の方は、痛すぎたのかな?ってちょっと思っちゃいました。

痛いといえば、この作品、後から聞いた唐津さんの解説で驚きました。
この霧、傾斜のある舞台に細かな穴が開いていてそこから噴き出しているそうです。その舞台で、ダンサーは半裸で踊るわけです。
それも、カメラワーク変えながら何度も撮るようです。
傾斜がある舞台で踊るって大変なんですよね。それに加えて、細かな穴の上って……つまりは、舞台がでっかいおろし金みたいなものらしく……
きっと、痛い……ひええ
本当に、ダンサーって過酷な仕事だわ~

出ている霧も単なる水ではなく、美しく見えるように水やオイルが混ざっているらしいのですよ。確かに。少し粘度のある霧のように思えました。
そうだよな、普通の霧だともっとすぐに消えてしまいそうな気がします。
そういう素材作りも必要なんですね。深いわ~

だから、作品を観た後に知る裏話って、面白いですよね。
「mist」の後、ダミアン・ジャレのインタビュー画像が流れましてこちらの裏話もとても面白かったです。
「チベット死者の書」の影響を受けているとかダヴィンチの「スフマート技法」(境界をはっきりと描かずにぼかして立体感をだすみたいな方法らしいです)を意識しているっていう話は、よくわからないけれど、へええって思いました。
「チベット死者の書」っていうのは人が亡くなって49日の間に、耳元でささやかれる枕経だとか。
死者には聞こえているのよ……そうして生まれ変わるの……
確かに、輪廻転生のようなイメージもある作品でした。
「スフマート技法」まさに、霧で境界はぼやけていますからね。
輪郭がはっきりしない世界を作り上げたんですね。それで、映像には一層の奥行き感がでたのかもしれません。
こういう裏話を聞くと、映像が人の手によってつくられたもので、その背後にある人間くささが見えて面白く感じます。
作品からは、人の感情や常識を消したように思えます。
でも、作品の後ろには、カメラワークや霧の出し方や素材を考え、動きを繰り返し練習する生身の人間がいるっていうことに気づくと、観ているこちらの感じ方が変わります。

こういうことを知るともう一度、観たくなります。

休憩をはさんで、乗越たかおさんによる、コンテンポラリーダンスのお話や、唐津絵理さんのNDT1を呼ぶにあたっての苦労話を聞きました。
こちらもへええなお話ばかりです。

備忘録の為に書いている記事なので、お話の内容で印象的だった部分を少しメモっておきます。(私の理解不足や勘違いで間違っている場合もあります)

コンテンポラリーダンスっていうのは、ジャズだとかヒップホップだとかクラシックバレエとかいうダンスの種類を指しているのではなくて
「特定の型やステップを持たず、なんでもありでダンスの限界を広げる」
という価値観の総称みたいなもの。
コンテンポラリーが麺類なら、ジャズダンスは焼きそば!?

今までのダンスから、色んなものをそぎ落として生まれるダンス。
音楽いる? 
表現いる? 
振り付けいる? 
身体いる?
なかったらどうなる? どう踊る?
ま、こんなことを考えた人が色々な動きをダンスだと考え、様々な可能性を考えた先に出来上がったダンスのことのようです。

そこで、唐津さんがポロっとおっしゃったんですよ。
「電車の中の人の動きもダンス」
きゃあ!万華鏡百景色の満員電車のダンス、好きだったなあ~って!
あれはコンテンポラリーではないと思う。だけど、栗田先生の頭にはそういう感覚があったのかしら?って思うと、私はニヤニヤしてしまいました。
ヅカオタは、何を聞いても宝塚に結び付けちゃいますからね~

とにかく、常識を取っ払って、禁止されることは何もない、動きをダンスにしてしまったコンテンポラリーの世界ですが、観客を楽しませて、商業として成り立つためには、人の心を動かす作品である必要がありますよね。
だって、チケット売らなくちゃいけないんだから。

そこで、唐津絵理さんが、NDT1の数ある演目の中から、これぞ!という演目を選ばれたそうです。こういうプロが間違いないって作品を選んだ下さっていますから、どれを観てもハズレはないように思えます。
5作品を選んで、会場ごとに違った3作品が上演されるようです。
どれも、これも、面白そうでしてね……迷っちゃう!

色々大変なこともあるようです。テーブルを使うダンスの為にテーブルを輸送する運送代がおっそろしく高いとか。「闇」を作るのにお金がかかるとか。こういう方が奮闘なさって、本当ならオランダまで行かなくっちゃみられない公演を日本で観られるんだなあって思うと、やはり観に行かなくっちゃもったいないぞ!と感じます。

作品の詳細は、こちらです。
NDT1 Japan Tour 2024 (dancebase.yokohama)

それに、NDT1には日本人ダンサーも所属しておられるという話を聞くと、ぐっと興味をそそられます。
「mist」にも出演されていたと聞くと、ああ、あの方かと思って、観たくなります。

だから、「知る」って大切ですね。
こうして世界が広がります。

7月だったら大劇場はベルばらだしな~ ベルばらならさほど通わないから、これを観に行こう!と決めました。
3月15日のチケット売り出し日、カレンダーにチェックをいれてスタンバイです。

長めの講座だったけれど、とても充実していて面白い講座でした。
満足!












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