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Saucy Dogが描く、メンタルを貫通するほどのラブソング-新アルバム『ブルーピリオド』-

Saucy Dogがまたやってくれた。
10月2日にリリースされたばかりのアルバムにとんでもないキラーチューンが息を潜めていたのだ。

彼らが描くラブソングは等身大の恋愛観をベースにしているが、変な汚れ方をしていなくて、お互いに想い合っていた時間が柔らかくて温かみのある歌詞とメロディーで作られている。

彼らが注目されるきっかけとなった名曲「いつか」は自分の地元で想いを寄せていた子との別れの曲だ。

そしてあまりにもリアルな心情を描いた「コンタクトケース」はネット上で話題にもなり、失恋がテーマの曲の中では傑作と言えるほど、多くのリスナーの過去の傷を蘇らせたことだろう。
恋愛はお互いを繋いでいる糸が少しでもほつれてしまうと、そこから少しずつ隙間が生まれてしまう。無理に治そうとしても向こうにはその気が無かったり、どちらかが諦めてしまうことで、今まで強く繋がっていると思っていた糸は簡単に切れてしまう。

お互い辛いはずなのに、あの時ああしていればとか、あんなこと言わなければ、と後ろ髪引かれるように後悔してしまうのは男が多い。
よく「女は上書き保存、男はファイルに分けて保存」と言われるようにそう簡単に立ち直れないのが男であり、どんな理想の相手と出会えても、どこかで過去の相手に想いを馳せてしまうものである。

そんな繊細な傷にちょうどいいサイズの絆創膏を貼ってくれるのがSaucy Dogだと私は思っている。絆創膏を見るたびに痛かった記憶が蘇るが、この傷が自分を強くしてくれたと思えてきてしまう。

そんな彼らがまたアルバムに絆創膏をこっそり入れておいてくれた。
隠れたキラーチューン「届かない」だ。

「コンタクトケース」と同じくリアルな恋愛観で描かれているが、相手の描写がより細かくなった。傷ついても、喧嘩しても平気なふりをしている彼女に「僕」は気づいていたけど何もできなかった。嘘をつけない素直な彼女だからこそ何もできなかったのかもしれない。お互いの距離が離れていくのは分かってしまうから。

カラビナから合鍵が消えても、ロック画面を変えたり、写真を消しても、記憶は何度も繰り返し思い出してしまうもの。楽しかった記憶もあるのに、鮮明に思い出すのは別れた日のこと。いつもは手を繋いで歩いた通りを、彼女は少し距離を開けて歩いていた。手を伸ばせば届きそうな彼女の後ろ姿に何もできない自分に「またどこかで会えたら」と彼女は手を振る。
この描写はズルい。最後の歌詞にあるように「最後だけズルいよ」
あんなに素直に接してくれた彼女に自分は何をしてあげられただろうかという後悔と、最後も彼女は自分のために無理をして明るく振舞ってくれたところに、彼女の方がずっと大人じゃねーか!この瞬間ぐらいは素直になれよ!と一喝したくなるが、こういう後悔が私達リスナーを成長させてくれるのだ。だから何度も聴いてしまう。

次に彼らが失恋ソングをリリースしたら、もうみんなメンタル死んじゃうんじゃないかとヒヤヒヤしてしまうが、みんな絆創膏を貼ってもらえるのを待っているぞ。多分。



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