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【初心者向け】確実にクラシックギターが“たった1年”で弾けるようになる練習法

今回は、クラシックギターのお話です。

音楽教室での勤務をしながら、実際にクラシックギターのレッスンも受けてきた私の目線で、どういう練習法ではじめたひとが上手くなっているか、どういう練習スタイルはNGか、どんな演奏を目標にするとよいか?といったことを振り返ってみたいと思います。


練習時間の確保

そもそもクラシックギターをそれなりに弾ける感が少しでも出てくるのは、大体練習時間が20時間くらいに到達したころだと思います。

このあたりからは、クラシックギターを構えるだけでも何だかしっくりこないし、少し指を抑えるだけでも悩んでしまう・・という感じはなくなって、すっと練習を開始できるようになるはずです。

独学でものすごくストイックに練習すれば、お盆休みや正月休みに1日4時間ずつ弾き続ければあっという間に5日で到達できる計算です。(ただしこれはものすごくオススメしません。理由は後述します。)


クラシックギターの通信教育やオンラインレッスンなら、一回30分を2日に一回やったとして、3ヶ月近くで到達しますね。


対面の教室に毎週通う場合、宿題を毎日30分弾いて、毎週1時間のレッスンも受けると、1ヶ月くらいで到達するでしょう。


指の疲労は馬鹿にならず、何なら最初のうちは無理な姿勢でカラダまで痛くなってきますので、毎回の練習時間は「長ければ良い」というものでもありません。

6時間だらだら曲を弾き続けるより、ずっと短時間であっても毎回の練習で、「今日は左手の薬指を鍛えるぞ」だとか、きちんと集中して改善点を探すことのほうが圧倒的に重要なのです。

楽器の練習は、いわゆる「音楽性」が5割、単なる筋肉のトレーニングが5割と捉えることが大事です。

いくら音楽性のあるひとでも、筋肉に短時間で効率よく動きを記憶させてスムーズに動くようにしないと、全然全体の仕上がりは思ったようになりません。
自分は熱烈に音楽が好きだからといって、音楽性だけ鍛えようとして時間を使ってしまっているのが、あまりうまくいかない生徒さんの代表例です。


ジムに通ったことのあるかたは、筋トレのイメージをしてみましょう。
4時間曲を弾き続ける練習は、体力がつけばどの競技もなんとかなるといって、とりあえず4時間延々とトレッドミルで走り続けている状態です。

本当は、キレイな体型にしぼりたければ二の腕やお尻周りを、ランナーなら股関節の柔軟を、個別のマシンで対策して組み合わせるべきでしょう。


ただ一応、毎回最低でも30分は指をしっかり慣らして怪我を避けるためにも欲しいところです。

20時間が弾けたら、次の練習時間のマイルストーンは「100時間」くらいでやってきます。
基本的なコードはもちろん、「セーハ」「ポジションの移動」など、基本的な演奏法について頭で考えなくても手が先に動くようになり、演奏も目に見えて中級らしくなってくると思います。


ここまで、代表的なオンラインレッスンや通信教育ならだいたい1年、対面教室で本気で先生につくならばおよそ半年くらいで到達するのが、基本的なイメージです。

ちなみに練習時間が頭ではわかっていても、いまいち時間がとれないという生徒さんの場合(私もそうでした)、

サイレントギターなら、自分のヘッドフォンからは(もっと)良い音が聞こえるのに、家族には7割減のカスっカスっという音しか漏れない。個人的には、形も弦も一緒なので、練習上何の問題もない。
  • サイレントギターでレッスンを受ける

    • 練習する気になったらもう21時だった・・・今日は止めておいて、明日の朝やろうかな・・・の繰り返しになることを避けられます。世の中には、サイレントギターでのレッスンも練習時間が取りやすくなるので全然OKですという先生もいますが、変なクセがつくので論外と言う厳しい先生もいます。毎日決まった時間の練習が難しい方はかなり高確率でサイレントギターにもどこかで興味を持つでしょうから、最初に確認しておきましょう。

  • ギターを壁にディスプレイしておく

    • これは私がウクレレを練習していたときに圧倒的にうまくいった対策です。壁の長押に釘打ちすれば、いかにも楽器店のショーウィンドウみたいに格好良く楽器を展示できるグッズがあるのです。ここからひょいっと手にとって弾いて、終わったらすっと壁掛けして練習を終えられる。リモートワーク中の背景にでもしておけば、ものすごく格好いいので話題にもなるでしょう。


目標設計

クラシックギターの練習に限らない話ではありますが、楽器練習では、短期目標(今週の目標)と、長期目標(今年のゴール)を二重で決めてから動くことが上達に肝心です。

さらに、今日の30分では何をしようというレベルまでカリキュラムをしっかり落とし込めていると、本当にあっという間に上達します。

しっかりカリキュラムを考えられて練習するのと、ひとりでYouTubeをみながらダラダラ独学するのでは、だいたい上達速度が10倍違うと思って良いでしょう。


目標設定の例ですが、たとえばあなたがこれからソルの有名なOp.31番のエチュードを使って練習しようとしているとしましょう。

その練習をしているのは、1年後に愛のロマンス、2年後にアルハンブラの思い出という曲を最終目標に置いて、逆算でエチュード曲集を見ていっているからです。


クラシックギターの代表的なエチュードは、カルリから45曲、ソルから25曲出ています。(本当はもっと膨大な数があって、もはや番号の管理ができないくらいになっているのですが、代表的に練習に用いられている曲数という意味です。)


一人でクラシックギターを練習するなら、あまりエチュードの中でもマイナーな曲でなくて、お手本の演奏が探しやすくて、楽譜もわかりやすいものが手に入る番号がいいでしょう。練習曲とはいってもメロディの気に入る・気に入らないもありますから、カルリとソルから合計30曲をやってみるとします。


そうしたら、1年半で簡単な順から30曲を弾いていくならば、2ヶ月で3曲のペースで続けていけばよいわけですね。


最初に練習時間の章で考えたように、オンラインレッスンや対面レッスンである程度しっかり時間のとれる方なら、全然無理はないペースです。

この大きな枠組みを決めたうえで、週単位の練習計画をたてます。たとえば私が個人的にたてていた練習は以下のようなものです。
月曜→ソルOp.31番をはじめる。最初のページの運指だけ30分練習する
火曜→仕事で休み
水曜→次のページの運指を30分練習する
木曜→難しいパッセージにしぼって、ものすごくゆっくり運指を見直す(1時間)
金曜→仕事でお休み。移動中に楽譜だけ見て脳内でイメトレをする
土曜→少しずつテンポをあげていく。1ページ目のほうにまだできないところがあるので、重点的に練習する
日曜→弾けない部分をどうやって考えてクリアしたらよいのか悩んでいたのと、楽譜の解釈で一箇所よくわからないところもあったので、先生にメールでお聞きする。先生に送るための演奏も撮影して添付した。

楽器選び

基本的には、先に述べたように、初心者は最初の一台としてはサイレントギターを選択するのがいいというのが個人的な意見です。
これはクラシックギターに限ったことではなくて、どの楽器でも大きなメリットがあります。

それは、半分電子製品なので、メーカーで均一にメンテナンスしてもらいやすいことです。
全然楽器をわかっていないひとが、いきなり「楽器は生きて呼吸をしていますから、それを妨げないように手入れしてあげてください」と言われても、全く意味がわからないものです。

まずは工業製品としてきちんと画一的に生産されて、不具合も少ない電子楽器は初心者の方に強くおすすめできます。

また、正直なところ楽器販売店にはかなり怪しい商売をしているところも無くはありません。普段つけている値札と、おなじみのお客さんが来店するときで「ゼロ」の違うものを付け替えているようなお店の話も同業から聞いたことすらあります。特に、輸入品なんて原価があってないようなものですので、ヨーロッパ旅行のときに一個3,000円でスーツケースに大量に突っ込んで仕入れてきたものを、店頭では一個10万円で競り落としてきた、貴重な歴史的名品ですといって売っているようなケースすらあります。


そういう意味でも、ある程度目利きができるようになるまでは、いきなり高いもので気合を入れたい気持ちも十分わかるのですが、安心のメーカーから、安心の10万円以内で買える電子楽器という選択がよいのではないかと思う次第です。弦だけメンテナンスすればずっと良い音が出ますし、もちろん、練習時間もずっと取りやすくなること請け合いです。


ただ、それでもどうしても本格的なクラシックギターが欲しいんだという場合は、まずはボディの木で全然音が違いますから、これを聴いてみて絞ってしまいましょう。候補のモデル数が一気に1/5くらいに絞れるはずです。

スプルースとシダーのクラシックギターはこんな音。シダーのほうが温かみのある、少し明瞭でない複雑な音を出します。

ほかには、メープル、マホガニー、ローズウッドのいずれかが店頭にアマチュア向けとして並んでいるでしょう。

価格帯の目安は、だいたい2万円前後で、初めてオモチャでなくてまともな音の出るクラシックギターに出会うことができます。数年単位で付き合いたいと思うならば、基本的には5万円くらいで考えておくのが基本でしょう。

どういう場合でも、初心者の方がいきなり10万円を超える投資をする必要は、クラシックギターの場合は全くありません。

ちなみに、あとは弦の交換の必要も初心者が気になるところでしょう。クラシックギターの場合、だいたい80時間くらいが弦の耐用時間とも言われています。日本は湿度の環境が楽器にとってハードなので、初心者といえど、だいたいこの範囲での交換を考えておいたほうがよいでしょう。

1回30分くらいでじわじわと練習していく方の場合、だいたい1年以内には弦交換の時期がやってきますから、それも頭に入れておきましょう。

チューニング

クラシックギターと通常のアコースティックギターのチューニング(調弦)は全くかわりません。「EADGBE」という順に、弦を調整していきます。

チューニングについては、あれこれ方法を悩んだり、チューナーを調べるよりも、初心者にとってはスマホアプリを使ってしまうのが圧倒的に速いです。

物理的な音叉を使わないと耳が育たないなどという先生も未だに存在していますが、基本的には趣味で習う大人向けの先生ではないと思って無視してしまったほうがいいでしょう。

圧倒的なクラシックギター調弦おすすめアプリは、GuitarTunaです。

マイクに向かって、音が大きくずれた弦を弾いてやるだけで、どちらにペグを操作すれば正しくなるのか、勝手に判定してくれます。

基本的な練習ルーティン

上では1日単位の練習計画を見ましたが、さらに分単位ではこんな感じで進めます。
基本的な練習10分→指を適度にあたためる、自分のいまのレベルにちょうどよい練習曲をチョイスしてきて弾いてみます。ある程度、弦が交差したり、緩急のあるような曲が目的にかなっているでしょう。

スケールを5分弾く→その日ごとにランダムな音階を選んで弾きます。そのときも、リズムを変えてアーティキュレーションをつけてみたり、あえて特殊な運指を使ってみたりして、楽曲の中に変化のあるスケールが出てくる場合に備えておきます。

サイトリーディング(初見の練習)10分→その日自分が練習する曲の中で、全然まだ音の並びを覚えられていないところを、あえていきなり弾いてみましょう。複雑なところは、まだ音を抜いていても問題ありません。先に音を耳で覚えてしまうのが短期的には速いのですが、楽譜から曲を描く練習を続けることで、読譜になれていきます。

音楽性としての練習・・残りの時間→ここではじめて、弾きにくいところを重点随分練習時間が圧迫されてしまったように思うかもしれませんが、曲の練習にいきなり入らないことが、長期的な上達にとっては1番役立つのです。

クラシックギター練習の最後にかならず心がけたいのは、自分の演奏を録音(できれば録画も)することです。弾いているときは忙しくて気付けない欠点が、それはもう大量に見つかってびっくりすることでしょう…。

もしかしたら、同じ曲をずっと弾いているとよくわからなくなってくるという方は、嫌がられない範囲で家族や友達にフレッシュな感想をもらうのも、いい方法かもしれませんね。私は、アマチュアコンクール前に、とても大事な示唆を子どもの一言からもらったような経験すらあります。

おすすめの学習リソースのレビュー

「クラシックギターの教科書 DVDとCD付き」
左手・右手それぞれの動きの図解がわかりやすくて評判のよい、ヤマハが出している教科書です。
とくに先生が喋ってくれるわけではなく、手の動きを見るだけですので、無味乾燥といってしまえばそんな感じもあります。


「できる ゼロからはじめる クラシックギター超入門」
物凄く初歩の初歩がわかり易く解説されています。フルカラーで見た目も楽しいのでおすすめです。ただ、本を一冊全部やってもまだ初歩の初歩なので、1ヶ月目の内容として取り組むのがせいぜい限界かなという感じはあります。

オンラインレッスンは、海外のもののほうがたくさんの選択肢があります。自分で翻訳ができるかたなら、視野に入るサービスがずっと多くなりますね。

クラシカルギターコーナー:ライブ形式のレッスンもたくさん展開しているサービスです。

Udemy Classical Guitar Essentials
有名曲がどんどん弾けて、映像も見やすくて、楽譜も良質な、世界的に定評のある講座ですが、残念ながらかなり英語レベルは高いです。興味のあるひとは挑戦してみましょう。

現代ギター誌などでも取り上げられている、益田正洋氏がオンラインクラシックギターレッスンを展開しています。こちらは月1万5千円、入会金1万円から受けられます。

国内のものだとほかに、有名な徳永真一郎氏(パリ音楽院)と岡本拓也氏(ウィーン国立音大)が、完全初心者向けにオンラインレッスンをしています。徳永氏は、映画内での俳優さん女優さんのギター演奏シーンなどにも関わっています。月額は2千円から。


ミューズ音楽教室
月2回だと7,700円で受講できます。先生が数十人から選ぶスタイルなので、合うあわないはあるかと思いますが、評判の良いスクールなので、ぴったりくる先生がいれば是非体験してみるとよいかと思います。

最後に

どの楽器にも言えることですが、「正直先生とのレッスンで言われることの8割方は、自分で頭ではわかっていることだけど、まだ単に身体がついてこないだけのことなんだよな…」ということが物凄く多いです。

先生にそう思いながら1時間横にいてもらうのは自分でも心苦しいですし、先生もなんとなく察しているし、お金もものすごくかかるし、という多重苦になる生徒さんがたくさんいます。

結局は自分でどのような目標を置いて、どんな時間の割り振りで練習を進めていくかということが99%で、いまはオンラインの教材でもほとんどの疑問は解決できます。学習者同士の掲示板などで質問を投げかけてみるのもいいでしょう。

そのときに練習の心強いメンター、ペースメーカーとしてついていてくれるのが先生という存在ですから、うまくネットでお気に入りの奏者にメッセージを送ってみたり、なにかコーチングしてくれるようなサービスを探してみるのがよいのではないかと思います。

単発で受けられるレッスンを募集している高名な先生もたくさんいますので、普段から地元のセミプロの先生から毎月1万円で習うより、いっそ憧れのトップ講師から3万円で感想を時々もらうほうが、一生モノの体験ができるという考え方もあるでしょう。

1年半くらい進めていって、ときどき変なクセがつかないようにコーチに見てもらうことができれば、いよいよ本格的に毎週レッスンに通うスタイルで学習することも視野に入ってくるでしょう。